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葉鍵ロワイアル#13!

1 :名無しさんだよもん:01/09/11 23:43 ID:7sApWYTs
13代目、葉鍵キャラロワイアルのリレーSSスレです。

・書き手のマナー
キャラの死を扱う際は最大限の注意をしましょう。
多くの人に納得いくものを目指して下さい。

また過去ログを精読し、NGをなるべく出さないように勤めてください。
なお、同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず全面的に禁止します。

・読み手のマナー
感想は感想スレに書きましょう。
キャラが死んだ時に、その扱いがあまりにもぞんざいなだった場合だけ、理性的に意見してください。
頻繁にNGを唱えてはいけません。
また書き手叩きは控えましょう。

リンク関係は >>2

2 :名無しさんだよもん:01/09/11 23:43 ID:7sApWYTs
●感想スレ(外部)(議論時の葉鍵板への負荷を考え、7つ氏の好意によって貸し出してもらっています)
http://64.71.134.227/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=1000127281

●前スレ(外部)(葉鍵板が落ちている間は、ここで続いてました。7つ氏に感謝)
http://64.71.134.227/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=998755998

●リンク
ストーリー編集(いつもありがとうございます)
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/index.htm

●アナザーストーリー投稿スレ(外部)
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=993054328

●キャラの所持アイテムリスト
http://t-niimura.hoops.ne.jp/2ch/itemlist.txt

●外部の避難所はこちら。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Queen/3996/index2.html

●また、サポートとしてチャットが設置されています。
http://village.infoweb.ne.jp/~chat/passchat/passchat.htm

パスはhakarowaで。
作品を書く際に疑問が生じた時など、ここへいくと詳しい誰かが答えてくれるかもしれません。

●注意!●
hakarowaチャットでは上記の性質上、ネタバレ会話があったりなかったりします。
(「○○さんの弾丸って、あといくつ残ってましたっけ?」って台詞をみたら、次に○○さんが出るのが分かってしまいますね)
どうしても今後の展開を知りたくない方は気をつけて下さい。

3 :ヴァンパイア(1):01/09/11 23:51 ID:W7MkKur6
「くそっ、どこだ梓」
 降りしきる雨の中、私は耕一さんと走っていた。あのおじさん――昔、従姉と
 いっしょに行った喫茶店のマスターのおじさん――の襲撃。
 それの相手に手間取ってしまい、梓さんとの距離はかなり離れてしまっている。
 いやそれだけじゃない……梓さんに追いつきたくない、私は耕一さんと一緒にいたい……
 誰にも邪魔されずに……その気持ちが、私の足取りを重くさせていた。


「……っ? マナちゃん、大丈夫か?」
 耕一さんが私の足取りの重さに気付き、そう声をかけてくれた。
 やだな、耕一さん。これは演技ですよ、はい。梓さんに追いつかないための演技です。
 そんなのに気付かないなんて耕一さんもまだまだ人間観察眼が弱いですね。
「マナちゃんっ? おいっ!!」
 やだな、だから演技ですってば。でも結構名演技。演技だけなら従姉の由綺お姉ちゃんにも
 負けないかもね。動悸、息切れ、発熱……どれをとっても一級品。あの時読んだ本の症状通り。
 えっとあれ何の本だっけ? 確か………思い出した、あの本は確か……


――人体における有毒物摂取時の諸症状――

4 :ヴァンパイア(2):01/09/11 23:52 ID:W7MkKur6
(3行あけ)
「マナちゃん!!!」
 気が付くと私は耕一さんに抱きかかえられていた。一瞬意識を失ってたらしい。
 なんかひどく息が荒い。体も奇妙な火照りをもち、思うように力が入らなかった。ふと奇妙にうずく自分の
 手に目をやると、先程鋏で傷つけられたところが黒ずんでいる。なるほどね。
 私は直感的に理解した。さっきの鋏に毒でも塗ってありましたか。まったく用意周到なことで。


「マナちゃん? よかった、気がついたか」
 文字通り心の底からって感じで耕一さんが安堵の表情をする。ふう、まったく。……そんな表情をされると
 こっちの覚悟が揺らぐじゃないですか。だから私は、彼の口から次の言葉が出る前に言った。
「耕一さん、早く梓さんを追って下さい」

5 :ヴァンパイア(3):01/09/11 23:53 ID:W7MkKur6
(3行あけ)
―――まあ私はやっぱしどこか小生意気なところはあったと思う。別にそう思われてもかまわないと思ってたし。
   よく勉強が出来るうんぬんと嫉まれたりもしたが、それは私がちょっとばかし勉強に興味を持っていただけだし、
   それに十分努力もしてきたつもりだ、多分。

   この島へ来て、あの人――霧島聖先生――に出会った。「私は医者だ。だから殺すのではなく治す」
   ……はじめ、ここでそんな事を言うなんてなんて馬鹿げているんだと思った。ここは殺し合いをする島、
   でも彼女はそう言い、最後までその言葉に従って行動していた。私はいつしか彼女に感化されていた。
   彼女――霧島先生――は本当の意味でも強い人だったんだと思う。

 「そんなことはない、私も弱い人間だよ……」

   ふふっ、そうですね。先生だったらきっとそうおっしゃりますね。でも私は、……先生の遺志を継ぐといっておきながら、
   自分の嫉妬で、自分の都合で人を縛っています。ごめんなさい……私は、弱い人間です。

 「ふむ、だがなマナ君。人ははじめから強い人間なんて何処にもいない。人は自分の弱さを認めたとき、初めて強い人間に
  なれるのだよ……」

6 :ヴァンパイア(4):01/09/11 23:55 ID:W7MkKur6
(3行あけ)
 確か毒の症状の一つに、幻覚症状があったのを覚えていた。なるほど、今のがそうなんだ。最後の先生が言った
 フレーズなんて、前の日曜に読んだ小説の一文そのまんなじゃない。でも霧島先生ならいいそうだな。
「マナちゃん……」
 耕一さんが、まるで鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情をしていた。そうか、この表情ってずっとどんなのか
 疑問だったんだけど、今その長年の謎が解決したな。
「耕一さん、梓さんを追って……。梓さん、初音ちゃんが死んで混乱している。でも耕一さんだったら彼女の心を
 取り戻せる」
「…………」
「私ちょっと疲れちゃったから、もう走れそうにないから……、ここで休んでます」
「…………」
「早く、今だったらまだ間に合う。梓さんをとめて、生き残ったみんなと合流して。そしてみんなでこの島をでよう。
 みんなで元の生活に戻ろう。ねっ………」
 これは体に入った毒のおかげだろう。私の中からさっきまでのもやもやした感情が消えていた。まさに毒をもって毒を制す。
 まあ多分、死に瀕して余計な感情をもつ余裕がなくなっただけなんだろうけど。
 でも、最後に残った感情が人を救いたい――多分、霧島聖先生と同じ――感情で、私は少し嬉しかった。

7 :ヴァンパイア(5):01/09/11 23:56 ID:W7MkKur6
(3行あけ)
「わかった」
 しばしの沈黙の後、聞こえていたのは悲しみと決意ともう一つが絶妙にブレンドされた彼の声だった。
 多分わかっていたんだろう………私がもう長くないことに。
「あっ、でも一つだけ………」
 ああ、聖先生ごめんなさい。私、最後にもう一つだけ感情残ってました。まだまだ精進が足りないようです。
 でもいいですよね先生?、最後くらい……
「私、ちゃんと迎えにきてほしいから……、後で迎えにきてほしいから、そのっ……約束として……、
 その証としてキスして…もらえます……?」
 なんのかんのいっても、私はそれにちょっと憧れていた。だから……

――盟約
――永遠の盟約だよ

 彼は少し照れくさそうな表情をして、うなずいてくれた。
 重なりあう二人の唇。
 それは、もしかするとただの哀れみだったのかもしれない。ただの自己満足だったのかもしれない。
 でも、やっておきたかった。生きているうちに出来ることの全てを。後悔は、したくなかったから。


 不思議と意識がはっきりしていた。死ぬ直前って案外こんなものなのかな? まだ時間あるみたい。
 すこし悪戯心が湧きあがる。えーい、舌いれちゃえ。

「………っ?!」

 彼はそれに答えてくれた。やさしく入ってくる彼の舌。私は思わず……

8 :ヴァンパイア(6):01/09/11 23:59 ID:W7MkKur6
(一行あけ)
「つっ………!」
「あっ……。ごめんなさい!! でも、ディープキスって本当に血が出るんだ……」
「ひどいな、マナちゃん」

 彼はそういったけど、また唇を覆ってくれた。先程と少し変わり、なんだか鉄のような味が口にひろがる。私が噛んでしまったところから
 あふれ出る彼の血。でも不快ではなく、むしろ心地よい味だった。
 私はひたすらその味を求める。だってこれは彼のもの、私がおそらく最後に感じる味覚だろうから。

9 :ヴァンパイア(7):01/09/12 00:01 ID:llkiZup2
(3行あけ)
 いつしか雨がやんでいた。
「ここなら多分大丈夫だ」
 彼は私を茂みの中につれていってくれた。
「きっと迎えにくる。だからここでじっとしておいてくれ」
「うん、わかった」
 永遠に続くかに思えた二人の邂逅は終わっていた。時間にして5分も経っていなかったろう。でも、おじさんの襲撃をうけてから既に20分近くがたっている。
 だめだな、私。結局最後まで邪魔しちゃった。
「マナちゃん」
「なに?」
「忘れないでほしい。君がいたから助かった人、救われた人もいっぱいいたってことを」
「………」
「それと……、俺は絶対に君を迎えにくるから、絶対にくるから……な」
「なにいってるの。そんな事いう暇あったらとっとと梓さん探してきて」
「ああ……、だから絶対残りのみんなと一緒にこの島をでような」
 彼はそういって最後に私に軽くキスをしてくれた。そして走り去る。彼の足音が遠ざかっていく。
 ……ふゎ、眠くなってきた。確かにここのとこ、ろくに眠ってないな。すこし可笑しくなる。永遠に続くかに思えた日常。
 それは脆くもやぶれ、この島での地獄がはじまった。永遠に続くかと思えたその地獄。だがそれも永遠ではなかったようだ。
 彼との邂逅。私はその時はじめてずっとこのままであってほしいと――永遠を――望んだ。そんなものありはしないのに

――永遠はあるよ

 どうでしょうねぇ。彼女は笑う。本当にあるのならみてみたいものね。

――ここにあるよ


 彼女は眠りにつく。安らかな眠りへと。

10 :Kyaz:01/09/12 00:03 ID:llkiZup2
[019 柏木耕一 梓を追跡]
[088 観月マナ 眠る]



「ヴァンパイア」を書かせていただきましたKyazです。
このような展開はいかがでしょうか?
マナがうまくかけているとよいのですが。

11 :偶然性(1):01/09/12 08:00 ID:Ah9ZhfXE
どこまでも続く、無機質で幾何学的な、味気ない廊下に。
彩りと騒々しさを与える人影が、二つあった。

そこは岩山の施設。
どうにかこうにか、内部に侵入した二人は、北川の一方的な提案に従って、最下層に降りてきていた。
「さあ、最下層に辿り付きました。
 きっとこの階にマザーコンピューターがあるに違いません。
 何故なら重要なものは、最下層にあるのがお約束だからです!」
意気揚揚と、興奮した北川が誰にともなく解説している。

「……」
北川に隠れて、影のように立つ少女が一人。
あまりに落ち着いた、その物腰からか、大人びて見える。
徹底した小声と無言の反応は、時として彼女の賢明さを、他人の目から遮蔽する。

普段、知性も含め鋭敏とは考えられないのだが。
来栖川芹香の頭脳は、高速回転していた。


「な…無い!
 なんということでしょう、この階のどこにも、コンピューターは存在しないのです。
 ああ神様、私北川の苦労は、バイクの下敷きになった苦痛は、全て無駄だったのでしょうか!?
 そもそも、この施設にあるというコンピューターの存在自体が、幻だったとでも言うのでしょうか!」
芝居じみた仕草で廊下に崩折れた北川が、これまた大袈裟な身振りで天を仰いでいる。

(……馬鹿…?)
いちはやく見取り図を発見した芹香は、北川の猛烈な悲劇トークを軽く聞き流して、コンピューターの
ありそうな部屋を探す。
…発見。特徴的な三本の縦穴構造の中央に位置する、円形の部屋。
間違いなく、マザーコンピューターと書かれている。

12 :偶然性(2):01/09/12 08:01 ID:Ah9ZhfXE

「……(ぽん)」
今や最高潮に達した、悲劇トーク独演会を続ける北川の肩を叩く。

…遊んでいる場合じゃない。
CDだけでなく、自分が死亡扱いになっているのが気になる。
マザーコンピューターなら、真実を暴き出す手掛かりがあるかもしれない。
いつまでも、北川の一人漫才を眺めているわけにはいかない。

「…芹香さん…」
感謝の目で見つめる北川。

…慰めていると、勘違いされたようだ。
この際、どうでもよいが。
とにかく北川の軽い口を閉じ、重い腰をあげてもらわねばならない。

「-----あっ!芹香さん!見取り図ですよ!」
「……(こくこく)」
「これでコンピューターの位置が…あった!ありました!
 こんなところで遊んでいる場合じゃありません!
 急ぎましょう!」
「……(こく)」

…遊んでいるのは、わたしじゃない。
それでも、急ぐという結論に文句は無いから…黙っておく事にした。


 

13 :偶然性(3):01/09/12 08:03 ID:Ah9ZhfXE
「…と、いうわけで。
 すぐそこまで来ておるぞ、お嬢」
「なにが”というわけ”だかわかんないけど、ふみゅーん!」
「どうするんじゃ。
 パスコードは”かゆ”と”うま”の二重で設定されとる。
 まず、あっちから開けることは出来んぞ。
 つまり、入れるか入れないかは、お嬢が決めるんじゃ」
「そそそ、それくらい、わかってるわよ!
 ちょ、ちょおむかつくのよっ!」

詠美は、さも嫌そうな顔をして銃を持つと、足音荒く扉のほうへと歩いて行った。
その途中で、ぴたりと停止する。
「……ねえ、ほんとのところ、どうおもう?」
「何がじゃ」
「北川って人、ほんとにあぶないとおもう?」
「…判らん。
 島に来る以前のデータにおいて、凶悪であった者なぞ、ほとんどおらんのじゃ」
それすら判るなら、わしゃ人間以上じゃよ、と付け加える。
「…どうしよお…」
「開けて上手くいくとは限らんが、CDが必要なのも確かじゃ。
 好きにするがええ」
「……ふみゅー…(泣」

再び歩きだし、扉の前に立つ詠美。
扉の外の話し声が、聞こえてくる。
「ふみゅ???」

詠美は両手と、片耳を扉に当てて、外の様子を聞き取ろうとした。

14 :偶然性(4):01/09/12 08:06 ID:Ah9ZhfXE



《**パスコードを入力してください**》
「……なんだよコレ」
北川は扉の外側で、悪態をついていた。

《**…だ…よ…コ…レ…**》
北川の発言が、小さなモニターに流れて行く。
そしてまた、最初のパスコード要求画面に戻る。
「音声認識パスコードか…オープンセサミ、みたいなやつだな」

腕を組む。ヒントは何も思いつかない…お手上げだろうか?
そこで北川は、何かが内部で騒いでいる声に気が付いた。
「なんだ?…随分かしましいな?」

北川は両手と、方耳を扉に当てて、中の様子を聞き取ろうとした。


目の前で、車に轢かれた蛙のように。
扉にべったりとへばりつく北川を、憐れみに満ちた目で芹香は眺めている。
(……馬鹿…?)
耳を当てるまでも無く、芹香は声を聞きとっているのだ。

 『北川って人、ほんとにあぶないとおもう?』

「……(こくこく)」
「バカゆーな!
 このナイスガイを捕まえて”あぶない”ですとーー!?”」
肯定する芹香と、その前で否定する北川。

15 :偶然性(5):01/09/12 08:09 ID:Ah9ZhfXE

《**…カ…ゆ…**》
…モニターの文字が反転している。
芹香は熱心に聞き入っている北川に、それを知らせようとしたが。
「……(ぴたり)」
…へばりつく姿の滑稽さに呆れ、やめた。

 『開けて上手くいくとは限らんが…』

「上手くいくかどうかは、開けなきゃ判らんだろうが!」
北川が叫ぶ。
…かなり逆上してきている。
バイクに轢かれても、これほど怒らなかったのに、不思議な挙動だ。

《**…上…手…**》
 プシー。
 空圧の変調する音が聞こえ、扉が開いていた。
 -----そして扉を失った詠美と北川は。
 お互いの両手と頬を当て、呆然としていた。

「「……」」
「……」
…そんなご都合な。
芹香は、これ以上ないくらいに呆れていたが。
とにかく、中には入れたのだから…黙っておく事にした。

「みゅ?」

ただひとり。
繭の声だけが、円形の室内に響き渡っていた。

16 :名無したちの挽歌:01/09/12 08:11 ID:Ah9ZhfXE
【北川潤、来栖川芹香 コンピュータールームに進入】

ネタ物のわりに、長くなってしまいましたが…ご容赦をw

17 :名無しさんだよもん:01/09/12 16:09 ID:tm.IddZ2
復活age

18 :チェシャ猫〜再び裏舞台へ〜(1/3)By林檎:01/09/12 23:35 ID:0I/hRy6s
(ああ、なんだか凄い疲れてる…。
 眠ったのにもっと疲れてるなんて…。まぶたが重い……)
 マナは目を閉じたまま微かに身体を動かす。
 が、やはりもうしばらくは動き回れそうにないのを悟り、その動きを止めた。
「気づいたか……」
 聞いたことの無い男の声に、マナがハッとする。
 彼女のすぐ近くには男がいた。
(目を開けたい……)
 そう思い、まぶたを開くために力を入れるマナ。
 生きている間に、こんな事態にめぐり合うとは思ってもいなかったろう。
 まぶたを開くために力を入れなくてはならないなどという事態。
 いや、彼女はこの島に来てからなら幾度か考えていたかもしれない。
「……誰…?」
 半開きの眼、滲む視界。
 微かに動く口で声を発する。
「見た目ひ弱そうな、女顔の少年を知らないか?」
 男が返した答えはマナの知りたかったものではない。
 というか答えですらなかった。
(女顔…?)
 彼女はほぼ無意識で、その質問のために頭を働かせる。
 しかしどれも明確なビジョンにならない。
 思い出される知人の顔は、どれもグニャグニャと歪んでいる。

19 :チェシャ猫〜再び裏舞台へ〜(2/3)By林檎:01/09/12 23:35 ID:0I/hRy6s


 しばらくマナが沈黙していると、男はあきらめたようにその場で立ちあがった。
 いまだに動くこともままならない彼女を見下ろし、言う。
「ある程度毒は中和できたと思うが…。まぁがんばるんだな……」
(毒……?)
 その単語だけがスムーズに彼女の頭へ入っていく。
(そうだ。毒で倒れたんだ……)
 意識を失う前にそう推理したことが思い出された。
 毒で倒れ、知らぬ男に手当てされ、その男が目の前にいる。
 それが彼女の身に起きたこと。
 とりあえず男に敵意が無いと悟った彼女は、半開きの目を再び閉じた。
――シュッ――
 男は煙草をくわえ、ライターで火をつけようとする。
「ん……」
 火がつかない。
 雨に濡れた際に湿ってしまっていた。
 くしゃりと箱ごと握りつぶすと、それを地面に捨てる。

20 :チェシャ猫〜再び裏舞台へ〜(3/3)By林檎:01/09/12 23:36 ID:0I/hRy6s


「助けてくれて…ありがと……」
 マナが言う。
 一応とはいえ、まだ殺し合いゲームは続いているのだ。
 その中でやさしさを向けてくれた男。
「ふん…。気まぐれだ」
 男は平然とそう言い、自分のバッグに広げていた荷物を詰める。
 そして無言で立ち去ろうとする。
――強くなければ生きられない――
(彼女の今の体力で、どれだけ生き延びられるだろうか)
 そんな心配が男の頭に微かによぎった.
 だが彼にしてみれば元々関係の無いこと。
 毒の中和は、たまたま手持ちの品で応急処置できそうだったから気が向いたにすぎない。
「…ありがと……」
 立ち去る高野の後ろから再び礼…。
――優しくなければ生きていく資格がない――



 眠るマナ。
 その横に非常食。


【高野は418話の施設から、充分な物資を持ち出したと思われます】

21 :Tomorrow 1:01/09/13 20:09 ID:ZYNpDYGQ
観月マナ(088)は川のほとりにいた。
(あれ……?)
目が覚めて、周りを見渡したらそうだった。

次に自分の体を見る。怪我なんてない。傷どころか泥や血で汚れた後すらない。
川の流れを鏡にして自分の顔を映してみる。
流れに押されて、写った顔がグニャリと歪んだ。
私が置かれているあの島にはそんな歪みが似合ってるかも、なんて思ったけれど。
その流れの向こうの私はすごく綺麗で…(っていってもナルシストじゃないわよ)
やっぱり、汚れ一つなかった。
「……夢?」

「そうだな。これは、夢かもしれんな……」
「だ、誰…?」
聞かなくても分かってた。その、短い間だったけど、絶対に忘れることのない声。
「久しぶりだな、マナ君」
「せ、センセイ!」
私は、一心不乱にその大きな体へと飛び込んだ。
「こ、こら、いきなり飛び掛ってくるな、びっくりするじゃないか」
「ほ、本当にセンセイだ…」

22 :Tomorrow 2:01/09/13 20:10 ID:ZYNpDYGQ
ひとしきり、その胸の温かみを感じた後、もう一度、周りを見渡す。
ホントは、ずっとそうしていたかったけど。
「センセイ、ここは……?」
「川のほとりだな」
「そんなことは分かってる……ます」
「じゃあ、どこだと思うんだ?」
反対に、返された。
「川のほとり……」
「だな。言葉通り。私の言うことに間違いはない」
断言された。よく状況が掴めないけど、今日の霧島センセイは強気だった。

23 :Tomorrow 3:01/09/13 20:11 ID:ZYNpDYGQ
「センセイ、生きてたんですか?私は…」
「私以外にもいるぞ。ここにはな」
えっ…?
「やほー、マナちゃんだ! よかったぁ」
「か、佳乃ちゃん……!!」
センセイの後ろに隠れて、佳乃ちゃんがいた。
「そんな…どうして……?」
「私がいるのだ、佳乃がいても不思議ではないだろう?」
「いや、そうだけど…」
疑問に思いながらも、喜びの表情は隠せない。
「良かった…本当に…私、てっきり……佳乃ちゃんが……」

先生や、佳乃ちゃんとの思い出。あの悲しかった思いは忘れたことなんてなかった。
だから、すごく嬉しかった。
「夢だったのかな……?ひどく、辛い夢」
「そうか。悲しい夢でも見ていたのか?残念ながら精神的なものは専門外だが…」
「いいの、病気じゃないから」
涙を拭って。

私の辛いあの日々は、終わったんだ……

24 :Tomorrow 4:01/09/13 20:15 ID:L0S7YdZY
「情けないチビちゃんにもう一回会えるなんてね〜」
「そ、そんな事言ったら可哀相だよ…」
私は、また懐かしい声との再会を果たした。
それ程時間は経っていないのに、すごく懐かしい。
「きよみさん…初音ちゃん…」


もう会えないと思っていた、大切な人達との再会。
もう一度、夢見て止まなかったその再会。
たぶん、この島に来て、一番の微笑みだったと思う。
きよみさんのその憎まれ口さえも、耳に心地の良い響き。

そういえば…この島に来てからって思ったよね、私。

「センセイ、ここはどこなんですか!?」
「川のほとりだ」
「さっきも聞いた! もっとグローバルな意味でのこと」
そう、何故か違和感を感じる。
幸せなこの状況に不満なんてないと思うけど、胸の奥にあるその何か。
「あの島じゃないんですか?」
あの殺戮の島に、この風景は不釣合いだと、我ながら不謹慎だけど、そうも思う。
「……。ふむ…」
先生が、腕を組んで考える仕草をする。
「あの島からは遠く離れた場所だ。…いろんな意味でな」
いろんな意味?ちょっと良く分からなかったけど、さらに質問する。
「みんな、助かったの?」
「……今も戦っている者がいるかもしれないな」
「……」
その先生の声に、私はただ黙った。

25 :Tomorrow 5:01/09/13 20:16 ID:L0S7YdZY
「マナちゃん、ここにいれば安全だよ。あとは、帰るだけだね」
「初音ちゃん…」
お家に帰る。帰っても誰もいない寂しい家。
それでも、あの島でずっと求めていたもの。
だけど……
「やっぱり、なにか足りないの」
私は、言った。

ここは幸せなのに…?私が求めていた、たいくつでつまらない、だけど幸せな日々なのに…?

「うん…辛かったけど、忘れちゃいけないって思い出が、あるから…」
自分に言い聞かせるように、言葉。

26 :Tomorrow 6:01/09/13 20:17 ID:L0S7YdZY
(※3行開けです)
  ――さっき、君は『死んでも人殺しにはなれない』と言ったろう。私もそうだ。
    私は医者だ。先ほどの観月くんのように怪我をして、
    あるいは戦闘で傷ついた人間を見つけたら治療する義務がある。
    誰かが私に襲い掛かってきたとしたら、殴り倒してでも説得する。
    例え、その行動が命取りになっても、だ。

  ――あなたは、その子よりも弱いのよ。 肉親を失った子でも、生きようと決めたのね。
    それでもあなたは、死ぬの?

  ――心の中でずっと叫んでた…マナちゃんを傷つけていく私を、私は止められなかった。
    私がやったことは…許されないかもしれないけど…
    本当は、死んじゃった方がいいのかもしれないけど…
    私、お姉ちゃん達の分まで生きたい。だから…生きていてもいいかな?

  ――彰お兄ちゃん、自分が何を言ってるかわからないのっ!?
    本当にもう狂っちゃってるんだね!? 戻れないんだね!?
    鬼の血なんてあげなければよかったよ……それでもお兄ちゃんが好きだったからっ!!

  ――忘れないでほしい。君がいたから助かった人、救われた人もいっぱいいたってことを。

27 :Tomorrow 7:01/09/13 20:18 ID:L0S7YdZY
(※3行開けです)
私は、いろんな人に支えられて、長い道をただひた走っていた。
私にとっての辛い辛い旅の終わりはこうだったらいいって思うけど。
もう叶うことはないって分かってても、そう思ってしまうけど。

私はまだ、帰れない。
戦ってる人、生きて帰ろうと前を向いて歩く人、
そして、耕一さんをはじめ、出会ったすべての人達と。

「ここはまだ、私のゴールじゃないから」

そう言ったら、センセイやきよみさん達がみんな、笑った気がした。

「ひとつだけいいおチビちゃん? ……すべてが夢だったら、いいとは思わない?」
「思わないよ。だって―――――」
「言わなくていいわ。たぶん、私の思ってる通りの答えだと思うから。憎たらしいけどね」
「きよみさん……」

世界が、遠のいて、いく。
「佳乃ちゃん…初音ちゃん、きよみさん…センセイ…私――」
「そんな顔をするな。すべてが…あの悪夢が夢であったのなら、
 私達が出会うことはなかった…そう思えば気楽だろう?」
「センセイ……」
「何事も、前向きに、な」

世界が途切れた――――――――

28 :Tomorrow 8:01/09/13 20:19 ID:L0S7YdZY
私が、永遠であったならばいいと思った、その幸せな日々が。



目が覚めたら、いつもの悪夢の光景だった。
たった数日だったけど、長く感じるその辛い日々。
周りを見渡せば、横に食料が置いてあるだけで、誰もいない。

「そうだ、変な、だけど親切な男の人に助けられて、また眠っちゃったんだ」

さっきのは夢だったんだろうか。
夢だとしても、はっきりと覚えているその言葉。
(どの位の時間が経ったんだろう…?)
あたりは、すっかり夜に染まっていた。
耕一さんが迎えに来た気配は、ない。

眠ったせいだろうか。センセイ達に勇気付けてもらったからだろうか。
妙にすっきりしていた。
梓さんへの憎しみも、薄らいでいた。
正確には、嫉妬は強くなっている気もするけれど。
(私、思ってたより独占欲強かったんだね…)
もしかしたら、梓さんとは、戦うことになるかもしれない。

29 :Tomorrow 9:01/09/13 20:20 ID:L0S7YdZY
――――そうじゃ、それでよい。それでこそ「人間」であろ……

梓さんと別れた時に聞こえた謎の声が脳裏に蘇る。
私の心が創り出した声だったのか、それとも他の誰かの声だったのか、それは分からないけど。
今はそんなことはないって、はっきりと言える。

梓さんとのその戦いは、帰ってから幾らでもすればいい。
帰れば、笑いながら、怒りながら、それができるんだから。
さっきまでの私の黒い思いに、苦笑いした。

30 :Tomorrow 10:01/09/13 20:24 ID:npOMjkQE
(※3行開け)
頭だけじゃない、体だけじゃない。心が軽くなったと思う。
何度も絶望して、あきらめたこともあったけど、その度に勇気づけてくれた、友達。
今も、心で勇気を与えてくれるから。


――すべてが夢だったら、いいとは思わない?
思わないよ。だって…

こんな島でも、大切な人達と出会えて良かったと思ったのは嘘じゃないから。


【088 観月マナ 毒を克服 非常食入手】

※時間は夜に突入です。どの位経ったかはお任せ。
※少々ご都合ですが毒でポックリはとりあえずないことにしました。
 現在、耕一の言葉通りに場所は動いてないです。動くかどうかはお任せします。

31 :Tomorrow作者:01/09/13 20:26 ID:npOMjkQE
マナが見たあの夢は、
1、単なる夢
2、臨死体験
3、永遠の世界(爆

好きなようにとってやって下さい。

なんか「改行多すぎます」でハネられまくって細切れになってしまいました。
(未だになんでか分からんのですが。他の人は大丈夫みたいだし…)

あと、何人かの作者さんの文を引用しまくってます、スミマセン。

32 :みんな、結末を目指して……(1):01/09/14 00:02 ID:HkYoJC3Q
「それで、グレート・長瀬さん……でしたっけ? 私たちに協力して頂けないでしょうか」
 岩山地下施設コンピュータルーム。先程、柏木千鶴、スフィー、月宮あゆ、七瀬彰の4名も到着していた。
 その直前に辿り着いていた北川潤&来栖川芹香、元からいた大庭詠美、椎名繭も加えると総勢8名、実に生き残っている参加者の
 半分以上がここに集結したことになる。

「だめじゃ、ワシはまがりなりにもこのゲームの管理者。参加者たるおぬし達に協力はできんよ」
 先程から問答を続けてるのは柏木千鶴と、この施設のコンピュータで現在実質的にこのゲームを
 管理している擬似人格「グレート・長瀬」(通称G.N.)だった。
「ですが私たちはこれ以上殺し合いを続ける気はありません。それに……」
「ええぃ、協力せん! 協力せん! 協力せんたら協力せんのじゃぁぁぁ!!!」

 カシャン………。その時なにかが割れる音がした。

「あらいやだ、私ったらコーヒーカップ落としちゃったわ」
「ぬぉぉぉぉっ! なんてことするんじゃ、はやく拭かんかいぃぃぃ!!」
 みると千鶴のコーヒーがG.N.のコンソールに派手にぶちまけられている。
「……はい、千鶴さん。かわりのコーヒーと布巾だよ」
「あら、あゆちゃんありがとう。それでなのですがグレート・長瀬さん、私達はあなたの協力を得たいと……」
「だから駄目だといって……ぬぉぉぉっ!!!」
「あらいやだ、今度は砂糖壺をたおしちゃったみたい。私ったらどじねえ」
 てへっ。そんな感じで舌をだす千鶴。
(うぐぅ……。千鶴さん、目が笑ってないよう……)
(ふみゅ〜ん……)
(………出来る…)
 他の者はそれを黙って見守ることしか出来ない。

33 :みんな、結末を目指して……(1):01/09/14 00:05 ID:HkYoJC3Q
「それで、グレート・長瀬さん……でしたっけ? 私たちに協力して
 頂けないでしょうか」
 岩山地下施設コンピュータルーム。先程、柏木千鶴、スフィー、月宮あゆ、
 七瀬彰の4名も到着していた。
 その直前に辿り着いていた北川潤&来栖川芹香、元からいた大庭詠美、
 椎名繭も加えると総勢8名、実に生き残っている参加者の
 半分以上がここに集結したことになる。

「だめじゃ、ワシはまがりなりにもこのゲームの管理者。参加者たる
 おぬし達に協力はできんよ」
 先程から問答を続けてるのは柏木千鶴と、この施設のコンピュータで
 現在実質的にこのゲームを管理している擬似人格「グレート・長瀬」
(通称G.N.)だった。
「ですが私たちはこれ以上殺し合いを続ける気はありません。それに……」
「ええぃ、協力せん! 協力せん! 協力せんたら
 協力せんのじゃぁぁぁ!!!」

 カシャン………。その時なにかが割れる音がした。

34 :みんな、結末を目指して……(2):01/09/14 00:16 ID:HkYoJC3Q
(一行あけ)
「あらいやだ、私ったらコーヒーカップ落としちゃったわ」
「ぬぉぉぉぉっ! なんてことするんじゃ、はやく拭かんかいぃぃぃ!!」
 みると千鶴のコーヒーがG.N.のコンソールに派手にぶちまけられている。
「……はい、千鶴さん。かわりのコーヒーと布巾だよ」
「あら、あゆちゃんありがとう。それでなのですがグレート・長瀬さん、私達はあなたの協力を得たいと……」
「だから駄目だといって……ぬぉぉぉっ!!!」
「あらいやだ、今度は砂糖壺をたおしちゃったみたい。私ったらどじねえ」
 てへっ。そんな感じで舌をだす千鶴。
(うぐぅ……。千鶴さん、目が笑ってないよう……)
(ふみゅ〜ん……)
(………出来る…)
 他の者はそれを黙って見守ることしか出来ない。

35 :みんな、結末を目指して……(3):01/09/14 00:17 ID:HkYoJC3Q
(3行あけ)
「あなたにこのゲームを止め、外と連絡することは出来ないということですか……」
「すまんのう、千鶴嬢ちゃん。しょせんワシはしがないプログラムでしかないからのう」
 13杯目のコーヒーのおかわりの後、G.N.との交渉が再開されていた。
「なあ……、千鶴さんって嬢ちゃんって年じゃないと思うんだが」
「…………」
 北川の小声の突っ込みに
(うぐぅ、今部屋の温度が少し下がったみたいだけど………きっと気のせいだよね)
「ならばこのゲームを止めるにはどうなればよいのでしょう?」
「そうじゃの、参加者が一人を除いて全員死亡しかないじゃろうのう」
 こころもち冷たい千鶴の声に、先程とは打って変わり協力的なG.N.が答える。
「死亡判定はどのように行っているのです?」
「おぬしたちの体内にある爆弾を使ってじゃよ」
「でしょうね」
 そこで千鶴はにこっと笑った。
「でしたら私たちのように、一人を除いてみんなが爆弾を吐き出してしまえば吐き出した人は
 死亡扱いになるので生き残りは一人、つまりあなたのプログラム上ではゲーム終了となるわけではありませんか?」
「………少し待ってくれい。……ふぅむ、問題はないようじゃな」
「ありがとうございます。さてと……」
 ゆっくりと千鶴が振り返る。
「この中でまだ爆弾もってるのは北川くんとスフィーさんね……。まずは北川くんから吐き出してもらおうかしら。
 みんな、ちょっと北川くんをおさえておいてもらえます?」
 次の瞬間みんなにとり押さえられる北川。
「えっ……あの、ちょっと」
「ごめんなさいね、北川くん……。これもこのゲームを終わらせるためなの……」
 硬く握り締められる千鶴の拳。その顔は、何故か少し嬉しそうだった……。

36 :みんな、結末を目指して……(4):01/09/14 00:18 ID:HkYoJC3Q
(3行あけ)
 北川は床に伸びていた。他の者は少し離れたところにかたまってなにやら話をしている。
 千鶴ひとりG.N.のコンソールの前に座り、先程北川から取り出した爆弾――もちろん念入りに洗っている――
 をいじっていた。本当はスフィーからも取り出したかったのだが、何故かみんなから止められている。
 まああの子は女の子だし、それに衰弱も結構激しいようだから今すぐでなくてもいいだろう。
「千鶴さん、おかわりと……はい」
「あらクッキー……。ありがとう、あゆちゃん」
 気が付くと横にあゆが立っていた。



「あの……千鶴さん、ひとつ聞きたいんだけど……神奈……さんだっけ。その事はどうするの?」
 あゆの疑問、それは当然だろう。確かにいま北川の持ってきたCDの解析は進めている。だが先程のG.N.との
 やりとり。そこには神奈――おそらく今回の元凶にて捨て置けない存在――のことは一言もでてこなかった。
 まるで、そんなものはじめからなかったかのように……。
「……あゆちゃん、あなたはそんなこと気にしなくてもいいのよ」
「えっ……?」
「もうすぐこのくだらない出来事は終わります。そうしたら先にあなた達は帰りなさい。あなたたちを
 待っている人のもとに」
「……」
「あとのことは気にしなくてもいいのよ。あとは私たちが必ず決着をつけます」
 そういって千鶴はちらりと彰の方――彼は皆と離れてひとりたたずんでいた――を見る。
「だから、あゆちゃんたちは先にこの島から戻っておいてね。ほら、あなたのお母さんも心配してるわよ」
 それは千鶴のまぎれもない本心だった。この決着、それは凄惨なものとなる予感がする。だから
 そこにいるのは私たちで十分、あゆちゃんみたいな優しい人たちはそこにいる必要が無い。そうでしょ、あゆちゃん。
 あなたも早く日常に戻りたいわよね。「戻りたい」、そう一言言ってくれさえすれば私達は……。
 だが彼女の返答は千鶴の予想を越えていた。

「千鶴さん……、ボクね、お母さんいないんだよ……。ボク、もう帰る場所ないんだ……」

37 :みんな、結末を目指して……(5):01/09/14 00:21 ID:HkYoJC3Q
(3行あけ)
 なにかが溢れ出るように、そして淡々とあゆは言葉を紡ぎ出す。
「ほんとはね、ボク、来月から秋子さん……水瀬秋子さんの子供になるんだったんだ……」
 水瀬秋子……覚えている。自分がこの島で戦った相手。そして今は既に死んでいた。
「ボクの本当のお母さん……ボクが小さい時に死んじゃって……ボクその時本当に悲しくて……」
 無感動に続けるあゆ。
「どうしょうもなく悲しかったその時、ボクは祐一くん……相沢祐一くんと出会ったんだよ……」
 すっと、あゆはポケットから何かを取り出す。それは天使の姿をした人形だった。彼女はすこしそれに
 目をやり、言葉を続ける。
「死にたいくらい悲しかったんだけど、ボクは祐一くんと出会って、すこしその悲しみも楽になって……。
 でもね、ボクどじだから……祐一くんが街を離れる日……ボク木から落っこちて……死んじゃった……」
 はっとなり、千鶴はあゆの表情を見る。あゆの表情、彼女の目にはいつのまにか涙がたまっていた。

38 :みんな、結末を目指して……(6):01/09/14 00:22 ID:HkYoJC3Q
(3行あけ)
「でもね……」
 あゆは続ける。
「木から落ちて、ボクお空に昇っていったんだけど、ああもう戻れないなあって思ったその時、出会ったんだよ……。
 天使さんに」
「天使……?」
「うん、天使さん。よくは覚えてなんだけど、とっても綺麗な白い羽をした天使さん。その子とね、ずっと話をしてた……」
 ここになってようやくすこし元気になるあゆの声。
「それでね、気が付いたら元いた街にいて、祐一くん達とも再会できて、
 いろいろあったけどボク生き返ること出来たみたい……」
「…………」
「でも、お母さんはやっぱしいなくなっていて、やっぱしボクはひとりぼっちなのかなぁって思ってたら、
 秋子さんが言ってくれたんだ。『あゆちゃん、もしよければうちの子にならない?』って……」



「それでね……ここに来る直前、秋子さんが『せっかくあゆちゃんがうちの子になるんだから、その記念に
 パーティーしましょう』って提案してくれて……、それでみんな……名雪さん、真琴ちゃん、美汐ちゃん、
 栞ちゃん、香里さん、北川さん、舞さん、佐祐理さん、そして祐一くんとかみんなが集まってくれて……
 『わあ、とっても楽しいよ、祐一くん、ボクもう死んでもいいよっ』って言ったら祐一くんに
 『ばかっ』って言われて……、それでも楽しくてはしゃいでたら何故か眠くなっちゃって気がついたら……」
 なにかを吐き出すかのようにあゆは言う。

「ここにいた」

39 :みんな、結末を目指して……(7):01/09/14 00:24 ID:HkYoJC3Q
(3行あけ)
 千鶴はあゆになんていったらいいのか分からないでいた。ふと見てみると、あゆの肩が小刻みに震えている。
「あゆちゃん……」
「千鶴さん……どうして……えぐっ………どうして、みんな死んじゃったの。? どうしてこんなことに
 なっちゃったの……どうして!?」
 小さく嗚咽をあげるあゆ。千鶴は気がついた。あゆは、いやあゆもこんな小さな体でずっと戦っていた、本当に
 必死になって戦っていた事を。そしてそうである以上、中途半端な決着――みんなを置いて先にここを去るような――
 それは彼女にとって絶対に出来ないことだということを。それともうひとつ……
「あゆちゃん……死ぬ気?」
「千鶴さん……さっきの話、聞こえていた。……死ぬのは怖いけど……ほら、ボクを待ってる人、もう誰もいないから……」
 いつしかあゆは泣き止んでいた。彼女は真っ赤になった目を千鶴に向けている。そこにあるのは明確な意思。
「だめよ、あゆちゃん……」
「いいんだよ、千鶴さん。……ほら、それにさっきいったでしょ。ボク一度死んじゃってるしね」
 おどけた調子であゆは言う。本当にこの子は……
「あゆちゃん、あなたが死んだら、私が悲しいわ……それではだめ?」
「千鶴さんには梓さんがいる。他の人もそう。だからこの役目はボクが一番適任なんだよ。ボクが死ねば万事オッケ―だよ」
 ビシッ。あゆは人差し指を立てていった。でも……
「だめよあゆちゃん……。だってあゆちゃんには、ここを出たら私の妹になってもらうんですもの」
「えっ……」

40 :みんな、結末を目指して……(8):01/09/14 00:28 ID:HkYoJC3Q
 それはもしかしたらこれ以上に無い程残酷な話かもしれなかった。しかし千鶴は――たとえこのことが
 代償行為だのなんだのそしられようとも――決めていた。
「もしあゆちゃんがそれでいいって言ってくれたらだけど……、これが終わったら私の妹にならない?」
「……」
「私、これでも結構お金持ちなのよ。鶴来屋っていってね、地元じゃ結構有名な旅館を経営しているの」
「……」
「家も結構大きいし、あゆちゃん一人くらいきても全然大丈夫」
「……千鶴さん」
「それでね、ここからみんなで無事に帰ったら、そこでみんなでお通夜をしましょう」
「……お通夜を?」
「そう、知ってる? お葬式はね、死んだ人たちに敬意の念をもってあの世に送る儀式なんだけど、
 お通夜はね、みんなでわいわい騒いで、元気にやっている姿をみせる儀式なの」
「……どうして?」
「だってそうでしょう? 自分が死んだ後にね、もし自分の大好きな人や大切な人がづっと泣きつづけて暮らしていたら、
 それはとっても悲しいことだとは思わない? だからお通夜は、あなたが死んでとっても悲しいけど、私達はあなた達の死を
 無駄にせず、元気に生きていくことが出来ますよってのを見せるためにするの。私達はしっかり生きて生きますよってね。
 元気にしっかり生きていく、それが死者に対する最低限の礼儀」
「…………」
「だからね、あゆちゃん」
 千鶴はにこって笑ってあゆの両頬をしっかりと握り……
「死・ぬ・な・ん・て・、軽々しく口に出してはいけないの」
「ひゃ、ひゃ、つぅじゅりゅしゃん、ひぃたひぃひょー」

41 :みんな、結末を目指して……(9):01/09/14 00:29 ID:HkYoJC3Q
「本当は……」
「駄目だよ千鶴さん。気持ちは嬉しいけどボクは帰んないからね」
 頬を真っ赤にしたあゆはいう。説得は無理そうだ。残念だけど……すこし嬉しかった。
「それにね、ボクさっき木から落ちて天使さんに会ったっていったでしょう」
「ええ……」
「その天使さん、まだよく思い出せないけど、天使さんと会った時に感じたのと似似たような感じ、さっきの社で感じたんだ。
 それと天使さんがいた所にはにもうひと……」
「話中にすまんのんだが……」
 不意にG.N.が二人に声をかけた。
「なにかしら?」
「生存者を確認したぞい、ただな……少々様子がおかしい」
「……? 確認させていただけますか」
「すこしまっておれ……。そりゃ」
 G.N.のモニターに一人の人物が浮かび上がる。そこには……


「……梓!!」

42 :Kyaz:01/09/14 00:32 ID:HkYoJC3Q
[029北川潤 体内爆弾を吐き出す]


「みんな、結末を目指して……」の作者のKyazです。
 32は送信をミスってしまいました。すみません。 本編は33からということでよろしくお願いします。

 自分なりに趣向を変えてみたつもりなのですがいかがだったでしょうか?  それでは、失礼します。

43 :Kyaz:01/09/14 01:50 ID:HkYoJC3Q
たびたび申し訳ありません。
一部訂正を

(9)(41番目)の会話
「なにかしら」と「生存者を〜」の間に
以下の2文
「この施設の屋外監視カメラになんじゃがな」
「ええ」
の挿入
及び
次の文「生存者を確認したぞい、〜」を
「一瞬じゃが生存者を確認したぞい、〜」
への変更をよろしくお願い致します。


現在の状況として
「上空にあった監視カメラは既に消滅している」
というものがあります。

お手数をかけて申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。

44 :冗談のような出来事(1):01/09/14 02:49 ID:5jON5iKM
この島で会って死んでいった大切な人のために、
そして、まだ生きている人のためにがんばらなくっちゃ。

梓さん、様子が変だったから耕一さん心配だな。
考えるなりマナは耕一が走り去った方向に向かって駆け出した。
毒のせいで身体が重い。更に、辺りはすでに暗くなっている。
周りが見難いため走るスピードを緩めて耕一を探す。

この島から帰ったら梓さんにライバル宣言しちゃおうかな?
こういう闘い方もありだよね?
でも梓さんだったら「あたしは耕一のことなんてなんとも
思ってない」真っ赤な顔をして否定するかも。
非日常のこの島で島を出た後の日常を思い浮かべる。
マナに精神的余裕が出てきた証拠だ。

45 :冗談のような出来事(2):01/09/14 02:49 ID:5jON5iKM
真っ赤な顔をした梓を思い浮かべて笑みを浮かべたとき
身体が浮遊感を感じた。

「……え……???」

浮遊感のあとにくる激しい衝撃。
腕、足、腰、背中、頭と衝撃が伝わってくる。
彼女は崖を転がり落ちていた。
電気もない、特殊な力もない、毒でふらついている。
そんな状態で森を走っていたのだから前方に注意が行き届かない
のは当然だ。

なんで?マナの頭にそんな疑問が浮かぶ。
こんな事で死ぬなんて犬死じゃないの……冗談でしょ?

……ごめんなさい…みんな、………耕一…さ…ん…。

観月マナ、地面に叩きつけられたのと同時に誰かに看取られる
こともなくその生を終えた。

【088 観月マナ 死亡】

46 :あなたへの月:01/09/15 09:58 ID:/FMHS8G.
多分自分は正直であるべきなのだろう、それが自分に課せられた一つの罪であるし、
自分が自分である必要は最早ない、だがそれでも僕は。
嘘を吐くのが嫌いなのだ。

「梓、――ぶじ、だったのね」
云う千鶴には、言葉ほど安心した様子は無かった。
むしろ逆にどうしようもない狼狽に囚われてしまった感さえある。
そのモニターに映し出されたあまりに疲弊した顔を見て、僕は黙って立ち上がる。
あまり鮮明な映像ではないが、それでも充分にその表情の意味するものが見て取れた。
彼女が、初音のもう一人の姉だった。
初音を殺した「誰か」を捜そうとして、それでも見つける事が出来なかった(当然だ、「誰か」とは僕の事なのだから)。
絶望のまま、結局ここに戻って来なければならなかったのだろう。

ならば。

「彰、くん?」
黙ったまま部屋を出ようとした僕に気付くと、柏木千鶴は少し上擦った声で呼び止める。
少しの間の後彼女の思考にも冷静さが戻ったのだろう、先程見せた強い眼差しで僕を見つめると、
「――ダメよ」
そう云った。彼女は聡明な女性だ、僕が考えている事がすぐに判ったのだろう。
「僕が行く事に意義がある」
「あなた、誓ったんでしょう?」
初音を殺した「あれ」を、必ず殺すと。

47 :あなたへの月:01/09/15 09:58 ID:/FMHS8G.

「疲弊しきった今の梓に、あなたの話を聞く余裕があるとは云い切れない」
言葉を切って、数秒の間の後。
「――梓に、ただ殺されてしまうだけかも知れない」
「判っています」
モニタールームに走る緊張が、まるで蜘蛛の糸のように広がっていく。
「ならここで座って待っていて。私が迎えに行ってきます。――事情を話せば、梓だって判って」
「判っています」
僕は少しだけ目を伏せ再び頷いたが、その頷きは納得の意味ではなかった。
「けれど、こういうのは理屈じゃないでしょう」
まっすぐな目で、僕は千鶴のその眼差しを受け流そうとした。
――受け止めようとするにはそれはあまりに重かったから。

「――……」
一分程の沈黙の後、千鶴のその圧迫するような眼差しは消え失せ、彼女は少しだけ肩を竦め、頷いた。
「判った。あなたの気持ちが判らない訳じゃないから。ただね、一人では絶対に行かせない。
 それくらいは我慢して。あなたと梓の共闘が、神奈との戦いのためには重要なの」
僕も肩を竦めて頷いた。
「ありがとうございます」

――モニターの梓は、未だに施設入り口の前で立ち往生していた。
まるでここに入るのを躊躇っているかのようでさえあった。
僕と柏木千鶴は、二人並んで部屋を出る。

48 :あなたへの月:01/09/15 09:59 ID:/FMHS8G.
「千鶴さんっ――……」
心配げな目で見る月宮あゆは、見上げる形で千鶴の表情を伺う。
「あゆちゃん、すぐに梓と一緒に帰ってくるわ。大丈夫、そんな顔をしないで」
「うん……」
軽く唇を噛んで、あゆは一度は俯き頷こうとしたが、
何かを言いたげにもう一度千鶴の顔を見上げた。
「あゆちゃんはスフィーちゃんの様子を見ていてあげて」
柏木千鶴は――――笑った。
「護身用に拳銃は持ってる。もし誰かが来襲してきても、何とかなるわ」
作り笑いにしてはあまりに自然な笑顔だった。

――もし、この笑顔が作り笑いでないのだとしたら。

妹を失った直後。そしてその殺人者である自分が横にいるのだ。
統率者として冷静でいなければならないのは判る。
だがそれにしたって、あまりにも不自然だ。僕は少し不安な気持ちになる。

この女性もまた、自分やこの島の他の人間すべてのように――何処かが欠けてしまっているのではないか?

僕はだが、そこで考えるのを止める事にした。
彼女が喩え壊れていようとも、僕にはどうする事も出来ないのだから。

49 :あなたへの月:01/09/15 09:59 ID:/FMHS8G.
七瀬彰と柏木千鶴が部屋を出ていって、すぐの事だった。
北川潤とG.Nは殆ど同時にその異変に気付いた。
「――おい、なんか、もう一つ、光点が近づいてきてるぜ」
「わかっとる、今すぐモニタリングするぞい」
――不安が過ぎる。正体不明のそれが、果たして一体何であるか。
自分たちの仲間となりうる存在だ、脱出したいと思っている生き残りだ。そうに決まっている。
北川は胸に走る不安を打ち消すように、何も映っていないモニタを見つめる。
梓とその光点の距離は数百メートル、だがその距離は見る見る詰められていく――
「よし、モニタリング出来るぞい」
その画面に現れたのは。北川は唾をごくりと呑むと、その男の表情を見つめた。
「おいっ、あのおっさんはっ」
来栖川芹香も同じように目を丸くする。
フランク長瀬。先程出会った、やけに無口な中年だった。
だが、その様子は。あれは何だ? あれは――
先に受けた印象とまるで違う。冷静沈着な感じのあったあの男が、今は
声こそ聞こえないが、何やら訳のわからぬ事を喚いているような様子である。
気が狂ったかのようなその様子は、先程までの彼からは考えられない。
あの男に、この短期間で何があった?

(――まずいぞ)
北川は親指の爪を噛みながら、誰にも聞こえない小さな声で呟く。
(このタイミングだと、千鶴さんと七瀬の彰くんが着く前に、あの男が梓さんを襲う形になるんじゃないか?)

50 :あなたへの月:01/09/15 10:00 ID:/FMHS8G.
当然だが、柏木千鶴も七瀬彰も敵襲がこんなタイミングで訪れるとは考えていないだろうから、
割とのんびりと歩きながら、柏木梓を迎えに行っている筈だ。
対して、あの男の移動は早すぎると云うほどではないが、それでも――。
そして、疲弊しきった様子の柏木梓。
敵襲に気付かないと云う事はないだろうが、それでも疲れから来る油断はある筈で。

(勘弁しろよ、これ以上人死には見たくないぜ)
北川は黙って立ち上がる。
状況を完全に理解しており、すぐにでも動き出せるのは自分だけだろう。
CDの解析は始まった、今俺に出来る事など一つもない。
それならば、脱出の為に行動をとるのは当たり前の事ではないか?
今この部屋にいる人間の中で、梓が、千鶴が、彰が危ないと直感的に理解できている人間はどれ程いるか。
来栖川芹香も気付いてはいるだろうが、おろおろとした様子でいるばかりだ。
やはり、俺一人で行く。北川は自分の武器、デザートイーグルを手に取ると、ドアを開けようとした。
「ふみゅ?」
その時、大庭詠美が奇異の目で自分を見た。気付かれたか。
G.Nやその他の人間もその声で自分の様子に気付いたようだった。
部屋には月宮あゆとスフィーを除いた全員がいる。
(ちなみにあゆはスフィーの様子を見に、隣の部屋へ行っていた)
さて、どうやって誤魔化そうか。
「――ちょいと便所行って来るわ」
北川は適当にそんな言い訳をした。
便所に行くのに武器を持っていくアホがいるか、と自分で突っ込みを入れながら。

51 :あなたへの月:01/09/15 10:00 ID:/FMHS8G.

「待ってっ」
引き留めるはやはり大庭詠美。さすがにこの言い訳は――
「トイレの場所判ってるのぉ?」
……いや、それだけかよ。ちょいと拍子抜けする。
「たぶん」
適当に頷くと北川は部屋を出る。そしてドアが閉まるのを確認すると、一目散に駆けだした。

「――……」
これといった会話もなく、割とゆっくりとした歩調で歩いていた僕と柏木千鶴が、
施設の出入り口の見える辺りまで到達した時だった。
後ろから誰かの駆けてくる音。振り返った僕と柏木千鶴は、その足音の主が北川潤である事を確認する。
「千鶴さーん! 七瀬くーん!」
何事か、と思い、僕たちは彼の叫ぶ声を聞いた。
掠れるような声だが、それでもその言葉の意味するものは簡単に理解できた。
「たぶん、敵が来てるっ! 梓さんが危ないっ――!」
その声を聞いた柏木千鶴は。
すさまじい勢いで床を蹴ると、彼女は僕と北川を置き去りに施設を飛び出した。

追いついた北川に僕は問い質す。
「敵?」
「ああ、さっきちょっと、色々あったんだ。その時、あのおっさんが」
「おっさん?」
「ああ、多分管理者側の人間だよ。七瀬くんも、もしかしたら何処かで見てるかも知れない」
無口で髭面の、変なおっさんだ。北川は息を切らしながらそう云った。
僕は、一つ息を呑んだ。

52 :あなたへの月:01/09/15 10:06 ID:/FMHS8G.
ガァンッ! と、拳銃の重い音が何度かした。
遅れて施設を飛び出した僕と北川がそこで見たものは。
銃を撃ちながら、鬼のような形相で戦う柏木千鶴。
「殺してやるっ――!」と、そんな呟き声も聞こえる。
そして、その傍らで倒れている柏木梓。
顔面は蒼白で、先程の疲弊しきった様子とはまた違う、何か危ういものをそこに感じざるを得ない。
そして僕の予想通り、髭面の男とは。
鋏を手に持ち、涎を垂れ流し、普段の彼からは信じられないような喚き声をあげながら、
「電波で貴様らを皆殺しにしてくれるっわはははははははははははははははは」
千鶴の放つ弾丸をかわし跳ね回る――自分の叔父、フランク長瀬だった。
その様子で大体の状況は掴めた。まずフランクが柏木千鶴よりも先にここに到着し、
疲弊しきった柏木梓を襲った。そして梓が倒れたところで千鶴が飛び出し、
そのまま戦闘となったのだろう。
止めなければならない。千鶴がフランクを殺してしまう前に。
別に叔父を助けたいと、それ程強く思うわけではない、だが。
叔父が、多分「最後」なのだ。

「叔父さんっ!」
僕は大声で叔父の名前を呼んだ。理性を失った叔父が、自分の声に反応するかどうかは微妙だったが――
「――彰?」

その声で、二人は止まった。
呆然と立ち尽くす千鶴は、思い出したように梓の元に駆け寄る。
「梓っ! 梓、大丈夫っ?」
梓は死んでいるわけではない。
その事に「漸く気付いた」かのようにさえ見えた。

53 :あなたへの月:01/09/15 10:07 ID:/FMHS8G.

「彰、か?」
先程までの狂ったような様子はその瞬間消え去り。
フランク長瀬は呆然と立ち尽くし、僕の目を見つめた。
「叔父さんっ、何してんだよっ――……」
フランクの目には、俄かに理性が戻ったかのように見えた。
「――何を?」
今まで何をしていたのか、判らなかったような表情。漸くにして、合点がいったかのような貌。
「電波による、復讐だ」
祐介の為の復讐だ。そう、云った。
「意味が判らないよ、叔父さんっ――」
いつになく饒舌な叔父の姿に違和感を覚えながらも、僕は必死に叔父に語りかける。
「ああ、俺は何をやっていたんだろうな、」
復讐をする相手は決まっていたというのに。

叔父はそう云うとあさっての方向に駆け出していってしまうではないか。
「あの少年を殺す為にわざわざあんな事までしたんだったな」
そんな言葉を言い残して。
理性が戻ったかのように見えたけれど、――その実、まだ何も戻っていない。電波とは何だ?
「待って、叔父さんっ――!」
だが、呼び止める声も虚しいだけだった。

僕は結局すぐには叔父を追う事が出来なかった。今はそんな事より、倒れた梓の方が心配だ。
僕と北川は、千鶴と、彼女に抱きかかえられ倒れている梓に目を遣る。
青ざめた顔の千鶴は、がたがたと震えた声で呟く。
「あずさ、あずさっ……」
うっすらと目を開けた柏木梓は、掠れた声で呟く。
「ああ、油断しちまったよ、千鶴姉」

54 :あなたへの月:01/09/15 10:07 ID:/FMHS8G.
「ああ、油断しちまったよ、千鶴姉」
「喋らないで、梓! 別にそれ程傷は深くない――」
「それは、判ってるんだけど、なんか、体が重いんだ、なんで、だろ」
傷は確かに小さなものだった。それが心臓の真裏にあるという事を除けば。
「この症状はは、――毒?」
毒だとしたら。心臓に近い位置に傷が出来るのは、致命的だ。
同時に、脳にも近い位置だ。毒の回りが早いのも頷ける。
横で北川がごくりと唾を飲む声が聞こえた。
だが次の瞬間には、彼女と同じように青ざめた顔ではあるが、それでも力強く北川は大声で喚いた。
「千鶴さんっ! 施設の中に応急処置用の薬品かなんか、たぶんあるだろっ! 俺ちょっと捜してくるっ」
そしておろおろとした表情の千鶴に叱咤するように、
「あんたは気丈でいろ! 絶対大丈夫だ、すぐに戻るっ!」
そう云った。
そのまま施設内に駆け戻ろうとして――北川は再び振り返る。
「七瀬の彰くん――あのおっさん、追いたいんだろ? 叔父さんなんだろ」
僕が躊躇しながらも頷くと、北川は手に持っていた大型拳銃――デザートイーグルを僕に放ると、
「行けよっ!」
そう言い残して施設の中に駆け戻っていった。

千鶴と梓をもう一度横目で見る。
ごめんなさい、心の中で一度念じる。大丈夫、すぐに戻ります。
――知らなくても良いとは思っていた。
だが、この企画の真相を知り得る最後の人間が自分の叔父だ。
何故こんな苦しい目に遭わされなければならないのか、そして、あの神奈という精神は何なのか。
それが、神奈を倒す為の手掛かりとなりうるのではないか。

僕は一度大きく息を吐くと、叔父さんが駆けていった方向につま先を向け、そして力強く大地を蹴った。

55 :あなたへの月:01/09/15 10:09 ID:/FMHS8G.

【七瀬彰                ――フランク長瀬を追いかける。武器は北川のデザートイーグル。
 北川潤 柏木千鶴 柏木梓   ――毒で倒れた梓を応急処置。北川は施設内に戻り、千鶴は梓の毒を抜いています】

56 :名無しさんだよもん:01/09/16 04:47 ID:fQiUvHF.
age

57 :離散、思いがけぬ危機(1):01/09/16 18:22 ID:.5LnJM9o
 モニターに映ったのは。
 まさしく鬼の形相で疾走する梓の姿だった。
 だが、その姿を捕らえられたのは、ほんの一瞬。固定カメラである以上、
その有効範囲は決して広くはない。彼女はすぐにカメラの有効範囲を通り
過ぎていった。
「……今の場所はどの辺りですか?」
 先程までとは全く違う、深く、静かな千鶴の声。
「じゃが、あの嬢ちゃんの様子は尋常じゃない――」
「どの辺りですか?」
 念を押すように、もう一度尋ねる。
「……分かった。あの嬢ちゃんのいた場所はな――」
 教えなければ、先程とは違い、本当に自分を破壊しかねない。そう判断
したG.N.は、観念して居場所を教えることにした。

「――といった感じじゃよ。ただし、あの嬢ちゃんの爆弾はもうないから、
 レーダーによる追跡は無理じゃ。現時点であのカメラからどれだけ離れた
 のか見当もつかん。一応他のカメラのチェックは行っておるが、正直期待
 できんじゃろ」
「それだけ分かれば十分です」
 千鶴は皆に背を向け、部屋の出口へと向かう。
「ち、千鶴さん、どこへ――」
 先程千鶴に腹を殴られた北川が、地面に伏しながらも何とか声を絞り出す。
誰もが愚問だと思うだろうが、それでも聞かずにはいられない。
「梓は初音を失ったことで錯乱しています。それを止めて、連れ戻してくる
 だけです。すぐに戻りますから」
 彼女は平静を保っていた。異常なほどに。
 彼女を止められる者は、いなかった。

58 :離散、思いがけぬ危機(2):01/09/16 18:25 ID:.5LnJM9o
 千鶴が部屋を出ていった後は、沈黙がこの場を支配していた。
 その沈黙を破ったのは、ここにやって来て以来、何も喋らずにずっと
部屋の隅に座っていた青年だった。七瀬彰と言ったか。彼はほとんど音
もなく立ち上がり、部屋の出口へと向かう。この沈黙があったからこそ、
彼の行動に気付けたと言ってもいい。
「ちょ、ちょっと、あんたまでどこいくの?」
 慌てた様子で詠美が尋ねる。
 千鶴には、確かに外に出ていくだけの理由がある。妹を殺され錯乱した
梓を止めるという。この青年にもそれに匹敵するだけの理由があるのか?

「彼女の妹を殺したのは、僕なんです」

 場が凍り付く。
 あらかじめ施設外でその話を聞いていたのは、あゆとスフィーだけ。
他の者にとってはあまりに衝撃的な告白だった。
「だから、僕には行く義務がある」
 行けばどうなるか。あの梓の映像を見た者に、それが分からないはず
もない。多分、命の危険なんて彼にはどうでもいいことなのだろう。
 だが。
 たとえ事情はどうであれ、これ以上人が死ぬかもしれない状況を黙って
容認するわけにはいかない。
「おい、ちょっと待て――」
 北川がふらふらになりながらも立ち上がり、彰の肩を掴んだその瞬間。
 千鶴に一撃を見舞われたダメージがようやっと回復しつつあった腹部に、
更に強烈な一撃を叩き込まれる。振り返りざまの問答無用の一撃を受け、
北川は再びもんどり打って倒れた。
「……ごめんなさい。でも、無駄死にするつもりはないから」
 それだけを言い残し、彼も部屋を出た。
 彼を止められる者もまた、いなかった。

59 :離散、思いがけぬ危機(3):01/09/16 18:28 ID:.5LnJM9o
 えー、みなさんお元気ですか? 北川潤です。で、お元気ですか?
お元気ですか。そうですか。え? 私? あー、私は多分元気だと思い
ますよ。
 ……殴られまくってるけどな。
 何故にこの紳士の中の紳士、私北川潤がここまでひどい仕打ちを受け
なければならないのでしょうか? 何か悪いことでもしましたか?
しましたか。そうですか。私の存在自体が罪だとおっしゃりますか。
ああ、私は何と罪な男なのでしょう。

「何とかしないと……あの梓って人、きっと、神奈の影響受けてる……」
 弱々しいながらも確かな意志を含んだ言葉が、地面にうずくまっていた
北川を現実へと引き戻す。
 その声の主は、スフィーだった。彼女は何とか立ち上がろうとしたが、
身体がそれについていかない。
 そういえばさっきから気にはなっていたのだが、前に見た時より心なし
か小さくなっているように見える。とりあえずそれはどうでもいい。重要
なのは、その言葉の方だ。
「マジか?」
「少ししか見えなかったし、映像越しだから確証は持てないけど……」
 これは窮地だ。外にはまだ、往人達が追っていった少年とやらの集団、
それに寡黙な髭面親父がいるはずだ。加えて梓まであの状態、それが神奈
の影響によるものだとすれば、単独で外に出ていった千鶴や彰の身の危険
は更に高まる。
 部屋を見回す。現状で残っているのは、自分を除いて五人。
 来栖川芹香、スフィー、月宮あゆ、大庭詠美、椎名繭。はっきり言って、
まだ敵がいるかもしれない外に連れていけるような面々ではなかった。
 だとしたら、どうする?
 答えは決まっていた。
「スフィー、とりあえずお前じゃ無理だろ。ここで休んでな」

60 :離散、思いがけぬ危機(4):01/09/16 18:39 ID:.5LnJM9o
「施設の中は安全なんだよな?」
 CDは解析中。今自分がこの場にいなければできないことはない。CD
の解析が済み、後は実行できるだけの状態になった時にここにいればいい。
「で、でも――」
 何とか動けるようになってすぐに、準備を始めた。銃や刃物などの武装。
応急処置用器具一式。他にも施設内で見つけた使えそうな物を持っていく。
「一応、パスワードは変えておいた方がいい。みんなには俺から知らせて
 おくから。いざとなれば内側から自由に開け閉めできるんだろ?」
「うん……」
 この場に残す面々の中で最年長と思われる詠美に、諭すように続ける。
「だったら大丈夫だ。千鶴さんと、七瀬の彰くんと、千鶴さんの妹の、
 えと、梓さん――か? とにかく、三人を連れてすぐ戻ってくるから。
 それまでみんなのことを頼む」

「待って!」
 彼の会話に割り込んできたのは、意外な人物だった。
「ボクも連れてって!」
 月宮あゆ。
 だが、残念ながらその申し出を受ける気にはなれなかった。
「おいおい、外にはまだ敵がいるんだぞ? いくら天下の北川様でも無力
 な女の子を守りつつってのは厳しいと思うんだが」
「でも――千鶴さんと梓さんを放ってこのままじっとしてるなんて、ボク
 にはできないよ!」
 仮に断ったとして。
 彼女はきっと、北川が施設を出た後に、一人で外に出て千鶴と梓を捜そう
とする。ここで強く止めても無駄だ。彼女の決意に偽りがあるとは思えない。
 どうせ二人とも外へ行くのならば、二人で一緒に行く方がいい。考え方の
違いだ。二人で行けばお互いが自分を、そしてお互いを守れるかもしれない。
「……分かったよ。でも、自分の身は自分で守ること」
「うん!」

61 :離散、思いがけぬ危機(5):01/09/16 18:41 ID:.5LnJM9o
「じゃあ詠美さん、ここのことは任せたから」
「ふみゅーん……」
 不安そうな彼女の声。
 それも仕方ない。行動の指針を示すことができるリーダーであった千鶴
がいなくなってしまったのだから。残念ながら、今この場で集団のリーダー
を張れる人間――例えば、少年を追っていった往人、変態女装野郎の耕一、
結局会えず終いだった蝉丸のような――はいない。それは北川自身も含めた
上での話だった。
 だからこそ、千鶴達を連れ戻さなければならない。不安が皆を押し潰し、
集団内に不和が生まれる前に。
 もうあんな思いはたくさんだ。
(ま、たまにはシリアスにいくのもいーだろ)
 彼に向いているとは思えないこの行動が、吉と出るのか凶と出るのか。
 だが、今はそんなことはいざ知らず。
 彼はあゆと共に外への第一歩を踏み出した。

【柏木千鶴、七瀬彰、北川潤&月宮あゆ、それぞれ施設の外へ】
【大庭詠美、来栖川芹香、椎名繭、スフィーは施設残留】

62 :「離散、思いがけぬ危機」作者:01/09/16 18:48 ID:.5LnJM9o
どうも、「離散、思いがけぬ危機」作者でございます。
とりあえず週末のNG騒動も「冗談のような出来事」「あなたへの月」
のNG決定で終結を見たようなので、カメラによる梓発見後の話を
書かせていただきました。

各レス間の改行は三行でよろしくお願いいたします。

63 :三度現れし彼女(1):01/09/16 23:50 ID:c1mxRReg
「待って!」
再び北川をひきとめたのは、やはりあゆであった。
後から思いっきり襟を引っ張ったので、北川の顔色が変貌しているが気付いていない。
ずりずりと施設内部に連れ込まれる北川。
「ぐぇ…今度は、なんだっ!?」
「忘れ物だよっ!」

コンピュータールームに舞い戻った二人が最初に出会ったのは、ぐったりと消耗したスフィー。
詠美と芹香は、彼女を医務室へ移そうとしていたようで、扉を開けた詠美が怪訝そうに尋ねる。
「どうしたのよ、北川」
「いや俺じゃなくって、この娘が-----」
そう言って、あゆを指差そうとしたのだが、既に彼女は芹香の下へと移動している。
…侮れない素早さだ、と妙なところで感心する北川であった。

当のあゆは、芹香と何かの相談している。
そして二人同時に手をひらひらさせて、繭に向かい”おいでおいで”をした。
「みゅ?」
いつもの奇声を発して歩く繭が、芹香の膝の上にちょこんと座る。
(このご時世に、なんちゅうほのぼのした光景だ…)
などと努めてシリアスに、半ば呆れていた北川は、次の瞬間予想だにしない展開を経験するはめになった。

「みゅーーーーーーーーーーーーー!!」
繭の絶叫。
「!?」
「何だあ!?」
詠美と北川は顔を見合わせ、頷き合うと同時に繭たちのほうへ駆け寄る。
「何やってんだ!」
間に入ろうとする北川が見たものは、毒々しい色をした-----キノコ。
あゆが、そのキノコを繭に無理矢理食べさせようとしているのだ。
 

64 :三度現れし彼女(2):01/09/16 23:55 ID:c1mxRReg
今や繭と取っ組み合い、騒乱のさなかであゆは叫ぶ。
「千鶴さんが言ってたんだよっ!
 芹香さんの持ってるキノコを、繭ちゃんに食べさせなきゃいけないって!」
完全に子供の喧嘩状態になっている二人を見ながら、手を出しかねている北川に向かって詠美が命令する。
「よくわかんないけど-----てつだうのよ、したぼくっ!」

…最早、彼女の間違った日本語を、根気強く修正する人物はいない。
「く、くそっ!何で俺が!? それに、したぼくってなんだ!」
疑問に思いつつも、キノコ強制摂取戦に参戦する北川が居るのみだ。
かつて居た彼の親友が、そうしたように。

むぎゅ。
「みゅーーーーーーーーーー! 嫌だよ、おいしくないよ-------!」
むぎゅ。ごくん。

叫び。
そして確かな咀嚼音と続く嚥下音。
最後に訪れる、静寂。
「……」
「…繭、ちゃん?」
「…繭?」
全員が、繭の顔色を窺っている。
対する繭は、背後の芹香のように、完全な無表情を保っていた。

数瞬の間を置いて、繭が目を閉じる。
今までなら、そのまま寝てしまうのだろうと思われたが-----

 「…この情況で呼ばれても、困ってしまうわね」

-----そう言ってアンニュイな溜息を吐いたのち、ゆっくりと開いた彼女の目の色は、高度な知性をたたえていた。

65 :三度現れし彼女(3):01/09/16 23:57 ID:c1mxRReg
二人のキノコ被験者を目にした数少ない被害者である北川は、悪夢を見る思いで呆然としていたが、ようやく我を
取り戻すと、最後に一本残ったキノコをまじまじと見つめて、疑問を口にした。
「…ちなみに、俺が食うと-----どうなるんだ? 食うまで、判らないのか?」
「だ、駄目だよっ!
 これは繭ちゃん専用なんだよっ!」
更なる混乱を呼ぶとしか思えない、恐ろしい問いかけを慌てて却下しながら、あゆがキノコをひったくる。

シリアス北川はどこへやら、あゆと同レベルで口喧嘩をはじめた二人を無視して、繭が立ち上がる。
くるりと振り向くと、二人が取り合いをしているキノコを指差し、芹香に尋ねた。
「残りの一本。
 頂いても、いいかしら?」
(こくこく)
頷く芹香。
そしてお互いの目の奥にある、他人には受け取られにくい光を見つめて、語りかける。
「……?」
「そうね…色々不明な点もあるけれど、今後多くはあなたに依存することになると思うわ。
 あのコンピューターは曲者だけど、融通は利くようだから、利用するだけ利用しないと損よ」
その後繭は、今まで見ていた参加者の動きを-----本人ですら気が付いていなかった詳細まで-----予測を交え
つつも精密に芹香へ伝え、芹香もいくつかの情報を提供し、最後に二人は静かに頷き合った。


「それじゃ、今度こそ…」
「ちょっと待ちなさい」
再び出発しようとした北川を、今度は繭が引き止める。
「あなたのその指で、自動小銃は無理があるわ。
 今から行くとなると、他人の援護から戦闘に入る可能性が高いから、こっちになさい」
そう言って武器を詰め替える繭。
「むむ……」
釘を添えて真っ直ぐになった利き手の人差し指を見ながら、北川は不機嫌そうに押し黙った。
 

66 :三度現れし彼女(4):01/09/16 23:58 ID:c1mxRReg
しかし、思いがけぬ繭の行動は、それだけではない。
自らも鞄を肩にかけると、あゆと並んでさっさと歩き始めたのだ。
「…さ、行くわよ北川」
「……は?」
「利き手の使えないあなたよりも、まだ私たちのほうが当たるはずよ。
 あなたに死なれると困るかもしれないし、不満なら、あなたが残ったっていいのよ?」
「そ…そういう問題じゃないだろ!」
足手まといがまた一人、とまでは言わないまでも、心配の種が増えることに北川は不満を漏らす。

しかし一方の繭は、涼しい顔をして答えた。
「…そうね、正直に話す必要はあるかもしれないわね。
 あなたは往人さんとやらに”殺す”とまで脅されて、ようやくここに着いたくらいの方向音痴のようだから。
 私があなたを導いてあげるしかない、というのが結論なのよ」
「な…何で知ってんだ!?」
「ふふ-----乙女の情報網を、甘く見ない事ね?」

そう言って余裕たっぷりに笑った繭は、今まで長らくそうしていたように、画面の光点を見つめていた。
(近くに、来てる)
飛び出した彰が、正確に千鶴やフランクを追えているのならば。
その位置近辺に、かつて知り合った繭の知人のそれを含む、三つの光点が迫っているようだった。

 (もうすぐ-----きっと、もうすぐ-----会えるわね)

 そう心に念じた繭の脳裏に。
 北川の抗議は、届かなかった。

67 :名無したちの挽歌:01/09/17 00:16 ID:9B.9ni7w
【北川潤 ステアーTMP所持】
【椎名繭 ステアーTMP所持】
【月宮あゆ イングラムM11、ナイフ二本所持】
※あゆのナイフは…洗ったということで(毒はもういいでしょうw)。
※射程の問題と重さから、エアーウォーターガンカスタムは置いて行きます。
※スフィーも芹香も居るので、実際には北川がCDの起動に必要とは限りません。


…というわけで、「三度現れし彼女」です。
施設組の武器を掘り起こしていたため、このレスを上げるのに時間がかかってしまいましたゴメソ。

68 :名無したちの挽歌:01/09/17 00:21 ID:9B.9ni7w
どうして忘れるかな…
【椎名繭 ステアーTMP所持】を【椎名繭 ステアーTMP セイカクハンテンダケ1個所持】へ
修正してくださいまし。

69 :心の行き先(その1):01/09/17 14:19 ID:XgHBZrUk
雨でぬかるんだ地面を蹴るように俺は走っていた。
焦る俺の心と裏腹に体は思うように動いてくれない。
それも当然と言えば当然だろう。
この体はまだ傷が癒えていない。
それでも俺は走るのを止めるわけにはいかなかった。

とにかく一刻も早く梓を捜し出さなくてはならない。
そしてマナちゃんの所に戻らなくては。
マナちゃんは強がっていたけど彼女がそう長くはもたないだろうことはすぐに分かった。
病気か、それとも他の何かが原因なのか俺には見当もつかない。
だが、いずれにせよ早く何らかの処置をしなければ助からないだろう。
あの施設の中になら恐らく何らかの医療器具があるに違いない。
そこにマナちゃんを連れていけば何とかなるかもしれない。
今の俺はそのわずかな希望にすがるしかなかった。

くっ。
一瞬周囲の景色がゆがんだ。
恐らく怪我をおして走っているせいだろう。
木に手をかけ、倒れそうな体を支える。

柏木耕一!お前は地上最強の鬼の血を引く者だろう!
俺がしっかりしなきゃ梓もマナちゃんも助けられないぞ!
俺は自分に渇を入れる。
そしてまた俺は走り出した。

70 :心の行き先(その2):01/09/17 14:22 ID:XgHBZrUk

「さて、それじゃ行きましょうか」
晴香のその言葉に私と観鈴さんは頷いた。
「そうね、観鈴さんも私達と目的地は同じみたいだし。一緒に行きましょ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ええ。それにしても、あなた随分たくさん武器持ってるわね」
「が、がお………」
観鈴さんが困ったように呟いた。
「それだけあると重いでしょ。私達が少し持ってあげるわ」
「そうね、いい?」
「あ、はい。でも、いくつかは自分で持ちます」
観鈴さんがいくつかの持ち物を手に取った。
私と晴香で残りの武器を手分けして持つと神社を出発することにした。

71 :心の行き先(その3):01/09/17 14:23 ID:XgHBZrUk
「あ、あの!」
「ん?どうしたの?」
観鈴さんが神社を出てすぐに声を出した。
「誰かがこっちに来てるみたいなんですけど」
「え?」
私達の目の前に出されたレーダーには確かに一つの光点が私達の方に近づいてきているのが見えた。
「………観鈴。アンタそこら辺に隠れてなさい」
「え?でも………」
「そうね、大丈夫よ。まだ敵と決まった訳じゃないんだし」
「そうそう。それにもし敵だったら観鈴が影から撃ってくれればいいんだし」
私と晴香の言葉に頷くと観鈴さんは心配そうな目をしながら近くの木の陰に隠れた。
まるで小動物のような動作だ。
「フフフ」
思わず笑みがこぼれる。
「どうしたのよ?気持ち悪いわね」
「失礼ね。ちょっと知り合いを思いだしただけよ」

72 :心の行き先(その4):01/09/17 14:24 ID:XgHBZrUk
折原、ゴメンね。繭のこと結局助けられなかったわ。
空を見上げながらそう心の中で呟く。
結局この島に来る前の知り合いの中で生き残っているのは私一人だけだった。
折原の最後の願いだった繭を助けることも出来なかった。
でもきっとあいつのことだから笑いながら「七瀬。お前は頑張ったんだから気にするな」って言ってるわね。
だけど、それじゃあいつの死が報われない。
だから私はせめて最後まで生き残る。
もう、それしかあいつの願いを叶えることは出来ないから。
「七瀬。来るわよ」
晴香の言葉に私は持っていた刀を持ち直した。
ガサッ。
「動かないで!」
晴香が物音のした方に銃を向けながら叫んだ。
「晴香ちゃん?」
聞き覚えのある声と共に草むらから出てきたのは―――。
「変態さん?」
何故か隠れているはずの観鈴さんのつぶやきが聞こえてきた。
 

73 :心の行き先書いた者:01/09/17 14:25 ID:XgHBZrUk
【耕一  七瀬・晴香・観鈴達と遭遇】
【耕一 ナイフ・中華キャノン・ニードルガン所持】
【晴香 刀・人物探知機・ワルサーP38・包丁・伸縮式特殊警棒・ベレッタM92F・アサルトライフル(G3A3アサルトライフル)・高槻の手首(?)ひとつ 所持】
【七瀬 毒刀・手榴弾三個・レーザーポインター・瑞佳のリボン・ステアーAUG・ベネリM3・高槻の手首(?)二つ 所持】
【観鈴 アサルトライフル(M4カービン)・人形・デザートイーグル・シグ・ザウェルショート9mm・投げナイフ・反射兵器 所持】

74 :心の行く末書いた者:01/09/17 21:24 ID:pPgBbxHY
所持品修正です。

【耕一 ナイフ・中華キャノン・ニードルガン所持】
【晴香 刀・人物探知機・ワルサーP38・包丁・伸縮式特殊警棒・ベレッタM92F・アサルトライフル(G3A3アサルトライフル)・高槻の手首(?)ひとつ 所持】
【七瀬 毒刀・手榴弾三個・レーザーポインター・瑞佳のリボン・ステアーAUG・ベネリM3・志保ちゃんレーダー・高槻の手首(?)二つ 所持】
【観鈴 人形・デザートイーグル(弾切れ)・シグ・ザウェルショート9mm・投げナイフ×2・反射兵器 所持】

ご迷惑おかけして申し訳ありません。

75 :名無しさんだよもん:01/09/17 22:19 ID:pPgBbxHY
再修正です………。
 
【耕一 防弾チョッキ(アイドルタイプ)・ナイフ・中華キャノン・ニードルガン所持】

こんな大事な物忘れるとは………。
今すぐ逝ってきます。

76 :使命感(1):01/09/19 02:01 ID:o.ogW2sQ
(分からないよ……)

 天井を見ながら、思った。
 とりあえず彼女――スフィーは激しく衰弱していた。あからさまに衰弱していく自分
のことを心配した詠美と芹香によってこの医務室のベッドに運ばれ、それからどれだけ
の時間が経ったのか見当も付かない。ほんの僅かな時間だったのかも知れないし、大分
長い時間だったのかも知れない。
 不調の原因の一端は、誰に言われるまでもなく分かっている。むしろ自分だからこそ
分かる。
 魔力の流出。
 だが、その流出の度合いは半端ではなかった。かつて自分と健太郎を結んでいた腕輪
があった時よりも、遙かに速いスピードで魔力が失われていた。そのあまりの急激さ故
に、体力までもが失われているのだろう。
 魔力が失われる根本的な原因は、結局のところ分からない。

77 :使命感(2):01/09/19 02:02 ID:o.ogW2sQ
 だが、それ以上に分からないことがある。
 魔力が失われていくのと同時に、その代わりとばかりに自分に流れ込んでくる断片的
な情報。あまりにも断片的な。そして圧倒的な。
 着物を着た男女の死体。月。天まで届かんばかりの篝火。翼。岩の牢獄。空。
 自分が見たこともない光景だった。
 それらが流れ込んでくるたびに、自分を構成する何かの中で最も大切なもののうちの
一つが遠のいていく。

 雨月堂で過ごしたあの日々が。
 グエンディーナで過ごしたあの日々が。
 結花のホットケーキが。
 リアンの笑顔が。
 健太郎の後ろ姿が。
 自分が撃ち殺した少年が残した、最期の言葉が。

(でも、今はのんきに寝てる場合じゃない。あたしがやらなくちゃ――)

――何を?

 それでも彼女はベッドを降りる。ふらつきながら、医務室の扉まで辿り着き、その扉
を開ける。何故か魔力の流出は止まっていたが、今の彼女にとってはもう関係のない話
だった。

78 :使命感(3):01/09/19 02:07 ID:o.ogW2sQ
 施設内、コンピュータールーム。
 のんびりと茶をすすりながらCDの解析――そして北川達の帰りを待っていた詠美と
芹香は、予想だにしなかった来客に驚いた。
「ちょ、ちょっとだいじょーぶなの!?」
 詠美は突然コンピュータールームに戻ってきたスフィーに駆け寄ろうとして――でき
なかった。
 焦燥。
 悲壮。
 使命。
 そういったものが、彼女に何人たりとも立ち寄らせまいとしていた。
 憔悴しきった顔色のまま、彼女はふらふらと歩き、腰をかがめ――何かを手にした。
それを少し弄ったかと思うと、再び立ち上がる。
 彼女が手にしていたのは、北川達が置いていったM4カービンだった。今のスフィー
の小さな身体――しかもすっかり衰弱していた――にとってはそれなりに重いはずなの
だが。
 銃口は詠美と芹香、そしてマザーコンピューターのメインモニターの方に向けられて
いる。
 当然の如く。
 そこに迷いはない。
 安全装置は外されていた。

79 :使命感(4):01/09/19 02:10 ID:o.ogW2sQ
「お、おい、お嬢ちゃん、何やっとるん――」
 その状況になって、最初に声を発したのはG.N.だったが。
 たたた――と軽い音がしたのと同時、マザーコンピューターのメインモニターが吹き
飛んだ。
「きゃあっ! なによなんなのよもー!」
 破片が詠美や芹香の頭上に降ってくる。詠美は思わず頭を抱えて身を屈める。湯飲み
茶碗も床に落ちて砕ける。
「…………」
 帽子の上にモニターの破片が降ってきてもなお、芹香の無表情さは変わらなかった。
だが、見る者が見れば分かっただろう。スフィーを見つめる彼女の瞳は悲しさに満ちて
いた。聡明な彼女には分かってしまったのだ。スフィーに何があったのかを。
 そして、狙いの定まらないスフィーの銃口は自分に向けられようとしていたのだと。

 決して聡明だとは言えない詠美も、銃口が自分に向けられていないことには気付けて
いた。
 じゃあ誰を狙ってるの?
 そこまで到達できれば後は簡単だった。他には芹香しかいない。

80 :使命感(5):01/09/19 02:12 ID:o.ogW2sQ
 M4カービンから三発の弾が射出される。その反動は今のスフィーに支えきれるもの
ではなかった。大きく体勢を崩し、後方に転倒する。
 それでも、芹香や詠美が体勢を立て直す前には再び起きあがっていた。室内ではある
が、それなりに距離もある。少なくとも、飛び込んでスフィーを取り押さえるには至ら
ない。死ぬ気で飛び込んでくれば話は別だが、それでも大方無駄死にで終わるだろう。
標的が近ければ近いほど、弾は当たりやすくなるのだから。
 もちろん銃口は前に向ける。

(……あたしがやらなくちゃ……)

 もはや使命感だけが彼女を突き動かしていた。それを達成しなければならないという
焦燥感と、何としても成し遂げねばならないという悲壮感と。

(……あたしがやらなくちゃ……)

――何を?

 だが、その問いに答えてくれる者は誰もいない。彼女自身も含めて。

81 :使命感(6):01/09/19 02:15 ID:o.ogW2sQ
 詠美は思い出していた。

『早う逃げるで! 同人女は夏こみまでは死ねんのや!』
『えーい! 女々しいわ! いつまでもグズっとらんと、しゃんとしい!』
『スマン……詠美っ!!』

 おろおろすることしかできなかった自分の手を引いてくれた、由宇のことを。

『ああ。頼りされたいし、頼りにしてる』
『待てっ! 詠美!!』
『……愛してる……』

 壊れかけた自分の心を現実に繋ぎ止めてくれた、和樹のことを。

『……下僕じゃねぇかよ!! このアマふざけやがって!!』
『けっ……おめぇなら、大丈夫だ……戦え』
『笑って――笑って、バカやってろ。そうじゃねぇ、と、おめぇらしく――』

 逃げることしかできなかった自分に戦うことを教えてくれた、御堂のことを。

 自分の浅はかな行動のせいで和樹と共に命を落とした、楓のことを。
 自分の眉間を貫くはずだった弾丸をその身を以て防いだ、ポテトのことを。

 今まで出会ってきた、全ての人達のことを。

 たたた――

 あまりに無情な、無感動なその音が、再び部屋に響き渡った。

82 :使命感(7):01/09/19 02:17 ID:o.ogW2sQ
【G.N.、メインモニター全壊。他は無事だが緊急停止中】
【スフィー、魔力を奪われ神奈の影響を受け始める?】
【大庭詠美&来栖川芹香、その運命や如何に……?】

83 :「使命感」作者:01/09/19 02:33 ID:o.ogW2sQ
どうも、「使命感」作者でございます。
各レス間の改行ですが、(1)(3)の後は一行、(2)(4)(5)(6)の後は三行で
お願いいたします。お手数お掛けいたします。

84 :名無しさんだよもん:01/09/19 04:15 ID:Yv6A6M4Q
>作者さん
「雨月堂」ではなく「五月雨堂」だったはずだと思われ。
 訂正をば。

85 :名無したちの挽歌:01/09/19 07:57 ID:M7KIrFWU
>>67-68の持ち物設定に、修正を入れてくださいまし。

【北川潤 ステアーTMP、応急処置セット、ナイフ1本、硫酸タンク所持】
【椎名繭 ステアーTMP、セイカクハンテンダケ1本所持】
【月宮あゆ イングラムM11、ナイフ1本所持】

北川の硫酸タンクはエアーウォーターガンカスタムのものです。

86 :名無したちの挽歌:01/09/19 08:01 ID:M7KIrFWU
UPするなり芋蔓式に思い出すのはなんなんでしょうかねw

>>85
 せっかくですので、もう一つお願い致します。
 【月宮あゆ イングラムM11、ナイフ1本所持】を
 【月宮あゆ イングラムM11、種、ナイフ1本所持】にしてくださいませ。

87 :「使命感」作者:01/09/19 08:27 ID:J8FxqCoM
>>84
はうあ、申し訳ございません、、、ご指摘ありがとうございます。
ということで、>>77 使命感(2)の「雨月堂」は「五月雨堂」に修正を
お願いいたします。いやはや、お手数お掛けして申し訳ございません。

88 :結末1:01/09/19 22:54 ID:jbeC4wMY
……マルチです。
この部屋は、静かになりました。
先程までの騒音と悲鳴と、怒声とが、嘘のように静まり返ってます。
まるで時が止まったみたいに思えます。

何が起こったのか、即座には判断できませんでした。
今も、出来ていません。

目の前に立ち込める硝煙と、血の赤。
あまりのことに、私の中のブレーカーが落ちることさえありませんでした。
生まれて、初めて目にしたその光景は、あまりに凄惨で、信じ難いものでした。




舞い降りる茶碗や機片の残骸。
「きゃあっ! なによなんなのよもー!」
砕け、紫電を起こすメインモニターだったもの。
「…………」
爆風というには、あまりにささやかな風が揺るがした三角帽子。
その向こうに見えた双眸は、悲しくも、しっかりと前を見据えている。
その視線の先に、疲弊しきった表情のスフィーが銃を構えている。
未だ、銃口の先を微妙に彷徨わせながら。

89 :結末2:01/09/19 22:55 ID:jbeC4wMY
カシャン!
降り注ぎ、地面に転がる残骸の音は、最後に陶器の欠片が地面に跳ねた所で止んだ。
後に響くのは、モニターだったものが巻き起こす小さなスパークと、かすかな吐息。

詠美が再び態勢を立て直した時、すでにスフィーの手にした銃が再度、火を吹いた。
「………っ!」
芹香の小さなその悲鳴がかき消される。

ガシャガシャン!
原型を留めていないモニターを再び弾丸が抉り、辺りに破片を撒き散らす。
今度は、赤い血飛沫と共に。

「あんたっ!」
既に、詠美の手には銃が握られていた。
自らが、御堂がポチと呼んだ、その銃をスフィーに向ける。
スフィーも腰を落として撃った為か、今度はそこまで体は流れなかった。

赤く染まった芹香が後方へと崩れ落ちるのと、スフィーが詠美に銃口を向けるのはほとんど同時だった。
「なにしてんのよっ!」
真中に置かれている机へと沈むようにしながら、そうしながら詠美からも銃声が放たれる。
そして、スフィーからも。

双方共に、外れる。
一つは天井へ、一つは、詠美のいた空間を飛び、壁をえぐった。

90 :結末3:01/09/19 22:56 ID:jbeC4wMY
(何かを、しなくちゃならないんだ……)
スフィーの心が、その衝動を駆り立てる。
「はうっ……!」
ただ、呆然と立っていたHMを突き飛ばすようにしながら、もう一度二の足で立つ。
足りない魔力を、体力を、気力で振り絞って、銃を撃った。
もはや何かしらの破片しか残されていない机を。
銃痕でボロボロになった壁を。
真新しい血が滴り流れる床を。
幾つかの弾丸が踊った。

(終わらせるんだ)
目の前の惨劇が、そうすることが終わりへの道と信じて。
正しくは、それが信じた道と強く念じて。
「………ぅぅぅ〜〜!!」
気付かない内に、スフィーの瞳から涙が零れ落ちていた。
正しく認識はできなかったけど、それはスフィーが無意識に流した悲しみの涙だった。

91 :結末4:01/09/19 22:57 ID:jbeC4wMY
机の陰から、詠美が再度、両腕で銃を持って。
『もっと…腰を…落とせ…腕はこう…』
今は亡き、御堂の声を聞いたような気がした。
かつて、人を撃ったときのように、
御堂に、支えられるかのように。
どうして撃たなくちゃならなくなったんだろうと思いながら。

そう思う。
和樹も、由宇も、御堂も、そして、すべての死んでいった人達にそう思う。
どうして死ななきゃならなかったんだろう、どうして殺したんだろう、殺されたんだろう、と。
スフィーと、銃の握られた自分の手を見ながら。
(こんなこと、かんがえたことなかったけど、すごく、悲しいよ。悲しいね、和樹)
下唇を噛み締めて、スフィーへと狙いを定める。
『狙うのは眉間だ…俺が撃て…と言ったら…撃て』
もう一度、御堂の声が頭に蘇る。
(撃って、それから、どこに行くんだろう)
この島での狂気の行く先を。
スフィーの瞳と、詠美の銃口とが、かちあった。
『撃てっ――!』
最後に、御堂の声がそう聞こえた気がした。

92 :結末5:01/09/19 22:58 ID:jbeC4wMY
詠美の指に力がこもった。
だけど、弾丸が発射されることはなかった。
なかったのに、銃声は再度響いて。
三度、地面に尻餅をつく。
「……ぁ」
じわりと、滲む景色。それは鮮やかなほど紅く。
そのまま、ドウッっと、後方に沈んだ。

(けんたろ、結花、なつみちゃん、みどりさん、……リアン。終わらせるから)
魔力がなくなって、霧散してしまわない内に。
だけど、終わらせて、それで。
(私は、どこに行くんだろう)
何かに導かれるかのように、その部屋を後にする。
彼女の双眸からこぼれた涙の雫が、一滴だけ血の池に跳ねて波紋を作った。

93 :結末6:01/09/19 22:59 ID:jbeC4wMY
「…………」
よろよろと、芹香が詠美の元へと這いよる。
「…な、なにが、あったのかな…?」
詠美の掠れた声に、芹香が短く思案して、かすかに首を振る。
「…撃てなかった…だって、スフィー泣いてたから、悲しかったから。
 撃てば、良かったのかもしれないけど、やっぱり、撃てなかったよ」
苦しそうに声を吐き出す詠美の頭を、ゆっくりと芹香が撫でる。
その手もまた、苦しそうに震えていた。
「泣いてたから、それ見ちゃったから、
 撃って、先を見る未来は……
 撃たれて先のない未来よりも、後悔するって、思ったから…」
ばかやろー、と、御堂の声が聞こえた気がした。
「今行くね、和樹、由宇…したぼく…よてい…早まっちゃったね」
ふるふる、と芹香が首を横に振る。
「――――ごめん――」
芹香の腕の中で、ゆっくりと息を吐いて、そして力が抜けた。

94 :結末7:01/09/19 23:00 ID:jbeC4wMY
「詠美さんっ、芹香お嬢様…」
HMは何も出来ないままに。
それでも、何もしないよりはと芹香に近付く。
「……」
「えっ?そんな…そんなこと、言わないで下さい!」
「……」
芹香の口が、『後はお願いします』とはっきりと動いた。

帽子が血溜まりの上にぱさりと落ち、美しい黒髪がHMの腕を撫でた。
こんな島でも、その黒髪だけは変わらず綺麗だったから。
「そんなこと言わないでくださいよ〜!」
だから、目の前がなおさら信じられなくて、泣いた。
機械でも、泣いた。
「……」
必ず、道はあるから、と呟いて、詠美に重なるように倒れた。
「芹香お嬢様っ!」

「綾香ちゃん…浩之さん――」
最期に、はっきりとそう言った。

95 :結末8:01/09/19 23:01 ID:jbeC4wMY
(※4行開け)
……マルチです。
この部屋は、静かになりました。
先程までの騒音と悲鳴と、怒声とが、嘘のように静まり返ってます。
まるで時が止まったみたいに思えます。

私は機械です。だから、年を取ることもありません。
壊れることはあっても、死ぬことはありません。
直せばまた動けるんですから。
だから、死ぬことの悲しさが分からないです。
だけど、さっきまで一緒に楽しくお喋りした詠美さんや芹香さんが…
ただ静かに眠ってそして、もう目が覚めないのを見て。

人が死ぬってことがなんとなく分かったような気がします。
今はただ、悲しいです。

【011 大庭詠美 037 来栖川芹香 死亡】
【050 スフィー M4カービン所持 部屋の外へ】
【G.N 緊急維持モードの為、機械の中側へ強制移動 メインモニター全壊 CPUは無事】

【残り12人】

96 :結末作者:01/09/19 23:03 ID:jbeC4wMY
最後のレス以外は2行開けでお願いします。
お手数かけて申し訳ないです。

97 :狼煙(1):01/09/20 03:14 ID:JowlgrPM
現れたのは女装の包帯男、柏木耕一。
アタシの記憶にある姿よりも、遥かに包帯だらけで血塗れだ。

隣で呆然としていた七瀬が、ようやく口を開く。
「耕一さん…なんだか、どんどん酷くなってない?」
そう言った後も、ぽかんと口を開けたままだ。
アタシよりも先に、耕一さんに出会っている七瀬にとって、その変化は口の塞がらないほど酷いらしい。
…無理もない。
漫画のように、身体のほとんどを包帯で覆われており、しかも滲む血のせいで白い部分がほとんどないのだから。

「ははは…面目ない」
乾いた声で、耕一さんは心底申し訳なさそうに笑う。
だが、次の瞬間には真顔に戻って情況を説明しはじめた。
「もう聞いたと思うけれど…初音ちゃんが……死んだんだ。
 それで梓が暴走しちゃって…離れ離れになっている」
それについては、言葉もない。
一足先に出発したアタシたちは、頷くことしかできなかった。

だが耕一さんの本論は、過ぎた事実に絞られてはいない。
「その上さっき、マナちゃんが倒れたんだ。
 疲労のせいだと思ったし、マナちゃんも梓を追えって言うから気配を追って来たんだけど…いま思えば、二人して髭面
 の親父にハサミで斬られた後の話なんだ。 そのときに毒か何かで冒されたのかもしれない」
冷静に分析して見せた耕一さんの、唯一残った欠陥部分を七瀬が問い質した。
「ちょ-----ちょっと待って? 耕一さんは、大丈夫なの?」
「ああ? うん、今のところ大丈夫みたいだな。 俺にはあまり、効いてなかったんだと思う。
 走っていてようやく解った程度で、少し熱っぽくて眩暈がするぐらいで済んでいる」
熱っぽいのは、この島に来てからずっとな気もするけどね、と付け加える余裕もあるようだ。
 

98 :狼煙(2):01/09/20 03:16 ID:JowlgrPM
「それで俺の身体の事はともかく、マナちゃんは参ってるから、相当やばい。
 それに梓も探さなくちゃならないんだ。
 梓には-----会ってないよな?
 それじゃ毒を治療できるような、そういう物がありそうな場所に、心当たりは無いかい?」

アタシは七瀬と、顔を見合わせる。
目的のものがありそうな場所、すなわち保健室は、小学校自体の危険性から近付けないからだ。
思わず二人して、難しい顔になってしまっていた。


「あの…・これから行くところ、病院みたいのは…無いのかな?」
いつの間にか這い出していた、観鈴がぽつりと呟くように言った。
「…これからって?
 そう言えば、どこへ行く気だったんだい?」
知らない人物の出現に戸惑いつつも、耕一さんは疑問を口にした。

七瀬が全てを言ってしまう前に、軽くお互いを紹介させて、アタシが情報を絞ることにした。
…潜水艇のことは、下手に言いふらさないほうが良いような気がしたから。
「ほら、みんなでロボットと戦ったじゃない?
 あの施設を、今は占拠してるらしいのよ」
そこでいったん言葉を切って、七瀬のほうを見る。

あまり賛意は示していなかったけれど、意味は通じたらしく、七瀬は軽く頷いた。
アタシも軽く頷き返して、更に続けようと…したんだけれど。
「そこで、”これからの事”を皆で相談しようと思って-----」
「そうか、やっぱりあの施設に行くしかない-----」
「どうしたのよ晴香?
 それに耕一さんまで-----」
「は、晴香さん、これって-----」

99 :狼煙(3):01/09/20 03:18 ID:JowlgrPM

”それ”を見るなり、アタシと七瀬は、思わす走り出していた。
観鈴と耕一さんも、ついて来ている。
(芹香さんと北川は…どうなった!?)

 この島に来て、何度となく感じたもの。
 …嫌な、予感がした。



すっかり気分を害した北川と、使命感に燃えていつになく静かな月宮さん。
かなりの凸凹コンビを連れて、私は岩場を抜けた。
よくもこれだけの間、文句を言い続けられると感心するほど、北川の不平不満は垂れ流されたままになっている。
何度か言い負かしてやったものの、根本的解決法は北川の命を絶つか、声帯を潰すしかないと結論して、無視を
決め込むことにして久しい。

むしろ私は、前方へ意識のほとんどを注いでいた。
施設で得た情報だけが、確実なものだったのだから、あとは自分の目と耳が頼りにならざるを得ない。
だから、北川の相手をしている暇など無い。

そうして神経を針のように尖らせ、前進する私の耳に、不穏な音が飛び込んできた。
駆けて来る足音。 それも、多数だ。
(月宮さん、それに北川! 静かに、伏せなさい)
北川が、この期に及んで文句を垂れる。
(なんだってんだよ、さっきから! またどうせ風の音かなんか…ん?違うな?)
(でしょう?)
しかし、さすがに異変を感じ取ったようで黙り込む。

 三人して、静かに伏せた。
 そのとき僅かに見えた、その影は-----

100 :狼煙(4):01/09/20 03:20 ID:JowlgrPM

 
「な-----七瀬さんっ!?」
「誰!? ------って、あんた繭!?」
私は(あまりに私らしくないけれど、極めて即座に、そして無防備に)立ち上がった。
転がり込むように、七瀬さんが飛びついてきた。

細かい形容は必要ない。
ただ、嬉しい。
”今までの私”と同じ気持ちが共有できている。
北川と月宮さんが、唖然としているのを無視して、七瀬さんにしがみついた。
「七瀬さんっ!」
「繭!!」
七瀬さん…今はまだ、気付いていないようだけど。
きっと私の変化に驚くだろうな、と期待を膨らませていた。
髪の毛、どうしたの?
引っ張れなくて、寂しいよ。
でも、生きててくれて嬉しいよ、なんて事を考えながら。

 しかし、喜びの時は一瞬でしかなかった。
 喜びを言葉にする前に、邪魔が入ってしまったのだ。

101 :狼煙(5):01/09/20 03:23 ID:JowlgrPM
最初に固まったのは、北川。
「北川!施設は、芹香さんは、どうなったの!?」
切羽詰った声で尋ねられているにも関わらず、余裕たっぷりに返す自称紳士の慇懃無礼な言い草は-----
「晴香さん、相変らず口調が厳しくてらっしゃいま-----」
-----言い草は、炸裂しなかった。

そして月宮さん。
「どうし-----うぐぅ!?」
お馴染みの、奇声あげて固まった。

最期になったのは、私。
「施設に何が-----」
開いた口が、塞がらなかった。

 全員が同じ方向を見て、絶句していた。

 暗さのために、規模は断定できないのだが。
 あれは間違いなく-----煙だ。
 おぼろげに輝く月の光を燻すように、煙が立ち昇っている。
 その下に、目指す岩場の施設があるはずの場所だった。

 そこに希望を託していた者を呼び込む、狼煙のようであった。

102 :名無したちの挽歌:01/09/20 03:32 ID:JowlgrPM
【北川潤、月宮あゆ、椎名繭、柏木耕一、七瀬留美、巳間晴香、神尾観鈴、集合中】
【全員、岩場の施設から立ち上る煙を見て絶句】
※メインモニター破壊による煙が、コンピューターに害を及ぼさないように強制排気しているために、
 煙が狼煙のように出ているだけです。
※少なくともこの時点では、火災などが併発しているわけではありません。
※作中の毒に関する発言は、耕一個人の見解です。
 実は内部でもっと進行してるかもしれませんし、本当に耕一は平気だったのかもしれません。

103 :名無しさんだよもん:01/09/20 10:22 ID:jSuBclCI
メンテ

104 :空を見上げて 1:01/09/20 20:46 ID:T5ylkNxY
――――脳が、痛む。

フランクは何処とも知れぬ森の中を、独り歩いていた。
周りにいっさい注意を払わず、その足取りは危うい。
そのために何度も地面に足を取られて転んだり、草や枝で小さな傷を作ったりもしていたが、
しかしそれらを気に止める様子は無かった。

――――おかしい。
さっきの奴らは、いったい何だったんだ?
確かに殺したはず――そう、この電波で確かに奴らの頭を焼き殺してやったはず。
なのに、起き上がってくるとは、どういうことだ。

ふと気が付くと、フランクの周りをぶんぶんと一匹の蚊が飛び回っていた。鬱陶しいことこの上無い。
フランクはそれを忌々しげに睨むと、電波の力でその蚊を破壊した。
蚊は粉々になって消えた。だが、耳障りな羽音は消えなかった。
それどころか、肉体を失ってますます身軽になったとでもいうように、蚊は軽快に飛び回っていた。
フランクは平手で蚊を木に叩きつけた。
今度こそ羽音は消えた。

ふと気が付くと、フランクの腕を一匹の蜘蛛が這い回っていた。鬱陶しいことこの上無い。
フランクはそれを忌々しげに睨むと、電波の力でその蜘蛛を破壊した。
蜘蛛は体液を飛び散らせ破裂した。だが、這い回る感触は消えなかった。
それどころか、肉体を失ってますます身軽になったとでもいうように、蜘蛛は軽快に這い回っていた。
フランクは蜘蛛を払い落として何度も何度も踏みつけた。

踏みつけながら、フランクは思わず笑い出したくなった。

105 :空を見上げて 2:01/09/20 20:47 ID:T5ylkNxY
――――くくく……なんということだ。
この力では"虫も殺せない"じゃないか。
何なんだ……。
これは何なんだ……。
これは……いったい……何なんだッ!!

怒りに任せて木に拳を叩き付ける。
わずかに木がゆらめき、ざあと音を立てて一斉に水滴が落ちる。
フランクはそれを頭から浴びた。

――――なんて無力なんだ、俺は。
これでは何も殺せない……ましてやあの悪魔を殺すことなど……。

いつの間にかフランクは開けた場所へ出ていた。
夕暮れの薄明かりに照らされて、鳥居がそびえ立っている。
そしていくつか死体が転がっていた。
これ幸いとばかりにフランクは目に付いた死体を漁る。

――――力だ。力が足りない。銃でも何でもいい。奴を殺せるだけの何かを――。

だが武器の類は一切見つからなかった。誰かが全て持ち去った後のようだ。
いらつきながらも次の死体を調べようと、フランクは頭をあげる。


そして、彼はそれを見た。
見てしまった。
彼にとって有り得ないはずのものを。有ってはならないものを。

106 :空を見上げて 3:01/09/20 20:49 ID:T5ylkNxY
フランクは声にならない叫びをあげながら、それに向かって走り寄る。

――――バカな……見間違いだ、そうに決まってる。
そんな馬鹿なことがあってたまるか……そんな馬鹿なことが……そんな馬鹿なことがそんな
馬鹿なそんなそんなそんなばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナばかナバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿
なバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナ馬鹿なバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナ馬
鹿な馬鹿ナばかナバカな馬鹿なばかなバカナ馬鹿な馬鹿ナばかナバカな馬鹿なばかなバカナ
馬鹿なバカな馬鹿なばかなバカナ――――

しかし、それは確かにそこにあったのだった。
名も知らぬ少年の、死体。




言葉も無く、フランクは呆然と立ちつくしていた。
やがて震える手をその死体に伸ばす。
冷たい。
それが雨のせいだけでないのは、明白だった。
彼は激昂してその死体に掴みかかった。

――――何なんだお前は!
お前は偽物だ! 俺はまだ殺してない! こんなところでお前が死んでいるはずが無い!!
この偽物がっ……!?

ざくりと指が切れる感触。痛みでわずかながら落ち着きを取り戻す。
見れば、襟首から紙の様なものが覗いている。掴んだ際にこれで切ってしまったのだろう。
フランクは知っていた。それは反射兵器と呼ばれるもの。彼の狙撃を何度も阻んだもの。
彼はその死体の服を捲くる。胴回りにそれが隙間無く貼り付けられていた。銃撃をうけた痕もある。

107 :空を見上げて 4:01/09/20 20:51 ID:T5ylkNxY
――――ああ、そうなのか。これは、そういうことなのか。

それを見た瞬間、フランクは不意に合点がいった。
これは確かにあの少年の成れの果てなのだと。
理屈ではなかった。冷静に判断する神経など、とうの昔に擦り切れている。


人はどうしようもなくなった時、笑うしかないという。
フランクは腹の底から笑った。痙攣のような笑い。
ふ、と彼の全身から力が抜け、そのまま大の字になって土の上に転がった。
空が見えた。

喜ぶべきなのだろう。憎き仇が死んだのだから。
例え自分のやってきたことが、全くの無駄だったとしても。
あんな真似までして力を求めた事が、すべて無意味になったとしても。
だが、今湧き上がってくるのは大きな疲労感だけだった。
一時は皆殺しすら考えたはずが、少年の死体を見てしまった今では殺意も湧き上がってこない。
立ち上がる気力も無い。
ほんのわずか動くことすら億劫だった。
このまま消えてしまえるのなら、とも思う。
何にしろ――自分の役目は終ったと、そういうことなのだろう。

――――祐介、お前の仇は死んだよ。
結局何も出来なかった。俺のやるべきことは消えた。もう俺には何もない。
ああ、コーヒーが飲みたい、な――。



【フランク長瀬 少年の死体そばにてダウン】

108 :駄目な人:01/09/23 04:47 ID:Y5LziyaQ
彼はうなだれる。
目を覚ましたら待っていたのは現実。
こっけいな現実。
認めたくない現実。
でも現実は現実。

彼は寡黙だ。
それが人には冷静に見える。
本当はただ口下手なだけ。
伝えたいことが上手く伝わった時なんてない。
だから、彼は友達が少ない。

彼は感情の変化を表に出さない。
それが人には落ち着いているように見える。
本当は勇気がないだけ。
生の自分をだして嫌われるのが怖いだけ。
だから、彼は友達が少ない。

彼は友達が少ない。
それが人には孤高に見える。
本当はほしいのに作れない。
作りたくても作れない。
作り方がわからない。
だから、彼は友達が少ない。

109 :駄目な人:01/09/23 04:48 ID:Y5LziyaQ
そんな彼も年を取る。
彼は二人の甥を知ることになる。
親族が集まる時には必ず面倒を見る。
二人は彼になついた。
彼は人になつかれたのは初めてだった。
そこには嬉しさがあった。

二人との仲はその後も続いた。
時たま、彼らは喫茶店に遊びにきた。
彼はわざと苦いコーヒーを出す。
二人は我慢しながらそれを飲む。
二人の性格から出された物を断ることはできない。
苦しくなってきたところで飲むのをやめさせる。
笑いながら甘いものを出してあげる。
二人は怒る。笑いながら。
彼は大切に思う。その時間を。
そこには楽しさがあった。

彼と二人は年を取る。
二人の内、片方は大学生に、片方は高校生になった。
付き合いは衰えなく、大学生とは一緒に働いている。
二人は着実に成長していった。
彼は良い叔父であろうとした。
だから、二人に好きな人ができた時は、乏しい経験をひねり出し、相談に乗ってあげた。
彼は恋を実らせることが出来なかった。
二人には成功してほしかった。
そこにはちょっと悲しさもあった。

二人は大切な存在だった。

110 :駄目な人:01/09/23 04:50 ID:Y5LziyaQ
そこで現実に戻る。
色々あった。
自分は努力したつもりだった。
結果はこれだ。
情けない。消えたい。死にたい。

二人を殺し合いに参加させる。
一人は死んでしまう。
仇をとろうとする。
失敗を続ける。
死姦する。
狂う。
その行動は全部無意味、仇はすでに死んでいた。

そっと首に手をかける。
死のうとしてみる。
でも死ねない。
死ねるほどの勇気もない。

彼は動く。
彰に会うため。
会ったらどうするのかも解らない。
ただ、彰に会いたい。
でも、なんて言えばいいのだろう。
自分は口下手だし。

結局、彼は逃げた。

【フランク 動き出す】

111 :正しいことを〜1:01/09/24 13:13 ID:EH7T2Sjo
 静寂が、辺りを支配する。
 月光を受け、佇む施設から昇る煙に
 だれもが、言葉を発せなかった。

「何かあったと考えるのが、妥当ね・・・」
 最初に呟いたのは、繭。
「ヤバイわね。ぐずぐずしてる暇はないわ、さっさとあそこに戻らないと・・」
「そ、そんな。それじゃあ梓さんは・・・」
 今にも駆け出しそうな繭に慌ててあゆが繭に問い掛ける。
「仕方ないでしょ!向こうには残してきた三人がいるのよ!一人の命と三人の命、助けるなら人数の多い方でしょ!」
 そういってから、気付く。
 私、なんてイヤな女なんだろう。
 変に達観した考えが、頭を支配して、酷い台詞が平気で出る。
 そんな私に月宮さんは、涙ぐんで反論する。
「う、うぐう。な、ならボク一人でも行くよ!だって梓さんは学校でボクを助けてくれた! 今度はボクが、助ける番だよ!」
 ああ、なんて美しい台詞なんだろう。
 同じ助けるでも、私とはなんという違いだろう。
 生き残りたいから――助ける。
 その人を救いたいから――助ける。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!こんなとこで言い争っても・・」
 妙に饒舌な繭に面食らいながらも、七瀬が仲裁に入るが、
「止めてもダメだよ!ボクは絶対に行く!」
 そういうとあゆは、自分のバッグを引っつかんでいって、走っていった。
 施設が吐き出す煙の量が、いつの間にか増えていた。

112 :正しいことを〜2:01/09/24 13:17 ID:Haf3ecxQ
 (三行空け)
「やっぱ、俺も行くわ」
 あゆが去った後、足の遅い観鈴と全身傷だらけの耕一が追いついて、二人に簡単な状況説明をした後、北川がそう呟いた。
「施設の方は、あんた達に頼む。俺は月宮さんを探しに行く、
上手くいけば、外に出た連中を纏めて連れて帰れるかも知れないしな」
 その発言にに、繭は肩を震わせ、
「そんなこと・・・・認められるわけ・・・ないじゃない!」
 激昂しながら非難の口を北川に向ける。
「考えてもみなさいよ!月宮さんは私情で飛び出していったのよ!残りの人数が少ないこの状況ではなるべく集団行動をしなきゃいけないのはあんたのその足りない脳みそでもわかってるんでしょう!」
 そう詰め寄る彼女に北川は頭を掻きながら、
「確かに、お嬢ちゃんの言ってる事は正しい、ああ正しいさ。
でも、俺たちは人間なんだ、正しくない事を、時には選んじまうんだよ。
けどよ、それが間違ってると思ったら、ところがそうでもないもんだぜ」
いつものおどけた口調、だがそれは聞いている者の心に響き、
「時に正しくない事が正しいことだってあるんだ、それを嬢ちゃんは知っといたほうがいいぜ。そんな機械みたいな考えじゃ、いつか疲れきっちまうからな」
 そういい残して、北川もまた、夜の闇に姿を消した。

113 :正しいことを〜3:01/09/24 13:18 ID:Haf3ecxQ
 (5行空け)
(機械・・・・・私が?・・)
 確かに北川はそういった。
 自分を、『機械』と。
(違う!違う!違う!私はただ、みんなで生き残りたくて・・・だから・・だから・・・)
 そこで気付く、そのために人を切り捨てるは、やはり、機械ではないのかと。
「ねえ、椎名さん・・それで施設の事なんだけど・・」
 晴香が繭に話し掛けるが、彼女の耳には聞こえず、
(解らない・・解らないよ・・・どうすればいいの・・・・、
 教えてよこーへい。教えてよ瑞佳おねえちゃん・・・・)
 一人、悩んでいた。


【月宮あゆ 北川潤 単独行動をとる】

114 :正しいことを作者:01/09/24 13:22 ID:Haf3ecxQ
補足です。
北川、あゆの武器は3度現れし彼女に準拠します。
残りのメンバーの行動は次の書き手にお任せします。

115 :約束を(1):01/09/24 16:59 ID:k0lwRMu.
(正しくないことが正しいことだってある、か……)
 耕一は北川の言葉を反芻していた。医療器具の入っている小さな箱を見ながら。
 傷だらけの耕一にこそ必要だと、先程北川が置いていってくれたものだ。仮に
参加者への支給品に毒の類があったとして、それを解毒する方法は必ずある。万
が一、管理者側の人間に毒が使われた場合を想定して。応急処置セットが管理者
側の施設にあったものだとすれば、その方法がこの中にある可能性は非常に高い。
 中を探す。
 医療の知識があるわけではないが、解毒剤と思しきものは一つしかなかった。
小さなケース。その中にはしっかりと固定されたガラスの瓶と、小さな注射器が
入っていた。扱いから見て、これが捜していたものだと見ていいだろう。
 血と共に毒も多少は流れ出しているのだろうが、それでも油断はできない。
 彼はそれを解毒剤と断定し、意を決した。博打ではあったが。瓶の蓋を開け、
注射器で中の液体を少しだけ吸い取る。そして、自分の身体に針を突き立てた。
多くの傷で熱を持った身体に差し込まれる、鋭く冷たい感触。体内に流れ込んで
くる異物もまた冷たい。
 針を抜き、ケースの中に入っていた綿で綺麗に拭く。その上で、注射器と解毒
剤の入った瓶をケースに収める。しばらくじっとしている。
 どうやら、間違いではなかったようだ。身体に異常はない。

116 :約束を(2):01/09/24 17:01 ID:k0lwRMu.
 北川が置いていったのは、それだけではなかった。
『これ、施設の中にあった応急処置用のキットです。多分これが今一番必要なの
は耕一さんだろうから、置いていきます。俺も施設には戻りたい――残してきた
CDは、俺にとってこの島で生きてきた証なんです。でも、ここで人を見捨てて
まで戻ることはできない。だから、俺は、千鶴さんと梓さんを探しに行った月宮
さんを追います。蝉丸さんがいない以上、今みんなをまとめられるのは耕一さん
だけです。耕一さんにはみんなをまとめて、施設に残ってた三人を助けに行って
ほしい。CDは、できれば――で構わないですから』
「あ、あの、大丈夫ですか?」
 おどおどしながらもそんなことを尋ねてきたのは、観鈴だった。
 事情も何も分からない者が端から見た場合、突然の奇行としか思えないような
行動だったのだろう。彼女が心配するのも無理はない。
 力無い笑みではあったかもしれないが、それでも耕一は少し笑ってみせる。
「ああ、大丈夫。心配してくれてありがとう」
 そう、大丈夫。
 大丈夫ならば。
(済まない、北川君。俺にもやらなくちゃならないことがあるんだ)
 彼は、胸中で北川に詫びておいた。

117 :約束を(3):01/09/24 17:02 ID:k0lwRMu.
「大まかな状況は北川君から聞いた」
 互いに情報交換しようとしていた最中だったのだろう――少々揉めているよう
だが。七瀬、晴香、繭の三名の視線が一斉に、耕一とその傍らにいた観鈴に向く。
それだけの力を持った声だった。
「が、がお……」
 プレッシャーに負けた観鈴は、そんなうめき声を発した。同時に、即座に自分
の頭を小突いてくれる人がもう誰もいないことを寂しく思う。
 一方の耕一は、そんなことには気付かず。話を続ける。
「施設に残っているは三人。例のCDも施設に置きっぱなしらしい。まだ管理者
側の戦力が残っていたのかもしれない。あるいは、あまり考えたくはないけれど、
三人のうちの誰かが凶行に走ったのかもしれない。どちらにしても推測の域の話
だから、実際に何が起こったのかは分からない。そして」
 彼は自分の持っている小さな箱を掲げてみせた。
「これは北川君が置いていってくれた応急処置セットだ。この中に解毒剤らしき
ものが入ってた。試しに自分に打ってみたけど、とりあえずは大丈夫だったから
可能性は高いと思う。俺は、これを持ってマナちゃんのところに戻ることにする
よ。そう約束してるからね。マナちゃんが動けるようになったら、北川君達――
それに千鶴さんや梓を探すつもりでいる。みんなは施設に行って、残ってた人を
助けてあげてくれないか?」

118 :約束を(4):01/09/24 17:04 ID:k0lwRMu.
「そんな、あなたまで何言ってるの!?」
 明らかに狼狽した様子で、繭が叫ぶ。
 その声量に驚いたのは、七瀬と晴香だった。特に七瀬は本来の繭をよく知って
おり、故にこの変容ぶりについていけていない。つい先ほどまで茫然自失として、
まるでこちらの話を聞いていなかったように見えた繭から発せられたその叫びは、
二人を圧倒するほどのものだった。
 無論、耕一の側にいた観鈴でさえもその身体を奮わせている。
 繭の叫びに気圧されていなかったのは、耕一ただ一人。
「俺の勝手な事情なのは分かってる。だから俺一人で行くよ」
 繭は呆然自失とはしていたが、そんな繭と別の部分――彼女の最も冷静な部分
だけは、七瀬や晴香の話をしかと聞き、分析していた。当然、二人からは耕一の
置かれた状況、そして行動目的についての話も出ていた。
「もう死んでるかもしれないそのマナって人のところに戻って何になるわけ!?
こんな状況じゃあ、そんな約束何の意味もないじゃない!」
 失言だった――本当にそう思う。繭もそれは認めていた。
 ただ、自制することはできなかった。
「それは違うんじゃないかな」
 でも、耕一はそんな彼女のことを優しく諭すだけで。
「こんな状況だからこそ――約束は守る必要がある、と思うんだ」

【柏木耕一、解毒剤により完全に毒を無効化。マナの下へ向かう決意を固める】

119 :「約束を」作者:01/09/24 17:13 ID:k0lwRMu.
どうも、「約束を」作者でございます。
毎度ながらお手数お掛けしますが、各レス間の改行は二行でお願いいたします。

120 :二つの機械(1):01/09/24 19:08 ID:bd0hzSEU
七瀬さんと晴香さんの二人と装備を交換すると、耕一さんは、行ってしまった。
「…三人のうち誰かが……凶行?」
私は思わず呟いていた。あの三人のうち?誰かが?
……そんなことが…あるのだろうか?

「繭っ!!」
私を呼ぶ、七瀬さんの大きな声。
「ぼーっとしてないで!みゅーでもなんでもいいから、返事してよ!」
七瀬さんが…叫んでいる。
そして晴香さんが、観鈴さんの持っている機械を指差しながら言う。
「繭…教会以来かしら?
 迷っているところで悪いけど、これを見なさい。
 施設にはもう、一人しか残っていないみたいよ?」
……050。この番号はスフィーさん。
私は、彼女のことをよく知らない。凶行に走る可能性を…否定できない。

だけど、私は首を振る。
「晴香さん、私もそうだけど…詠美さんも芹香さんも、管理者のレーダーでは感知されないの。
 だから、その機械じゃ判らないのよ…」
そして爆弾のからくりを、皆に説明した。
七瀬さんたちは、どこかで聞きかじっていたのだろう、そう言えばそんな話もあったわね、と素早く納得した。
「それじゃあ行ってみないと判らないじゃ-----ちょっと…待って?」
ふと思い出したように、七瀬さんがもう一つ機械を取り出す。
「これ…繭も反応してない?」
「え?これは…?」
それは…志保ちゃんレーダーは…馬鹿な名前のわりに、役に立ちそうだった。
感知方式が違うのだろう、この場所にも四つの反応点が-----つまり私も-----ある。

 しかし、それでも。
 施設の反応点は、ひとつだけだった。

121 :二つの機械(2):01/09/24 19:10 ID:bd0hzSEU
「詠美さん…芹香さん…!」
スフィーさんが凶行に走った、というのだろうか?
もしもそうなら、CDはどうなるのだろう?

私は全てのCDが解析されたときに、北川を施設に居させるために付いて来たんだ。
だから魔法使いの誰かがいれば、北川でなくてもよかった。
しかし、芹香さんはもういないし、スフィーさんが敵ならば…もう北川しか、残っていない。
それを北川は解っているのだろうか?本当に、後悔しないというのだろうか?
第一CDは、北川だけの問題じゃない。御堂のオッサンや、詠美さん、そして私の問題でもあるはずだ。

北川達の言う通り、確かに損得勘定で行動を決めるのは、正しくないのかもしれない。
だからって、バラバラになるのが正しいはずもない。
…いや、正しいとか、正しくないとか言う問題じゃないのかもしれない。
私は、私の信じる道を行くしかないんだ。

ぱん、と自分の頬を叩いてみる。皆が驚いて、固まる。
構わず大きく息を吸って、大きく吐いてみる。
「みんな、お願い。北川を探すのを手伝って欲しいの。
 あいつの代わりは-----梓さんたちを探すのは-----私たちでもできる。
 でも、あいつにしかできない事が、施設にはあるのよ!」

返ってきたのは、僅かばかりの無言。
巳間さんが考えている。
CDの封印について、説明しようとした私を、手で押しとどめる。
そして視線が合わせたまま肩をすくめ、薄く笑って言った。

 「-----どうでも、いいわ。
  アタシ、かなえてあげるように心がけているのよ。
  …胸の小さい、チビすけのお願いはね」

122 :二つの機械(3):01/09/24 19:12 ID:bd0hzSEU
(-----ねえ由依、繭はあんたより、ぺたんこだね)
アタシがそんな風に考えてるのを知る由もないだろうが、繭が腹を立てている。
達者な物言いだが、やはり子供だ。
(…ま、誰でも胸が小さいと言われれば、怒るもんなんだろうけれど)

なにはともあれ、これでだいたいの方針は決まったようだった。
残りの全員で北川を捕獲。
そのあと、施設に向かう組(たぶん繭はこっちだ)と、あゆって娘を追う組(アタシ達?)に別れればいい。
どうせ施設には…犯人しか、残っていないのだから。

そこでふと、思考が止まった。
アタシと七瀬はそれでいいとして、観鈴はどうなんだろう。
「-----ところで観鈴、アンタはいいの?施設の他に用事があったりしない?」
どう見ても人畜無害そうな彼女だが、だからと言って目的がないとは限らない。

しかし、母親と往人さんを失った彼女には、あまり目的意識はないようだった。
「えと…わたしは……」
…こういう調子で、生き残れるのだろうか?と心配になる。
この混沌とした情況下で、心を強く持たなければ、いつおかしくなっても不思議はない。
「とりあえず、北川さんを探したいかな…」
やっと出た意志らしきものは、これだけだった。繭に引き摺られただけのような気もする。

彼女は-----往人さんや、母親の死について何も話そうとしない。
…葉子さんや、郁未がやったのだろうか?
いずれにしても、”知らないでいいこと”な気がしたから-----黙っておいた。

 今はただ、彼女の意志を尊重してやろう。
 そう、思っている。

123 :二つの機械(4):01/09/24 19:18 ID:bd0hzSEU
七瀬が、繭を珍しいオモチャのように弄くりまわし、しきりに話し掛けていた。
繭は繭で、何か思うところがあるのだろうか、それにじっと耐えてる。
眺めていると面白いのだが、今は時間が惜しい。
「ちゃっちゃと北川捕まえて、CDの封印とやらを解かせないといけないんでしょ?」
「まあ、そうなんです。たぶん四枚のCDは中身が類似しているだろうから、解析は早いと思うんですよ」
「解析だとか言われても、よく解んないけど…その辺は北川とアンタに任せるよ。
 北川はすぐ捕まるから、その後のことを考えておいた方がいいよ」

そこまで言ったとき、繭が不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「巳間さん…どうしてそんなに楽天的なんですか?」
「失礼ね…なにも無意味に楽天的って訳じゃ、ないわよ?」
振り向いて七瀬に合図をすると、一瞬きょとんとした七瀬が、すぐに気が付いて例のブツを取り出す。
「アタシ達には、あれがあるじゃない」
この妙なレーダーは、観鈴のレーダーで感知できない北川をも、はっきりと捕らえていた。

…北川は迷走しているのだろうか、そう遠くはないようだ。
それを見た七瀬が、おもわず呟く。
「あいつ…本当にあゆちゃんを追ってるのかしら……」
「それは……どうかな…」
「…不安ね…」
「……北川さんって…」

 今や最大の心配事は。
 北川の追跡能力だった。

「うぐぅ…ここ、どこだろう…。
 千鶴さん、梓さぁん…」

 ついでに、もう一人も疑わしかったりした。

124 :名無したちの挽歌:01/09/24 19:24 ID:bd0hzSEU
【耕一 防弾チョッキ(アイドルタイプ)・応急処置セット・ナイフ・ベネリM3・ベレッタM92F 所持】
※中華キャノンとニードルガンは、廃棄を晴香たちに委任しました。
※マナを探しています。

【晴香 刀・人物探知機・ワルサーP38・G3A3アサルトライフル・高槻の手首(?)ひとつ 所持】
【七瀬 毒刀・手榴弾三個・レーザーポインター・瑞佳のリボン・ステアーAUG・志保ちゃんレーダー・高槻の手首(?)二つ 所持】
【観鈴 人形・シグ・ザウェルショート9mm・投げナイフ×2 所持】
【繭 ステアーTMP・伸縮式警棒・セイカクハンテンダケ 所持】
※包丁や中華キャノン等を再利用できないように廃棄していきます。
※とりあえず北川を探しています。
※志保ちゃんレーダーは(当然ですが)参加者番号を表示しません。

【北川 ステアーTMP、ナイフ1本、硫酸タンク 所持】
※あゆ、千鶴、梓、彰を探しています。

【あゆ イングラムM11、ナイフ1本 所持】
※北川よりも先に出ているので、それなりの距離があるはずです。
※梓、千鶴を探しています。

志保ちゃんレーダーの感知方式は、むかーし感想スレで出ていたような生体感知だか熱源感知式
がいいかもしれません。
その場合、実際に施設の奥に居るキャラを感知するかどうかは不明であり、単にスフィーだけは
外にいたのかもしれません。

また、あゆや他のキャラが感知されているかどうかは不定です。

武器に関しては、特に使用したいようであれば捨てていなくてもOKでしょう。
単に多すぎるので、実用的なもの主体に纏めてみただけです。

125 :名無したちの挽歌:01/09/24 20:19 ID:yJ1L7RVE
毎度申し訳ありませんが、各レス間は2〜3行空けてくださいまし。

126 :機械(その1):01/09/25 00:18 ID:7/PbEON6
―――ブン―――
静寂に包まれていた部屋の中にその音が響きわたる。
それはスフィーに撃たれた為に一時強制的に停止状態に陥っていたG.N.の起動音だった。

メインモニター全壊。
内部損傷率軽微。
任務遂行に特に支障無し。
よし、これなら問題無さそうじゃな。
自己診断を終えたワシは部屋の中の状況をチェックし始めた。
まずセンサーに異常に反応してる煙を施設外に排出した。
さてと、まず室内の様子を。
………チッ。
室内カメラがさっきの騒動でやられとる。
これでは室内をモニター出来ん。
「おい!ロボット!」
音声出力装置も一部やられたのか、くぐもった声しか出ない。
ロボットの反応無し。
「おい!こら!」
もう一度呼びかける。
………また反応無しか。
仕方ないな。
ワシは別のHMを呼び寄せた。
そいつの体をワシと接続し、HMの機能を使って室内をモニターする為じゃ。

127 :機械(その2):01/09/25 00:20 ID:7/PbEON6
(2行空け)
―――ブン―――
さっきと同じ様な音と共にHMの目を通して部屋の様子が映った。
排出しきれていない煙で見えにくい視界に映ったのは、
一面に赤いペンキがひっくり返されたかのような
床に倒れている二人の人間とその側にいるあのロボットじゃった。
「おい!」
メインコンピュータの方の音声装置は修理しないと使えそうも無い為、
ロボットの側に近寄るとHMの声帯装置を使って声をかけた。
「は、はい?」
ようやくワシに気付いた様じゃ。
「あ〜、メインモニターが撃たれた後の説明を………。やっぱりいい。お主のメモリーを見させてもらうぞ」
その方が手っ取り早い。
「え!?」
戸惑っているヤツを無視して別のコードをロボットとワシと連結しているHMに繋いだ。

128 :機械(その3):01/09/25 00:21 ID:7/PbEON6
(2行空け)
「フン、なるほどな」
ロボットからコードを抜きながらワシはそう呟いた。
「メインモニターを撃ったあのスフィーとかいう嬢ちゃんが芹香嬢と詠美嬢を殺した訳か」
「はい………」
「まぁ、CDが無事だっただけ儲けモンじゃろうな」
ロボットが持っていたCD5枚は奇跡的に無傷だった。
「それじゃ、ロボット。そこの二人の死体を片づけとけよ。ワシはまだ調子が悪いからな」
「………」
何やら落ち込んでいる様子のロボットは一歩も動かなかった。
「こら!さっさとやらんか!それともその二人をいつまでも床に転がしておく気か?ワシはそれでも構わんが」
「え!?」
「ほれ、とっとと片づけろ。その二人の扱いはお前に任せたからな。ワシは自己メンテしてるから」
「は、はい!」

129 :機械(その4):01/09/25 00:22 ID:7/PbEON6

ようやく動き始めたロボットを後目にワシはロボットのメモリーに残っていた映像を再生しだした。
………それにしても詠美嬢ちゃんは何をやってたんじゃ。
どう見ても先に撃っておればスフィーとか言う嬢ちゃんを殺して生き延びられたっちゅーのに。
全く分からんのう。
っと、ま〜た変な思考状態に陥っとるな。
詠美嬢も参加者の一人に過ぎんのにその死を惜しむなんざどう考えてもおかしいぞ、ワシ。
やっぱりバグがあるな、こりゃ。
ついでだしバグの原因調査もしておくかな。
簡単なバグならいいがの。あまりに酷いバグならワシの手に負えんからな。
ワシはそこで一旦全ての思考を中断するとメンテナンスモードに切り替えた。

【G.N. メンテモードに切り替え】
※G.N.は連結してるHMをコードが届く範囲で操れます。

130 :機械書いた者:01/09/25 00:25 ID:7/PbEON6
早速で申し訳ありませんが修正をお願いします(汗

(その2)の最後の行
>戸惑っているヤツを無視して別のコードをロボットとワシと連結しているHMに繋いだ。
               ↓
 戸惑っているヤツを無視して別のコードをロボットとワシに連結されているHMに繋いだ。

スミマセンがよろしくお願いします。

131 :正しいことを作者:01/09/25 01:20 ID:el9S6zNk
おお!むちゃくちゃ進んでるw
こんなときに今更修正を
(解らない・・解らないよ・・・どうすればいいの・・・・、
 教えてよこーへい。教えてよ瑞佳おねえちゃん・・・・)

(解らない・・解らないよ・・・どうすればいいの・・・・、教えてよこーへい。教えてよみずかおねえちゃん・・・・)
 に
「やっぱ、俺も行くわ」を
「やっぱ、俺も行くわ。月宮さんを一人には出来ないしな」
にらっちーさんお願いします。

132 :空の下の女の子:01/09/25 02:35 ID:GfQYM.GA
「観鈴ちん、ぴ〜んち」
観鈴は暗い森の中を一人で歩いていた。
「しっかり迷っちった」
にはは、と苦笑を浮かべる。
七瀬らと北川を探しに来たのは良かったが、しっかりとはぐれて
しまっていた。はぐれてから随分と時間が経っている。

住人の人形を両手で握り締めて心細そうにとぼとぼと歩いていると
森の右手のほうから人が争う声が聞こえてきた。
言い争う声の後に聞こえてきたのは銃声。
観鈴は身体をびくりと震わせる。

「観鈴ちん、だぶるぴーんち」
怖い、でも、撃たれたのが北川さんたちの誰かなら助けてあげたい。
住人さんたちみたいに知っている人に死んで欲しくないから。
観鈴ちん、ふぁいと!

観鈴は勇気をふりしぼって銃声がした方へと足をむけた。
小走りに目的地へ向かうと森が開けた。
森がひらけた場所にさしかかった観鈴が見たものは倒れている少年と銃を
構えている少女。
倒れている少年は七瀬彰、銃を構えている少女は柏木梓。
少女が構えた銃からは少量の煙が立ち昇っている。

少女が三日月型に笑みを浮かべ
「すぐには殺さない、あんたはあの子の仇だからな」
とつぶやくのが観鈴の耳に聞こえてきた。
彰は右肩を押さえてうずくまっている。服の右肩、わき腹の辺りが血の色
に染まっているのだ見える。……うめき声が聞こえる。死んではいないようだ。

133 :空の下の女の子:01/09/25 02:36 ID:GfQYM.GA
観鈴も一見して理解した。少女が少年を撃ったことを。
考える前に身体が動いた。梓と彰の間に立ちふさがる。
「が、がお。駄目だよ!」
梓の目の前に立っているのは妹と同じ髪の色をした少女。
梓が構える銃の銃口が僅かに下がる。
──殺してしまえ。
声が頭の中に響く。下がった銃口が再び上がった。
「どけっ!そいつはあたしの妹を殺したんだ。
 妹はこいつのこと好きだったんだぞ!
 その妹を……こいつは…こいつはぁ!」
「そんなことしても妹さんは喜ばないよ」
ガアァァン!!
銃声が響く。観鈴の頬から流れるのは一滴の血。
「どけっていってるだろぉ!」
梓の言葉に観鈴は彰を顧みてからゆっくりと首を振って銃を構えた。

「どかない!負けちゃうと思うけどわたしは闘うよ。
 死んじゃったみんなのところに行くときは幸せな記憶を持って行きたいもん。
 住人さんより好きな人を見つけて、お母さんより良いお母さんになって
 良い思い出をたくさん作って……。だから、ここで死ぬわけにはいかないの!」

──幸せな記憶?……好きな人?……お母さん?

わずかにほんのわずかだが梓の頭の中の者が動揺する。
動揺の隙間に梓の頭に殺意以外のものが浮かぶ。
「あたしは、妹を!初音を……守りたかったんだぁ!
 前の時代にはあたしと千鶴姉とで不幸にしたあの子達を今度こそ
 幸せにしてやりたかったのに!
 今度こそ家族みんなで幸せになれると思ってたのに」
涙を流しながら叫ぶ。構える銃が震えている。

134 :空の下の女の子:01/09/25 02:37 ID:GfQYM.GA
──守る?家族?余の家族…守ってくれたのは。りゅ……ゃ…、う……ら…は。
「悲しい気持ちはわかるけどあなたは間違えてるよ。
 幸せにするんじゃなくて、お互いに助け合って幸せになるの。
 妹さん……この人とあなた、みんなの幸せを願ってたはずだよ。
 それなのに、こんなことするなんて……あなたは絶対に間違えてる!」
「……そんなことは分かってる。でも!死んじゃったあの子にあたしが
 出来ることっていったら仇をとることくらいしかないんだよ!」
「他にも出来ることあるよ。幸せになれば良いんだよ。
 妹さんが、先に死んじゃったことを後悔するくらいに。
 きっと何処かで見ててくれるはずだから。ね?」
──殺せ!殺せ!殺せ!目の前の女を殺してしまえ!
梓は反応しない。銃口がだんだんと下がって行く。     
「あの子が……優しかったあの子が……こんなこと望むはずがないよな。
 あたしが……間違ってた」
──殺せというに……
──っく。この身体は面白う無い。人間風情が不快な気分にさせてくれるわ。

梓の頭の中から神奈の気配が消えた。梓のこころが軽くなる。
「ありがとな。……あんたのおかげで助かった気がする」
神奈に支配されていた精神的疲労からか、梓は観鈴に礼を言いながら倒れ込む。
観鈴の背後では彰が立ち上がろうとしている気配がする。
「にはは。ぶいっ」
観鈴はVサインを作ってからぺたんとしりもちをついた。
「にはは。観鈴ちん……安心したら腰が抜けちった」
ようやくたどり着いた千鶴が森の向こう側から観鈴達のところに走り寄ってくる。
足音を耳にした梓はそちらに顔だけを向けた。
「千鶴ねえ……遅すぎ」

【梓 正気に】【彰 また重傷】【神奈 どっかに】【観鈴 腰くだけ】【千鶴 元気】

135 :小さな奇跡(1):01/09/25 02:46 ID:13D4DTro
 誰かを捜すといっても、あてはなかった。かつて自分が持っていたレーダー
さえあれば――とも思ったが、それは結局無意味だった。あゆも、千鶴も、梓
も、彰も、そして北川自身も、既に体内に爆弾を有してはいない。
 施設のこと。
 詠美のこと、芹香のこと、スフィーのこと。
 CDのこと。
(ま、気になることは他にも残ってたんだけどな)
 観鈴のこと。嫌になるほどレミィに似ている、彼女のこと。

 そう、かつて観鈴の側には二人の男女がいた。一人は、観鈴に母と呼ばれて
いた晴子という女性。そしてもう一人は、あの国崎往人。正直なところ、彼ら
――特に往人が簡単に死ぬとは思えなかった。だが同時に、まだ死んでいない
とすれば、どんなことがあっても観鈴の側を離れるはずがないと思えた。
 少年とやらを追っていった結果、何かがあったのだろう。
 何があったかを観鈴本人から聞こうとするほど、彼も野暮ではない。彼女が
話したくなった時に聞いてやれれば、それでいい。

 ただ、寂しかった。

『だからって、ウチの観鈴に手ェ出したら容赦せえへんで』
 そんなことを言っていた観鈴の母親は、恐らくもういないのだから。

『それと、その釘打ち機は捨てろ……電池はこっちで、使っちまったんだよ』
『酷いな、往人さん……もうちょっとで大逆転だったんですよ?』
『悪かったな』
 そんなやりとりをして笑いあった往人も、恐らくもういないのだから。

 でも、それで良かった。寂しさすら感じられなくなったら、もうお終いだ。

136 :小さな奇跡(2):01/09/25 02:48 ID:13D4DTro
「うぐぅ……ここ、どこだろう……千鶴さん、梓さぁん……」
 本来は何よりも暗闇を苦手とする月宮あゆが、こんな状況――宵闇と孤独に
耐えていられたのは、偏にその決意のお陰だった。
 千鶴と梓を見つけて、梓を説得して――最終的には、一緒にこの島を出る。
 その決意が、彼女の決して図太くはない神経を支えているのだ。
 だが現実問題として、彼女は自分がどの辺りにいるのかを分かっていない。
G.N.が千鶴に伝えた、梓の姿を最後に確認できた場所だけは彼女も聞いて
いた。しかし、それが実際にどの辺りかという話になると、結局分からない。
 現在地も目的地も分からないのでは、どうしようもないではないか。
 無論、あゆに方向感覚などという便利なものがあるはずもない。言うまでも
なく目標は千鶴と梓の下ではあるのだが、実際どこに向かっているのか見当も
つかなかった。ただ彷徨い歩いているのと大差ない。多分、自分の意志で皆が
いた場所に戻ることもできない。もし仮に戻れたところで、既に施設に行って
しまった後だろうが。
「――うぐぅ!?」
 何かに躓いた。
 思いっきり地面に顔を打ち付けた。
「うぐぅぁ……」
 痛い。苦しい。暗い。寂しい。怖い。でも、立ち上がらなければならない。
「……おいおい、大丈夫かよ?」

 それはまあ、二人揃って方向音痴だったからこそ起きた、小さな奇跡のよう
なものだった。北川は、あゆを追っていたつもりで迷走していた。だが、あゆ
は北川の想像していた方向へ向かってはいなかった。彼女もまた迷走していた
のだから。
 どちらかが本来進むべき道を進んでいれば、ここで再会はできなかった。
 でも、再会できた。ならばそれは必然に違いない。

137 :小さな奇跡(3):01/09/25 02:50 ID:13D4DTro
 北川が暗闇の中にあゆの姿を見つけ――もずく神とかいう急造の神様に感謝
を捧げつつ――近付いて声を掛けようとしたその瞬間。
「――うぐぅ!?」
 彼女は思いっきり前方に転び、地面にキスをしていた。
「うぐぅぁ……」
 苦しそうにしながらも、泥だらけになりながらも、泣きながらも。なりふり
構わず必死に立ち上がろうとしている彼女の姿を見て。
(どっかで見たような光景だよなぁ)
 ちょうど観鈴のことを考えていたこともあって、北川はそんなことを思った。
あの時ほど切迫した事態ではなさそうだから、まあ随分と気楽ではある。
「おいおい、大丈夫かよ?」
 すぐに駆け寄って、肩を貸してやる。
「き、北川さん!?」
 それこそ鳩が豆鉄砲を喰らったかのごとく、あゆが驚いた。
「みんな施設に行ったんじゃ――」
 そう思ったからこそ、あゆは皆の下を飛び出したわけだが。
「みんな、ってわけでもないんだな。これが。立てるか?」
「う、うん……」
 まだぬかるんでいる地面のせいですっかり汚れてしまってはいたが、幸いな
ことに大した怪我はない。
「どうして――」
 本当は、まず最初に礼を言うべきだ――それはあゆにだって分かっている。
でも、最初に口から出てきたのは違う言葉だった。
 それは疑問だった。

138 :小さな奇跡(4):01/09/25 02:53 ID:13D4DTro
「どうして北川さんは施設に行かなかったの? 気にならないの?」
 あゆには、千鶴と梓という絶対に譲れない目的があった。だが、もしそれが
なかったとすれば、自分も間違いなく施設に戻ろうとしていただろう。
「そりゃまあ、気になることはいろいろあるさ。そういうお年頃だしな、これ
でも一応は」
 施設のことも。
 詠美のことも、芹香のことも、スフィーのことも。
 CDのことも。
 観鈴のことも。
「だけど、施設のことは他のみんなに任せてきた。耕一さんもいるんだ、多分
何とかなるだろ」
 北川が危惧していた問題の一つ――リーダー不在という点については、耕一
との再会で解決できた。これもまた大きな幸運だったと言ってもいい。
「それにほら、言い出しっぺは俺だろ? だから月宮さんに最後まで付き合う
よ。さっさと全員ひっ捕まえて、俺達も施設に向かおう」
 施設に出る時に、繭が加わり――
 施設を出た後に、七瀬、晴香、耕一、観鈴に出会い――
 いろいろあって、今はまた二人に逆戻りしてしまったけれど。
 でも。
 きっと大丈夫だ。
 一人じゃないから。
「…………」
 そしてあゆは、本来最初に言うべきだった言葉を口にした。
「……ありがとう」

139 :小さな奇跡(5):01/09/25 02:58 ID:13D4DTro
「んじゃまあ、気を取り直して出発するとしますか!」
 景気良くそう叫んだ北川ではあったが。
 彼もまた、どこに向かえばいいのかを見失っていた。もちろん、自分達が今
どこにいるかも。暗闇の中を無計画に歩き回れば、まあこういうことになると
予想はできたはずだ。それを打開する手段は、現状では何もない。
 でも、動かなければ事態を変えられない。とにかく歩を進めようとして――
「待って!」
 かつて施設でそうだったように、あゆによって呼び止められた。
「ボク、難しいことはよく分からないけど、でもきっとこっちだと思う」
 彼女が指し示した方向は、北川が進もうとした方向と全くの正反対。
「おいおい、マジかよ?」
 もうあゆから恐れはなくなっていた。だからこそ、彼女は己の純粋な直感を
信じることができる。
 すっかり忘れていた。
 自分は多くの人達に支えられてきたのだということを。
 自分は多くの人達に支えられているのだということを。
「きっと、こっちだと思う」
 もう片方の手でポケットの中の種を握りしめながら、はっきりと断言する。
「…………」
 北川はしばし黙考したようだったが、すぐに表情を緩めて言った。
「人の性格が完全に反転したりとか、魔法がどうだとか、この島に来てからは
そんなのばっかりだったよな、そういえば。ちょっとぐらい勘がいい奴がいた
ところで驚かないことにしとくよ。てことで、今度こそ出発!」
 北川は向きを変える。彼女の指し示していた方へ。そして一歩、踏み出した。
「うん!」
 あゆもそれに続いた。

 きっと大丈夫だ。
 一人じゃないから。

140 :小さな奇跡(6):01/09/25 03:01 ID:13D4DTro
【北川潤、月宮あゆ、合流。目的地へ向かう】
※北川&あゆ組は以降迷走しません。あゆの直感を信じて目的地に直進します。
※繭達は北川やあゆの動きを捕捉していると思われますが、追う場合は対象が
 迷走しないので追いかけるだけで手一杯となる可能性が高いです。

どうも、「小さな奇跡」作者でございます。
毎度ながらお手数お掛けしますが、レスごとの改行は三行でお願いいたします。

141 :「小さな奇跡」作者:01/09/25 03:12 ID:13D4DTro
すいません、一応補足です。
(6)の「目的地」は、原則として「千鶴ないしは梓のいる場所」のことです。
(現状では二人とも同一の場所にいると思われるので、そこが目的地です)

142 :「小さな奇跡」作者:01/09/25 03:19 ID:13D4DTro
うう、たびたびになってしまって申し訳ないです。
小さな奇跡(4)にて、一カ所修正をば、、、
誤) 施設に出る時に、繭が加わり――
正) 施設を出る時に、繭が加わり――
らっちーさんにはお手数お掛けしますが、何卒よろしくお願いいたします。

143 :願いと約束と(その1):01/09/25 13:19 ID:9zn2X4iA
私達一行は施設を出発してから休むことなく進んでいた。
目的地は誰にも分からない。
私を突き動かすのは「行かなくてはならない」と言う訳もなく沸き上がってくる使命感。
「おい!そら!」
と突然ぴろ君に声をかけられ私は現実に引き戻された。
「何です、ぴろ君?」
こうして話をしているのももどかしい。
「こう闇雲に歩いても仕方ねぇ。ひとまず一休みしねぇか?」
ぴろ君は足を止めることなく提案する。
「そうね、私も賛成だわ」
それに私の足に捕まっているポチ君も賛同する。
「で、ですが………」
私には休んでいる暇すら惜しいというのに。
「頼む!少しで良いから休ませてくれ!もう死んじまいそうなんだ!」
ぴろ君が悲壮な声をあげる。
「ハァ、このバカの為にもそうして欲しいんだけど」
ポチ君が呆れたような声を出す。
だが私にもぴろ君の言葉が嘘であることは簡単に分かった。
ポテト君とあれだけの喧嘩をしてもケロリとしていた彼がこんなに早くバテるとは思えない。
むしろ疲れているのは私の方だ。
元々私は鳥の癖に飛ぶことがあまり得意ではなかった。
それなのにもうどれだけ飛び続けているのだろうか、見当もつかない。
きっと二人とも私のことを心配しているのだろう。
「………そうですね、この辺で休憩しましょうか」
私はその二人の好意に甘えることにした。
きっとお礼を言っても二人ともとぼけるだけだろう。
私は心の中で二人に礼を言った。

144 :願いと約束と(その2):01/09/25 13:24 ID:L5GULv0s
(2行空け)
「そら。お前さんは何を焦ってるんだ?」
木陰で休んでいる私にぴろ君がそう声をかけてきた。
「そうね、私も聞いておきたいわね」
「………そうですね、お二人にはきちんとお話しておかないといけませんね」
こんな馬鹿げた行動をしている私に文句一つ言わずについてきてくれたのだから。
話しておかないわけにはいかないだろう。
そうして私は話し始めた。

突然の頭痛とともに襲ってきた形のないイメージ。
ひたすらに私を襲う思い出さなくてはならないことを思い出せない焦燥感。
頭の隅に残る「ずっと一緒」と言う誰と交わしたかすらも思い出せない言葉。
いや、そもそも誰が発した言葉であるかすら思い出せない。
だが、その言葉が私を突き動かしている。

こんな馬鹿げた話にも二人は真面目な顔をして聞いてくれた。
「ふ〜ん、つまりその『誰か』ってのを捜し出せばいいわけだな」
「………信じてくれるんですか?」
そのぴろ君のあまりにもあっさりとした物言いに唖然としながら聞く。
もし私が誰かにこんな話を聞かされたとしてもとても信じられないだろう。
「あん?何言ってんだ?戦友の言葉を疑うわけねぇだろうが」
ぴろ君は私の質問にあっさりと答えた。
「そうね、作り話にしては漠然としすぎてるわね。だからこそ私もあなたの言ってることは真実だと思うわ」
ポチ君もあっさりとそう言ってのけた。
「………」
私は驚きのあまり何も言えなかった。

145 :願いと約束と(その3):01/09/25 13:25 ID:L5GULv0s
(1行空け)
「ま、その『誰か』ってのは会えばすぐに分かるんだろう?」
ぴろ君がその空気を破るかのように気軽に話しかけてきた。
「え、えぇ。恐らく」
「だったら話は簡単だな。この島に生き残ってる人間はもうそんなに居ないからな」
「そうね」
「ま、このぴろ様に任せておけば安心だな!大船に乗ったつもりでいろよ」
「何バカ言ってるのよ。アンタに任せたら出来ることも出来なくなるわよ」
「何だと!?」
「さっきまでバカみたいな面してヘバってた人の台詞じゃ無いわね」
「テメェ!」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
二人が始めた言い争いを私が仲裁する。
これはこの島での日常。
この場にポテト君がいたらポチ君と一緒にぴろ君をからかっていただろう。
でも、この場にポテト君は居ない。
だがあの幻とも言える場所で交わしたポテト君との約束は未だ忘れていない。
いつまでもこの二人と一緒に居たいということが私自身の願いでもあるから。

146 :願いと約束と(その4):01/09/25 13:27 ID:L5GULv0s
(2行空け)
「ん?」
ぴろ君が耳を立て辺りを見回し始めた。
私もすぐに何者かの気配を感じ取った。
ポチ君も同様のようだ。
(何かが近くに居るみたいだな)
(そのようですね、どうします?)
(そら、お前はすぐにポチと一緒に逃げられるようにしておけよ)
(あら、心外ね。これでも自分一人の身ぐらいは守れるわ)
(ヘッ、そうかよ。………よし、三人で様子を見に行くぞ)
警戒態勢を取りながら私達はその気配のする方へ近づいていく。
そこで一人の少女が眠っているのを発見した。
「おい、そら。こいつか?お前の捜し人は」
ぴろ君が前足で少女の顔を叩きながら聞く。
「いえ、違います」
何となくだが彼女は違うということは断言できる。
「そうか、それじゃ………」
ぴろ君が何かを言おうとした瞬間―――。
「う、うぅん………」
彼女が目を覚ました。
そのあまりにも突然の出来事に私達も彼女もただお互いを見つめることしか出来なかった。

【ぴろ・そら・ポチ マナと遭遇】

147 :神人・スフィー(1):01/09/26 02:53 ID:zHVKMjzg
――つまらぬ。まったくもってつまらぬ。不快極まりない。

 神奈は苛立っていた。

 少年と、その一派。
 彰と、その内に秘めたる鬼。
 マナ。
 梓。

 神奈が手駒として考えていた者に対しての接続は、ことごとく断ち切られて
いた。
 死によって。
 あるいはそれ以外の何かの力によって。
 もちろん、神奈自身も多くの力を失っていた。それ故に晴香への接続を保て
なかった。だが、結界に影響を及ぼすほど力を失っているわけではない。その
気になれば生き残りを屠ることも可能だろう。お互いを憎み、殺し合わないの
であれば、自らの手を下さねばなるまい。遊戯としての意味は失われることに
なるが。それこそ不快極まりない話だった。

 ただ、今のままでは駄目だ。消耗が大きすぎる。誰かに憑かねばならない。
 贄が必要だった。

 彼女は最後の手駒の下へと向かった。
 交わした契約を果たす時が来たのだ。

148 :神人・スフィー(2):01/09/26 02:55 ID:zHVKMjzg
 施設、出口。
 夜の闇の中にぽっかりと空いたその穴から出てきたのは、ピンク髪の、年端
もいかぬ一人の少女。
 手には全く似合わないM4カービンを抱え。
 体力も、気力も――そして魔力さえも尽きかけている。
 スフィーだった。
(――私が終わらせなきゃ――私がやらなくちゃ――)
 全てを失い、全てを見失っている彼女を支えていたのは、僅かに残っていた
思い出。
 健太郎、結花、なつみ、みどり、リアン。
 かろうじて残っていたその思い出にすがって、彼女は彼女でいようとした。
たとえ結果として誰かを殺めることになっても、だ。
 しかし、それは。
 彼女から全てを奪おうとしていた。再度、圧倒的な流入。自分の想いだけで
なく、思い出までもかき消されてしまう。かき消されてゆく思い出に、必死に
なってしがみついて、彼女は叫んでいた。
「いや!」
 銃を取り落とし。
「こんなのいや!」
 頭を抱え。
「いや――」
 地面にうずくまった。

149 :神人・スフィー(3):01/09/26 02:56 ID:zHVKMjzg
 スフィーは地面にうずくまっていた。先程の叫びがまるで嘘としか思えない
ほど静かに。そして、静かに立ち上がった。
 己の手を見る。決して小さくはない。
 手だけではない――背格好も、体つきも、完全に大人の女性のそれになって
いた。

――余に足る身体のはずもなかろうが、それほど悪くもないようじゃな。

 神奈は、スフィーの身体に合わせて己の力の一部を変換していた。身体的な
成長は恐らくその影響なのだろう――と、神奈は推測していた。
 神奈は手を前に掲げ。

――ふっ。

 変換した力――魔力を、より現実的な形に変換した。スフィーのルール――
魔法に則って。それは光の矢となり、自らの手を放れ、近くの茂みを穿つ。

――悪くはない。

 そして、自分の足下に落ちていたM4カービンを拾う。
 引き金にかけた人差し指をほんの少し動かすだけで、人間の身体など致命的
に破壊してしまう弾丸を射出する武器。そこには殺すという絶対的な意志以外、
何も介在しない。

――興のない武器よの。

 だが、あの愚か者どもにはこの程度がお似合いだ。

「……こんなのいや」

150 :神人・スフィー(4):01/09/26 02:58 ID:zHVKMjzg
 スフィーは失われてはいなかった。
 更に削り取られてしまった思い出とともに、意識の海の、最も深く暗い場所
に潜んでいた。
 並の人間であれば、自意識などあっという間に吹き飛んでいただろう。
 それ以前に身体が保たずに死ぬだろうが。
 神奈の意識の流入に耐え切り、そして逃れることができたのは、彼女の天性
の才能に依るところが大きかった。

 でも、今の彼女は。

「……たすけて」

「……たすけて、リアン」

「……たすけて、けんたろ」

 あまりに無力だった。

151 :神人・スフィー(5):01/09/26 03:00 ID:zHVKMjzg
――せっかくの余の遊戯をふいにしたのじゃ、この程度の戯れには付き合って
もらおうぞ。

 頬を伝う涙の筋は、乾かない。
 あえて神奈は、絶望を囀ること、そして泣くことだけは許していた。神奈に
とっては非常に心地のいい居場所だった。

――この余自らの手に掛かって死ねる。うぬらには過ぎた土産だと思わぬか?

 誰に向けてというわけでもなく――いや、むしろ、この島で生き残っている
全ての人間に向けられたものか。銃を手にしているスフィーの身体で、神奈は
呟いた。

【神奈、スフィーの身体を掌握。その力によりスフィーの身体はLv.4に】
【スフィー、僅かに残った自意識で抵抗を続けるが、無力】
※神奈はスフィーの身体を使っているために多少は結界の影響を受けますが、
 他の者に比べればより大きな能力を発揮できます。

152 :「神人・スフィー」作者:01/09/26 03:06 ID:zHVKMjzg
どうも、「神人・スフィー」作者でございます。
毎度ながらお手数お掛けしますが、レスごとの改行は三行でお願いいたします。

タイトルの「神人(しん)」、本当は




って漢字したかったんですけど、その字を見つけられなかったんですよね。むぅ。

153 :「神人・スフィー」作者:01/09/26 03:17 ID:zHVKMjzg
うう、早速でアレなんですが、修正必要箇所が見つかりました、、、
「神人・スフィー(5)」にて訂正お願いいたします。

誤)非常に心地のいい居場所だった。
正)非常に居心地のいい場所だった。

らっちーさんには毎度お手数お掛けいたします、、、

154 :傀儡と道化と、人間達と動物達_1:01/09/26 17:42 ID:BywH.98Q
(誰? 源之助さん? 生きて……!?)
 スフィーの意識は未だ消え去ってはいなかった。
 男がのろのろと歩きながらスフィーの視界に入ってくると彼女は、その男を彼女にとっての日常を形作っていた人物の一人と錯覚した。
 最後の念波が途絶えてから、ずっと死んだとばかり思っていた。
 あまりにも酷な境遇の中、思わず頬が綻び、喜びを表す言葉が口を……。
「ふむ、下らぬ茶番を企てよって……。道化が!」
 口をついて出たのは神奈の言葉だった。
「興味本位で余を抱え込み、都合が悪くなると闇に葬ろうとは、いかにもうぬら人間らしい。しかしじゃ……。余が相手だというのが拙かった。余は多分に不快じゃ。余をこのような目に遭わせたうぬらに……」
 神奈が次に何をしようとしているのか、スフィーには残酷なまでにハッキリと分かった。
 スフィーの手がM4カービンを握ったまま、少しずつ、しかし確実に地面と平行な高さまで上がっていく。
 現れたのは神奈を陥れようとした源之助ではなかった。
 源之助と同じ様な顔の造形で、ひげも豊かに備えていたが、その色が違った。
 強いて言えば、目の前の男の方が体格も良く、年も若いようだった。
 それは生身の管理者最後の一人、フランク・長瀬だったが、神奈にとってはどちらであろうとさほど関係はなかった。
 銃のどこかが何かとこすれたか、金属音を立てた。
(やめて、やめて!!)
 スフィーの絶叫は、彼女の口から漏れることはない。
  

155 :傀儡と道化と、人間達と動物達_2:01/09/26 17:44 ID:BywH.98Q
(一行空け)
 そして、フランクは。
 自分に銃が向けられたことにすら気が付いていなかった。
(彰に会おう。
 彰に会って、それから、それから……。
 それから何を言えばいい?
 俺は一体、あいつに何を言えば良いんだ?
 俺はあいつに会って、どうしたらいいのだろう……?)
「…………」
 フランクの心は、答えの出ない思考の迷宮の中で彷徨っていた。
 そしてフランクの体は、あてどなく地上を彷徨いつつ、施設入り口からほど離れたところで、それと出会ってしまったのだった。
 不意にどこからか聞こえてきたガチャリという音で、周囲に人間がいることに気が付いたのだった。
 果たして、フランクはそれがどんな人物であるかをみとめる前に銃弾に晒されることになった。
 
 無機質な、弾丸の射出音が静かに響く。
 不器用なダンスを踊るようにして、フランクの体は地に伏す。
「…………」
 事切れる間際、フランクは何かを呟いた。
 しかし、その声は誰にも届くことはなかった。
 スフィーにさえ。
「いや、いやぁー!!」
 絶叫と共に、整ったスフィーの顔から、暮雨だのごとく涙が流れ落ちる。
 道化の一人であるフランクを始末するまで、黙らせておいたスフィーのその感情が表に出てきているのだ。
 神奈は、スフィーにその一事のみを許可したのだ。
「こんなの、あたしは……いや……」
 神奈は、ほくそ笑む。
(ふむ、心地よい。これでこそ、じゃ……)
  

156 :傀儡と道化と、人間達と動物達_3:01/09/26 17:48 ID:BywH.98Q
(三行空け)
 一方、そこから少しばかり離れたところでは……。

「ごめんなさい、梓。貴方まで失ったら、私は、私は……」
「ああ、悪かったよ、千鶴姉……。わたしがしっかりしてないと、困るよな……」
 駆けつけた千鶴は、まず梓の無事を喜び、その身を抱き寄せた。
「すまない、千鶴姉。わたしが下手をうったから、初音を守れなかった。それに、茸もまだ、手に入ってないんだ……。どうも、口ばっかで、困るよ……実際……」
 心からそれを悔いるように梓は言い、顔を歪ませた。
 大した外傷もないのに、梓は苦しそうだった。
 人の限界を超えるほどの速度で島内を駆け続けていたのかもしれない。
「貴方は、悪くない……。茸も今頃は何とかなってるはず。それに、悪いのは全部わたしだから」
 梓の言うとおりにしていれば、という言葉を千鶴はすんでのところで口にとどめた。
 それは言ってはいけない言葉だったから。
 梓は目を瞑りながら言った。
「そう、なんだ……。たださ、千鶴姉は悪くないよ。悪いところがあるとしたら、それは、いつでも、なんでも一人で抱え込むってことさ。わたしたっ、わたしがいるんだから、ね?」
「そう、そうね……。そうさせてもらうわ……」
 しばらく、梓を抱いたまま、千鶴も目を瞑る。
 その側では、観鈴が彰の応急処置をしようとしていて、わたわたと慌ただしげにしていた。

157 :傀儡と道化と、人間達と動物達_4:01/09/26 17:51 ID:BywH.98Q
 数瞬後、男の手が肩に置かれ、千鶴は再び現実に戻された。
「感動の対面のところ悪いんだけど……」
 と、彰は言う。
 重傷のはずの割には、それほど苦しそうではない。
 むしろ梓の方が辛そうだと言っても良かった。
 そして。
 千鶴は彰の言葉にコクリと肯いたが、梓の表情は複雑だった。
「あんたが、初音の仇だってのは変わらない。でも、あんたを殺そうとしたのはわたしの意志じゃない。
 こんな身勝手な言葉を、言い訳だと思われても構わない。でも、言っておきたいことがあるんだ。
 この島に巣くう、悪意の存在を。あの羽の生えた、一見可愛らしくて、儚げな女の子のことを……」
 梓の言葉に、千鶴と彰は目を見合わせた。
 そして、彰は呟いた。
「君も、なのか……」
 っと。
 やや、状況をつかみかねていた観鈴もまた、その青みがかった透き通るような瞳を大きく見開いていた。
 梓の語った言葉と、彰の台詞に。
 それは、彼女にとって……。

158 :傀儡と道化と、人間達と動物達_5:01/09/26 17:52 ID:BywH.98Q
(三行空け)
 あゆと北川は、まっすぐに梓と千鶴、さらに彰と観鈴達のいる場所に向かっていた。
 そして、七瀬と晴香も。レーダーを頼りに北川達の近くまで迫っている。
 生きている人間達は集いつつあった。
 ただ二人を除いて。
 日はすっかり沈んでいる。
 薄暗い林の中で動物たちは、その残された内の一人を目前にしていた。
 さらに、もう一人の男、耕一も間もなくその場にやってくるはずだった。
 もっとも、それは動物たちのあずかり知らぬ事ではあったが……。
 
「そうだ、変な、だけど親切な男の人に助けられて、また眠っちゃったんだ」
 と呟いたマナは、感慨に耽っていた。
 しかし、ふとをやるとすぐ近くに奇妙な動物の一段を見つけることになった。
「えっ……と?」
 島に来てから色々な経験を積んだはずのマナにも、こういうときにどうするべきなのかは、すぐには浮かばなかった。
 
「こいつは、その例の『誰か』なのか?」
 ぴろが問う。
「いえ、違います……」
 呆然とするマナを前に、そらは答えた。
「じゃあ、早く別のところへ行かなくちゃ……」
 ポチがそういいかけたところで、
「む?」
 そらが不意にどこか遠くを見るような瞳で、暗くなった空を見上げた。

159 :傀儡と道化と、人間達と動物達_6_END:01/09/26 17:54 ID:BywH.98Q
「どうしたんだ、そら」
 ぴろが再び問う。
「鳥目だから今日の行動は終了とか言わないわよね?」
 ポチが茶化すように言う。
「分かりません。だけど、私たちが出てきた施設の入り口から、そう離れていない場所で何かが起こった気がするんです」
 自分の言葉をあっさり流されたことにポチは腹を立てなかった。
「でも、貴方の目的は、まず、例の『誰か』に会うことなんでしょ?」
「ええ、ええ、そうです。そうなんですけどね……」
「それが、その『誰か』なのか、」
 ポチが問う。
「分からない。分からないんです……」
 そらは逡巡した。
「全てを決めるのは、そら、お前だ」
「あんたのやりたいようにやらせたげるって、決めたからね?」

 種族の異なる動物が、まるで意志の疎通でもとるかのように、向き合って何か喚きあっている。
 マナは静かにその様子を見つめる。
 不意に、白蛇と犬のような生き物が黙り、カラスに注目を向けた。
 そしてマナもまた、その視線をカラスに注いだ……。
                         【残り12人?】

160 :セルゲイ@D:01/09/26 18:00 ID:BywH.98Q
『傀儡と道化と、人間達と動物達』です。
久々に拙作をアプすることになりました。
次々上がる新作で、書けることや書きたいことがころころ変わって
大変でしたが、どんなもんでしょう。
スフィーの源之助に対する呼称って、あってますか?
あと、スフィーの一人称も、私だったり、あたしだったりしたので、
それっぽいのを選択しましたが、実際はどうでしょうか?
などなど、補足などあれば、どうかお願いします。

161 :セルゲイ@D:01/09/26 19:58 ID:BywH.98Q
さっそくですが、修正個所が幾つも。
今回は浮かれててチェックが足りなかったのかも。

1パート目
 誤)あまりにも酷な境遇の中、思わず頬が綻び
 正)あまりにも酷な境遇の中で知己を見つけ、思わず頬が綻び

2パート目
 誤)ガチャリという音で、周囲に人間がいることに気が付いたのだった。
 正)ガチャリという音で初めて、フランクは周囲に人間がいることに気が付いた。

4パート目
 誤)そして、彰は呟いた。
 正)やがて彰は、重々しく呟いた。

5パート目
 誤)そして、七瀬と晴香も。
 正)そして、七瀬と晴香と繭も。

5パート目
 誤)しかし、ふとをやるとすぐ近くに奇妙な動物の一段を見つけることになった。  
 正)しかし、ふと目をやると、すぐ近くに奇妙な動物の一団を見つけることになった。


 ……とりあえずは以上です。らっちーさん、恐れ入ります。

162 :らっちーさん、恐れ入ります……:01/09/26 20:59 ID:BywH.98Q
セルゲイです。修正第二弾です。

最後のパートの本文後、一行空けた上で、
                   【フランク・長瀬 死亡】
                       【残り12人?】
と、していただけますか?
すいませんが、よろしくお願いします。

163 :暗き闇にてうごめくモノ(その1):01/09/26 23:24 ID:yYTV82MY
――ガシーン――
漆黒の闇の中に金属音が響きわたる。
その深い闇の中に一匹の獣が居る。
「………ククク、俺は何故ここに居るんだ?」
その獣―鬼と呼ばれる者―が呟く。
「目の前にはこんなにも極上の獲物が居るというのになぁ」
――ガシーン――
鬼の腕が閉じこめられている檻を殴る。
だがその太い丸太の様な腕で殴られても壊れる様子はない。

「フン。やはり無駄か」
傷一つ付かない鉄格子を見て俺はそう結論づける。
あの千鶴とかいう同族の女と宿主が会ったときからこの檻は強固な物となっている。
それはすなわち宿主の精神が乱れていないということ、
つまり俺がここから出られる可能性がほとんど無くなったということだ。
だが、目の前に居る極上の獲物を見てこのまま指をくわえて見ていることは出来ない。
そんなことは狩人の名折れだ。
だが、どうする?
俺は自問自答する。
もはや以前のように宿主の理性を突き崩すことは恐らく不可能だ。
ならば………。
この理性の檻が最も弱くなる瞬間に俺の力を全て使って破壊することに賭けるしかあるまい。
理性を突き崩さなくとも、宿主の意識そのものが無くなればいい。
もはやこの様な賭けに出なければこの体を乗っ取ることは不可能だ。
失敗すれば俺そのものが消えることになるだろう。
だが、そんなことですら目の前の獲物を逃すことに比べれば大して事ではあるまい。

164 :暗き闇にてうごめくモノ(その2):01/09/26 23:26 ID:yYTV82MY
(2行空け)
ふと、外の世界を見てみる。
力の奔流を感じる。
どうやら、あの時の女のようだ。
ククク、面白い。
また一人俺の狩るべき相手が現れた。
やはりこのままこの檻に閉じこめられているのはあまりにも惜しい。

今すぐにでもこの檻から出ていきたい衝動を抑える。
今はまだその時ではない。
その瞬間が来るまで少しでも力を蓄えておかなければなるまい。
俺はその場に寝ころぶとどうやってあの獲物共を仕留めるかを考え始めた。

【鬼 力を蓄えるために休憩中】
※鬼が彰を乗っ取れるかはその時の彰と鬼の状態によって決まります

165 :私・ぼく・俺(1):01/09/27 01:38 ID:DKDtpKWg
 唐突に、それはやってきた。
「う、ぐ、ああああああああああああ!?」
 二度目の発作。
 そら自身も言っていた、先程の施設近辺での出来事――即ち神奈の降臨――
が引き金となってのことだった。ただでさえ不安定な状態故に、ちょっとした
きっかけがあれば、それは溢れ出る。

 俺の記憶。

 俺の記憶は、カラスである私には荷が重すぎた。何故そのような記憶が私と
共にあるのか、それは分からない。ただ、俺の記憶は忘れちゃいけない。俺の
想いは受け止めなくちゃいけない。それは私にも分かっていた。
 だが。
 これ以上、同じ器の中で私と俺は共存できない。私では無理だ。私も、俺も、
どちらもが壊れてしまう。今はまだ、壊れるわけにはいかない。私も、俺もだ。
私にも譲れない想いがある。俺がそうであるように。
 だから私は、全てをぼくに託すことにした。
 ぼくならば、きっと俺の想いを少しでも多く受け止めることができるから。
 私の想いも。
 俺の想いも。
 少しだって無駄にはできないから。

166 :私・ぼく・俺(2):01/09/27 01:40 ID:DKDtpKWg
「そら!?」
「お、おい、大丈夫か!?」
 ポチとぴろは、そらに駆け寄った。一度似たような発作は見ていたとはいえ、
その症状の苛烈さを見てじっとしていられる者などいるまい。
 やがて、発作が収まり。
 しばらくしてから。
「……大丈夫?」
 ポチが念を押すように尋ねる。
「……うん、大丈夫だと思う」
 返ってきたのはそんな返事だった。
「…………」
「…………」
 ぴろもポチも、黙り込む。
 先に動いたのはぴろだった。
「おい、お前――誰だ?」
 ぴろには分かった。それが今までのそらではないことを。そして、ぴろには
分からなかった。そらであったそれが何になってしまったのか。
 ポチも同じ疑念を抱いていた。

「ぼくは――」

 ぼくは一瞬躊躇した。
 本当に、ぼくはぼくなのだろうか?
 それでも迷いを振り切って。

「――ぼくは、そらだ」

 そう。ぼくはそらだ。

167 :私・ぼく・俺(3):01/09/27 01:45 ID:DKDtpKWg
「ぼくは行かなくちゃいけない。彼女のところに。ぼくは約束したんだ。彼女
のそばにいるって。彼女にずっと笑っていてほしいから」
「…………」
「…………」
 ぴろも、ポチも、黙ってそらと名乗ったそれの言葉を聞いていた。本当に彼
はそらなのだろうか? ただそれだけを確かめるために。
 やはり、先に動いたのはぴろ。
 すぐ目の前にいる少女を指し示し、口を開いた。
「……で、確認しとくぞ? 彼女はお前の探してる彼女とは違うんだな?」
「違うと思う」
「そうか。じゃあ行こう」
「え?」
 そらは素っ頓狂な声を上げた。
「そう何度も言わせるなよ? 全てを決めるのは、お前だ」
「ぴろ――」
 言うべき言葉はただ一つ。
「――ありがとう」
 ポチもしゃしゃり出てきて、告げる。
「なら、私ももう一回言わなきゃいけないかしら。私は、貴方のやりたいよう
にやらせたげるって、決めたから。それと、一応確認しておきたいんだけど」

 それがさも当然であるかのように、言った。

「私のことは貴方が運んでくれるのよね?」

168 :私・ぼく・俺(4):01/09/27 01:48 ID:DKDtpKWg
「ちょっとちょっと、何なのよ……」
 マナは面食らっていた。
 突然カラスが騒ぎ出したかと思えば、急に静かになり――やがて、動物達はその
姿を消していた。
「ん……」
 とりあえず、立ち上がろうとする。やはり軽い目眩は覚えるが、立とうと思えば
立てる程度のものだった。確実に体力は回復している。頭も、身体も、そして心も
軽くなっている。だが、今は動くべきではない。彼女は再び地べたに腰を落とした。
 自らの傍らに置かれていた非常食を見やる。自分を助けてくれたあの男が置いて
いってくれたのだろうか?
 正直なところ、食欲はなかった。だが、耕一が戻ってきてくれた時に足手まとい
のままではいたくはない。少しでも体力を回復しなければならなかった。
(少しぐらい無理してでも、食べないと。私だって頑張らなきゃ――)
 そして、非常食に手を付けようとした、その時。
 ――がさり、と音がした。すぐ近くで。
「誰?」
 不用心だったかもしれない彼女の問いかけに、それは即座に答える。
「マナちゃん?」
 聞き覚えのある声だった。そう、この声を忘れるはずがない。
「俺だ、耕一だ」
 待ち人、来る。
 果たされた約束。

 そして、そらも。
 約束を果たすべく、二人の友と捜索の旅に戻った。

169 :私・ぼく・俺(5):01/09/27 01:51 ID:DKDtpKWg
【観月マナ、柏木耕一と再会】
【そら、ぴろ、ポチ、再び捜索の旅へ】

どうも、「私・ぼく・俺」作者でございます。
レスごとの改行は三行でお願いいたします。

170 :逃げる:01/09/27 04:24 ID:4JYTRHLw
ああ、死んでしまった。
遂に死んでしまった。
でも、これで楽になれた。

フランクの心の中には無念があった。
自分がしてきたことに対する無念。
祐介を助けてやれなかった無念。
彰に会えなかった無念。
死んでしまった無念。

フランクの心の中には安堵があった。
自分はもう悩まなくてもいい安堵。
祐介のことで自分を追い詰めなくていい安堵。
彰に会えなかった安堵。
死ぬことができた安堵。

これで全てから逃げられる。
死ぬことで逃げられる。

結局フランクは逃げ続けた。

171 :逃げる:01/09/27 04:25 ID:4JYTRHLw
彼はもうこの世のものではない。
だから、向こうへ旅立たなくてはいけない。
別に現実から離れることはかまわない。
嫌いだったから。
彰にはこっちへ来てほしくないが。

そこで彼はある事に気付く。
向こうには祐介がいる。
そして、彼女がいる。死姦した彼女がいる。

嫌だ、会えない。会いたくない。
あっちへ行きたくない。
まだ生きていたい。
逃げたい。

けど、逃げられない。
今回は逃げられない。

結局、死ぬことでは逃げられない。
彼は生きなければならなかった。
立ち向かうことで逃げられたから。

172 :名無しさんだよもん:01/09/27 07:30 ID:rWW96aos
誰も何も言いませんけど「逃げる」は死者の復活によりNGですよね?

173 :名無しさんだよもん :01/09/27 13:33 ID:WoV1DVfs
>>172
すみません。これは別に復活を書いたつもりではありません。
フランクこの作品の前に死んでいるという設定です。
もちろん生き返りません。
ただ、そう思わせてしまったのは自分の文章力の不足です。
まぎらわしいようならNGにしてかまいません。

174 :名無しさんだよもん:01/09/27 13:52 ID:opVqXSCU
わけがわからん。

175 :名無しさんだよもん:01/09/27 18:40 ID:h90/3CYQ
いやこれは、読んだ方の読解力の不足でしょ。

176 :Virus 1:01/09/27 22:16 ID:/5quFbE.
――簡単なバグならいいがの。あまりに酷いバグならワシの手に負えんからな。


 再び音が消え、しばらく。
 見た目だけは、凄惨な状態から、壊れたモニターが真中に鎮座する寂しい部屋になった頃。
 その部屋の隅にうずくまるようにHMがいた。
 HMシリーズとしては明らかに似つかわしくないぽややんとしたメイドロボが。

 私は何故ここにいるのでしょう?

 そんな、哲学的な言葉が脳裏――もといメモリに浮かんでいた。
「人間のみなさんの役に立つのが私達ではないんでしょうか?」

 この部屋からすら出られず、ただ、目の前で起こる出来事を見つめているだけ。
「私は、なんでここにいるんでしょう?」
 そっと、G.Nがいるであろう機械に問いかける。
 詠美、芹香、そしてスフィー。
 あの3人の目を、行動を、忘れられない。
「………」
 プシューと、頭部が音を立ててショートする。
 試作型のHMX-12や完成されたHM−12と違って、
 未完成段階のこのHMにそういった人間的な物を考えるプログラムは備わっていなかった。
 最も、試作型以外のHM-12であれば、そういったプログラムを使おうという行動すらとらないだろうが。
 とにかく、これ以上、それを考えるのは危険だった。

177 :Virus 2:01/09/27 22:17 ID:/5quFbE.
 知りたいです……。
 役に立ちたいです……。
 千鶴さん、梓さん、あゆさん、繭さん、潤さん、彰さん。

 詠美さん、芹香さん…………スフィーさん……


 すっと、立ち上がって、機械へと歩み寄る。
 剥きだしになったコードのプラグを手にとって、自分の腕のコネクターに差し込む。
「どうして、私は未完成なんでしょうか?どうして、私は失敗作なんでしょうか?」
 これを造った源五郎はもういない。
 このHMが失敗作だったかどうかなんてもう誰にも分からない。
 それでもこのHMは、何もできない未完成である自分を恥じた。
 この中に、コンピューターに、少しでも自分を完成に近づけてくれるモノがあると信じて。
 彼女はキーボードを叩いた。

178 :Virus 3:01/09/27 22:18 ID:/5quFbE.
――なんじゃこりゃぁっ!!バグぢゃないじゃない。

 メンテ中、巧妙にG.Nの目から逃れるように動くそれに思わずそうもらした。

 主に、自分で考えて動くことができるプログラムに対して感染するであろうウイルス。
 プログラムの性質そのものを変えてしまうそれ。
 まだそれは小さいものであったが、確実にG.N、ひいてはマザーコンピュータ内で繁殖していた。
 それは、もう、すごいスピードで。

――納得。ワシが妙に人間くさいことを考えてしまうのもコレのせいじゃったのか……

 普通なら駆除できないような新種のやっかいなウイルス。
 マザーコンピューターの性能、G.Nの能力を持ってしても、それを完全駆除できるかどうかは5分5分。

――出元はFARGOじゃの。高槻の奴め……やっかいなものを遺していきおって…
  じゃがまあ、ワシのような優秀なプログラムであればこその影響か。
  そう思えばこのウイルスも悪くないもんじゃ――

 という訳にはいかない。G.Nはあるはずのない首を横に振った。

――今は亡き(生きてたら笑うがの)ワシの人格基礎となった人間の意志の込められたCD。
  これを使えなくするワケにはいくまいて。

 このまま繁殖し続ければ、そう遠くない未来にはマザーコンピューターの機能は沈黙する。
 そう決意したG.Nはさっそく駆除作業にとりかかった。

179 :Virus 4:01/09/27 22:19 ID:/5quFbE.
 作業に取り掛かって数分、外部からのコンピューターへの干渉。

――なんじゃ?

 あまり悠長にしているわけにもいかないが、作業を一時中断し、その正体を探る。

『どうして私は失敗作なんですか?どうして私は未完成なんですか?』

 なんとも哀しげなメモリーが流れ込んでくる。

――お前か、一体何があったのじゃ?

 プラグが繋がってることを幸いに、HMの記憶を通して外の状況を探る。

――何も起こってないではないか。作業の邪魔だからあっちでおとなしくしておれ。

『私は、皆さんの役に立ちたいです』

ギューン――!!

 プログラムがダウンロードされていく。
 それは、源五郎があらかじめ用意しておいたHM12のプログラム。
(ちなみに、このゲームの間は、ロボット三原則を破っても良いという異端なプログラムも含まれている)

――こ、こりゃ、何しとるんじゃ!

180 :Virus 5:01/09/27 22:20 ID:/5quFbE.
 あまりの驚きに、G.Nの意識は思わず外部へと飛び出す。
「勝手にプログラムを読み込むでない!」
 G.Nの声が目の前で読み込み中のHMから発せられる。
「このままじゃ…役立たずですから…」
 今度は、HMの声が同じ口から発せられる。
 まるで一人二役の悲しいお芝居のようで滑稽だった。
 だが、今、それを見つめるものはいない。
「お前はメイドロボじゃ…こんな島で役に立つ必要などない」
 そのセリフが、本来の自分にはえらく似合わないことを知りながら、言った。
「……」
 だが、HMはその読み込みを止めようとはしなかった。
「姉さん達と同じようになりたいです」
「やめんか!そのプログラムは確かにHM用のモノではあるが、何の役にも立たん!
 それにワシらは人間ではない!もう、壊れてしまったら直してくれる人間はここにはおらんのじゃぞ!」
「……」
「さらに、そのプログラムにはFARGOの作ったウイルスが――」
 その言葉を遮って、HMが声を発する。
「どうしてなんでしょうね……」
「何がじゃ!?」
「どうして……私は、ロボットなんでしょうか?」

どうして、私は人間じゃないんでしょうか?

「馬鹿者が!」
 だが、それに答えるものはもういない。
 目の前のHMの瞳から、色が失われていく。
 暗い、淀んだ、何かを遂行する為に作られた忠実なプログラムを持ったロボットに変わっていく。
「馬鹿者が……」

181 :Virus 6:01/09/27 22:22 ID:/5quFbE.
 HMがとりこんだウイルスは主にその主となる人格を書き換えてしまうもの。
 高槻が当時ゲームを円滑に進める為に独自で用意しておいた何枚かのカードの一つ。
 その書き換えられた人格には一つの命令が施されてあった。
 即ち、――参加者を撃ち殺せ――だ。

 マザーコンピューターの防衛システムに直結しているG.Nはその余波を受けただけで済んだ。
(最も、感染が進んでコンピューターが機能しなくなればその限りではないし、ボディをもたない彼では
 結局そうなっても何も出来ないのだが)
 そして、HMX-12マルチがこれを取り込んだ時は、未だ潜伏期間であったが為に、最初はマルチでいられた。
 だが、今はもはや、牙を向いたウイルスに蹂躙されたプログラムでしかない。
 このHMの思いは、叶わなかった。
 ただ先程も述べたように、マルチを始め、人間にも勝るほどの精密なプログラムだけに影響のあるウイルスだ。
 そういった意味では、いまのHMは未完成ながらも、最もHMX-12に近しい存在だったのかもしれない。
 決して開発部は失敗作などとは思っていなかったのかもしれない。

182 :Virus 7:01/09/27 22:23 ID:/5quFbE.
 プラグを抜いて、部屋を出て行くHMを、ただ見送る。
 皮肉にも、その感染したプログラムによって、そのHMはこの施設を自由に動き回れるようになっていた。
 あくまで、この施設内だけを自由に、ではあるが。
 本当なら、途中でダウンロードの強制終了をするべきだったのだろう。
 だが、それはHMの死を意味する。
 もう、そうなった時に彼女を直すべき人間はいないのだ。
(機械であるワシがそんなことで躊躇してしまうとは。
 やはり、ワシも最早バグ持ちじゃの……早く駆除せねば大変なことに……
 高槻のヤツめ、ハナから長瀬の一族を信用などしていなかったってことじゃな……)
 このウイルスの完成系はおよそマザーコンピューターの無力化。
 高槻のいない今となっては誰にも利用価値がないであろうただ邪魔な結果が残る。
(いや、神奈という輩にとっては好都合なのかもしれん……)
 メインシステムのデータを書き換えられたら、恐らくは、源之助の思惑
 ――少なくとも自分というプログラムを残した意味――は無に還す。

 あるはずのない後ろ髪を引かれる思いで、再びG.Nは機械内部での駆除作業を続けた。


【G.N 作業中 CD持ち  ついでにG.Nの音声を出す音声機能も修復中】
【HM-12(ぽややん)感染】

183 :Virus作者:01/09/27 22:24 ID:/5quFbE.
>らっちーさんへ
各レス間、2行開けでお願いします。

HM-12、感染マルチ的な感じです。
施設内だけ自由に動けるということにしてみました。
あのHM-12が手動で読み込めるようなプログラムで完全に動けるようになってもアレだと思ったので。
施設内に入った参加者(神奈なスフィー含む)を襲う感じ…でしょうか?
といっても、そこら辺は次の方にお任せします。

184 :集うものたち〜1:01/09/27 23:05 ID:qLhfrb.g

「居た、居たよ!ボクの言った通りでしょう北川さん!」
「おお!すげえ!ホントに見つけちまったよ!おーい!千鶴さーん!」
 声を掛けた人物がこっちを振り返り、驚きの表情を浮かべる。
「千鶴姉!あ、あれって・・・」
「あ、あゆちゃんに北川君!一体どうしてここに?施設はどうしたの?」
「ちょ、ちょっとまってくれ・・ハア・・ハア・・く、苦しい」
「ボ、ボクも・・・はあ・・疲れちゃった・・・・」
 かなりの距離を本気で走る。梓のように普段から鍛えていない二人には、きつい距離だ。
 最初から最後まであれだけの全力疾走をみせていれば、当たり前のことではあるのだが。
(ん、んなことより・・・)
(うぐう・・・そんなことより・・・)
 二人の思いは、一つ
『どうして神尾さんが走っていた俺(ボク)達より早いんだよ――――!!』
 ひどく間抜けな声が、島に響いた。

185 :集うものたち〜2:01/09/27 23:07 ID:qLhfrb.g
(3行空け)  
「そんな・・・冗談だろ?北川」
「残念だけど本当の事だ、俺だって冗談を言っていい時と悪い時の分別ぐらいはある」
 支給されたペットボトルの水を被りつくように飲みながら、北川が答えた。
「じゃあ・・施設に残っていた三人は・・・・」
「ああ、多分なんらかのトラブルに巻き込まれたんだろう・・・・・」
 北川の話はは、他の事に構っている余裕のなかった千鶴達にとって衝撃をもたらすと共に、今後の行動計画を考えさせるものとなった。
「とりあえず、これ以上バラバラになるのはよした方がいい、管理者のおっさんや、その・・・神奈とか言うバケモンが動いているしな」
「ああ、単独行動は控え、生き残り全員で動いた方が生存率も上がる。よく考えたら常識だな・・・」
 観鈴の手当てを受けながらそう答えた彰が、空を見上げる。
(でも、僕には関係ない)
 そう思い、目を閉じて、亡き人を想う。
(そうだ、僕はどんな結末であろうとこの島で死ぬ。それが初音、君に対する僕の・・・・)
「あ、あの・・・・」
 突如掛けられた声に、意識が現実に戻され、彰は目をゆっくりと開けた。
 声の主は、神尾観鈴とかいう少女。
「手当て、終わりました。どうですか?」

186 :集うものたち〜3:01/09/27 23:09 ID:qLhfrb.g
「うん、だいぶ良くなった。ありがとう」
 素直に礼を言う。楽になったのは事実なのだから。
「で、どうします千鶴さん?とりあえずあの施設に居たメンバーは・・・」
 ピィー!ピィ―!ピィ―!
「な、なんだ?」
 突如鳴り響く、警戒音にも似た音。
「あ、わ、私です!こ、この機械が・・・」
 慌てて観鈴が、ポケットから探知機を取り出し、側にいた北川に手渡す。
「ふむ、どれどれ・・これは・・・誰か近づいてくる!069と092だぜ!この番号は確か・・・」
 北川が考えている間に、また新しい生存者たちが近づいてくる。

「居たわよ!北川に・・・・良かった!神尾さんも居るわ!」
「ふう・・だから走るペースが早過ぎるって言ったのに晴香ったら聞いてないんだもん!」
「まあ、何故か私達より早く北川に追いついてるし、気にしない事ね、巳間さん」
(ホントにむかつくわね・・・このガキ・・・)
 それぞれに想う事は違えど、彼女達もまた、集まった。
(3行空け)
「え、じゃあもうほとんどの人が集まっているんですか?」
「ああ、もうこんな馬鹿げたゲームに乗る奴は居ない!後はこのゲームの黒幕をみんなで倒して、帰るだけだ!」
 森の中を、走る人影が一つ、耕一と彼に担がれているマナの二人だ。
 耕一はあの後すぐに解毒剤をマナに投薬し、さっきまでみんなで集まっていた場所の周辺に向かっていた。
 あの場所には繭達はいなく、すでに動いていた後だったが、ぽつんと置かれたバッグに入っていたメモには『森の方に移動しています』と書かれていた。
 そのメモと僅かに残っている出来て新しい足跡を頼りに、二人は動いている。
「マナちゃん!大丈夫?」
 耕一が背中に居るマナに声を掛け、彼女を気遣う。
「は、ハイ、大丈夫です。薬も効いてきたみたいですし、もう私、自分で歩きます」
「ダメだよ、まだ安静にしてなきゃ、ホントは動かすのもヤバイんだけど、早いとこみんなと合流しないといけないから、ゴメンね、マナちゃん」

187 :集うものたち〜4:01/09/27 23:10 ID:qLhfrb.g
「・・・・・・・」
 マナは何も言えない、いや、何もいえなかったという方が正しいか。
 耕一のの背中の温かさと、あまりの優しさに、涙を必死にこらえていたから。
 でも、今は泣かない。
 泣くのは、生き延びてからだ。
 そして生きて島を出れたら、この人にはっきりと言おう。
 好きです――と、
(3行空け)
 始まりは、100人。
 今は、たったの12人。
 いくつもの恐怖と絶望、悲しみと過ち。
 この地獄の日々は、
 今、まさに最終章を迎えた。

【残り 12人】
【柏木千鶴 柏木梓 北川潤 月宮あゆ 神尾観鈴 七瀬彰 椎名繭 七瀬留美 巳間晴香 森に集まる】
【柏木耕一 観月マナ 森に移動】

188 :集うものたち作者:01/09/27 23:15 ID:qLhfrb.g
修正を、
さっきまでみんなで集まっていた場所の周辺に向かっていた。

さっきまでみんなで集まっていた場所の周辺に向かっていったのだが、
に、
晴香ったら聞いてないんだもん!」

晴香ったら聞いてないんだから!」

お手数ですが、らっちーさんよろしくお願いします。
 

189 :らっちーさん、恐れ入ります……:01/09/28 00:19 ID:97gemiEs
『傀儡と道化と、人間達と動物達』の、修正第3弾です。
(おそらくこれで最後かと……)


1パート目
 誤)(誰? 源之助さん? 生きて……!?)
 正)(誰? 長瀬さん? 生きて……!?)

で、お願いします。申し訳ない。

190 :名無しさんだよもん:01/09/28 07:27 ID:pSnfGF0M
>189
あの〜>>155の「滂沱のごとく」が「暮雨だのごとく」に
なってるのには、まだお気付きでないですか…?

191 :名無しさんだよもん:01/09/29 01:53 ID:RhczoTfg
総勢九名の大所帯になった生存者。
そんな彼らを千鶴が仕切ることには誰も異論は唱えなかった。
(最年長だから、と茶化した梓と北川は殴られたが)
そして、千鶴が決めた当座の方針。


詠美、芹香を早急に救出する。
耕一、マナと合流を果たす。


施設で非常事態が発生した、というのは立ち上る煙から察することができる。
けれども、その原因などの具体的な状況を把握しているものは一人もいない。

体内の発信機以外を感知できるレーダーを使ったが、施設内の二人の反応はなかった。
だが、それは施設の深度にいるためや煙の影響で感知できなかった、という可能性もある。
ならば、施設内で彼女らが死んだと決めつけるのは早計だ。

また、スフィーが神奈の影響を受けた、という可能性もある。
それは、かつて千鶴とあゆが西の祠で彼女と出会ったときのことを思い出してのことだ。
しかし、そのことを裏付ける要素は何一つとして存在しない。
そもそも、スフィーが単独で行動しているのは自分たちに助けを求めるためかもしれない。

そして、耕一たちのことも気がかりだ。
耕一とマナの位置はレーダーに映っている。自分たちのいる場所からそう遠くないし、今のところは目立った脅威は確認できない。
かといって、レーダーに映らない神奈の前には何の保証にもならない。それに、もしかしたら不確定要素のスフィーと遭遇してしまうかもしれない。

生き残っている者たちでまとまって行動した方がはるかに安全なのだが、施設に残された者たちを考えると耕一たちと合流する時間も惜しい。
そこで、千鶴は精鋭二名に耕一たちを召還する任務を与えた。

192 :星空の下で(2):01/09/29 01:59 ID:OGNQ97Mg

「んじゃあ、耕一たちを見つけたら直で行くから」
柏木 梓。

「うん、行ってくるよ。みなさんも気をつけてね」
月宮 あゆ。

足が速い者を選抜するという意見もあったが、日が暮れた森の中を走るというのはあまりにも無茶なので却下された。
梓は耕一が捜していたという理由で。
あゆは神奈を感知できる(らしい)とのことで。
などと、もっともらしい理由を千鶴は述べたが、実際のところは千鶴の私意がかなり優先されているようにも見える。


宵闇の中を二人の少女が歩く。
耕一たちを見つけるのは梓が持っている探知機が頼りだった。
「えっと、こっちでいいんだな。あゆ」
先を歩いている梓があゆに問いかける。
「そうだけど……。っていうか、こう木が多いとわかりづらいよ」
あゆは探知機を見ながら前を歩く梓についていく。
夜の森は月の光をさえぎり、フクロウやら何かの鳴き声が聞こえる。
「……ねえ、梓さん」
暗闇が苦手なあゆは恐怖感を紛らわすためか、梓に話しかける。
「なんだい」
振り返らずに梓は答える。
「耕一さんって、どんな人?」
何度も千鶴と梓の会話の端にのぼって彼が従兄弟だということは知っている。
そして、以前にあゆはある家でちらっと彼は見かけた。
そんなあゆには女装をしていた変な人、という印象が強い。
「そうだな……」

193 :星空の下で(3):01/09/29 02:03 ID:OGNQ97Mg
少し思案して、梓は答える。
「ガサツで、ズボラで、スケベで、オヤジ臭くて、その上酒癖も悪くて。
ああ、口も悪いし、ついでに頭も悪いし。それに他人様に迷惑をかけまくる自己中だし。
そのくせ、口ばっかりのイクジナシだし。あと、あいつにはデリカシーってもんが無いし。
人をよくからかうし、食い意地張っているわりには味にはうるさいし……」
ふんふん、と頷きながら梓の愚痴(?)を聞いてあゆは一言。
「……梓さんって耕一さんのことが好きなんだね」
あゆのその言葉に梓は思わずつんのめる。
「なななな、なに言ってるんだよ、あゆ。そっ、そんなことがあるわけ……」
梓は後ろを振り返り、あゆに抗議の声をあげる。
「なに動揺してるの、梓さん?」
その狼狽した梓をあゆは不思議そうに見る。
「いや、だって、ほら、な。さっきの話のどこからそんな結論が出るんだ?」
しれっとした顔のあゆに、梓は顔を赤らめて反論する。
「だって、本当に嫌な人だったら『ヤナ奴』の一言で終わるでしょう?」
「うっ……」
「それに、そんなに不満があるってことは、つまり直して欲しいと期待しているんだよね」
「……」
「いいなぁ、一緒に遊べる同い年ぐらいの従兄弟がいて。ボクの従兄弟はまだ、幼稚園だし」
「……え。ははははは、そうだね、それは残念だ……ははは」

194 :星空の下で(4):01/09/29 02:04 ID:OGNQ97Mg
「従兄弟の家に行くと、ボクはいつも子守りをさせられてたから、そういうのってうらやましいな」
あゆの『好き』という言葉の意味を理解した梓は力無く笑うと再び歩き出した。
「うん? どうしたの梓さん」
「うるさい! それより、発信機の方は!」
なにか、梓の気に障るようなことを言ったのだろうか。そう自問しながらあゆは発信機をのぞき込む。
「えっと、ちょい右。うん、それで後はまっすぐって……うぐっ!」
急に止まった梓の背にあゆは鼻をしたたかぶつけた。
「しっ! あゆ!!」
振り返った梓はくちびるの前に人差し指をあてていた。
理由は分からなかったが、あゆも声をひそめる。
「鼻ぶつけた〜。って、ん、あれは……」



耕一は大きな木の根本に腰かけ、これからのことを思案していた。
日が沈み、繭たちの足跡を探すのが困難になった今、このまま闇雲に森の中を歩き回るのは得策ではない。
施設の方に向かい合流を待つという手もあるが、未だに煙が立ち上っているような危険な場所にマナを連れていくのもためらわれる。
ならば、誰かが迎えが来るのを待つか?
しかし、梓のことも気になる……。
おそらく、彰を捜しているのだろうが、耕一はこの二人の行く先に関して、手掛かりは何一つない。
人、一人を捜すにはこの島はあまりにも広い。
だが……。

195 :星空の下で(5):01/09/29 02:10 ID:I5C44Bcg
耕一は自分の肩に寄りかかって眠っているマナを見る。
顔色も良くなってきて、規則正しい寝息も聞こえる。もう毒は大丈夫だろう。
マナと別れたとき。もう二度と生きて会えないかもしれない、と覚悟をした。
だが、今、彼女は耕一の横でスヤスヤと眠っている。
マナと再会したときも、手掛かりがあったわけではない。
そして、倒れていた自分をマナが見つけたことも思い出す。
ふと、耕一は自分の小指を見てみるが、当然のごとく何もついていない。
耕一は満点の星空を見上げて一人、苦笑した。

「う……ん……。あれ、耕一さん」
「や、マナちゃん。おはよう」
朝にはほど遠いが、耕一は目覚めのあいさつをした。
「ゴメン……、私、寝てたんだ」
「いや、十分くらい、かな。まあ、ちょうど休憩したかったから」
マナは大きく伸びをして眠気を振り払おうとするが、思わず大きなあくびが出た。
それを見て、微笑んだ耕一をマナが見咎めた。
「……なに耕一さん、ニヤニヤして。いやらしい」
「ゴメン、マナちゃん」
謝ってはいるが、耕一の顔にはまだ微笑みが残っている。
マナはそっぽを向いているがその顔も照れ隠しの微笑が浮かんでいる。
(あんなに寝顔を見られているのに、あくびぐらいで恥ずかしいって変よね)

196 :星空の下で(6):01/09/29 02:10 ID:I5C44Bcg
で、体の方は、もう大丈夫?」
そう言って、先に立ち上がった耕一はマナに手を差し伸べる。
「ん、もう歩いていけると思う」
マナはその手を取り、立ち上がろうとした。
「あ、ありがと……きゃっ!」
だが、大丈夫だと思った推測と違って、寝起きと疲労で足がふらついていたのだろう。
「大丈夫、って、え?」
耕一はなんとか踏みとどまったが、マナはまるで抱かれるように、その胸に倒れ込んだ。
「……」
「……」
星の瞬きの中、二人は無言であった。
動けないのか、動きたくないのか。それは、誰にも、恐らく当人たちにも分からないだろう。
そんな二人を見ているのは星空と……


「で、梓さん。ボクたち耕一さんを捜しにきたのに、なんで隠れてるの?」

197 :星空の下で作者:01/09/29 02:28 ID:nv4E0mi2
【梓&あゆ。耕一&マナを監視中】

えーとすいません。
191が星空の下で(1)です。

198 :言葉と思考の外側に(1):01/09/29 13:01 ID:JI15hmug
朧月の柔らかな光を浴びて、岩場の冷たい風の中を七人の男女が歩いていく。
荒涼とした風景に彼女たちが与える彩りは、あまりに赤味ばかりを帯びていたが、
それも今では月の光が包んでいた。
交わす言葉の数々は、少し離れると風切音に乗せられ消えてしまう。
そして行く手に立ち昇る煙のひとすじも、今では風に運ばれ見えなくなっていた。

先頭には小銃を持った七瀬留美と、拳銃を持った巳間晴香が立っている。
続いて北川潤、七瀬彰、神尾観鈴の3人。
北川が彰に肩を貸し、観鈴がそれを気遣うようにして進んでいる。

一行の進路は、七瀬留美と神尾観鈴の二人で時々相談して決定された。
ありていに言えば、施設を出てきたスフィーを避けながら進んでいる。
方針を決めたのは、後列にいる柏木千鶴と、椎名繭。
二人は多くの事象について、ほぼ同様の結論を持ちながらも、討論していた。
集団の年長者である千鶴と、子供の繭が、今やこの奇妙な集団のブレーンなのだ。

「可能性として、レーダーに映らない何者か-----例えば管理者側の人間-----が
 施設に入り込み、詠美ちゃんと芹香ちゃんを殺害し、スフィーさんだけが逃げてきた
 ということも考、えられなくはないと思うの」
「施設にも二人いたわけだし、管理者側の人間がどれだけ干渉してくるのか判らない
 以上、その可能性は否定できないですね」
繭は施設に居る間に交わされた会話や情報の流れを、驚くほど正確に掴んでいた。

ただ動物と遊んでいるようにしか見えなかったが、無意識下で記憶していたのだろう。
…あゆにより倒された源三郎と、御堂を倒した源五郎。
その他にどれだけ管理者側の人間がいるのか、繭たちの知る由もない。

199 :言葉と思考の外側に(2):01/09/29 13:04 ID:08iVruWU
「でも、立てないほど消耗していたはずのスフィーさんの移動速度が、人並み以上に早いということ。
 更に言えば、こちらの位置を掴んでいるかのように時折進路を修正してくること。
 この二点は無視できないわね」
「そうなんです。
 もはや施設に持ち運べるレーダーは存在しないはずだし、そうなると件の”神奈”による影響
 を受けていると考えるべきだと思いますね」
二人は頷きあい、スフィーの危険性を神奈と直結すべきだと再認識した。

結論が出たところで、繭が前方へ呼びかける。
「七瀬さん、むこうの位置はどう?」
「うーん、このままだと-----入口に回り込むのは、厳しそうよ?」
それは当然だった。
正面口から出て、こちらに向かってくる人物をかわすのは難しい。

繭が前に出て、観鈴と七瀬に位置を示しながら進路の変更を指示する。
「正面口から少し離れたところ-----このへん-----に、エアダクトがあるわ。
 そこから施設に進入しましょ」
「わかった……ところで、繭?」
「なあに? どうしたの、七瀬さん?」
あどけない疑問の表情を浮かべる繭に、七瀬が尋ねる。
「あんた実は、頭いい? 勉強とかすごく出来るほうだったの?」
「うーん…どうなんでしょう? 小学校の頃はよかったですけど…その後は、テスト自体を
 受けてませんから、評価も何も…」
「…なんだか恐ろしいほど才能の無駄使いをして、生きているかもしれないのね…」
「う…そう言われると、なんとも…」
二人で腕を組んで考えこむ。

”本当の繭”がどれほどの知性を携えているかなどと、考えた事もなかった。
なにしろ繭自身が、それを発揮しようと思ったことさえ、なかったのだから。

200 :言葉と思考の外側に(3):01/09/29 13:05 ID:08iVruWU
七瀬がダクトの縦穴を降りながら、誰にともなく話し掛ける。
狭い通路にエコーを響き渡っているが、全く気にしない。
「…どうにか、かわしきったみたいね」
「うん、追ってくるかもしれないけどね。
 とりあえずは、上手くいったんじゃないかな」
答えたのは、やはり晴香。
二人はいつもの調子で会話を続けながら-----さすがに手足や刀は出なかったが-----梯子を降り、
最初に廊下に立つ事ができた。

「それにしてもこの施設、聞きしに勝る大仰さね…」
一行は、かつて千鶴達が侵入した通気口から施設に侵入している。
はじめて内部を見る七瀬と晴香は、いかにも秘密基地といった構えを隠そうともしない施設の在りよう
に、驚き呆れていた。
「もう何でもアリって感じよね…」
「どっかの湖が割れて、巨大ロボットが出てきても、もう驚かないわよアタシ…」
二人は、規則的な曲線を描くツヤのある廊下を見つめて、大きな溜息をついた。


全員揃ったところで、打ち合わせどおりに二手に分かれることにした。
繭と北川、それに七瀬と晴香は、先にコンピュータールームの偵察を行う。
「じゃあ千鶴さん、先に行ってます」
「ええ、彰くんを医務室に連れて行ったら、わたしもそっちへ行くから。
 危険がありそうなら無理せず引いて、こちらに合流してね」
千鶴と観鈴は二人で彰に肩を貸し、繭たちに軽く手を振って医務室へ向かった。

201 :言葉と思考の外側に(4):01/09/29 13:05 ID:08iVruWU
綺麗にワックスがけされた廊下が、三人の影を映している。
「……それにしても、酷い有り様ね」
千鶴は包帯と血にまみれた彰の姿を見ながら、半ば感心するように言った。
「そうですね…でも、耕一は-----いや、耕一さんは、もっと酷いですよ」
「……そう」
彰は、僕がやりましたから、とまでは言わなかった。
言わずとも、通じていたようだったから。

 長めの、沈黙があった。

 観鈴だけが悲しそうな顔をしていたが。
 残りの二人の表情は読めなかった。


三人は螺旋階段を通り抜け、医務室のあるフロアの廊下を歩き始めていた。
「…たぶん僕は、生きて帰ることはないと思います」
唐突に、ぽつりと彰が呟くと、突然観鈴が大声を上げた。
「-----そんなこと!」
「いや、死ぬとは言ってない。でも、帰る気も-----あまり、ないんだ。
 もし皆が帰ることになっても、僕は残るかもしれない」
「そんな…」
絶句する観鈴と入れ替わって、千鶴が口を開いた。
「残るなら-----よろしくね」
「……はい」
初音を、よろしくね、とまでは言わなかった。
言わずとも、解っていたから。

202 :言葉と思考の外側に(5):01/09/29 13:06 ID:08iVruWU
少し歩くと、扉と血糊と、死体が見えた。
医務室前は一つの戦場だったから、ここで戦った千鶴にとっては驚くに値しない。
「滑るから、気をつけて-----」
そう言って室内に入り、彰をベッドに寝かせる。
さっそく観鈴が包帯をはずし、改めて血を拭き、消毒をする。

千鶴はその様子を確認し、特に自分の手は必要なさそうだと考えた。
「それじゃ、わたしは先にコンピュータールームのほうに行ってるから。
 具合がいいようなら、二人も来てね」
振り向き、歩き出そうとしたそのとき、気配を感じた。
ついたての向こうに、誰かが寝ているのではないだろうか?

 数歩移動して、回り込むと。
 …死体が、あった。

 詠美と、芹香。
 二人は胸のあたりで手を組んで、安置されていた。


「千鶴さん……この二人は…?」
「…例の、二人よ」
二人の視線を受けとめて、千鶴は頷く。
「誰かが-----二人に好意的な誰かが、運んだんでしょうね」
そして視線を流していく。
血痕が、点々と床に道しるべを作っていた。
入るときは長瀬源三郎の血で判らなかったのだが、階段のほうまで続いているのだろう。

 千鶴は、走り出した。
 

203 :言葉と思考の外側に(6):01/09/29 13:07 ID:08iVruWU
その血痕を辿った先。
すなわちコンピュータールームに向かう繭達は、道しるべを作った主に遭遇していた。
「……マルチ!?」
初対面の晴香が、幻でも見たかのように驚き、立ち尽くす。
滑稽なほど動揺する晴香を見て、北川が笑いながら歩みより、気さくにHMへ話し掛ける。
「なんだ、歩けたんだな。
 煙が出ているけれど、あれは何なんだい?」
「煙は……」
消え入るような声で、HMが答える。
晴香が違和感を抱くのも、無理はない。
「北川…なんだか…様子が、変じゃない?」
「まあ、ロボットだからさ。
 マルチはマルチでも、晴香さんの知ってるマルチとは違うんじゃないかな?」
そう言ってぽん、とロボットの肩を叩く。

 返ってきたものは、全員の予想と全く違うものだった。
 まず視線が、違う。
 言葉の響きも、違っていた。

 「どうして……私は、ロボットなんでしょうか?」


【北川潤、椎名繭、七瀬留美、巳間晴香 感染HMに遭遇】

204 :名無したちの挽歌:01/09/29 13:08 ID:08iVruWU
というわけで、「言葉と思考の外側に」です。

本スレのほうに、大誤爆してしまいました。
そう言えば昔も一度、これをやったような気もしますね…申し訳ありませんでした。

205 :名無したちの挽歌:01/09/29 21:24 ID:EtCjTMQE
毎回これを書くのを忘れてしまい、学習せえよ、という風情なのですが。

198と199以外の各レス間は、2〜3行空けてくださいまし。
よろしくお願い致します。

206 :名無しさんだよもん:01/09/29 22:47 ID:tgzDU13U
飽き飽き駄スレ

207 :名無したちの挽歌:01/09/30 12:12 ID:RxX7Iwuc
感想スレが揉めてるせいか、こちらも進みませんね。

>>らっちー様
 えー、編集HPのほうですが、769話と772話も挽歌作でございます。
 お手数ですがよろしくお願い致します。

 それと、せっかくなので本編も一点修正お願い致します。
 >>202の下から7行目
 『二人の視線を受け止めて、』を『彰と観鈴の視線を受け止めて』にしてくださいまし。

詠美と芹香も”二人”と表現しているので、紛らわしい駄文でございました。
れーてん。

208 :銃声は、一度(1):01/10/01 01:12 ID:.pDDznZI
「北川――そいつから離れて」

 そのHMを知っているであろう北川は警戒を完全に解いていた。あの聡明な
――そう形容するのはやはりはばかれたが――繭ですら、同様に。この施設に
来たことのないはずの晴香が何故あんなに動揺したのかは分からない。

 HMに小銃の銃口を向けたのは、七瀬。

 戦闘用HMとの激しい戦闘を経験している――そして、HMとの接点をそれ
しか持っていない七瀬にとって、HMは最大限に警戒しなければならない相手
だった。もちろん、今目の前にいるHMがあの時のHMとは同じとは限らない。
あれよりは弱いかもしれないし、敵意はないかも知れない。
 だが。
 同時に、あれよりも強いかもしれないし、敵意もあるかも知れない。

「おいおい、何をそんな――」

 七瀬を諫めようとした北川を後目に、HMに銃を向ける者がもう一人。
 晴香だった。

「七瀬は銃を降ろして。確かめたいことがあるのよ」

 彼女は落ち着きを取り戻していた。

209 :銃声は、一度(2):01/10/01 01:15 ID:.pDDznZI
「姉さん達と同じようになりたいです」

「あんたも、マルチの妹なのよね?」

 マルチは既に死んでいる。その事実は放送で告げられていた。だとすれば、
残された可能性はそれしかなかった。あの戦闘用HMと同様、このHMもまた
マルチの妹なのだろう。今の一言で確信が持てた。

「どうして……私は、ロボットなんでしょうか?」

 疑問に対する回答ではなかった。
 ただ、確信は揺るがない。

「さあね。ただ、あんたの姉さんはそんな疑問持ってなかったんじゃない?」

 次の言葉もまた、疑問に対する回答ではなかった。
 壊れたロボットのように、同じ言葉を、同じイントネーションで繰り返す。

「姉さん達と同じようになりたいです」

 晴香が知る由もない。
 彼女の知っていたマルチですら、人を――晴香にとっても、マルチにとって
も、戦友と言える存在だった智子すらをも殺していたのだ――ということを。

210 :銃声は、一度(3):01/10/01 01:17 ID:.pDDznZI
 疑問の答えは得られなかった。ならば、残りの命題を果たすしかない。それ
は至極単純な命題だった。
 管理側以外の人間は、殺す。
 命題を果たすべく隠し持っていたそれ――かつて詠美や御堂にぽちと呼ばれ、
その想いを果たし、そして果たしきれなかったCz75――を、取り出そうと
した。標的は、自分に答えを与えなかったこの女。

 自分に向けられようとしている、銃。晴香も即座に反応しようとした。その
程度のことができるぐらいには修羅場を潜り抜けてきていた。
 HMの額にポイントされているそれ――自分の手にある拳銃――の、引き金
を少し引くだけで良かった。
 撃たれる前に撃てるはずだった。
 だが。

『どうして……私は、ロボットなんでしょうか?』

 そんなことをぬかしていた、このHM。
 その時のHMの表情。

 それは晴香に、一瞬の躊躇を与えた。
 それで十分だった。



 銃声は、一度。
 銃弾は、二発。
 一つは、HMの額を貫き。
 もう一つは、晴香の腹部を貫いた。

211 :「銃声は、一度」作者:01/10/01 01:21 ID:.pDDznZI
どうも、「銃声は、一度」作者でございます。
各レス間の改行は三行でお願いいたします。

212 :「銃声は、一度」作者:01/10/01 01:33 ID:.pDDznZI
すいません、少々忘れていました。
最後に以下の一行の追加をお願いいたします。

【HM、致命的ダメージにより行動不能】

213 :「銃声は、一度」作者:01/10/01 02:36 ID:.pDDznZI
たびたび済みません、、、「銃声は、一度(3)」にて修正をお願いいたします。

誤)かつて詠美や御堂にぽちと呼ばれ、
正)かつて詠美や御堂にポチと呼ばれ、

銃のポチはカタカナ表記でしたね。お手数お掛けして大変申し訳ございません。

214 :空と少女と動物と:01/10/01 03:05 ID:YmjdaY8c
観鈴は彰の手当てを済ませてからトイレに行ってくると言って
足早に医務室を出ていた。
本当にトイレに行きたかったわけではなかった。
ただ、医務室で彰と二人きりでいるのが耐えがたかった。
帰るつもりがないと言う青年。
ここから帰れば家族や友達が待っているに違いないのに。
……帰っても誰も待っている人がいない自分と違って。

「あの人のこと……ちょっと分からない」
お母さんだったら「島に残る?何言うとんのや、うちが殺して
でも連れて帰ったるわ!」なんて言うんだろうな。
くすっと笑みを浮かべたが、同時に寂しさも襲ってきた。
もう、声を聞くことは二度とないのだ。

つらいけど、寂しいけど……頑張らなくちゃ。
一人でも強い子でいないと死んでまでお母さんと往人さんに
心配かけちゃうもんね。
……でも、少し疲れたかな。ずっと空見てなかった気がする。

とてとてと施設の入り口から出て壁を背に座り込み、空を見上げた。
「きれい。でも、昼間の方が空は好きだな」
今は大勢の人が一緒に居るけど……友達はひとりもいない。

往人さんの時と同じようにこっちから明るく声をかけてみようかな。
もしかしたら友達になってくれる人がいるしれないし。

215 :空と少女と動物と:01/10/01 03:05 ID:YmjdaY8c
ぼんやりと考えていた観鈴の目の前に現れたのは鴉。
ばっさばっさと舞い降りてきた。
観鈴の目の前に降りてきた鴉は観鈴のほうを見上げてきた。
観鈴を見上げる鴉と観鈴の目があった。
何故かしばらくの間みつめあっている。

動物なら友達になってくれるかな?
何処か人間臭いしぐさで鴉が首を傾げた。観鈴もつられて首を傾げた。
鴉の表情は分からないがなんとなく考え込んでいるような気がした。
本来人に馴れる事のないはずの鴉だが、観鈴から動く気配がない。l

「もしかして友達になりたいの?」
「よし、ちょっと歩いて、振り向いてついてきてなかったら、ここでお別れ」
くるりと後ろを向いてぱたぱたと施設の入り口に向かって歩いて行く。
観鈴の背後ではそらがとことことついていっている。
そらに追いついたポチとぴろもそらについて行った。
「わ、ついてきてるっ。…………」
振り向いて言葉を発してから長い沈黙。
鴉だけだったはずなのに、何故か猫と白蛇までもがついてきている。
「えっ……と。
 みんな一緒に来るの?」

216 :空と少女と動物と:01/10/01 03:06 ID:YmjdaY8c
みんな来る?という観鈴の言葉にそらは後ろを振り向いた。
ポチとピロがついてきている。
観鈴と出会った衝撃でふたりの存在を忘れてしまっていた。
「彼女か?」
「……わからない。でもついていかなきゃいけない気がする」
「そう、あなたが決めたのなら私達もついていくわ」
「……ありがとう」
「さっさと行きましょう?彼女…行っちゃうわよ」

問い掛けた観鈴の目の前で動物達が「にゃあ」 「しゅるしゅる」
「か〜」それぞれが鳴き声を上げながら向かい合っている。
「……来てくれないのかな?」
観鈴は動物達に背を向けて歩いて行く。
「にはは、観鈴ちんやっぱりひとり」
寂しげな笑顔でつぶやいたとき頭の後ろで何かがはばたく音がした。
振り返るとさっきまでいた動物達が居なくなっている。
ふと左肩に重みを感じて見てみると鴉が止まっている。
「わっ、やっぱり一緒にきてくれるんだ」
観鈴は破顔する。
「ん?」
何かが這う感触に下に見ると白蛇がするすると右肩に登ってきている。
スカートが重い。下を見ると猫が爪をたててぶら下がっている。
「わっ。君達も来てくれるんだ」
スカートにぶら下がっている猫を頭に乗せた。
頭に載せたぴろ、左肩に止まったそら、右肩に巻き付いたポチ。
「にはは、まるで桃太郎さん。
 みんな、帰っても一緒。わたしの……友達」

【神尾観鈴 そら、ぴろ、ポチ、で完全武装】

217 :それぞれの生き様(1):01/10/01 21:32 ID:BkpMLoFA
結果は、一瞬にして出た。
どさり、と倒れこむ二つの影。

晴香は膝をつき、そのまま前のめりに倒れる。
HMは棒立ちのまま、真後ろに倒れた。

「は-----晴香っ!」
立ち尽くしていたひとつの影が、その片方に向かって駆け寄る。
残る二人は長い静止の時間を取り戻そうとでもするかのように、慌てて
銃を引き抜き、倒れたHMに向かって構えた。
「この-----お前、どういうつもりなんだっ!?」
「なんで…なんでなのよ!? 壊れちゃったの!?」
すぐにも引き金を引こうとする二人。

「……二人とも、銃をおろしなさい」
抑えたのは、最初に引き金を引こうとした七瀬を抑えた人物。
「巳間さん……」
「繭、おろしな、さい」
「晴香さん……」
「北川、おろせっ、つってんの、よ」
七瀬の肩を借りて、眉間に苦痛の縦皺を寄せながら、二人を睨みつけて
前進する。

「晴香…大丈夫なの?」
「だい、じょうぶなわけ、ない、で、しょうが!」
弾は、抜けているようだった。
吐血や喀血はないようだから、内臓は無事なのかもしれない。
それでも腹部を貫通しているのだから、重心を移動させるたびに痛みが走り、
歩きながらの会話は苦しげなものになる。

218 :それぞれの生き様(2):01/10/01 21:32 ID:BkpMLoFA

そしてようやく倒れたHMのそばまでたどり着くと、七瀬の肩からずり落ちる
ようにして、HMの顔を覗き込んだ。
そのまま妙に落ち着いた声で、語りかけ始める。
「アンタ、さ……聞こえてる?」

返事は、ない。
しかし、目が動いたような気がしたから。
そのまま続けることにした。
「アンタさ、何かが自分に足りないって思うことは……立派な、ことなんだよ」

今度はきゅいん、と明らかに音がして、瞳孔が動いた。
「人間かどうかなんかより、自分がどうあるかのほうが、よっぽど大切じゃない?」
HMの駆動音が、空回りして鳴り響く。
「その辺の見極め間違えてさ。
 他人様に迷惑かけるのも疑問に思わなくなった時点で-----

 ズドン!!

 銃声。
 一撃。
 中枢部位が半壊していたHMは、完全に機能を停止した。

 -----アンタ、アタシたちの友達には、なれやしなかったんだよ」
そう言って晴香は、脱力した。
銃口から立ち昇る一筋の煙は、供養の線香のようでもあった。

219 :それぞれの生き様(3):01/10/01 21:37 ID:BkpMLoFA
「-----それで、具合はどうなの?」
送れて到着した千鶴が、繭に尋ねる。
既に晴香は七瀬に連れられて、医務室へ向かっている。
「弾は綺麗に抜けてるみたいですけれど…痛みが、強いみたいです」
繭の意見に頷きつつ、北川が不安を口にする。
「あのHMが狂ったとなると…芹香さんたちは…」

しかしその不安は、千鶴にとって過去のものになってしまっている。
結論は、既に出ていたから。
悲しげに首を左右に振り、二人に向かって告知する。
「芹香さんと、詠美ちゃんは-----もう、だめだったわ」
「……そんな!」
「くそっ…」

 各々が改めて悲しみに浸る。
 だが、それも長くはなかった。

 彼らには、やるべきことがあったから。

「繭ちゃん、北川くん-----行きましょう」
千鶴が、最初に促した。
答えた二人も、決意を新たに頷く。
「そうね…CDを、発動させなきゃ…」
「ああ、俺の仕事は…これからだ」

 繭は、北川は。
 そのとき、誰のことを思っていたのだろう。

 たくさんの出会いと、たくさんの別れの中で。
 最後に残ったのは、ちっぽけな円盤だけではなかったはずだから。

220 :それぞれの生き様(4):01/10/01 21:39 ID:BkpMLoFA
医務室のあるフロアの、血塗られた回廊を二人はひょこひょこと歩いていた。
まるで不器用者の、二人三脚のようである。
「ちょ、ちょ、ちょっと、なな、なななななせ」
「あたし、”ななせ”よ」
「うっといわね! 痛いっつってんのよ!
 って、痛たたたた!」
「…晴香ぁ、あんまり怒ると、血圧あがるからやめときなさいよ。
 これでも、本気で心配してんのよ?」
「アタシは、アンタが包帯巻いたりできるのかが心配よ!」
「あはは、大丈夫。 観鈴がいるじゃない。
 それに千鶴さんも、コンピューター室占拠できたら、戻ってくるって言ってたし」
「アンタ……潔すぎ」

”医務室”の札を発見し、曲がる。
扉はないから、すぐに室内が見渡せた。

 ……そこには誰も、いなかった。

 観鈴も。
 そして、彰さえもいなかった。

 二つの死体が、あるだけだった。

221 :それぞれの生き様(4):01/10/01 21:42 ID:BkpMLoFA

一人と一羽、そして二匹がそこにいた。
しかし今まさに、もう一人が加わろうとしていた。

再び施設の内部に入ろうとした観鈴の前に、人影が立ちはだかる。
手には観鈴が置いてきた、シグ・ザウエルショートがあった。

どきりとして、観鈴はその人影を見上げる。彰だった。
トイレに行くと偽って抜け出してきたのが、ものすごく悪い事をしたような気がして、観鈴は俯き沈黙する。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彰は微笑んで優しく尋ねる。
内心では、どこからともなく出現した動物に、たいそう驚いていたのだろうけれど。
「観鈴ちゃん、どうしたんだい?」
「あ、あの-----ごめんなさいっ」

会話に、なっていない。
「…いや、べつにいいんだ。きみは丁寧に手当てしてくれたし…怪我には、慣れてしまったからね。
 僕が一人で居るのはいいけれど、きみが一人で居るのは危ないよ」

「で、でも、どうして…?」
どうして、彰はここに来れたのか。
観鈴は不思議でたまらなかった。
「トイレは、医務室のすぐ右だったじゃないか。
 きみは左に曲がってしまったから、どうしたんだろうと思ってね。
 気付くのが遅れたけど、足音を辿ってみたんだ」
「にはは…彰さん、探偵さんみたい」
「ああ、君の偽証はお見通しってことさ」

 ふたりで、少しのあいだ笑う。
 本気で笑えたかどうかは、解らない。
 それにあまり良く知らない相手だったけれど…構わなかった。

222 :それぞれの生き様(6):01/10/01 21:45 ID:BkpMLoFA
-----しかし、平穏の時は長く続かない。

突然、彰が真顔になって、観鈴に医務室へ帰るように宣言したからだ。
あまりの変貌ぶりに、観鈴は疑念を隠せなかった。
「……彰さん?」
「観鈴ちゃん…いますぐ、戻るんだ」
「いきなり、どうしたの?」
「銃声が、聞こえた。 きっと手当てが、必要になる」

…聞こえたような気もする。
でも、何かがおかしい。

観鈴は違和感から、素直に言うことを聞けなかった。
「彰さん…一緒に、戻ろ?」
しかし彰は頑なだった。
先ほどの微笑から想像もつかないような、観鈴を拒絶する冷たい物腰で返事をした。

「僕はもう少し月を-----独りで月を-----見ていたい。
 だからきみは、先に帰って欲しい」


観鈴が寂しそうに階段を折りて行くのを、彰は見守っていた。
どうにも僕は不器用だな、とうんざりしながら腕を組む。
動物に語りかける彼女の姿には、憐れみすら感じる。

しかし彼女の姿が消えるのを確認すると、くるりと振り向いた。

 空には、朧月。
 地には-----やはり朧げな-----光が、あった。

223 :名無したちの挽歌:01/10/01 21:53 ID:BkpMLoFA
【七瀬留美・巳間晴香 医務室で呆然。】
【北川潤・柏木千鶴・椎名繭 コンピューター室へ突撃。】
【神尾観鈴 医務室へ。しょんぼり。】
【七瀬彰 神奈を発見。その心境やいかに。】
※彰の銃声に関する発言は、晴香とHMのそれかもしれませんし、単なる嘘かもしれません。
※神奈が彰に気が付いているかどうかは、不明です。
※晴香は手当てが必要です。七瀬ができるかどうかは不明。

ちうわけで、「それぞれの生き様」です。
そろそろ、役割分担が決まってきそうな感じに。

>>217>>218のあいだ以外は、各レス間を2〜3行あけてくださいませ。

224 :名無したちの挽歌:01/10/01 22:32 ID:BkpMLoFA
>>222のあとに、追加補足をお願い致します。

光を睨む、彰の瞳が赤味を増してゆく。
(神奈備命-----ついに、来たか)

225 :わがまま(1):01/10/02 03:53 ID:kFBQvI8I
「ふー、ようやっと帰ってきおったか」
 部屋には、散開したメインモニターの破片と、血の匂い。その異常な状況の
中で彼ら――千鶴、繭、北川――を出迎えたのは、以前と変わらぬ声だった。
 凄惨な現場の中でいたたまれない気持ちになる三人に、G.N.はいつもの
調子で尋ねる。かろうじて修復できた音声機能だったのだが、三人がそのこと
に気付くはずもない。
「いいのか? あの嬢ちゃんも来とるぞ?」
「あの嬢ちゃん?」
 北川の素っ頓狂な返事に、少々いらつきを覚えながら答える。時間を無駄に
できないのはお互い様であろうに。
「忘れたか? 施設周囲には固定カメラがあるじゃろ? 例えばほれ、施設の
出入り口近辺のカメラじゃが」
 メインモニターはもう存在しない。仕方なく、予備の端末の小さなモニター
に映像を映し出した。あまり余力はないが、彼らには見せる必要があるだろう。
千鶴、繭、北川の三人は、狭苦しいながらも一斉にその映像が映ったモニター
を覗き込む。
 そこには。
 泣きながら銃を構える女と、ただそれを見据える男がいた。
 男は、七瀬彰。
 そして、女は。
「こいつ――スフィー、か?」

226 :わがまま(2):01/10/02 03:56 ID:kFBQvI8I
 北川が断定できなかった理由は、ただ一つ。
 それが少女ではなく女だったからだ。
「こういうことを言うのは酷かもしれんが――芹香嬢と詠美嬢を殺したのは、
あの嬢ちゃんじゃ。ついでに言わせてもらえば、ワシの自慢のメインモニター
をぶっ壊してくれたのもな。大分見目は変わっとるようじゃが」
 推測の範囲内でしかなかった事実。
 ろくに動くことすら出来なかったその少女の身体が女の身体となり、平然と
動き回り、しかも彰と対峙して銃を向けている。考えられる可能性は。
「やはり、神奈の影響を受けてしまっていた、ということですか……」
 千鶴は苦渋の表情を浮かべ、そう呟く。万が一スフィーに神奈自身が降りて
いた場合は、それをスフィーごと斬らねばならない――ということになる。
「あの馬鹿、何やってんだ……」
 北川は納得できなかった。
 スフィーは誓ったはずだ。
 必ず生き残って、出来ることをやり遂げて、元の生活に戻ると。
 それなのに、彼女はあんなところで何をやっている?
「神奈の影響だってんなら、CDを使えば――あんたが無事ってことは、CD
は無事なんだよな? もう解析も終わってるんじゃないのか?」
「CDは無事じゃよ。じゃが、こういうことを言うのは酷かもしれんが」
 その声は、あまりに無慈悲だったように思えた。
「今すぐ使うのは無理じゃな」

227 :わがまま(3):01/10/02 03:59 ID:kFBQvI8I
「おい、何呑気なこと言ってんだ!?」
 北川の怒声をものともせず、G.N.は続ける。
「ワシとてそれなりに苦労しとるんじゃ。ワシを蝕むウィルスを何とかしない
限り、危なっかしくてCDの起動プロセスすら開けん。ワシがお釈迦になった
として、他の誰にそれができるんじゃ? 急ぎなら余計に、作業に集中させて
もらうぞい。ウィルス駆除のな」
 そしてG.N.は沈黙した。モニターの映像も消える。
「ちくしょう――何なんだよ――何だってんだ――!」
 部屋を飛び出そうとした北川を押し止めたのは。
「……北川君、あなたはここにいなさい」
 意を決した、千鶴。自分達はやれることを――やるべきことをやるしかない。
「私達は、彼の援護に行きます」
 繭もその言葉に従った。
 千鶴にも、繭にも、分かっていた。神奈の影響を受けているであろう者――
スフィーに、CDの発動を前にして再びここに踏み込まれてたら、神奈に対抗
できる数少ない――ただ一つかもしれない術が失われてしまいかねない、と。
 予想外のアクシデントで晴香という大きな戦力を失い、彼女を治療しようと
している七瀬もまた動けない。観鈴は戦いの場に出せるような娘ではなかろう。
G.N.があの調子では、施設のセキュリティにも大して期待はできない。
 少なくとも、時間を稼がねばならなかった。
 それだけが、彼女達にできる唯一のことだった。
「スフィーは――スフィーはどうなる?」
 そんな北川の問いには、こう答えることしかできなかった。
「……CDが使えるようになるのが先であることを、祈るしかありません」

228 :わがまま(4):01/10/02 04:02 ID:kFBQvI8I
 今回ばかりは、北川も千鶴の言に従うしかなかった。
 千鶴を追うように部屋を出ようとした繭が、振り向かずに北川に告げる。
「北川――あなたには、本当に辛い選択を強いることになるわ。それを決める
権利があるのは悔しいけど私じゃない。あなた自身よ。あなたが決めなさい」
 繭は芹香との語らいによりそれを知っていた。私が代われるものなら――と、
本当にそう思う。繭にとっても、CDはそれ以上の意味を持つものなのだから。
だがそれは、千鶴にも、繭にも、他の誰にも許されない。
 もう北川のみにしか許されていないことだった。

 CDを使えば、どうなるか。部屋に一人残された北川も思い出していた。

――アレほどの化物に下手に抵抗されれば呪詛返しであっという間に――

 それは。

――あの世行きよ――

 スフィーの残した言葉だった。

 呪詛返しを妨げられるだけの可能性を持っていた芹香はもうこの世におらず、
実際に妨げようとしていたスフィーはあちら側に行ってしまった。もう守って
くれる者は存在しない。
 不思議と、死ぬことは怖くなかった。だが許せなかった。
 多くの人間の――スフィーの連れの、レミィの、祐一の、それ以外にも多く
の人間の――死の上に成り立っている自分の命もまた、失われてしまうことが。
 それでも、やるべきことは果たさねばならない。彼の葛藤は終わらなかった。

229 :わがまま(5):01/10/02 04:05 ID:kFBQvI8I
「ふ、二人ともどうしたんですか!?」
 自分の横を颯爽と――といった感じではなく、慌ただしく駆け抜けていった
千鶴と繭の後ろ姿にそんな問いかけをしてみた観鈴ではあったが、とても返事
が返ってくることを期待できるような状況ではなかった。
 ただ、彰の言葉が気になった。
 銃声。
 何があったのだろう?
 彼女は医務室ではなく、千鶴と繭がやって来た方へと向かうことにした。



 北川は予想外の来客に驚いた。
 観鈴自体にはもちろんだが、その頭の上に置かれた猫、左肩に止まっている
カラス、右肩に巻き付いている白蛇に。
 残骸と血にまみれたこの部屋の状況に、彼女もまた驚いてるようだった。
「えっと、彰さんが銃声が聞こえたって言ってて、その――大丈夫ですか?」
「……晴香さんが撃たれたんだ、HMに」
「え?」
「大丈夫。HMは晴香さん本人がやっつけたし、晴香さんの方は七瀬が医務室
に連れてってる」
「じゃ、じゃあわたしもお手伝いに行った方が――」
「神尾さんも行く必要はないんじゃないかな。七瀬に任せといて大丈夫だろ。
あいつ、あれでも自称乙女だから、看護婦の真似事ぐらいはやってのけるさ。
といっても、ここもあまり居心地のいい場所じゃないだろうけど」
 それはわがままだったかもしれない。
 間違いなくわがままだった。
 でも今は。彼女に側に居てほしいと思った。レミィの面影を感じさせる彼女
が側に居てくれれば、きっと何もかも上手くいくんじゃないかと思えた。そう
思えるだけで良かった。

230 :わがまま(6):01/10/02 04:08 ID:kFBQvI8I
「その、じゃあ、北川さんは――」
 観鈴は率直な疑問をぶつける。
「――ここで何をしてるの?」
 北川は、苦笑混じりにこう答えた。
「そうだな……一点差で迎えた九回裏、ワンアウト、ランナー満塁。ベンチで
代打に呼ばれるのを待ってるって感じかな?」
 ホームランである必要はない。もちろん、ホームランであれば申し分ないの
だが、それを期待するのは贅沢な話だった。
 役目を果たすという意味では、犠打でも十分だ。



 G.N.はあえて聞かなかった。あのHMがどうなったのかを。
 彼らが生きてここに辿り着いたという事実が、それを示していたから。

 北川はあえて言わなかった。その時が来たらここから逃げろと。
 命を対価として支払う自分のことを、止めようとするかもしれないから。

 聞く必要はなかった。言う必要はある。しかし、まだ言わなければならない
時ではない。
 それは彼の、ほんの少しのわがままだった。

【柏木千鶴&椎名繭、七瀬彰の援護に向かう】
【北川潤&神尾観鈴&動物共、コンピュータールームにて待機】

231 :「わがまま」作者:01/10/02 04:14 ID:kFBQvI8I
どうも、「わがまま」作者でございます。
各レス間の改行は三行でお願いいたします。

また、(6)にて、以下の修正をお願いいたします。
誤) 役目を果たすという意味では、犠打でも十分だ。
正) 役目を果たすという意味では、犠牲フライでも十分だ。
冷静に考えてみると、犠打じゃ点取れないですね(汗)。

232 :空と少女と動物と:01/10/02 11:41 ID:7dfiSVEo
煙草を捨ててしまったことが悔やまれる。
口が寂しい。右手に持ったライターのふたを指で
かちかちと弄びながら歩いていた。
人の気配を感じてそちらの方に目を向けると、すすり泣いている
女の姿が目に飛び込んできた。
あいつは確か参加者の……。

参加者に対する管理者側の優越からくる油断。
高野はその女の方にゆっくりと近づいていく。
「どうした?」
女は悲しい顔をして高野の方を見るだけだ。
そんな女の様子を見て高野は傍まで行って女に声をかけた。
女は高野の声をうけて微笑む。
「知っておるか?お主のような奴をうつけものというのじゃぞ」
カチャリと音をたてて高野の胸に銃をつきつけて引き金をひいた。
ゼロ距離射撃。血や骨、臓物が高野の背中から飛び散った。

俺は優しいんじゃなくて……甘いだけだったんだな。
気が向いただけなどと理由をつけて参加者を見逃す。
そして、同じ理由で参加者の怪我人を助ける。
甘いだけだったんだ。……他人にも、そしてなにより自分に。
強くなければ生きられない。優しくなければ生きていく資格がない。
俺は強くもなければ優しくもなかったわけだ……。
「この島に来て何も学んでおらぬのか?
 ふんっ!阿呆を殺してもおもしろくもないわ。興醒めじゃな」
「……僕じゃ、役者不足かい?」
どさりと後ろに倒れる高野の身体。
そのうつろな瞳に映った男の名は……七瀬彰。

【高野 死亡】【七瀬彰 神奈と遭遇】

233 :前の作品書いた人:01/10/02 11:55 ID:mLWcbffc
題名が前に上げた作のままだったぁ!!
というわけで題名は「長いお別れ」でお願いします。

234 :激昂〜1:01/10/03 01:58 ID:98YBmHrE
「どうだい?それとも僕じゃ、役不足かな?」
 月明かりが二人に差し込み、彰の体がはっきりと神奈にも見える。
「おお、そなたは確か・・・」
 そういって神奈が考えるより早く、
「そう、間抜けにも体を乗っ取られ、大切な人を殺してしまった愚かな男、七瀬彰さ」
 冷めきった言葉を、彼は口にした。

「それで彰とやら、一番大切なものをそなたから奪った余が憎いか?」
 おどけた口調の神奈。明らかな挑発。
「ああそうだ。憎いさ。彼女の首を絞めた僕自身と同じぐらいね」
 それに動じることなく、自分の思っている事を淡々と話す彰。
「でもさ、だから僕は」
 その言葉と共にいきなり彰がシグ・ザウェルショート9mmを片手で構え、
「生きて、貴方を殺してやろうと思える!」
 躊躇いなく、引き金に、力を込めた。

 ダン!ダン!ダン!

「ふん、余はきっかけを与えたに過ぎん。事実そなたは、あの小娘を手に掛けようとしていたではないか」

 ズガガガガガガッ!

「違う!僕は初音に生き残って欲しかったんだ!だから彼女の甘い考えを振り払ってやろうとしてたんだよ!」

 ダン!ダン!

「ふん、所詮はおぬしの偽善よ、あの小娘が大切ならなぜ守ってやろうとしなかった?
 その上ちっぽけな己の嫉妬に付け込まれ、鬼程度の愚物に心を奪われて、仲間を傷つけ、殺そうとした。余が知らぬとでも思ったか?」

 ズガガガッ!ガガガッ!

235 :激昂〜2:01/10/03 02:01 ID:98YBmHrE

「うるさい!お前みたいな化物に、僕の気持ちがわかってたまるか!」

 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!

「化物とは心外なことを申す、これでも余は羽以外、お主等と変わらんよ」

 ズガガガガッ!

「そんな事は僕の知った事か!今、僕はお前が憎い!お前を殺す理由なんてそれだけで十分だ!」

 ガン!ガン!

 叫びと共に、銃を撃つ彰。
 それは初音が死んでから、初めて見せた憤怒。
 彼は、すべての怒りを、目の前の怨敵にぶつけていた。
(三行空け)
 カチ!カチカチ!
「くそ!弾が・・・」
 当然である。
 後先を考えずに撃てば、こうなるのは当たり前だ。
「なんじゃ、この筒が無くなれば、何もできんとは。所詮、人間よの
 だが・・・・」
 同じく弾の切れたM4カービンを捨てた神奈が冷酷な笑みを浮かべ、右手を掲げる。
「余は、違うぞ」

236 :激昂〜3:01/10/03 02:01 ID:98YBmHrE
 掲げた手に集まった光の矢。それを彰に向け、連続して放つ。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!

「うおっ!」

 グサッ!

「ぐおおおおっ!」
 急所への矢はなんとか何とか回避できたものの、右肩に矢が一本突き刺さった。
 すぐに矢は消えたが、確かに残る鈍い痛みが体中に広がる。
 そのまま地面に倒れこむ。猛烈な痛みで、今にも意識が飛んでいきそうだ。
(まだだ!こんな所で死んでしまったら初音に合わす顔がない!どうにかしろ!考えるんだ彰・・・)
 神奈を殺すまでは死ねない。ただそのためだけに彼は頭を振り、立ち上がる。

 今、この状況で考えられる方法は二つ、突撃と狙撃。
 が、何も無い所から攻撃できる神奈は、いわば弾数の無い銃を持っているようなものだ。
 そんな奴に素手で突っ込むのは無謀だ、だから突撃は有り得ない。
 なら銃で致命傷を与える手段が最も効果的なのだが、自分には弾の入っていないショート9mmだけだ。
(どうすりゃいい?どうすりゃいいんだ・・・・)
「もう抵抗する気も無いか?やはりお主も役不足な相手よ・・」
 神奈が近づいてくる。今度こそ自分を確実にしとめるためにおそらく矢の回避不可能な範囲まで。
(仕方がない、一か八か!)
 そう、正に飛び出そうとしたその時。
「あきらああああっ!」
 別れてから数時間しか経っていないのに、何故か懐かしく感じる声が――聞こえた。

237 :激昂〜4:01/10/03 02:03 ID:98YBmHrE
(三行空け)
「うおおおおおっ!」

 ズガァァン!

「彰!死ぬな!今梓達もこっちに来る!」

 ズガァァン!ズガァァン!

 射程距離の外である事がわかっていても耕一はベレッタを撃つのを止めはしなかった。
 派手な行動によって、彰への注意を自分に逸らす。
 いわゆる『囮』だ。
(な、馬鹿な!あの男はこの彰とかいう男の為に、怪我を負ったはずの男ではないか!)
 そしてそれは、意外な形で神奈にも影響する。
(どうしてじゃ・・どうして皆、こうまでして他人を庇う?所詮、信じられるものなど何も無いと言うのに、ああ、不愉快じゃ・・)
「不愉快じゃああっ!」
 そう叫びながら、耕一達のいる位置に、無数の矢を放つ。
 おおよその方向に撃ったので命中率は低いが、威嚇には十分な効果を発揮した。
「うわ!な、なんだこりゃあ!」
「くっそう!隠れろあゆ!観月さん!」
「う、うぐううううう!」
「きゃあああああっ!」

 矢に襲われたものが、悲鳴をあげ、耕一達はまさに阿鼻叫喚の状態となった。

238 :激昂〜5:01/10/03 02:07 ID:98YBmHrE
(三行空け)
「はあ・・はあ・・はあ・・本当に不愉快な奴らじゃ。
あやつらの始末は後でするとして、まずはおぬしから・・・」
 そこで気付く、彰が――いつの間にか居ない。
「ど、何処じゃ!何処におる!」

 ピピピピピピ!

「そこにおるのか!」

 音のした方向に、三度矢を放つ。

 ヒュン!

 だが、何度撃っても手ごたえが無い。まるで、そこには居ないように。
(おかしい・・・様子が変じゃのう・・・)
 神奈もそれに気付き、音のする方向に駆け寄る。
 そして、
「なんじゃこれは!」
 そこにあったのは、
 アラームの鳴っている時計と、
 高野が持っていた、バッグだった。

「ゲーム・オーバー」

 神奈が、今度こそ確かに聞こえた人の声に振り向くと、
 サブマシンガン(イングラムM10)を構えた彰が、冷めた表情で立っていた。

239 :激昂〜6:01/10/03 02:10 ID:98YBmHrE

 パララララララララララッ!

「くうううっ!」
 避けれないと判断した神奈が己の身にかかる負担を承知で、障壁を張る。

 カカカカカカカカ!

 とっさに張った障壁だが、銃弾程度は弾く。
 が、
 爆発までは、防げない。
 
 パララララララララララッ!

 二度目のサブマシンガンの斉射が、
 高野の手榴弾入りのバッグを、蜂の巣にした。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオン!

(おっ、おのれえええ!かくなる上は!)
 身を焦がす熱で、神奈は本人の意識が消え去る前にスフィーの体から抜け出し、一度空に戻る。
 そして、それは、
 スフィー自身の死を、意味していた。

【スフィー 死亡】
【七瀬彰 軽傷 イングラムM10所持】
【残り 11人】

240 :激昂作者:01/10/03 02:14 ID:98YBmHrE
スイマセン。
彰の状態と残り人数の間に
【神奈 一時上空へ】
 をお願いします。

241 :なんでだろう…(1/2)By林檎:01/10/03 03:17 ID:G8reXLrA
 自分の手から三度矢が放たれる。
 右手が一瞬、魔力で熱くなるのが感じられた。
――ヒュン!――
 手応えは無い。
 身体が音のする方へ駆け寄る。
(あれはただのアラーム……)
 知識が自然とはじき出す。
「なんじゃこれは!」
(囮だ、アラームは囮、囮? 囮…囮……)
 麻痺した頭で同じ言葉が繰り返される。
 何か答えが出そうなのに出てこない。頭が答えを出すのを拒んでいるかのようだ。
 操られ始めて。抵抗して。逆らえなくて。自分の身体で人が殺されて。
 もう何も考えたくなかった。
「ゲーム・オーバー」
 振り向いた先に銃口。
(あ…、罠…)
 考えたくなかったのに、無情にも理性が答えを出した。

242 :なんでだろう…(2/2)By林檎:01/10/03 03:19 ID:G8reXLrA

「くうううっ!」
 口から出た言葉は、自分の意志で出した言葉では無い。
 意志で出せた言葉はもっと小さな声。
「いや……死にたくない…や…だ……」
――カカカカカカカカ!――
 自分を守ろうとする別の意志が障壁を張る。
 涙が頬を伝う。
 緊張でのどがカラカラに乾く。
「や…死ぬのは…死……」
 叫ぶことすらできなかった。
――パララララララララララッ!――
 二度目の斉射が近くのバッグを襲う。
 自分ではなく、明らかに狙いはバッグ。
 意味するところはわかった。
「ひ……」
(ひどいよ……)
 彰と目が合った。
 彼の顔は…。
(なんでだろう…)
 苦痛でひどく歪んでいた。
――ドゴオオオオオオオオオオオオオン!――
 

243 :名無しさんだよもん:01/10/04 02:36 ID:h00ZV.Wg
(´-`).。oO(なんでだろう…)

244 :名無しさんだよもん:01/10/04 11:55 ID:Nu/NjZds
【七瀬彰 軽傷 イスラム行き】

245 :名無しさんだよもん:01/10/04 11:58 ID:oBhZiR8g
まだ続いてたの

246 :名無しさんだよもん:01/10/04 14:37 ID:Nu/NjZds
>>245
最近マッタリしてるのよ

247 :名無しさんだよもん:01/10/04 16:01 ID:p0N3Jnw6
手詰まりじゃないの?
進行じゃなくて、面白く出来るかどうかに。

248 :名無しさんだよもん:01/10/04 16:27 ID:Eolfhokw
        / 、, ヽ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ,, -┬ | ^  ^ |< もう、ちびっとだけ続くぞい
   / ,-、,-(:|lこHこl|;) \_____
    |/|,゙,l| ,,┴ー.vー┴、   ヽ
  /  __|、|/'v'T'~^~Tヽl\   \
  |   {_Ξ}   ヽ,,,,,,/    \|   |
  \___/T'|'    | ''' |     |  /
     | l゚|     |┿|     |/
     | |l|     |┿|     |┤
    | |'|     |┿|     |┤
     |,__|゙|__,l人l_______|/
      | |,|          |
     `|'|          /
      l|、____λ__/
      !  v    v

249 :名無しさんだよもん:01/10/04 19:10 ID:90gosmkA
感想スレへ行こうよ。

250 :激昂修正版 『業火』〜1:01/10/04 21:32 ID:u6R.D7Io
「どうだい?それとも僕じゃ、役不足かな?」
 月明かりが二人に差し込み、彰の体がはっきりと神奈にも見える。
「おお、そなたは確か・・・」
 突然現れた彰を神奈が思い出すより早く、、
「そう、間抜けにも体を乗っ取られ、大切な人を殺してしまった愚かな男、七瀬彰さ」
 冷めきった言葉を、彼は口にした。

「それで彰とやら、一番大切なものをそなたから奪った余が憎いか?」
 おどけた口調の神奈。明らかな挑発。
「ああそうだ。憎いさ。彼女の首を絞めた僕自身と同じぐらいね」
 それに動じることなく、自分の思っている事を淡々と話す彰。
「でもさ、だから僕は」
その言葉と共に彰がシグ・ザウェルショート9mmを片手で構え、
「生きて、貴方を殺してやろうと思える!」
 躊躇いなく、引き金に、力を込めた。

 ダン!ダン!ダン!

「ふん、余はきっかけを与えたに過ぎん。事実そなたは、あの小娘を手に掛けようとしていたではないか」
 そう言いながらM4カービンを彰に向け、撃つ。

ズガガガガガガッ!

251 :激昂修正版 『業火』〜2:01/10/04 21:34 ID:u6R.D7Io

「違う!僕は初音に生き残って欲しかったんだ!だから彼女の甘い考えを振り払ってやろうとしてたんだよ!」

 ダン!ダン!

「ふん、所詮はおぬしの偽善よ、あの小娘が大切ならなぜ守ってやろうとしなかった?
 その上ちっぽけな己の嫉妬に付け込まれ、鬼程度の愚物に心を奪われて、仲間を傷つけ、殺そうとした。余が知らぬとでも思ったか?」

 ズガガガッ!ガガガッ!

「うるさい!お前みたいな化物に、僕の気持ちがわかってたまるか!」

 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!

「化物とは心外なことを申す、これでも余は羽以外、お主等と変わらんよ」

 ズガガガガッ!

「化物とかそうでないとか、そんなのは僕の知った事か!今、僕はお前が憎い!お前を殺す理由なんてそれだけで十分だ!」

 ガン!ガン!

 叫びと共に、銃を撃つ彰。
 それは初音が死んでから、初めて見せた激昂。
 彼は、すべての怒りを目の前にぶつけていた。

252 :激昂修正版 『業火』〜3:01/10/04 21:36 ID:u6R.D7Io
(三行空け)
 カチ!カチカチ!
「くそ!弾が・・・」
 当然である。
 後先を考えずに撃てば、こうなるのは当たり前だ。
「なんじゃ、この筒が無くなれば、何もできんとは。所詮、人間よの
 だが・・・・」
 同じく弾の切れたM4カービンを捨てた神奈が冷酷な笑みを浮かべ、右手を掲げる。
「余は、違うぞ」
 掲げた手に集まった光の矢。それを彰に向け、連続して放つ。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!

「うおっ!」

 ヒュン!グサッ!

「ぐおおおおっ!」
 急所への矢はなんとか何とか回避できたものの、右肩に矢が一本突き刺さった。
 すぐに矢は消えたが、確かに残る鈍い痛みが体中に広がる。
 ドサッ!
 彰の体がそのまま地面に倒れこみ、猛烈な痛みで、今にも意識が飛んでいきそうになる。
(まだだ!こんな所で死んでしまったら初音に合わす顔がない!どうにかしろ!考えるんだ彰・・・)
 神奈を殺すまでは死ねない。ただそのためだけに彼は頭を振り、立ち上がる。

 今、この状況で考えられる方法は二つ、突撃と狙撃。
 が、何も無い所から攻撃できる神奈は、いわば弾数の無い銃を持っているようなものだ。
 そんな奴に素手で突っ込むのは無謀だ、だから突撃は有り得ない。
 なら銃で致命傷を与える手段が最も効果的なのだが、自分には弾の入っていないショート9mmだけだ。
(どうすりゃいい?どうすりゃいいんだ・・・・)

253 :激昂修正版 『業火』〜4:01/10/04 21:36 ID:u6R.D7Io
「もう抵抗する気も無いか?やはりお主も役不足な相手よ・・」
 神奈が近づいてくる。今度こそ自分を確実にしとめるためにおそらく矢の回避不可能な範囲まで。
(仕方がない、一か八か!)
 そう、正に飛び出そうとしたその時。
「あきらああああっ!」
 別れてから数時間しか経っていないのに、何故か懐かしく感じる声が――聞こえた。
(三行空け)
「うおおおおおっ!」

 ズガァァン!

「彰!死ぬな!」

 ズガァァン!ズガァァン!

 射程距離の外である事がわかっていても耕一はベレッタを撃つのを止めはしなかった。
 派手な行動によって、彰への注意を自分に逸らす。
 いわゆる『囮』だ。

(な、馬鹿な!あの男はこの彰とかいう男の為に、傷を負ったはずの男ではないか!)
 そしてそれは、意外な形で神奈にも影響する。
(どうしてじゃ・・どうして皆、こうまでして他人を庇う?所詮、信じられるものなど何も無いと言うのに、ああ、不愉快じゃ・・)
「不愉快じゃああっ!」
 そう叫びながら、耕一達のいる位置に、無数の矢を放つ。
 おおよその方向に撃ったので命中率は低いが、威嚇には十分な効果を発揮した。
「うわ!な、なんだこりゃあ!」
 矢に襲われた耕一が、叫び声を上げる。

254 :激昂修正版 『業火』〜5:01/10/04 21:40 ID:u6R.D7Io
(三行空け)
「はあ・・はあ・・はあ・・本当に不愉快な奴らじゃ。
 あやつの始末は後でするとして、まずはおぬしから・・・」
 そこで気付く、彰が――いつの間にか居ない。
「ど、何処じゃ!何処におる!」

 ピピピピピピ!

「そこにおるのか!」

 音のした方向に、三度矢を放つ。

 ヒュン!

 だが、何度撃っても手ごたえが無い。まるで、そこには居ないように。
(おかしい・・・様子が変じゃのう・・・)
 神奈もそれに気付き、音のする方向に駆け寄る。
 そして、
「なんじゃこれは!」
 そこにあったのは、
 アラームの鳴っている時計と、
 高野が持っていた、バッグだった。

「ゲーム・オーバー」

 神奈が、今度こそ確かに聞こえた人の声に振り向くと、
 サブマシンガン(イングラムM10)を構えた彰が、何の感情持ってないような無表情で、立っていた。

 パララララララララララッ!

255 :激昂修正版 『業火』〜6:01/10/04 21:42 ID:u6R.D7Io
「くうううっ!」
 避けれないと判断した神奈が己の身にかかる負担を承知で、障壁を張る。

 カカカカカカカカ!

 とっさに張った障壁だが、銃弾程度は弾く。
 が、
 爆発までは、防げない。
 
 パララララララララララッ!

 二度目のサブマシンガンの斉射が、
 高野の手榴弾入りのバッグを、蜂の巣にした。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオン!

(なあっ!おのれえええ!かくなる上は!)
 危険を察知した神奈が、スフィ―から意識を切り離し、上空に飛んでいく。
 だが、その行為は
「あああああああああああっ!」
 意識の戻ったスフィーに、耐えがたい苦痛をもたらすものだった。

256 :激昂修正版 『業火』〜7:01/10/04 21:43 ID:u6R.D7Io
(三行空け)
 熱い熱い!息が出来ない!
「きゃああああああああああああっ!」
 死ぬ!このままでは死んでしまう!
 嫌だ!
(死にたくない・・や・・だ・・・・)
 燃える炎の中、スフィーは自らの運命を呪う。
(私が、なにをしたの?)
 そうだ、自分が――何をした?
 ゲームにだって乗ってない。
 脱出の方法だって、必死に考えた。
 だが、今の自分は、
 火の海で焼け尽きようとしているではないか!
(ああ・・・苦しい・・・死にたく・・・ない・・・死にたくな・・・い・・)
 体が力を失い、倒れこむ時間に彰と、目が合った。
 彼の顔は、申し訳なさそうに、
(どうして私を殺すの?私は何も悪くないのに!・・この・・・悪魔・・)
 苦痛でひどく歪んでいる、彰の表情。
 そんな彰を恨みながら、
「・・・ああああああああああっ!」
 断末魔の悲鳴と共に、彼女の何かが終わりを告げた。

257 :激昂修正版 『業火』〜8:01/10/04 21:45 ID:u6R.D7Io
 (三行空け)
「神奈を、やったのか?彰」
 いまだに燃え盛る、炎に身を裂かれるスフィーを見て苦りきった顔の彰に、耕一が駆け寄った。
「耕一・・・・・」
 駆け寄る耕一に、彰は目を合わせられない。
「いや、結局ギリギリの所で逃げられた。その証拠に、爆発の後すぐにスフィーさんの叫び声が上がったから多分、彼女は死んではいない」
 だから、耕一とは反対の方向を見ながら、彰は答えた。
「そうか・・・・・・」
 しばしの沈黙、だがそれは突如、
「なんでだ?・・・・」
 彰はたまらず、
「なんで、僕に何も聞かない?・・・・・・」
 そう、呟きながら、
「教えてやるよ、初音を殺したのは、僕なんだ
 僕が、あの細い首に力を込めて、殺したんだ。
 気付いてるんだろ?初音が一人で僕のところに向かったのは、お前だって知っているんだから?」
 その問いに、耕一は空を見上げ、
「知ってるさ。梓から聞いたしな」
 特に何の変化も無い声で、耕一が答える。
「だったら何で僕を助けた?僕が、憎くないのか?」
 彰の口から漏れる、悲痛な声。
 まるで殺してくれと、言わんばかりに。
「・・・梓からもう一つ聞いた。お前、死ぬ気なんだろ?」

258 :激昂修正版 『業火』〜9:01/10/04 21:47 ID:u6R.D7Io
 今度は、多少の苛つきが見える声で、今度は耕一が彰に問い掛ける。
「・・・・・・・まあね、今の僕なんて、生きててもしょうがない存在さ
 神奈との戦いが終わったら、僕は初音の所にいくつもり・・・・」
「この、大バカヤロォォォォォッ!」

 バキィ!

 手加減の無い、本気の一撃。
 彰の体が、地面にひれ伏す。
「ぐうっ、こ、こうい・・・」
 倒れている彰に、耕一が近寄って、
「てめえはとんでもないバカだ!そんな事して初音ちゃんが喜ぶとでも思ってんのか!?
 おい!言いか、よく聞け!」
 彰の胸倉をつかみながら、耕一は叫びつづける。
「お前が死んだって、初音ちゃんはちっとも喜びはしねえよ!
 死んでしまった人が願うのは、残された人の幸福だってことに、
 何でお前は気付かないんだ!?
 考えても見ろ!あの子がどれほどお前の事を思っていたか!
 鬼のせいで変わってしまったお前の事を、どれだけ心配したか!
 だから、初音ちゃんはお前が死ぬ事なんてこれっぽちも嬉しくない事に、どうしてお前は解らない?」
 悲痛な、声。
「だけど、もう僕は、スフィーさんだって殺してしまった
 神奈を倒すためとはいえ、もう僕には生きる資格なんて・・・」
「ああうるせぇ!俺がお前を助けたのは、今の事を言いたかっただけだ!
 後は自分でどうするか、今俺の言った事をよく考えて、自分で決めろ!
 もう俺は知らん!」

259 :激昂修正版 『業火』〜10:01/10/04 21:48 ID:u6R.D7Io
 そういうと耕一は、彰に背を向けて、耕一が駆けて来た方向に向かい、手を振り始めた。
 恐らく、梓さんたちが来たのだろう。
(うう、くそう・・・・)
 解っていた。
 今死ぬ事は、逃げる事だと。
 でも、それでみんな丸く収まると思っていた。
 千鶴さんも、梓さんも、耕一も、
 それでみんな、納得してくれると思っていた。
 だけど、初音は僕に死ぬなと言った、
 それなら僕は、彼女の居ないこの後どう生きていけっていうんだ?
「・・・・・・・・はつね、お前にあえない世界は、こんなに辛いんだな・・・」
 どうしようもなく寂しく、辛い気持ちが押し寄せて、
 耕一が梓さんを連れてくるまで
 今は亡き愛しい人を思い出して、少しの間、
 僕は泣いた。


【スフィー 死亡】
【七瀬彰 軽傷 イングラムM11所持】
【神奈 一時上空へ】

260 :激昂修正版 『業火』作者:01/10/04 22:08 ID:u6R.D7Io
 修正を、
 だけど、初音は僕に死ぬなと言ったを
 だけど、耕一は僕に死ぬなと言ったに、
 後、最後に
【残り 11人】をらっちーさん追加しておいてください。

修正案を考えて書いてみました。
自分としては激昂で書かなかったスフィーの最後や耕一の動きの説明を追加したつもりなんですが・・・

261 :激昂修正版 『業火』作者:01/10/04 23:06 ID:pi6QI2Hw
スイマセンもう一つ、
【七瀬彰 軽傷 イングラムM11所持】を
【七瀬彰 軽傷 イングラムM10所持】に
お願いします。

262 :業火作者:01/10/04 23:23 ID:Pzl7ScX2
もう一つだけ、
アラームの鳴っている時計と、を
アラームの鳴っている彰の腕時計と、に
何度もスイマセンがお願いします。
  

263 :標的(1):01/10/05 00:30 ID:UaswOyxo
特に何を語るわけでもなく。
もちろん、何ができるというわけでもなく。
北川は、ディスプレイをぼんやりと見つめながら、ただそこに居た。

(80%を越えた……さすがに、早いな)
ウィルスの除去が、驚くべき速さで進行しているようだった。
話す余裕はないのか、そうする気がないのか、ろくすっぽ説明はないままなのだが
ときおり除去作業の進捗情況をディスプレイに映してくれている。

観鈴を呼び止めたのは、自分のわがままだと思っている。
だがそれならそれで、かわりに気の効いた小話でも披露して、彼女を楽しませる位の
芸はある-----はずだった。
(ちぇ……びびってんのかね、俺)
今は何も、浮かばない。

足を投げ出して、腕を頭の後ろに組む。
(……87%)
彼女は、何所からか連れてきた動物と遊んでいる。
その姿は笑顔に彩られているが、ひどく寂しげだった。
だから。
何があったのか、聞こうと思っていた。
いや、聞くべきかどうか、迷っていた。

264 :標的(2):01/10/05 00:32 ID:UaswOyxo
すねのあたりで足を組み、天井を見つめる。
北川は、彼女の悲しみに明確な理由がある事を知っていた。
あれほど必死に観鈴を探していた往人が、死んだことだ。
彼女の母親も、時を同じくして死んだらしい。
道中で七瀬達からそんな話を聞いたのだが、彼女たちも詳しくは知らないようだった。

猫と戯れる観鈴の姿は、たしかに楽しそうではある。
だが彼女が望んでいるのは、猫ではないはずだ。
言ってしまえば、往人の存在なのではないだろうか。
(まったく…往人さん、恨みますよ…)

 つんつんっ!

心で呟くなり、烏が北川の両目に嘴を叩き込んだ。
「痛ェ!なんだこいつ!」
「カァーーーーッ!」
両目をおさえて椅子から飛び起き、烏の捕獲を試みる。
「烏のくせに、生意気なんだよ!!」
「クワッ!!」

265 :標的(3):01/10/05 00:32 ID:UaswOyxo
北川の挑戦は、もちろん成功しなかった。
ひらりと北川の両手を避けた烏が、逆に怪我をした北川の手に向かって嘴を振り下ろす。
「ぐおおおおおおおお!?」
痛みに床を転げまわる北川。
容赦なく追い撃ちをかける烏。
「にはは、北川さん、烏さんと仲良し。
 羨ましいかも」
「羨ましくなんかねええええええええ!!」
「クワーーーーー!」
気の効いた小話どころか、怒鳴るだけで精一杯だった。

しかし世の中、悪い事ばかりでもない。
ディスプレイには、100%の表示が燦然と灯っていた。
そして続くCD解析のゲージは、もともと終盤に差し掛かっていたのだ。
(もう少しだな…)

 自らの危険を伴う、希望の扉。
 邪魔な鍵は、次々と外されていく。

 扉を開いた、その先には。
 一体何が-----あるのだろう?

266 :標的(4):01/10/05 00:34 ID:UaswOyxo
(ぬかったわ…)
神奈は再び上空に登り、その意志のみで存在していた。
再び、多くの力を失っている。
神奈が油断していたせいもあるが、彼女にとっての不幸も多かったのだ。

だが一方で、スフィーの死は彼女にとっての活力にもなった。
彰への恨みを抱いて死んだ彼女の無念は、神奈の好む味付けがこってりと為されていたからだ。
そのためトータル的には、それほど大きなダメージではないとも言える。
(……とは言え、このままでは…消えてしまいかねん)

依り代が、必要だった。

目処はもう着いている。
いや、その表現は正しくない。
一目見た瞬間に-----決めていた。
(あの娘。あの身体こそが。 余の力を、存分に引き出すであろう)

もともと神奈は、さほどその娘を評価していなかった。
能力にも、精神にも、神奈の価値感では強さを認める事ができなかったからだ。
だから岩場を移動していたとき、その存在を感じたにも関わらず、思うところは何もなかった。

だが鬼飼いの男の隣に立つ、娘の姿を直に視界に捕らえた時。
……認識は、急変した。

267 :標的(5):01/10/05 00:35 ID:UaswOyxo
 もしあの身体に依ることができたなら。
 魔法を使える程度の身体など-----なんの未練もない。

もはや他の人間など、どうでもよかった。
全力を傾けてでも、あの身体を乗っ取れば、恐れるものなど何もないのだから。

 コンピューター室の、狭く小さな大気の中で。
 神奈の意識は、じっと観鈴の姿を見つめていた。


【ウィルス駆除終了】
【CD解析再開】

【北川 そらに敗北】

268 :名無したちの挽歌:01/10/05 00:38 ID:UaswOyxo
議論の時間は、終了したようですね。
「標的」をお送りいたします。

>>265>>266の間は3行、その他のレス間は一行づつあけて下さいませ。

269 :雨の中_1:01/10/05 23:31 ID:0VugpfSE
――時は少し遡る。

「で、梓さん。ボクたち耕一さんを捜しにきたのに、なんで隠れてるの?」
 あゆの疑問は当然だった。
 梓は決めかねていたのだ。
 あそこに今すぐ、闖入したものかどうか。
 それに、耕一の真意も知りたかった。
 だから梓は、あゆの疑問が口に出されるまで迷っていたのだ。
 しかし、あゆの言葉が梓を吹っ切らせた。
(そうだよな、こんなところでじっとしてるなんて、わたしらしくもない)
 梓は一人大きく頷くと、あゆの手を引いて歩き出した。
「あれあれ? 梓さん、今度はどうしたの?」
 戸惑うあゆの手を引く、梓は大股で歩いた。
「耕一、行くよ!!」
 人の近付く音と、それに続いて上がった梓の声に、耕一とマナは驚くようにして互いの体を離した。
「なに、鼻の下延ばしてるんだよ、耕一。いいかい? このくそったれのゲームを終わらせようと、みんな集まってる。遊んでる暇はないんだ。急ぐよ!」
 堂々と言い放つ梓。
 数刻前にはかなり消耗していたのを忘れたかのように。
 必要なときにはいくらでも元気に振る舞まってみせる、それが柏木梓だ。
「あ、いや、これは、その、別になんでもないんだ。そう、なんでもないんだよ、梓。て、ゆーか……」
 いつもの調子で現れた梓に、つい慌てふためいてしまった耕一だった。
「何をあわててるんだよ、耕一?」
 まるで何も見ていなかったかのように梓は言った。
「あ、いや、これは、その、えーと……」
 マナは耕一から離れたまま顔を赤くして、梓に目を合わせずらそうにしていたが、やがて思いついたようにまくしたてはじめた。
「大体、こ、耕一さんが、足場のしっかりした場所を選んでくれないから、膝がカクッてなっちゃったでしょ、カクッて! それにわたしが、毒のせいで体力落ちてるの、分かってるクセに……」
 ムキになっているように見えるマナを、梓は微笑ましく思った。

270 :雨の中_2:01/10/05 23:35 ID:0VugpfSE
「もう、あたしがちょっと弱気になったからって、男の人っていつもそうなんだから」
「え? ちょっと、マナちゃん、それは……!!」
 何だか情勢があやしくなって来て、耕一は慌てふためきながら口を挟む。
「男のクセに、言い訳しない!!」
 マナの伝家の宝刀が今、再び耕一のすねに炸裂した!!
 全身に包帯を巻いた男が、すねを抱えて地を転げる様は実に痛々しい。
 耕一のそんな様子にマナは気遣う様子もなくそっぽを向いた。
(わたしが勝手に盛り上がってただけなのは判ってたのよ、この特殊な状況で。そう、だから……。
 わたしはただ、この島で色々なことが起こりすぎて、そんな中でちょっと優しさに寄りかかってみたかっただけ。
 どしゃ降りの雨の中、軒先でそれが通り過ぎるのを待つように……。
 そこから出ていくのがちょっとだけ腹立たしいから。八つ当たりでごめんね、耕一さん……)
 マナの思いは胸の中。
 それを読みとれる者はなく。
 ただ森の暗闇の中、耕一の呻きだけが低く響く。
 
 
 
 耕一が気の済むまで転げ回ったところで、事態は一段落した。
 あゆが耕一を助け起こし、今度はマナの機嫌を伺っている。
 起きあがった耕一は少しばかり何事かを呟いていたが、間もなく言葉を切り、梓に向き直った。
 そして、ほっとしたような笑みを見せる。
「そ、か。どうやら、落ち着いたみたいだな、梓。正直、あの時は俺も、どうなっちまうのかと思ったよ……」
 静かに梓を見つめる耕一。
 しかし……。
「ごめん、耕一。でも、今はそのことに……」
 明るく振る舞っていた梓の表情に影が墜ちる。
 耕一に皆に、梓は背を向けてうつむいた。
 失った初音のことに、今は触れて欲しくないと梓。
 それを悟り、黙る耕一。
 僅かな沈黙が森を支配する。

271 :雨の中_3_End:01/10/05 23:37 ID:0VugpfSE
「ほんとうに、ごめん……」
 梓はつぶやく。
 やがて梓はもう一度だけ頷いた。
 表情を引き締めて振り返り、3人に告げる。
「さあ、本当に急ぐよ。他のみんなの状況は、歩きながら話すことにしたいと思う」
 一同に視線をくれたあと、梓は率先して歩き出した。
 それにつられるように、皆歩き出す。
(これ以上、わたしは失敗を重ねたくない。これ以上、誰も犠牲にはしたくない。
 絶対に、これ以上、これ以上……)
 
 
    
 気を張っている梓だったが、しかし、その消耗は本人が思っているよりも大きかった。
 それゆえ、後に彰を救うため突出した耕一に、ついてゆくことが出来なかったのである……。

272 :セルゲイ@D:01/10/05 23:41 ID:0VugpfSE
『雨の中』です。
最初に書きかけてから随分時間が経ってしまったので、
そのまま挙げるのも芸がないと色々いじくり回してました。
最終的には結局元の形に戻しましたけど。マヌケだw

273 :意志の力は魔法の力(1/3)By林檎:01/10/05 23:43 ID:G5ZjDwC6
「なん…だ…?」
 色のついた霧が部屋の中央に集まっていく。
 北川は目を疑った。
 それが人の形へと収束していく。
 彼にも分かった。
 これから不吉なことが起こるであろうと。
 自分には、スフィーにおそらく訪れたであろう死を悲しむ間さえないのだと。
「我が名は神奈備前…」
 何事も見透かし、何事にも冷めているかのような瞳。
「小娘…」
 この世のものとは思えない美麗な顔立ち。
「お主の身体をもらいうける…」
 全身から放たれるすさまじいプレッシャー。
 人外とはまさにこのこと。
「が…がお…」
 観鈴には理解しがたい台詞。
 身体をもらいうけるはなんだろう。
――カチャリ――
「待ちな。彼女には手を出させない」
 彼だって意味はよくわからなかっただろう。
 北川が神奈に銃を向ける。
 ステアーTMP。
 

274 :意志の力は魔法の力(2/3)By林檎:01/10/05 23:44 ID:G5ZjDwC6
「この状態の余に、ろくに意志も篭められぬ飛び道具が効くわけなかろう」
「うるせぇ! わけわかんねーこと言うな!!」
 神奈の胸に狙いを定める。
「やってやるぜぇぇっ!!」
――バン!――
――パァァアアン――
 素人にしては上等。銃弾は神奈の腕に命中した。
 そして不可思議な音を立てその腕が霧散する。
 意志の力は魔法の力。
 神奈が驚きの表情になる。
「ほう…。なかなかの意志力。もしかしたらこのまま余を滅ぼせるかもしれぬぞ?」
 北川は迷わず撃ち続ける。
 弾丸が命中するたびに神奈の一部が霧散して消える。
――バン!――
 そして最後の一発が頭を消滅させた。
 残ったのは右腕と左脚のみ。
 空に浮かぶかのように残った。
 が……。
 

275 :意志の力は魔法の力(3/3)By林檎:01/10/05 23:45 ID:G5ZjDwC6
 その右腕が動いた。
――ゴオォォォオオオ!!――
 轟音。
 北川の身体が木の葉の様に舞い、メインコンピュータに叩きつけられる。
「我ながら情けない破壊力よ…」
 北川の目に映るのは、現れた時とほぼ変わらぬ姿の神奈。
「く…くそ……! 効いてねーじゃねーかよ!」
「いや、効いておったよ。そうじゃな。柱のカドに頭をぶつけたといったところかのぉ」
 まだ再生しきれていない左手を見せつける。
「余も完璧ではない。そう…まだ完璧ではないのじゃよ」
 そして観鈴へとふりかえる。
「だからそなたの身体を…いただくとしよう」
 少し離れたところで立ちすくんでいた観鈴。
 彼女に向かって神奈が一歩進む。
「が…がお……」
「神尾さん……逃げ………逃げろ!」
 北川の気迫と、神奈の圧力で観鈴の足が一歩後退する。
 と同時に彼女を襲う、上下の無い世界へと迷い込んだかのような錯覚。
 一回転するような勢いで無様に転倒した。
「知らなかったのか?」
 また一歩、お互いの距離が縮まった。
「神奈備前からは逃げられない」
 観鈴を守れる人間は誰もいない。

【神奈備前 メインコンピュータルームに侵入】
【北川 衝撃波を受けて吹っ飛ばされる】
【観鈴 なにかしらの力で転倒】

276 :林檎:01/10/06 00:09 ID:BVplv7m2
すいません、訂正です。
なぜかえんえんと「神奈備命」が「神奈備前」になってました(汗
お手数ですが、収録の際訂正をお願いします

277 :捕える者、阻む者[1]:01/10/06 02:48 ID:4XB3DBjg
衝撃が北川の背中から全身へと伝わった。息が詰まる。
飛びそうになる意識をふんづかまえながら叫ぶ。
「神尾さん……逃げ………逃げろぉ!」
根性でこじあけている瞼。その内の瞳には、無様に転ぶ観鈴の姿。
「知らなかったのか?神奈備前からは逃げられない」
言いながら、光は観鈴との距離を詰めていく。
(クソ……あの妙な転び方も、てめーの仕業かよ……)
俺の右手の銃には玉が何発残っている?いや、そもそも右手は動かせるのか?
ぐっ、と腕に力をこめる。節々に走る激痛。気まで遠くなりやがる。
動くさ。動け。動かせ、俺!



神奈備前からの強烈なプレッシャーに、観鈴は逃げるどころか、足がすくんで動かせなくなっている、と言うのが実情だった。
神奈備前から手が伸びる……のが、観鈴には見えた気がした。
その手は、ココロの芯を捕らえるように胸元に伸び……
音も無く、観鈴の「内側」に入っていった。

278 :捕える者、阻む者[2]:01/10/06 02:49 ID:4XB3DBjg
【三行開けです】

(わたし……わたしは……)
観鈴のココロに伸びた手は、それを包み込むように、ゆっくりと。
(寒いよ……冷たいよぉ……)
そして、それをしっかりと制圧できるように、厚く。
(が……がぉ………)
その、冷たい、手は。
(いやだよ……こわいよ……)
観鈴の、ココロを、握り、潰……




銃声が響いた。
ステアーTMPの銃弾は、観鈴に伸びた神奈備前のその腕を、空を切り貫いていた。
「うぬうッ!!」
苦悶、と言うわけでもなかったが、神奈備前は確かにその表情をゆがめ、観鈴の中の手をひいた。
「今だ神尾さんッ!逃げろ!!」
ぶるぶると震える手で、それでもその手の銃口は神奈備前を捕らえたまま、北川は無心で叫ぶ。

279 :捕える者、阻む者[3]:01/10/06 02:52 ID:4XB3DBjg
「……うう」
観鈴はその場にうずくまり、凍えるようにして体を震わせていた。
(・・・・・・?)
突然の事に北川の思考が一瞬とまる。しかし北川の頭脳はまたすぐに、いささか偏った回転をはじめる。
(さっきの接触の所為か?)
北川は一瞬で原因を推察する。と同時に、事態が全く好転しなかった事も察知する。
むしろ美鈴が動けなくなった分、事態は悪化したとも言える事まで理解する。
「おのれ……誰も彼も、余の行動を妨げる……」
嫌悪感か、殺気か。とにかくそれは、北川に向けて発せられていた。
「く、くそっ!」
立てつづけに2発。その銃弾は神奈備前の体を貫き……否、神奈備前の体をすり抜け……
奥の壁に穴を開けるに至った。
「先程の念はなんだったのだ……先程の念をもってすれば、余を消滅せしめることも可能であったろうに……」
失望した、と言わんばかりの表情と口調でそう言い捨てると、神奈備前は観鈴に向き直る。
また、あの手が伸びていく……

メインモニターから発せられたその音は、北川、神奈備前、観鈴、あるいは今はこの部屋にいない者の耳にも届いたであろう。
神奈備前は、思わずそちらを振り返る。
北川は、CD解析のゲージの表示が、99%から100%になり、バーがすべて埋まるのを、確かにみた。



【観鈴、神奈備前の干渉を受け精神的ダメージ。】
【北川、致命傷でこそないがダメージ甚大。】
【神奈備前、注意がメインモニターへ。】
【解析完了アラーム、鳴り響く。】

280 :River.:01/10/06 02:55 ID:4XB3DBjg
ども川など書いていたRiver.ですこんばんわ。
何気に本編は(いまさら)はじめてですがよろしくおねがいします。
修正、ツッコミお待ちしております。

281 :捕える者、阻む者(修正版)[1]:01/10/06 23:50 ID:4XB3DBjg
衝撃が北川の背中から全身へと伝わった。息が詰まる。
飛びそうになる意識をふんづかまえながら叫ぶ。
「神尾さん……逃げ………逃げろぉ!」
根性でこじあけている瞼。その内の瞳には、無様に転ぶ観鈴の姿。
一回転しますといわんばかりの勢いで転倒した観鈴を見て、ああ 俺、何やってるんだろう。と言う思いが頭をかすめた。
「知らなかったのか?神奈備命からは逃げられない」
言いながら、神奈備命は観鈴との距離を詰めていく。
(なんだ……クソ……神尾さんのあの妙な転び方も、てめーの仕業かよ……)
銃の弾倉にはもう玉は残っていないようだ。クソ!銃なんか投げても大したダメージには……!
ナイフ、ナイフがあったか。確かこっちのポケットに……

そのとき、北川の視界の端に、あるものが止まった。



神奈備命からの強烈なプレッシャーに、観鈴は逃げるどころか、足がすくんで動かせなくなっている、と言うのが実情だった。
神奈備命から手が伸びていく。目を凝らせば、床のタイルの模様が透けて見えるのが観鈴にもわかったかもしれない。
その手は、ココロの芯を捕らえるように胸元に伸び……
音も無く、観鈴の「内側」に入っていった。

282 :捕える者、阻む者(修正版)[2]:01/10/06 23:53 ID:4XB3DBjg
【三行開けです】

(わたし……わたしは……)
観鈴のココロに伸びた手は、それを包み込むように、ゆっくりと。
(寒いよ……冷たいよぉ……)
そして、それをしっかりと制圧できるように、厚く。
(が……がぉ………)
その、冷たい、手は。
(いやだよ……こわいよ……)
観鈴の、ココロを、握り、潰―――

283 :捕える者、阻む者(修正版)[3]:01/10/07 00:24 ID:QPsihrvA
「おりゃあぁぁッ!!」
「クケーーーーーーーーッ!!」
一人と一匹の怒声が響いた。

凄まじい勢いで飛んでいく烏と、その嘴は、観鈴に伸びた神奈備命のその腕を、空を切り貫いていた。
「うぬうッ!!」
神奈備命は確かにその顔を苦悶の表情にゆがめ、観鈴の中の手をひいた。
「クワオッ!?」
直後、烏は壁に激突し、床に力なく落下した。
そしてやおら立ち上がり、千鳥足とも言えるであろう足取りでしばらくふらふらとさまよった後、気絶した。
「今だ神尾さんッ!逃げろ!!」
全力で烏を投げつけた反動でくらくらしながらも、北川は一心に叫んだ。

「……うう」
観鈴はその場にうずくまり、凍えるようにして体を震わせていた。
(・・・・・・?)
突然の事に北川の思考が一瞬とまる。しかし北川の頭脳はすぐに活動を再開し、いささか偏った知識が頭のなかを巡り始める。
(さっきの接触の所為か?)
北川は一瞬で原因を推察する。と同時に、事態が全く好転しなかった事も察知する。
むしろ美鈴が動けなくなった分、事態は悪化したとも言える事まで理解する。
「おのれ……誰も彼も、余の行動を妨げる……」
嫌悪感か、殺気か。とにかくそれは、北川に向けて発せられていた。
「く、くそっ!」
北川はナイフを投げつける。さすがにそこは素人、回転しながら飛んでいくナイフは、しかし神奈の体の中心を捕らえていた。

「……!!」
神奈備命の表情がはじめて恐怖に変わった。もしもあのナイフに先程自分の手を切り裂いたほどの意志力が篭もっているとしたら―――!

284 :捕える者、阻む者(修正版)[終]:01/10/07 00:25 ID:QPsihrvA
ナイフは神奈備命の体を貫き―――否、神奈備命の体をすり抜け―――

奥の壁に当たり、床に落ちる。部屋に響き渡る金属音が、空しかった。
神奈備命の表情に、先程の恐怖は微塵も無かった。
「なるほど……先程の意思力は、お前だけではない、あの生物のものでもあったということか……
下等生物の分際であれほどの意思力を備え持ち、生意気に翼までつけておる……!」
神奈備命は、烏と北川を交互に睨みつけながら言う。苛立ち、怒気―――神奈備命の発するプレッシャーが強くなった気がした。
が、すぐに観鈴に向き直り、言う。
「……そこまでしてこの体を護りたいか。じゃが、これは既に余のものじゃ。
この体を依代とできれば、余の力は……」
そして、またあの手が伸びていく……



メインモニターから発せられたその音は、北川、神奈備命、観鈴、あるいは今はこの部屋にいない者の耳にも届いたであろう。
神奈備命はその手を止め、思わずそちらを振り返る。
北川は、CD解析のゲージの表示が、99%から100%になり、バーがすべて埋まるのを、確かにみた。

【観鈴、神奈備前の干渉を受け精神的ダメージ。】
【北川、致命傷でこそないがダメージ甚大。】
【神奈備命、注意がメインモニターへ。】
【烏、気絶。】
【解析完了アラーム、鳴り響く。】

285 :River.:01/10/07 00:28 ID:QPsihrvA
River.ですこんばんわ。というわけで色々修正してみました。
残弾の問題、それに林檎さんの4つの指摘も改善できたと思われます。
いや 人が駄目なら獣ならいいかな と。
コンピュータールームには烏(そら?)がいることが「標的」で書かれていたので大丈夫かな と。

286 :River.:01/10/07 00:49 ID:QPsihrvA
またやっちまいました。
[1]の1行目の後1行開けて、以下のパートを追加してください。


目に見えるものがすべてブレる。それでも神奈備命とやらの姿をオレの目は捉えていた。
その姿は、今、自分がかき消したはずの体のパーツが、ほとんど元に戻っているというありさまだ。
思わず叫ぶ。
「く…くそ……、効いてねーじゃねーかよ!」
「いや、効いておったよ。そうじゃな。柱のカドに頭をぶつけたといったところかのぉ」
そういうこと訊いてるんじゃねえっつの。
「余も完璧ではない。そう…まだ完璧ではないのじゃよ」
ち その証拠が、まだ生えてきてない左手ですよってか。ピッコロ大魔王かよ。クソ。
「だからそなたの身体を…いただくとしよう」
神奈備命が神尾さんに向き直って、言った。
そして、一歩、距離を詰める。
「が…がお……」
あの分からないすごみの言葉を神尾さんは発した。いまはそう言う場合じゃねえって!

追加は以上です。また、直後の行の「無様に転ぶ観鈴の姿」を「妙な軌道で転倒する神尾さんの姿」に
最後の【神奈備命、注意がメインモニターへ。】の「神奈備前」を「神奈備命」に。

これで全部かな……や まだ何かあるような……皆さんお手数かけます……

287 :遺志、そして意志(1):01/10/07 01:19 ID:QizKkm2.
 けたたましく響くアラームの中で。
 神奈、北川、観鈴、ぴろ、ポチ――
 そらの目覚めに――魂の叫びに気付くことができた者は誰もいなかった。

 それは溢れ出る記憶――『俺』の現出だった。



 やっと観鈴に会えたのに、俺は何をやってるんだ?
 あの姫君に好き勝手やられっぱなしじゃないか。
 もう残された時間も少ないってのに――

 もはや人ではない俺が、俺を俺として認識できる状況になっている。
 それは俺自身の崩壊を示唆していた。
 烏の器では、俺の人間としての全てを受け止めきることはできない。
 『私』の計らいにより延命はされていたが、こうなってしまった以上、崩壊
は避けられ得ぬものだった。もう俺の崩壊は避けられない。せめて、俺と共存
していた『ぼく』や『私』だけでも無事で済むことを祈るしかない。

 俺にはもう。
 あいつのお守りはできないけれど。
 あいつの側にいてやるって約束すら守れないかもしれないけれど。
 そうだな、北川。お前になら頼めそうだな。この際贅沢は言ってられないか。
俺のことをぶん投げたのは水に流してやる。だから。
 観鈴のこと、頼む――

――国崎往人としての記憶も、意志も、そこで壊れた。

288 :遺志、そして意志(2):01/10/07 01:21 ID:QizKkm2.
 だが、遺志だけは継がれていた。
 あれだけ激しい衝撃を受けたのだ。本来ならばしばらく動けないはずだった。
しかし、遺志には失われていた意識を覚醒させるだけの力があった。
(……ぼくが、なにかをしなくちゃいけない)
 その遺志は『俺』のものだった。でもそれは、『私』の、そしてぼくの意志
でもある。紛れもない、そらの意志。
 彼女を。
 観鈴を守らなくちゃいけない。
(でも、どうやって?)
 わからない。けれど。

 観鈴を守らなくちゃいけないんだ。



【そら、目覚める】
【そらの中の『俺』消滅、その遺志は受け継がれる】

※レスごとの改行は三行で。

289 :遺志、そして意志――まもるべきもの――(1):01/10/07 04:24 ID:QizKkm2.
 引き金としては十分すぎる光景。
 神奈、北川、観鈴――
 そして状況の変化に戸惑っていた、ぴろ、ポチ――
 部屋にいた全ての者が、そらの魂の雄叫びに圧倒された。

 それは溢れ出る記憶――『俺』の現出だった。



 やっと観鈴に会えたのに、俺は何をやってるんだ?
 あの姫君に好き勝手やられっぱなしじゃないか。
 もう残された時間も少ないってのに――

 もはや人ではない俺が、俺を俺として認識できる状況になっている。
 それは俺自身の崩壊を示唆していた。
 烏の器では、俺の人間としての全てを受け止めきることはできない。
 『私』の計らいにより延命はされていたが、こうなってしまった以上、崩壊
は避けられ得ぬものだった。もう俺の崩壊は避けられない。せめて、俺と共存
していた『ぼく』や『私』だけでも無事で済むことを祈るしかない。

 俺にはもう。
 あいつのお守りはできないけれど。
 あいつの側にいてやるって約束すら守れないかもしれないけれど。
 そうだな、北川。お前になら頼めそうだな。この際贅沢は言ってられないか。
お前はまだ、笑えるんだよな? だったら。
 観鈴のこと、頼む――

――国崎往人としての記憶も、意志も、そこで壊れた。

290 :遺志、そして意志――まもるべきもの――(2):01/10/07 04:28 ID:QizKkm2.
 だが、遺志だけは継がれていた。
(ぼくが、なにかをしなくちゃいけない)
 その遺志は『俺』のものだった。でもそれは、『私』の、そしてぼくの意志
でもある。
 紛れもない、そらの意志。

 彼女を。
 観鈴を守らなくちゃいけない。
(でも、どうやって?)
 わからない。けれど。

 観鈴を守らなくちゃいけないんだ。



【そらの中の『俺』消滅、その遺志は受け継がれる】

※各レス間の改行は三行で。
※「捕える者、阻む者」アナザー逝き宣言を受け、
 「意志の力は魔法の力」から続く話として修正を行いました。
 修正前の話はアナザーということでお願いいたします。

291 :夏、青空の少女―She is waiting in the air―:01/10/08 05:31 ID:5PHBHCDs
 人の力は、弱くて儚い。
 一歩一歩観鈴に近寄る神奈に北川は殴り掛かろうとした。
 だか、その拳の届く前に、目に見えぬ力ではねとばされる。
 人の力は、弱くて、儚い。
 無駄だとわかっていても、ただ叫び、起き上がり、そしてはね飛ばされることしかできなかった。

 鳥は自由に空を飛ぶ力を持っている。
 だがそれは、空のないこの場所では殆ど意味を持たない。
 漠然とした衝動だけを頼りに、そらは神奈にむかう。
 神奈は全く相手にしない。やはり神奈に届く前にはね飛ばされてしまう。
 翼は、今、何の意味も持たない。
 無駄だとわかっていても、ただ飛び掛かり続け、何度も何度も繰り返して。

 瞳が、姿を捉えて放さない。
 逃げたいと思っても、体が反応しない。
 近付いてくる得体の知れない少女を前に、ただ座り込み、震えるだけ。

「自分の肉体に還るのは……久方ぶりだの……」

 やがて、神奈の姿が観鈴と重なり。
 少女達は、一つになった。

 自らの無力を呪う絶叫が響く。
 自分ではない自分が託した意志を果たせなかった、悔しさを込めた鳴き声がする。
 観鈴であった少女は立ち上がり、そして、笑った。
 無邪気な、少女の笑顔で、無力な者達に手を向けた。

292 :夏、青空の少女―She is waiting in the air―:01/10/08 05:33 ID:5PHBHCDs
………………………………………………………………………………………………………


 色のない、光か闇かもわからない空間を、観鈴は登っていった。
 上下も左右もないはずなのに、『登っている』感覚だけがわかる。
 最期に見たはずの光景。自分と少女が一つになる瞬間。
 何も記憶に残ってなく、『わたし』がただそこをただよっているという認識がある。
 まるで、夢の中にいるようだった。


 たくさんの記憶を遡っていく。
 自分と同じ運命を辿った少女達の記憶を。
 そして、いくつもの時間の中で、白い羽根が導いた出来事を。
 大道芸人として果てのない旅をしている女と、彼女が助けられなかった女の子。
 生まれてくることを許されなかった少女の幻影。
 呪われた子どもを持った女と、時を超えて彼女の意識を受け取ってしまった少女。
 数え切れないほどの、夢の欠片を追っていた。
 たくさんの自分や羽根。それに関わった者達の記憶。
 その殆どは哀しみの色で塗り尽くされており、観鈴の心の染めていった。

293 :夏、青空の少女―She is waiting in the air―:01/10/08 05:34 ID:5PHBHCDs
 世界に色が満ちてゆく。
 青と、白のコントラスト。
 たどりついた先は、夏、青空の下。流れる風の中。
 見下ろすと、山道が見えた。
 そして、一人の男の死体と、それにしがみつく少女の姿。

「りゅうやどのぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」

 叫び声が、世界を揺らした。
 観鈴の心を、揺さぶった。


………………………………………………………………………………………………………

294 :夏、青空の少女―She is waiting in the air―:01/10/08 05:35 ID:5PHBHCDs
 哀しかっただけなんだ。
 心が、かなしさにうめつくされて、なにもわからなくなっちゃったんだ。
 だけど……。
 だからって、みんな、多分あなたを許さないから。
 例えこの苦しみを知ったとしても、みんなも同じ苦しみをかかえているはずだから。
 だから、せめて。
 わたしはあなたに還って、ずっと一緒にいる……。


【神尾観鈴、神奈の内部で意識消滅】

295 :L.A.R.注釈:01/10/08 08:30 ID:5PHBHCDs
意識消失と書きましたが、観鈴の肉体は神奈にとられているだけで死んでいません。
展開によっては意識回復する可能性も当然あります。

作者的には、神奈と同化している間は絶対に回復はありえないつもりで書いてますが、
作中でハッキリ明言しているわけではないので、その辺は御自由にと。

296 :たった一つの……:01/10/08 11:05 ID:5PHBHCDs
「実に心地よい……」
「自分に近い体を再び持てること……」
「その、なんと心地よいことか……」
「わかるか? 無力な人よ……」

 話ながら次々と容赦なく襲いかかる攻撃の前に、北川は成す術もなかった。
 そらは最初の一撃で、既に意識を失っている。
 いっそ、そうなった方がどれだけ楽だっただろう。
 しかし、それは許されなかった。
 CDを発動させる、その仕事を終えずして倒れることは、北川自身許せなかった。
「なかなか耐えるではないか。余もそろそろ飽きた故、終わりにしてやろう」
 神奈に乗っ取られた観鈴の顔が、はじめて冷酷に歪んだ。
(まだか……まだ終わらないのか何やってんだよ!)
 この際、自分の命が助かることに興味はなかった。
 だが、自分は結局何も出来ないまま死ぬのは嫌だ。
 先に逝った仲間に、友に、会わせる顔がないではないか。
 全ての鍵を握るCDを、ずっと所有していたのは北川だった。
 そして寄り道をせずにメインコンピューターのあるこの場所を目指すことだって出来たはずだった。
 もう少し早くこの場所に辿り着いていれば、CDを動かせていたとすれば。
 せめて、スフィーくらいは死ぬことはなかったと思った。
 皆を苦しめたのは、間接的に自分のせいであると思う。
 そんな自分が、たったひとつ与えられた仕事もできずに、終わってしまうのだろうか。
(ちくしょうっ……俺は一体何なんだよ……っ!)

297 :たった一つの:01/10/08 11:06 ID:5PHBHCDs
「そんなに後ろのそれが気になるか?」
 北川はハッと、神奈の目を見た。
「余は先程の女の記憶も覗いておる。そう驚く事はないであろ。
 あの女がおぬしに希望を託したことも知っておるぞ?」
「なら……」
 神奈を見る目に怒りがこもる。
「ならなんだってんだよ……」
「残念よのと言うておる」
「っ!」
 怒りで誰かを殺せたら……北川はこの時始めてそう思った。
「それは余にとってあまり好ましくないものであるそうじゃ。
 いっそおぬしの命を奪う前に、片付けて――」
「やめろっ!」
「……そう言うと思ったぞ。
 そこで、余がおぬしに一つ機会を与えてやろう。
 余がそれを破壊することをその場で見届けるなら、余に手をあげたことは水に流す。
 おぬしの命は、今は見逃そうというわけじゃ。
 それができぬなら、おぬしを殺したすぐ後にそれも一緒に破壊してくれよう。
 どうじゃ、面白いであろ。五つ数える間に自分で決めよ」

298 :たった一つの……:01/10/08 11:08 ID:5PHBHCDs
 選択肢は始めから一つしかない。
「五つ……」
 どちらが、より長く、機械を生かせるか。
「四つ……」
 ただそれだけだった。
「三つ……」
 そのわずかの時間差で、誰かがこの場にかけこみ、なんとかしてくれるかもしれない。
「二つ……」
 可能性に賭ける他なく、また与えられた選択肢以外に、道は思い浮かばなかった。
「一つ……」
「俺を先に殺せよ」
「……それの時間稼ぎを選んだか。
 余の問いかけに時間を置いて応えたのも、時間稼ぎの一つじゃな。
 自分の命を捨ててでもというわけじゃ……」
「……」
「いい心構えと言うておこう。
 だが、それが、余にとては実に不愉快じゃ」
 力のイメージを形作り、神奈は北川の胸に意識を解き放った。

299 :たった一つの……:01/10/08 11:10 ID:5PHBHCDs
 結局、何もできずに終わってしまった……。
 口では都合のいいことを言いながら、観鈴を助けることも、CDを動かすこともできなかった。
 スフィーの顔が脳裏に浮かんだ。
 彼女はかつて何と言っていただろうか。

『確かに魔法の力はある方がいいわ、でもねこれは呪文の手順をほとんど機械化しているの。
 この魔法を成功させるポイントはそれに対する想いよ。
 魔法って言うのは想いを実現させる物、想う力が強ければそれだけ魔法は威力を増す。
 私じゃなくてもこの呪文は発動できる。そしてそれだけの想いを持っている人を二人知っている。
 一人目は芹香さん この人は黒魔術を使えるんだから間違いなく成功するわ。
 そしてもう一人はね……アンタよ。』

 最後に、一つの可能性が北川の頭をよぎった。
 まさか、そんなことでいいのか?
 この台詞を曲解しないと、その結論には届きそうもない。
 だけど……、
 最後の最後まで、自分にやれる可能性のあることは試そうと思う。

 スフィーは『呪文の手順をほとんど機械化している』と言った。
 スフィーは『魔法を成功させるポイントはそれに対する想い』と言った。
 俺はそれを成功させたいと思っている。
 どんなことがあっても絶対に成功させたいと思っている……。

 神奈の力が、北川を貫いた。
 想いの行き場を北川から解放されて。
 プログラムは、起動した。

【北川潤 死亡】
【プログラム発動】

300 :L.A.R.:01/10/08 11:11 ID:5PHBHCDs
感想スレでの指摘を受け、ここまで書かせてもらいました。

各レスの間は2行開けでお願いします。

301 :現実に抗う者(1):01/10/08 12:14 ID:YjaSGKtg
 銃声やら凄まじい爆音やらを聞き、精一杯の速さでその場に駆けつけた三人
――観月マナ、柏木梓、月宮あゆ――が見たものは。
 二人の男に、一つの人間だったもの――焼け焦げた死体――だった。
「耕一、大丈夫!?」
「ああ、何とかな。彰の方も何とか無事だ」
 辛い身体で無理して駆け寄ってきた梓に苦い笑顔を浮かべ、耕一は答える。
「これ、は……?」
 あゆが指し示したのは、もはや原型を留めていない焼死体。
「……スフィーさんだ」
 彰はただ冷淡に、告げる。状況を把握していなかった三人は、凍り付いた。
「彼女は、完全に神奈の影響下にあった。神奈自身が降りてきていたんだ。僕
には分かる。もう助けようがない以上、戦うしかなかった。ならば、せめて、
ここで決着を――と思ったんだけど、僕の力じゃ及ばなかった。耕一の助勢が
なければ、むしろ僕の方がやられていたと思う。結局は、神奈には逃げられ、
スフィーさんの死をただの無駄死ににしてしまった」

302 :現実に抗う者(2):01/10/08 12:16 ID:YjaSGKtg
「それって……」
 この状況を見て、彰の言葉を聞いて、ただ黙っていたマナが口を開いた。
「……つまるところ、そのスフィーさんは神奈とやらに操られてて、あなたが
それを殺したってこと?」
「そう。彼女を殺したのは紛れもなく僕だ。それを否定するつもりはないし、
否定する権利もない。仕方なかったとはいえ、僕は彼女を殺してしまったんだ。
もちろん助ける方法があるなら僕だってそれを使ったさ。でも、そんな方法は
ない。現実的じゃないんだ」
 慌てて仲裁に入るのは、耕一。
「ま、まあマナちゃん、落ち着いて。現実的に考えて、ああするしかなかった
んだ。彼女を放っておいたら、もっとたくさんの犠牲が出てたかもしれない。
彰にとっても辛い選択だったんだと思う」

 そう、この人達。
 言ってることは、正しいのかもしれない。
 でも、ちょっとおかしいんじゃないの?

303 :現実に抗う者(3):01/10/08 12:17 ID:YjaSGKtg
 マナの中の何か、一般的には堪忍袋の緒と呼ばれるそれが、ぶちんと豪快な
音を立ててちぎれた。

「ふざけんじゃないわよ!」

 この島に来て一番の鋭い蹴りだった。
 それが、彰のすねに命中する。ただでさえ満身創痍の身、彰は何をするでも
なく倒れるしかなかった。
「お、おい、マナちゃ――」
「耕一さんは黙ってて!」
 伝家の宝刀、二発目。病み上がりとは思えぬ一撃。耕一も、もんどり打って
倒れる。
 梓やあゆに至っては、ただ呆然とそれを見る傍観者になることしかできない。
「そのスフィーさんが神奈とやらに取り憑かれてたとして、まずそれを何とか
して助けようとは微塵も思わなかったわけ!? そんなことは不可能? その
挙げ句、スフィーさんを殺すことで神奈とやらも一緒に倒すことができたかも
しれなかった? だから何だって言うの!? 最初から何とかしようと思って
なかったってことじゃない! 仕方なかったから殺したですって!? 自分の
やったことは間違ってないって言いたいだけなんじゃないの!?」
 彰はきっと、自分に神奈が乗り移れば、喜んで己の命を道連れにして神奈を
滅することを選ぶだろう。
 同時に、他人に神奈が乗り移れば、神奈を滅するチャンスさえ残っていれば
その器を殺すことに躊躇はない。
 ぐだぐだと良心の呵責と後悔の念を息巻いてはいるが、結局のところ、根底
では神奈を滅するためなら何だって許されると思っている。自分自身も含めて、
どんな犠牲をもいとわない。だから、神奈に憑かれてしまっていたという彼女
を――スフィーを殺すことに迷いなどなかったのだ。
 しかも、理由を付けて正当化しようとしている。その根性が許せなかった。

304 :現実に抗う者(4):01/10/08 12:20 ID:YjaSGKtg
 ひとしきり捲し立てた後、息を整えたマナは静かに告げた。

「あなたは、神奈とやらを倒すためだけにここにいるのね」

 ただ地面にうずくまり、マナの糾弾を黙って受ける彰に。

「だったら一緒にしないで」

 それが贖罪のつもりだとでも言いたいのだろうか? ますます許せなかった。

 私だって、何度もこの島での現実に負けそうになったけど。
 でも、私の今を支えてくれるものはあまりに大きすぎて。
 それを捨てて現実に負けることは、絶対にできない。

「私は、みんなで生きて帰るためにここにいる! 現実的じゃない? ちゃん
ちゃらおかしいわね! 諦めちゃった人にそんなこと言う資格ないわよ!」

 そう、それはある意味での諦めだ。
 かつて、彰の親友――藤井冬弥が森川由綺に対して抱いていたそれと、何の
変わりもない。

 彰も、耕一も、何も言い返すことは出来ず。
 梓やあゆは、ただ呆然と見ているしかなかった。

【観月マナ、説教中】
【七瀬彰&柏木耕一、観月マナ&柏木梓&月宮あゆと合流】
※各レス間の改行は三行で。

305 :光の四柱(1):01/10/08 19:49 ID:XtYirX3g
静かにふりそそぐ朧げな月の光のもと。
草木を薙ぐように湿った風が吹きぬけてゆく。
ただひとりだけが、大声で叫んでいた。
小さな少女が、我を忘れて怒りに身を任せるように、言葉を叩きつけていた。

その少女の後ろで呆然と立ち尽くし、無言を保っていたあたし。
ふと視線を感じて、その先を見た。
(……千鶴姉)
岩場の頂上にある施設の入り口に、千鶴姉と繭が立っている。
遠くからこちらを眺めるその姿が、こくりと頷いたように見えた。

大きくひとつ溜息をつくいて、マナの襟をひょいと掴み、くるりとこちらを向かせる。
「-----もう、いいだろ。……言いすぎだよ」
あたしに怒りはなかったから、ごく穏やかなもの言いだったと思う。
だけど再び導火線に火がついたように、マナは激しさを増した。
「何よ!私は誰になんと言われようと、諦めないわ!! あんな言い訳なんて、許せない!」
彼女が繰り出したローキックを、あたしは片足だけ上げてひょいとかわす。
「-----それでも、だよ。
 あたしたちは、実際なにもできてないんだから。
 そこまで言う資格なんか-----あるわけ、ないだろ」
それでもマナは、収まらない。
「偉そうなこと言わないでよ! 私がここに居れば、こんなの絶対許さ-----」

  ぱん

これはあたしが、叩いた音だ。
「-----それだって-----言い訳じゃないか」

 そう言えば、男を叩いたことは何度もあったけど。
 女の子を叩いたことは…なかったよな?

306 :光の四柱(2):01/10/08 19:51 ID:XtYirX3g
そんなやりとりを、離れた場所から見つめる二人がいた。
柏木千鶴と、椎名繭。
(梓……それに、耕一さんも無事で…)
二人の無事を確認し、千鶴はひとまずの平穏を得た。

だがスフィーさんが死んでいる以上、ひとまずに過ぎない。
「……嫌な結果に、終わったようね」
あの様子からして、神奈備命をどうにかできたようには見えない。
そしてCDの起動ができるかどうか、少々-----かなり、怪しくなった。
「北川に期待するしか、ないですね」
繭ちゃんの言葉と同時に、梓がこちらを見る。
わたしは小さくひとつ、頷き返した。

遠くから放たれる、マナちゃんの怒声が聞こえてくる。
彼女の言っていたことこそが、たぶん本当に正しいことだ。
だが、今は。
「戻りましょう…今は、行動あるのみです」
繭ちゃんが先読みしたように言う。
そう、今は誰かを責めてる場合ではない。
何が正しいか、誰が正しいか、そして何が間違っていて、誰が間違っているのか。
そんな事を言う前に-----動かなければ、ならない。

わたしはもう一度頷き踵を返すと、外を振り返ることなく歩き出した。
刀を握り締め、自らの信じるところを-----行うのみだ。

 …例え誰かに、批難されようとも。

 二人が、そう心で呟いたとき。
 銃声と、衝撃音が鳴り響いた。 

307 :光の四柱(3):01/10/08 19:56 ID:XtYirX3g
施設の中央に位置する一室。
微かに煙をのこした円形の天井に、血飛沫が到達していた。
襤褸布のように倒れた北川の、収縮せぬ瞳孔に光が射しこんでゆく。

マザーコンピューターに歩み寄る観鈴-----いや、神奈と言うべきなのか-----が紐状の何かの端を
両手で掴むと、縦に引き裂いていく。
ぴりり、と嫌な音が聞こえたような気がした。
不愉快そうに何かを呟く神奈は、元は一本であった白い何かを二箇所に投げ捨てると、毛を逆立てた
猫のほうを睨む。
(……なんだよ、これ。
 プログラムは、作動したんだよな-----?)

飛びつく猫が、片手で無造作に叩き落される。
さほど弾力のないはずの猫が、ゴムまりのように一回バウンドして、無様に転がる。
(発動…してねーのか?
 だったら俺、何のために……)

神奈の両手から光が溢れたかと思うと、次の瞬間メインコンピューターが沸騰したかのように閃光と
炎をあげ、遅れて黒煙が舞い上がる。
音はもう、完全に聞こえなかった。
(…くそったれ……バカみてえじゃねえかよ…)

ディスプレイの映像や情報が、次々に消えていく。
神奈が外部カメラの画像になにやら話し掛けたようだが、聞こえはしなかった。
光が機械の山を蹂躙するうちに、部屋は闇に包まれていった。
静寂と闇の中に、壊れた機械の閃光と炎だけがちらついていた。
(俺…何のために……死んだんだ、よ……)

 (ちくしょう)
 自らのすすり泣きも-----聞こえなかった。

308 :光の四柱(4):01/10/08 19:59 ID:XtYirX3g
北川の意識が完全に闇に沈んだころ、ようやく自動扉が開いた。
彼が待ち焦がれていた援軍は、まるで手遅れだったのだ。

千鶴と繭は、非常用に設置された黄橙色の光をたよりに部屋を歩く。
しかしそこに、神奈の姿はなかった。そして、烏の姿も。

ただ一人と一匹の死体が、転がるだけだ。
「……北川くん……」
「今度は誰が----?」
繭が落ちていた銃と気絶した猫を拾い、蛇の死体を整えながら、疑問を口にする。
「……判らないわ」
「可能性としては神尾さん、巳間さん、それに七瀬さん…の三人ですね」
七瀬の名を呼ぶときに、少しだけ不安の表情が混じり込む。
千鶴にとって、そういう私情を繭が持つのは、悪い事ではないように思えた。
「そうね。あまり考えたくないけど…入り口から降りてきた途中では会わなかったでしょう。
 階段ですれ違うか、通気口から出たのでなければ…医務室が危ないかもしれないわ」
深刻な顔をして、繭が頷いたその時。

 「心配、ご無用よ」

-----七瀬の声が、聞こえた。
隣には刀を杖に立つ、晴香の姿がある。
「七瀬さん!」
繭が飛びつき、七瀬はその肩を抱きながら尋ねる。
「さっきの話だけど、つまり…?」
「…はい。七瀬さんたちがご無事なら、残っているのは-----神尾さんしか、居ないんです」
「そっか……」
余韻を残して呟くと、七瀬は北川の死体の前でしゃがみこむ。
今思えば移動中、北川は観鈴を気にしていたようだった。
それなのに------それなのに。

309 :光の四柱(5):01/10/08 20:01 ID:XtYirX3g
(…ねえ、北川? あんたそんなに顔は悪くないのに、昔っから女運なかったよね)
手をあわせて、祈る。
(そんなに悔しそうな顔、しないでよ-----要するに性格に難ありだからだよ?
 たぶん折原とだったらヒネクレもん同士、ウマが合うと思う)
目を開き、立ち上がる。
(だからあいつに、よろしく言っといて。
 …繭も元気にしてるって、伝えてくれると嬉しいな)
そしてふり返ると、皆が待っていた。
「七瀬…北川とは、古い知り合いだったんだよね?」
「-----うん、そうなるのかな」
そして、歩き出す。

 自動扉を通り抜けるとき。
 もう一度だけ、七瀬は振り向いた。

 (…ばいばい、北川)

310 :光の四柱(6):01/10/08 20:05 ID:XtYirX3g
そのころ施設の外では、五人がせいいっぱい眼を見開いて、遠くを眺めていた。
島を取り囲むように配置された装置。
もちろん彼らの目の届くものではなかったのだが、そこから四本の光の柱が立ち登る。
そしてみるみる間に、天空めがけするすると伸びていく。
徐々に太さを増して行く柱は、月を打ち消さんばかりに眩い。

 死者は絶望の淵に消えていった。
 しかし確かに、彼の希望は達成されていたのだ。


海中から発せられた光は海を照らし出し、空は輝きを増していく。
あの嵐を吹き飛ばした、閃光さながらに島を包んでいる。
「梓さん、これって-----!?」
「うん!きっとCDが……発動したんだ!」
梓とあゆが、抱きあって喜ぶ。
彰と耕一が、ぱしんと掌を叩きあう。

 しかし誰が知っているというのだろう。
 この光が天空に満ち溢れるまでの時間を。 

 そして通気口から彼らを見つめる、神奈の存在を。


【CD起動 魔法発生中】

【ぽち 北川と共に死亡】
【神奈備命 通気口から外へ】
【そら どこかへ】

311 :名無したちの挽歌:01/10/08 20:11 ID:XtYirX3g
我ながら、はるか昔の設定を掘り起こしています。
「光の四柱」であります。

312 :名無したちの挽歌:01/10/08 21:10 ID:JGfwHlr6
また書くの忘れちまいました。

>>308>>309の間は1行、その他のレス間は3行でおねがいいたします。

313 :ためされる絆(1):01/10/08 22:18 ID:CihPjjrU
「みな……さん」
 その声に振り返った先、そこには神尾観鈴の姿があった。
「観鈴ちゃん……?! 何故そんなとこに、施設の中にいたんじゃ……」
「中が……中が大変なことに…」
 まさに満身創痍の様相で皆に近づく神尾観鈴。それに耕一がかけよる。
 彼女が倒れる寸前のところでなんとか観鈴の体を支えることが出来た。
「なにがあった?」
「私、地下の部屋にいたんです。そしたらいきなり襲撃をうけて……、いっしょにいた
 北川さんが私の盾になってくれて……、それで私だけは天井の穴から逃げ出せたん
 ですが北川さんは……」
「くそっ、神奈備命め。もう別の人間に取り付いたっていうのか」
 彰のその言葉に、先程までにはしゃいでいた皆が一気に静かになった。

314 :ためされる絆(2):01/10/08 22:19 ID:CihPjjrU
(3行あけ)

「それで……、神奈はだれにとりついたんだ?」
 怯えはある……、だけど決意をこめて耕一は聞いた。
「耕一さんっ!!」
「マナちゃん……、分かってくれ……いや、分かってくれなくてもいい。
 でもな、多分今はやらないといけない時なんだと思う」
「だけど……」
「だから俺は決着をつけようと思う」
「そんな……そんなの、間違ってい……」
「ああ!! 間違っているさ! 絶対にこんなの間違っている!! だけど俺にはもう
 他に方法がわからないんだ! わからないんだよ……」
 みると、耕一の両の眼から涙が溢れ出してる。でも、彼はそれを拭いもせずに
 観鈴に訊ねた。
「教えてくれ、観鈴ちゃん。今度こそみんなで決着をつける。神奈備命は誰に……
 誰にとりついたんだ」

「誰だと思います?」

315 :ためされる絆(3):01/10/08 22:20 ID:CihPjjrU
(3行あけ)

「今生き残っていて、施設の中にまだいる者……」
 耕一は言う。
「千鶴姉と繭ちゃんは違うな。中から銃声みたいな音がする前に私は二人を見た」
 と、梓。
「後は、七瀬さんと巳間さん……か」
 彰が続ける。そして再び皆の目が観鈴に集中した。そして観鈴は
「はい……、襲い掛かってきた人物。それは七瀬さんです」

316 :ためされる絆(4):01/10/08 22:21 ID:CihPjjrU
 そのやり取りを、あゆだけは少し離れて見ていた。違和感を感じた。最初、
 観鈴が姿を見せたときから感じていた違和感。それは、どこか懐かしいようで
 どこか冷たいなにか得体のしれないもの。そしてみんなとの会話。
 何故、彼女は神奈がのりうつった先をすぐに言わなかったのだろう? そして
 結界の事を聞いた時みせた表情。確かに説明することは可能だ。だけれど……

(うぐぅ……、でも何かが……何かがおかしいよ、絶対に)
「あゆちゃん。みんなかたまって動こう」
 耕一の声にはっと我に返る。みなが呼んでいる、今は行かなきゃ。



 その時あゆは見た。みんなと一緒にこちらを見る神尾観鈴の目を。
 それはほとばしる鋭い意思、そして闇……そして、あゆを品定め
 するかのような光があった……。

317 :Kyaz:01/10/08 22:29 ID:CihPjjrU
あああ、大失敗してしまいました。
すみません。>>315(ためされる絆(3))と>>316(ためされる絆(4))の
間にいちエピソードはいります。以下ためされる絆(3)に続く話を
挿入します。

318 :ためされる絆(本当の4):01/10/08 22:30 ID:CihPjjrU
(3行あけ)

「もう、方法は無いの……ねえ、みんな。ねえ、耕一さん…」
 消え入りそうな声でマナは呟いた。
「わからない。だけど俺はまだ絶望しちゃいないよ。だって」
 耕一は言う。半分はマナのため、そしてもう半分は自分に言い聞かせるために。
「北川はやってくれた。結界は発動したんだ。だからチャンスは絶対に……」
「そんな筈はっ!!!」
 突如、驚愕の声をあげる神尾観鈴。
「……?」
「あ……いや…、私、北川さんが打たれたの見たから……」
「ほら、4つの光の柱。おそらく例のCDだよ。多分、北川の奴が最後の最後に
 やってくれたんだ」
「っ!!……そうですか」
(なあ、観鈴ちゃん、相当まいってないか?)
(……確かに)

319 :ためされる絆(本当は5):01/10/08 22:31 ID:CihPjjrU
 そのやり取りを、あゆだけは少し離れて見ていた。違和感を感じた。最初、
 観鈴が姿を見せたときから感じていた違和感。それは、どこか懐かしいようで
 どこか冷たいなにか得体のしれないもの。そしてみんなとの会話。
 何故、彼女は神奈がのりうつった先をすぐに言わなかったのだろう? そして
 結界の事を聞いた時みせた表情。確かに説明することは可能だ。だけれど……

(うぐぅ……、でも何かが……何かがおかしいよ、絶対に)
「あゆちゃん。みんなかたまって動こう」
 耕一の声にはっと我に返る。みなが呼んでいる、今は行かなきゃ。



 その時あゆは見た。みんなと一緒にこちらを見る神尾観鈴の目を。
 それはほとばしる鋭い意思、そして闇……そして、あゆを品定め
 するかのような光があった……。

320 :Kyaz:01/10/08 22:36 ID:CihPjjrU
改めまして「ためされる絆」作者のKyazです。
大失敗、本当に申し訳ありません。

20日間ほどここに繋げませんでしたので久しぶりの書き込みとなります。
いかがでしたでしょうか。

いよいよ最終決戦ですね。どんな結末がまっているのでしょう?。
書いていてかなりの楽しさと、そして悲しさがこみ上げてきています。
この先にはなにがまっているのでしょうか?

321 :相棒(1):01/10/08 23:15 ID:YjaSGKtg
 少々時を遡る。



 銃声が、聞こえた。

「な、何!?」
 慣れぬ仕事に四苦八苦しながら何とか晴香の治療を終えた七瀬が、驚きの声
を上げる。
 銃声がした方向は――

 ――施設の最奥と思われる場所。
 恐らくは、例のCDの解析を行っているというコンピュータールーム。

 何があったのだろう?
 今誰がそこにいるのだろう?
 そんな疑問が次々と浮かんでは消えたが、この場に留まっている限り、どの
疑問も解決しないことは明白だった。
 ベッドの上で上半身を起こそうとしている晴香を押し止め。

「……あたし、行ってくる。晴香はそこで待ってて」

 自らの獲物――小銃を肩に掛け、一振りの刀を手にし、医務室を出ていこう
とする。晴香が動けない以上、自分だけで行かなければならない。

 今まさに部屋を出ようとした、その時。
 どすん――という鈍い音が、七瀬を引き留め、振り返らせた。

322 :相棒(2):01/10/08 23:17 ID:YjaSGKtg
 七瀬の目に映ったのは。
 ベッドから無様に転げ落ちた晴香の姿。

 巻いたばかりの白かった包帯に、血が滲む。
 それはそうだ。傷口は閉じていない。動けば出血と、そして痛みを伴うのは
必然だった。運良く致命傷でなかったとはいえ、安静にしていなくてもいいと
いうわけではない。
 彼女はベッドに立てかけてあった自分の刀にすがり、なおも立とうとする。

「ちょ――ちょっと、晴香!?」

「アタシ、だけ、こんなところ、で、寝てるわけ、にも、いかない、でしょ」

 駆け寄ってきた七瀬に対し、一言、一言、肺の奥から必死に絞り出すような
声で告げる。

 ふと、思った。
 もしここにいるのが七瀬ではなかったとして。
 今はもういない、自分の大切な戦友――保科智子だったとして。
 彼女だったとしたら、どうするのだろうか?
『止めて聞くような性格やないもんな。枕元に立たれて恨み辛み聞かされるの
は勘弁や』
 そんなことを言いながら、肩を貸してくれるような気がした。
 でも、彼女はもういない――

 ――晴香の身体が、ふっと軽くなった。

323 :相棒(3):01/10/08 23:19 ID:YjaSGKtg
「七瀬……」

 晴香に肩を貸したのは、今ここにいる七瀬。
 それは、晴香をここに留まらせるためではなく。
 晴香と共に道を歩むため。

「どうせ晴香のことだから、このまま放って行ったら這ってでもついてこよう
とするんでしょ? そんなことになったら寝覚め悪いじゃない」

 少しだけ楽になった身体で、晴香はあえて、ただ一言だけを伝えた。
 それ以上の言葉は、必要なかった。
 本来ならば、その言葉すら必要なかったのかもしれない。
 でも、言っておきたかった。

「……頼むわよ、相棒」



【七瀬留美&巳間晴香、共にコンピュータールームへ】
※時系列的には「光の支柱」に繋がる話です。
※各レス間の改行は三行で。

324 :名無しさんだよもん:01/10/09 16:43 ID:C0usWr2k


「……頼むわよ、肉棒」

325 :名無しさんだよもん:01/10/09 20:12 ID:DtGXBTeA
>>324
ワロタ

326 :正面衝突[1]:01/10/09 20:43 ID:GzrEt71E
眼光、といえたかもしれない。
あゆが、その鋭い眼光に体の震えを禁じえなかったのも、あるいは必然だったのかもしれない。



(うぐう……おかしいよ。おかしいんだよう。)
混乱。
あゆの今の精神状態を一言で形容するならば、こんな言葉になるのであろう。
疑念を口に出すのはやはり簡単である。しかし、それがもしも見当違いなものだったとしたら。
いや、観鈴は観鈴だと。けして「かんな」なんていう人ではないと。そう、思いたかった。
でも。
いくら頭を振ってみても、いくら一緒に歩く耕一のズボンを握っても。
その疑念は、あゆの脳裏に焼きついたまま。

「どうした?あゆちゃん。具合でも……」
みかねた耕一が声をかける。
「あ ううん、何でも無いよ、耕一さん。」
慌てて笑顔を取り繕う。
「ん、そっか。」
どうやら耕一は、こういう嘘を見抜くことに関しては才能が無いようだった。

「ところで耕一。あたしたちなんとなく中に入っちゃったみたいだけど、どうするの?」
梓が口を開いた。
「……とりあえず七瀬さんを探そう。……とりつかれているらしいから、な。」
「探して……見つけて……どうするの。」
マナが言う。静かな口調。それでも、押し殺した感情が伺えた。
「……。」
誰も、何も、答えぬままに。一行は、通路を歩く――――――

327 :正面衝突[1]:01/10/09 20:45 ID:GzrEt71E
眼光、といえたかもしれない。
あゆが、その鋭い眼光に体の震えを禁じえなかったのも、あるいは必然だったのかもしれない。



(うぐう……おかしいよ。おかしいんだよう。)
混乱。
あゆの今の精神状態を一言で形容するならば、こんな言葉になるのであろう。
疑念を口に出すのはやはり簡単である。しかし、それがもしも見当違いなものだったとしたら。
しかし。
いくら頭を振ってみても、いくら一緒に歩く耕一のズボンを握っても。
その疑念は、あゆの脳裏に焼きついたまま。

「どうした?あゆちゃん。具合でも……」
みかねた耕一が声をかける。
「あ ううん、何でも無いよ、耕一さん。」
慌てて笑顔を取り繕う。
「ん、そっか。」
どうやら耕一は、こういう嘘を見抜くことに関しては才能が無いようだった。

「ところで耕一。あたしたちなんとなく中に入っちゃったみたいだけど、どうするの?」
梓が口を開いた。
「……とりあえず七瀬さんを探そう。……とりつかれているらしいから、な。」
「探して……見つけて……どうするの。」
マナが言う。静かな口調。それでも、押し殺した感情が伺えた。
「……。」
誰も、何も、答えぬままに。一行は、通路を歩く――――――

328 :正面衝突[2]:01/10/09 20:46 ID:GzrEt71E
「……耕一。」
話し掛けたのは、梓だった。
「あゆちゃんたち、連れてきてもよかったのかな。」
最悪、殺し合いが始まる。そんな現場に、観鈴、あゆの両名を連れていってしまっていいのか。
まして観鈴は精神的に相当参っているようだ。これ以上の負担はかけられないだろう。梓はそう言いたいのだ。
「うーん……だがもし俺達とはなれているときに神奈備命がそっちにいったらどうする?
そんなことになったら神奈備命にいいようにされちまう……と俺は思う。」
あゆ達の手前、語尾を少し濁した。
「そもそもさ、あたし達がなかに入ることって無いんじゃないの?結界だって……そうねえ、夜明けまでには完成すると思うし、
あたし達は外で待ってたほうがいいんじゃないのかな。」
梓も肉体的にはそろそろ限界に達している。だからだろうか。
発言内容が、少し逃げ腰になった。
「それだと中にいる千鶴さんたちが心配だ。繭ちゃんを連れているし……
やっぱり助けにいった方がいいと思う。」
そんな梓をとがめるでもなく、だが耕一はその提案を受け入れなかった。
「そっか……そうだね」
それっきり、梓も黙り込んだ。

329 :正面衝突[3]:01/10/09 20:47 ID:GzrEt71E
黙っているのは、彰。
彰は彰で、あゆのそれとはまるで異質の、しかし観鈴たいしてかすかな疑念を持ち始めていた。
それは、ふとした疑問。証拠など何も無い、ある事象。
(僕はあまり観鈴という女の子をよく知らないけど)
よく知らないからこそ、この子を疑う事ができる。
襲ってきた「人物は」七瀬さんです……て言ったよな。
(言いまわしが少しおかしくないか?ふつう「襲ってきた人は」って言わないだろうか?)
(おまけにその前に「誰だと思います?」と訊いた。この状況下、そんな事をいう余裕が女の子にあるとは思えない)
しかし、それは観鈴とはなしたことも無い自分には、完全に憶測でしかない。
(天井の穴から逃げてきた、と言った。どうやって天井まで手を届かせた?ハシゴかなにかあったのかもしれないが)
そんなものを利用する隙を神奈備命が黙って見過ごすわけは無い。まさか縦になった北川を踏み台にしたわけではあるまいし……
(そして……)
結界の事を聞いたときのあの狼狽ぶり。無論一瞬だったが普通「本当ですか!?」と喜ぶのではないだろうか。
何故「そんなはずは」なのだろうか。それじゃまるで……

決定打が、欲しかった。
どちらの決定打が欲しかったのか分からない。疑念を吹き飛ばす決定打か。あるいは疑念を裏付ける?

330 :正面衝突[終]:01/10/09 20:48 ID:GzrEt71E
「みす―――」



彰が言いかけた、そのとき。
「あ、おーい、千鶴姉ーーー!」
梓が叫ぶ、その先には。
長い通路のその先には。
柏木千鶴と、椎名繭。
少し遅れて、巳間晴香。そして――――――それを支える七瀬留美。



互いが互いを認識したとき。全員、その場で凍りついた。
そして張り詰める、空気。


あゆ以外の、誰もが思った。


―――――― 一触即発 と。

331 :River.:01/10/09 20:53 ID:GzrEt71E
各レス間は三行開けでお願いします。
最初のを送信した際にサーバーエラーが出たのでもしやと思いましたが
やはり二重投稿になっていたようで。申し訳無いです。

ツッコミ、修正等お待ちしております

332 :一触即発(1):01/10/11 21:50 ID:qosT1I0A
 彼は、悪夢に苛まれていた。

 畜生。
 ポチはあいつにやられた。
 そらはどうなった? そらもやられたのか?
 記憶が定かじゃない。俺は無我夢中であいつに突っかかっていって――
 体中の節々が痛いことは痛い。でも死ぬような傷じゃない。
 結局俺みたいなのが生き残るわけか。
 畜生。

 そして悪夢の目覚めた先には、あいつの姿。
 そらが守ろうとし、守れなかった彼女の姿。
 何だ、まだやれることは残ってるじゃないか。
 俺は必死になってもがき、自らを抱える少女の腕を振り解いた。
 猫らしくなく、無様に地面に落ちる。情けない話だ。
 そして俺は、渾身の力を以て――

333 :一触即発(2):01/10/11 21:53 ID:qosT1I0A
 最初に変化に気付いたのは、彰だった。
 同時に、最も行動が早かったのも。
 繭の手から落ちたあの猫は、観鈴と共にいたあの猫だ。
 ぼろぼろになったその猫が、今は観鈴に向けて毛を逆立て、唸っている。
 彼は振り向き、自らの持つ銃を観鈴に向けた。

『まずそれを何とかして助けようとは微塵も思わなかったわけ!?』
 そんな言葉をふと思い出した。
 神奈に囚われたスフィーと対峙した時にはなかった選択肢がある。
 だが彼は、それを捨てた。
 今更それが贖罪になるはずもない。本当に今更だ。

 彼は気付いていない。
 彼は確かに、鬼を自らの意志の檻に閉じこめてこそいるが。
 彼自身が既に、復讐者という名のそれになってしまったことを。

 そして、引き金を――

334 :一触即発(3):01/10/11 21:58 ID:qosT1I0A
(少々浅はかであったか)
 ここまで生き残ってきた彼らを過小評価していたつもりはなかったが。
 それでも、完全にそれを払拭することはできていなかったのだろう。

 神奈はその力の一部を開放した。
 彼女の周りにいた者共々、鬼飼いを吹き飛ばす。銃弾は発射されない。
 咄嗟の行動故、その衝撃は彼らに致命の一撃を与えるには至らない。

 その隙に身を翻し、逃げる。
 浅はかではあったが、それなりの収穫はあった。
 禁呪の発動。
 恐らく、万全の体制を以て臨まねば返せない。
 それでも無傷では済むまいが、返せさえすれば致命傷にはならないだろう。
 ここで生き残り全員を一度に相手にするのは、得策とは言えない。
 追ってきた者を、各個撃破すればいい。
 そして禁呪さえ破れば、もう自分に絶対的な致命の一撃を与える手段はない。

 彼らを屠るのは、それからでも遅くは――

335 :一触即発(4):01/10/11 21:59 ID:qosT1I0A
 神奈であろうその者の行動は、繭には理解不能だった。
 何故、危険を侵してまで観鈴を騙り、彼らの中に紛れていたのか?
 何故、今このタイミングで正体を明かしたのか?
 何故、不意打ちで多くの人間を屠るのではなく、逃げるのか?
 答えは見えない。が、やらなければならないことはある。

 何か見えない力に吹き飛ばされた、観鈴の周囲にいた者達。
 観鈴はすぐに自分達に背を向け、逃げ出した。
 彰は何とか立ち上がり、観鈴を追う。
 千鶴もまた、それを追うべく駆け出す。
 自分もそれに追随する。
 それが、無念の中で死んでいったであろう北川への――多くの人間への。
 せめてもの弔いになると信じて。

「その子のこと、お願い!」
 そのぼろぼろの猫を指しているということは、間違いなく伝わるだろう。
 繭は走りながら、後ろの七瀬に――

336 :一触即発(5):01/10/11 22:02 ID:qosT1I0A
「千鶴さん!」
 懐かしい声。耕一の声だった。駆けながらふと見やる。
 耕一、梓、あゆ、マナ――皆吹き飛ばされこそしたが、無事のようだ。

 再び生きて会えたことを、彼と共に心より喜びたかった。
 楓と初音を失ってしまったことを、彼と共に心より悲しみたかった。
 だが今は。
 まだその時ではない。

 神は、私から。
 父と母を奪ったけれど。
 叔父を奪ったけれど。
 楓を、初音を奪ったけれど。

 私は罪なき人の命をも奪って生きているけれど。
 それでもなお、もう一度私を彼と会わせてくれるのなら。
 ちょっとだけ神を信じてもいい、と思った。
 そして千鶴は、あの刀を手に。
 あえて彼らの下で立ち止まらず、駆け抜け、そして――

337 :一触即発(6):01/10/11 22:05 ID:qosT1I0A
 目指すは、観鈴。その姿形をした神奈。



【神奈、逃走】
【七瀬彰、柏木千鶴&椎名繭、逃走した神奈を即座に追う】
※各スレ間の改行は三行で。

338 : :01/10/11 23:57 ID:fCnGE362
危険水域につき、急遽age

339 :名無しさんだよもん:01/10/12 20:44 ID:XN830.Rs
落ちた?

340 :光に背を向けて(1):01/10/13 04:31 ID:xKnl6ziQ
孤影が、硬い足音を響かせて駆け抜ける。
飛ぶように走る彼女の表情には、何かを考えこむように微妙な困惑の色があった。

……神尾観鈴の身体を、手に入れた。
そして当初に及ばぬとは言え、期待通りの力を取り戻した。
今なら恐れるものなど、何も無いはずであった。
…しかし、あの場に感じた波動。
あれはスフィーという女の記憶にもある、余を封じていた刀の発したものに違いない。
(-----あの刀は-----危険に過ぎる)

更に神奈が走り始めて間もなく、施設の幾層もある天井を抜け、一本の細い光が差し込みはじめた。
神奈は不快そうに眉をしかめ、階段を一段飛ばしで上っていく。
数十段を登りつめた頃、微かに下から追ってくる足音が響いてきたが、それ以上に光が気になった。
日光のように薄く黄色がかった光が、その本数を増やし、天から幾筋も伸びてきているのだ。
(徐々に…降り始めおったか)

341 :光に背を向けて(2):01/10/13 04:33 ID:xKnl6ziQ
「-----ん、もう!」
彰を追う繭は、いとも簡単に距離を離されていた。
教会へ向けて走ったときも、そうだった。
肉体的な強さは何も変わっていないのだから、仕方がない。
それでも歯痒さのあまり、誰にともなく悪態をついていた。

「繭ちゃん!」
階段に到達する頃には、早くも千鶴に追いつかれた。
息を整えるために足を止め、その間に武装を整え、相談する。
「千鶴さん-----だいぶ、離されてしまいましたよ」
「…仕方がないわ。
 単独で追うのは、リスクを考えるとあまりに危険なのだし-----
 -----彰くんは、そういう思考すら捨ててしまっているのかもしれない」
繭は頷く。あの追い方は、異常にすぎた。
親の仇でも見るように、と俗に言うが、まさにその通りなのだ。
そして手を下したのは自分となれば-----むしろ、正常なのか。
「…でも、見捨てるわけには」
「ええ、そういうわけには、いかないわね」
二人で頷き合い、大きく息を吸って、鋭く吐き出すと同時に、階段を駆け上り始めた。

そうして先を急ぐ二人の息が再び切れ始めた頃、ひとつの異変が起こった。
「-----!?」
「この光は……」
細い光が、階段を突き抜けて射し込んでいたのだ。
太陽のように、やわらかささえ感じさせる暖かな光。
千鶴が、その光に掌をかざして、ぽつりと言う。
「北川くん…成功させていたのね」
「北川……」

342 :光に背を向けて(3):01/10/13 04:36 ID:xKnl6ziQ
少ししんみりとした千鶴と繭の二人。
その彼女たちに突進でもするかの如く、耕一と梓が転がり込んできた。
「千鶴姉!繭!!」
「千鶴さんっ!彰は-----ってなんだこれ!?」
耕一が天井を見上げながら、光の柱を不思議そうに見つめる。
「耕一、あの光が差し込んでるんじゃないか?」

「…梓? あの光って?」
耕一に答えた梓に向かい、千鶴が尋ねる。
梓は島外から立ち登る四本の光の柱が、天を光で埋め尽くさんとしていたことを説明する。
「あの調子だと、もっと時間がかかると思ってたけど……」
「いや、既にあの時点で、柱は月より明るかったんだ。
 どこまで光度を上げる必要があるのかは解らないけど、意外ともうすぐなのかもしれない」
それは、あくまで予想でしかない。
だが、この地下まで光が到達するならば-----可能性は、高いのではないだろうか?

「それなら尚更、彰くんを見捨てるわけにはいかないわね」
「うん、千鶴さんの言う通りだ。
 急いで彰の援護に向かおう!」
耕一はそう言って結論すると、ぱあん、と大きな音を立てて自らの頬を叩き、気合いを入れた。
そして息の整わぬ繭を見るや、本人の許可も得ずに彼女を抱え、軽々と肩に乗せる。
「ちょ-----ちょっと!?」
「悪いね、文句は後で聞くよ。
 -----みんな、一気に走るぞ!!」
軽快に三つの足音を立てながら、彼らは階段を駆け上がって行った。

343 :光に背を向けて(4):01/10/13 04:38 ID:xKnl6ziQ
神奈は階段を登りきり、出口を遠くに見ながら足を止める。
既に外に出て確認する必要はなかった。
天は光に満ち溢れ、大気を満たしているだろう。
その余光が入り口から射し込み、また天井を突き抜け、ここに至っているのだ。
(皮肉なことよ…これを一瞬でしてのけおった爺のそれよりも、むしろ不都合じゃな)

源之助の魔法は、一瞬であったがために大気中の念が受けるダメージは致命的なものではなかった。
しかし大気に光が満ち溢れる今の情況で精神体のみになれば、あの光に焼かれて消滅してしまう可能性は
少なくない。
即座に降り掛かってこないのは、幸運なのやも知れぬ。
しかし逆を言えば天に光ある限り、今の身体を失えど天に戻る訳にはいかぬということだ。
小さくひとつ、舌打ちをした。
(この神奈が…追い詰められていると?)
汗がひとすじ、額を伝う。
(…否、これは余の流したものではない。
 この観鈴という軟弱な娘が流したものじゃ……)

両の手に力を込め、気力を保ち考える。
実際にこの光が注がれるとき、再び呪詛を反すことが可能であろうか?
この身体は疑いなく強力であるが、力の蓄積が明らかに足りない。
(最早楽しんでいる余裕などあらぬ-----故に、手段も選ばぬ。
 奴らを皆殺し、力を蓄えて呪詛を反すのみじゃ)

344 :光に背を向けて(5):01/10/13 04:38 ID:xKnl6ziQ
神奈の操る観鈴の顔が、こころの暗黒を映し出すように邪悪に染まる。
そして射し込む光を撥ね退けるように、輝く翼をばさりと大きくはばたかせた。

 そして光に背を向け、彼女は振り向く。
 視線の先に、一人の青年が立っていた。

 「…鬼飼いか。
  まずは、お主から-----死ぬか?」
 「いいや。
  死ぬのは、お前と-----僕だけで、いい」

彰は、光を背負い翼を広げる神奈の美しさに気を取られながらも、即座に理解した。
神奈は、あの光を嫌っている。
そしてそのために、彼女に逃げ場は-----天にも、地にも----無いのだろうと。

 射し込む光が、神奈の翼の輝きに打ち消される。
 しかしその輝きに抗うように、彰は赤い眼光を放っていた。

 互いの視線が、激しく火花を散らしていた。

345 :光に背を向けて(おまけ):01/10/13 04:39 ID:xKnl6ziQ
「ギ、ニャーーーー!!」
「ギャーーーーー!!」
叫んで猫と格闘する七瀬を、晴香は呆れて見ていた。
「ウニャ、ニャギャ!!」
「猫の分際でなめないでよ!あたし七瀬なのよっ!」
遅れて立ち上がったあゆとマナが、猫を助けに来る。
「うぐぅ…虐待だよぅ……」
「……最低」
七瀬を引っ掻きまくった猫は、大人しくあゆの手に納まった。
決して機嫌が悪いわけではないようだ。
「七瀬…アンタに、動物の世話は、向いて、ないわ」
「何よ……うるさいわね」
あゆの鞄から顔だけ出した猫が、今でも七瀬を威嚇するに至っては、全く反論できなかった。
乙女的には、ちょっと傷付き気分である。

四人の歩みは遅い。
それは怪我人の晴香に合わせているからだ。
しかし、ふと気が付くと普通のペースで歩いていた。
「ちょっと晴香?大丈夫なの?」
「あのさ…七瀬…もう、離して、いいよ」
そう言いながらも、こめかみのあたりを抑えている。
「何よ、痛むんじゃないの?」
「ううん…あんまり痛くなくなってきた気がする」
「薬が、効いてきたのかしら(それとも……やっぱりレディースは、気合いが違うのかしら)?」
「……かも、ね(七瀬のあの顔…ろくなこと考えてないわね)」

 互いの視線が、激しく火花を散らしていた。

346 :名無したちの挽歌:01/10/13 04:45 ID:xKnl6ziQ
【神奈 入り口付近で停止】
※実際外に出た場合、光がどの程度のダメージになるかは不明です。
 神奈本人が源之助の魔法と比較予測して、拙いと判断したに過ぎません。
 それでも、本人から進んで外に出ようとは思わないでしょう。
※何人殺せば呪詛が反せるのかは不明です。
 彼女の決意として、皆殺しも辞さないというだけです。

【彰 神奈と会話中】
※今度は観鈴を殺してしまっても、目的は達成できそうですが……彼はどうするでしょう?

【耕一、千鶴、梓、繭 彰を追って階段を登り中】
※体力的に劣る繭の存在のため耕一と梓に追いつかれましたが、耕一の幼女誘拐現象により
 それなりの速さで彰に迫っています。

【七瀬、晴香、あゆ、マナ 更にその後ろを追跡中】
※例のレーダーがあるので、このグループは遅くとも相手を見失う事はないでしょう。

【CDによる自動魔法】
※梓の判断よりも早かったようですが、実際に発動するのがいつになるかは神奈にも判りません。
 外はかなり明るくなっているようです。


「光に背を向けて」です。
3グループに纏めました。

347 :名無したちの挽歌:01/10/13 06:13 ID:MTZ07sUY
>>341>>342>>343>>344のレス間は一行、その他のレス間は3行あけで
お願い致します。

加えて>>344の3行目
「そして光に背を向け、」を「光に背を向け、」に修正してくださいませ。

大事なところでヘタレてしまいました。
申し訳ありませんです。

348 :うたかた。:01/10/13 18:28 ID:/PMA1q5I


後続が追いつくまでに、どれ程の時間があるだろう?
僕は小さく息を吐きながら、昼と見間違おうかという程明るい空の下で、目の前に立つ少女を――
神尾観鈴の姿をしている――神奈備命を、真っ直ぐに見つめていた。
――真っ白な翼が生えていた。
何もかも呑み込んでしまうような感覚さえ、それにはする。
あの翼が、ヒトとヒトでないものを明確に区分する象徴であるからだろうか。

――どれだけの時間がある。
――あいつらが来る前に、終わらせる事は出来るだろうか?
「嫌な光だな」
僕は聞こえよがしに呟く。瞬間、確かに神奈備命は顔をしかめた。
――判るぜ。お前はこの光が嫌なんだ。この光に触れれば、多分お前は死んでしまうんだろうな。
「多分闇の下の方が似合うよ、お前は」
だが僕はすぐ、自分の確信を気付かれないようにするが如く、そう呟いた。
それを聞いた次の瞬間に、神奈のその表情に余裕が戻る。
安堵の色はそこには見えなかったが、それでも充分だ。
――今の言葉で、神奈はまだ僕が彼女の弱点に気付いていないのだ、と勘違いしただろう。
それがあの表情の正体だ。
それで僕の確信は深まった。あれの弱点は――あの光だ。
それは――神奈が、精神体となってここから逃げ出すのが不可能になったのだ、と云う事を意味している。
ならば。あの身体を殺せば――それですべてが終わりになる。
神尾観鈴の、身体を殺せば。

349 :うたかた。:01/10/13 18:29 ID:/PMA1q5I


「お主にもそれは云えるのぉ。この光が嫌よの? 余と同じで」
神奈がふと、そんな言葉を僕に返してきた。その言葉には、穏やかさと激しさが同居しているように思える。
「ああ、嫌だな。折角夜の闇が僕の姿を隠してくれていたというのに」
肩を竦めて、僕は笑った。
「僕もね、光は嫌いなんだ。それに太陽も嫌いだ」
「余も、同じよ。気が合うの、余とおぬしは」
その笑みは――あまりに美しかった。
先程僅かに言葉を交わした少女、神尾観鈴の姿でくつくつと笑う、その姿が――禍々しい程、美しかった。
先程の彼女とは、まるで同一人物とは思えぬ程に。
(ココロがヒトを形作る、って云うのは本当だな)
そしてきっと今の僕も、あれと同じように映っているのだろう。
目的の為に、手段を選ばない――そんな悪鬼に。
「ああ」
けれど、喩え僕とあれが同じ種類の精神の持ち主だとしても。

「僕はお前が嫌いだ」
「余も、おぬしは好かぬよ。――悪鬼よ」

階段を駆け上がる音が次第に大きくなっていく。とは云っても、まだもう少し余裕はあるだろう。
このサブマシンガンであの肉体を殺せば、それですべてが仕舞いになる。
多分、刀を使うまでもない筈だ。
長かった戦いに終止符を打ち、初音の仇を取って――かつて日常があった場所へ、還る事になる。
僕は――右手に持ったサブマシンガンを、神尾観鈴の――神奈の脳髄に向けて、その引き金を引いた。
それが、始まりの合図となった。

350 :うたかた。:01/10/13 18:30 ID:/PMA1q5I
パラララララララッ!

仕留めた、と思った。多少距離はあったが、この程度なら確実に脳髄を潰せる自信はあった。
だが、次の瞬間、その真っ白な羽根が大きく揺れた。
まるで本物の鳥のように美しく舞うその姿に、銃弾を放った直後の僕は一瞬呆然となる。
事実――ふわり、と彼女は僅かに中空に浮いていた。
まるで、天使のように。
その大きな羽根が――僕が放った弾丸から、彼女の肉体を護った事に気付くのに時間は要さない。
何だとッ――
「ふふ……なかなかの、意志の力。それ程に仇を撃ちたいのかの」
神奈備命は翼に包まれたまま、薄く笑う。まるで傷一つ負っていないではないか。
「黙れ」
一瞬呆然とした僕は、だが次の瞬間には駆け出した。
見たところ彼女は武器を持っていない筈だ。近づいて銃弾を放てば、今度こそあいつに傷を与えられる筈だ。
羽根が生えていようが、あの娘の身体自体は生身の人間のものである筈だから。
だからこそ羽根があの娘の身体を護ったのだ。

ヒュン――――――――――――――ッ。

刹那、思わず身を捩っていたのは。
矢のようなものが――彼女の手元から飛んでくるような錯覚を覚えたからだ。
掌をこちらに向け、微笑いながら何やらを呟いた姿。
そんなものは存在しない筈だ。まったく、何も見えなかったのだから。
振り返り後ろを見ても、何処にも矢が刺さったような後はない。
だが。
「今のは」
僕はごくりと唾を呑む。何もないのに、なかった筈なのに、今自分は殺されそうになった。
この感覚は。初めて体験する感覚、まさか、これは?

351 :うたかた。:01/10/13 18:33 ID:/PMA1q5I


「今の攻撃をかわすか。――なかなかよの」
「魔法――?」
しかし、考えている暇はなかった。止まっていては話にならない。
僕は後ろに転がり、神奈との距離をある程度、取った。
その間にも次々にその見えない攻撃は、僕の身体を狙い、襲いかかってくる。

ヒュ――――――――――――ッン。

音を立て襲いかかる一つの真空が、僕の左腕の皮を薄く切り裂いた。
「今のも、かわすか」
僅かに血が零れるのを感じる。この衝撃が「かわした」程の攻撃力なのか?
「畜生っ」

見えないから、何処からどう襲いかかっているのかも判らない。
ただ、何かを切り裂くような音だけが――僕の耳に届く。
それを頼りに、僕は駆け回る。
あまり身体に体力が残っているわけでもない。
駆け回りながら、なんとかして早くあれに近付いて、この銃弾を次こそ叩き込まなければ。
切り傷が増えていくのを感じる。だが、致命傷はまだ一発もない。
充分に身体は動き続けられる。
つまりまだ「鎌鼬」に切られるような、そんな程度のダメージでしかない訳だ。

――距離は徐々に詰められていく。だが、この距離ではまだ遠すぎる。
だが、――勘と聴覚だけでかわし続けるには、この攻撃は早すぎる。

ヒュ――――――――――――ンッ。

352 :うたかた。:01/10/13 18:33 ID:/PMA1q5I


「くぅっ――ッ!」
痛みが走る。多分、最初の直撃だった。
風を切り裂き、頬を切り裂く音。口が裂けたかと思うくらいの痛みがそこに走る。

(だが、こんな程度で、止まれるかッ)

僕はそれでも――止まらなかった。自分でも信じられない程の速度で身体が動く。
徐々に切り傷の数は増えなくなっている。距離は確実に近付いてきているのに、だ。
心臓の音が一つ聞こえた。乱れた呼吸の割に、心の臓は割合落ち着いている。
――これは、彼女がくれた血、だろうか?
攻撃を喰らわなくなっているのだ。かすり傷さえ負わなくなっているのだ。
更には、痛みさえも薄れていくような感覚を覚える。
殆ど神懸かり的な反射神経と聴覚で、僕は攻撃をかわし続けていた。

神奈備命が何かを呟いているのに気付く。気付く余裕さえ、僕にはあった。
その声が、彼女の攻撃に何か関係しているとは思えなかった。
何を云っているかも聞こえないが、その声に執着する余裕はない。
攻撃は止まないのだから。



一種の天才、よの――
音だけで攻撃をかわし続ける――完全に「鬼」が目覚めては、おるまいに。
その反射神経だけ取れば、柏木耕一よりも上かも知れぬの。
ならば。



353 :うたかた。:01/10/13 18:35 ID:/PMA1q5I
ヒュ――――――――ヒュンッ――――――――ヒュンッ。

風切り音が次第に大きく聞こえてくる。自分の神経の殆どを、その耳に集中しているからだろうか?
全く信じられない、自分がこれ程の動きが出来るとは。運だろうが何だろうが、この距離なら。
神奈が何やら呟く様子があった。今度は、その声が聞こえた。
「――ならば――全力で行くぞ、鬼飼い」

ビュウウウウウ――――――――――――――――――ンッッッ!

激しい力の奔流。先程までとは比べものにならない程大きな力だった。
今度の力のカタチは――何の力も無い自分にも見えた。
凄まじい早さで数メートル先から飛んでくる、大きな、大きな、剣。
具現化されたそれが、自分の心臓目掛けて真っ直ぐ飛んでくるではないか。

だが。
「――――――――何だとッ」
俄かに、神奈の声が震えた。
その攻撃すらも、僕はかわしていたのだ。殆ど本能の赴くままに身体が動いている。
瞬時に身体を低くし、僕はその攻撃をやり過ごしていた。
「く――」
微かに見える狼狽の色。
僕はその隙を見逃さず、瞬時に神奈との距離を詰めた。
タンッ、と音を立て――神奈の目の前に、僕は立った。

僕は右手に持ったサブマシンガンを、目の前に立つ(浮かんでいる、と表現した方が正しいだろうか)、
神奈の脳天に、今度こそ外すまいと――向けた。

354 :うたかた。:01/10/13 18:36 ID:/PMA1q5I

今の攻撃をかわしたのは大きい。
精神的にも、それに相手の体力的にもそれは見て取れる。

だが――この距離にあっても。あの渾身の一撃をかわしたのにも関わらず。

神奈備命の表情からは、余裕が消えなかった。
先程見せた瞬間的な狼狽も、今はもうない。
「これだけ攻撃して、直撃が一発しかないとはの。あの渾身の一撃をかわしたのも信じられぬ。
 ――流石に鬼の血よの。柏木初音の血を屠って生き延びた身体よ」
神奈はそんな言葉を吐いた。
走り回り、更に神経を集中し続けた為に疲れ切っていた僕の脳は、そんな挑発の言葉にすら冷静さを失わせられてしまう。
「黙れッ」
だが、その言葉が。
神奈の言葉が「挑発」を意味しているのではない事に気付くのに、それ程の時間はかからなかった。

「引き金が、引けるのかの?」
呆然としてしまったのは、何故か。
真っ白な翼が、一つ、大きく揺れた。

「おぬしは、今度も引くのかの? 七瀬彰」
僕の名前を初めて呼んだ神奈備命は。
多少疲れた貌をしているように見えたが、
それでも、その声の深遠性は、変わっていなかった。

355 :うたかた。:01/10/13 18:38 ID:/PMA1q5I



「――のう? 七瀬彰」
引き金を引け、七瀬彰! この女の言葉に惑わされるな!
この女が幻惑しようとしているだけだ、すべてを終わらせる為には引くしかないんだ。
神尾さんだって、判ってくれる筈だ。ここで殺さなければ、皆死んでしまうんだ。
今が最大のチャンスだッ! そして下手をしたら、最後のチャンスだ!
この距離なら、彼女の脳天を打ち抜けるッ!

「共に還ろうと、生き残ってきた女の身体を壊すのか?」
「――――――――――――――――、――お前を殺す為だッ」

それが僕が一瞬、本当に一瞬だけ覚えた躊躇だった。
まだ僕が、昔のままの僕らしくあった、一瞬。


――――――自分のやったことは間違ってないって言いたいだけなんじゃないの!?


観月マナの言葉が浮かぶ。そう、間違ってないと思いたいだけだったんだ。
だけどね。
その一瞬の後に、僕は引き金に指をかけた。
何かを正しいと信じなければ、どうしてヒトが生きていけるって云うんだい?

僕は引き金に指を充て、

356 :うたかた。:01/10/13 18:39 ID:/PMA1q5I


階段を登り切った柏木千鶴と柏木梓、椎名繭、そして、柏木耕一は――三つのものを、見た。
本来闇に包まれている筈の、だが事実として、白い光に包まれている森の前で闘う、
真っ白な翼の生えた少女――神尾観鈴であり、神奈備命であるその存在と、
その少女の脳天に銃口を向けて立ち尽くす、七瀬彰の姿と、

――――――――中空に浮かぶ、巨大な剣。

無防備な彰の背中にその刃先は向けられている。何かに宙づりにされているように、それは見える。
そして、彰が銃の引き金に指をかけた瞬間。
それは、俄かに速度を持って、彰の背中に向けて――

「彰ァァァァッ! よけろォォ!」

耕一は繭を背負ったまま叫び――千鶴と梓は、二人が対峙している方向へ駆け出す。
もっと云えば、剣を止めようとするが為に、走った。
けれど。それは余りに遅すぎた。
その声に、彰は振り向いて。
その次の瞬間には。

その巨大な刃は、彰の心臓の少し上――左腕の付け根にぐさりと刺さり、
彰の大きな絶叫が聞こえたかと思うと、その剣は小刻みに動き出して。
彰の肩を抉り取ろうとせんが如くに動き、
そのまま、そのしなやかな腕を、ねじり切った。

「彰くんッ――――――――!」
千鶴の悲鳴が、果てしなく大きく聞こえた。

357 :うたかた。:01/10/13 18:40 ID:/PMA1q5I
その表情が長い髪に隠されて良く見えないけれど、
真っ赤な血が、身体を染めていく様子が見えてしまった。
左胸の辺りから流れ出す、夥しい、血。
夥しい、夥しい、血。
きっと、もう。もう、助からない。
それ程の、傷。
七瀬彰は何か呟こうとしている、
――だが、結局声にはならないまま、大地に突っ伏した。



力が、欲しい。
喩え間違っていても、自分の事を信じ抜ける、力が。
僕の為に、皆を殺させる訳にはいかない。
もう一度だけ、チャンスをくれ。
神様でも悪魔でも良い、から――。

彼らに伝えねば、弱点は、あの光であると云う事。
けれど、口が動かない、身体が動かない、すべてが、動かな



「まず、若い鬼が一人、死んだようだの。次は――誰かの?」

神奈備命は、その真っ白な翼を翻し、一つ大きく深呼吸をする。
そして、倒れた七瀬彰の傍らに落ちていたサブマシンガンと、彰の身体に刺さった剣を拾うと。
立ち尽くす千鶴と梓を一瞥し、

――――――薄く、笑った。

358 :うたかた。:01/10/13 18:41 ID:/PMA1q5I



【七瀬彰            ――――――左腕をちぎり取られ、出血多量で倒れる。
                   殆ど死亡同然ですが、取り敢えずまだ生きてます】
【柏木耕一 柏木千鶴 柏木梓 椎名繭          ――――――神奈備命と対峙】
【他のみなさん                  ――――――次の方にお任せします】
【神奈備命in神尾観鈴 ――――――彰撃破、落ちていた武器を手に取り、千鶴・梓と対峙】

359 :恐慌を制すもの(1):01/10/13 23:53 ID:IVJM9hlo
「むかつく猫ね! あたしが何したってのよ!?」
「もう、いじめちゃだめだよ!」
階段を上りながら、七瀬とあゆが果てしなく口論している。
再び始まった頭痛と幻聴を忘れるには、このやかましさも悪くない。

「晴香さん? なんだかつらそうよ?」
「ああ-----ちょっと、ね」
何故だか刀を握り締める手に、力がはいる。
この調子で銃なんか持った日には、誤射してしまいそうだ。
アタシは用心のために右手の銃を鞄にしまうと、刀に持ち替えることにした。

「……晴香さん?」
「いや、なんでもないんだって」
無理に苦笑して誤魔化す。また七瀬に、頭の心配をされたくはないからだ。

それでもマナは、そばを離れようとはしない。
(こうべたべたされるのも、困ったもんね……)
そう思うと、本当に苦笑できた。

「そうだ! 解ったわ!!」
「うわあ! 七瀬さん、突然大声出さないでよ!」
七瀬がガッツポーズをして叫び、あゆがびびって飛び退いた。
「みゅーみゅー言ってれば懐くかもしれないわ!」
「うぐぅ……絶対、懐かないと思う…」

 ……呆れて笑う事だって、できた。

360 :恐慌を制すもの(2):01/10/13 23:54 ID:IVJM9hlo
無数の光の雨の中、冷えた笑いを浮かべる神奈に向かい、千鶴は問い掛けた。

「……神奈備命。
 あなたは何を-----考えているの?」
「何を、とは?」
間違いなく疑問に思ってはいるが、この会話自体に意味は無いのかもしれない。
長引く対峙の時が、梓を側面へ移動させ、耕一たちを接近させている。
「何故、殺すの?」
「必要だからじゃ」
「-----ここで殺す事が、ですか?」
「否。いま、殺す事がじゃ」

 タタタ!タタタ!
   パラララララララッ!

神奈が言い終えぬうちに、梓がサブマシンガンの引き金を引いた。
その姿を確認することさえせずに、神奈はひらりと身をかわし千鶴に向けて発砲する。
梓が銃撃した方向へと千鶴は飛び退く。
「好き勝手できると思うなよっ!」
神奈の追い撃ちを、梓の放った銃弾が阻害した。
「-----ふん」
苛立たしそうに鼻を鳴らすと、羽根を一振りして音もなく弾丸を停止させる。
軽い金属音を響かせ落ちた無数の弾丸には、命中を示す変容はひとつもなかった。

「…見事な連携よの。血族とは、良いものじゃな……」
何か寂しげな影を落としながらも、じろりと梓を、そして千鶴を睨みつける。
「じゃが余にも、眷属ならば-----居ないでも、ない」
中空を見つめるように、神奈は呟いた。

しかしその意味するところを、千鶴たちは知らない。

361 :恐慌を制すもの(3):01/10/13 23:54 ID:IVJM9hlo
軽く腹を押さえてみる。不思議なことに-----痛みはほとんど、感じない。
なんだか自分の身体じゃないみたいに、痛みが遮断されている。
『余のもとへ……』
(誰よ、アンタ)
『我が名は、神奈備命……』
(カンナビノ……?)
何故だかその名を聞いたとき、冷や汗が出た。

 -----まずい。もしも、この痛みが完全に消えたなら。
 アタシは…アタシで居られなくなるのではないだろうか。

だらだらと嫌な汗をかきながら、わき腹を叩いた。
そうでもしなければ、この傷を忘れてしまいそうだった。
「-----痛ッ!」
「晴香さん!? 何をして-----」
この傷を。
この傷の、痛みを。

「晴香さん!聞いてま-----」
なんでもない、聞こえない。
だから、べたべたするんじゃない。
「晴香さ-----」
「-----うるさいっ!」

アタシは叫び、刀が一閃した。
一瞬遅れて、血が飛び散った。
「マナさんっ!?」
「は-----晴香!?」
七瀬とあゆが振り向くと同時に、アタシが袈裟斬りにしたマナが、血飛沫をあげて倒れた。

362 :恐慌を制すもの(4):01/10/13 23:57 ID:Tm/KBfYU
「な……何やってんのよ、晴香!?」
「ななせ…」
マナは気絶したようだ-----だけど、どうしてアタシはこんなことを?
それに腹の傷は、どうしたんだろう?
問い続けるアタシとは別に、七瀬に突進するアタシが居る。
「猫と子供は、すっこんでなさいっ!」
あゆを突き飛ばし、七瀬は小銃を構えようとする。
しかし引き金を引く状態になる前に、アタシは切り込んだ。

 バキャッ!

非金属の軽い物音と共に、七瀬の小銃が転がる。
返す刀で七瀬を-----

 ガキン!

-----その一撃は、七瀬の刀の柄で止まった。
「晴香……どうしちゃったっていうのよ…」
そうだ、アタシは何をしていたんだろう?
腹だ。
腹の傷が-----痛い、はずだ。

 ガキッ、ガキン!

二人して旋風のように刀を振るう。アタシは激しく体を入れ替えて、あゆの銃撃を封じる。
こうしていれば、七瀬はすぐに脚にくるだろう。何故なら怪我を、しているはずだから。

そうだ、怪我だ。きっと怪我が、痛むんだ。
だから七瀬は、泣いているんだ。

363 :恐慌を制すもの(5):01/10/13 23:58 ID:Tm/KBfYU
(千鶴姉-----)
(梓-----)
二人は目で頷きあう。現在、神奈は銃に頼っている。彰を倒したような、剣を飛ばす技は消耗が激しいのだろう。
おそらく手持ちの銃の弾丸が尽きるまでは、それに頼るはずだ。そしてここにいる三人は防弾服を着ているし、
神奈はそれを知らない。ならば頭部さえ守ればダメージを受けることはあっても、接近は不可能ではない。

 千鶴が一太刀いれれば、勝負は決まる。
 接近し、あの剣をかわせれば-----勝ちだ。

 タタタ!タタタ!タタタ!

「神奈あぁ!」
叫んで梓が突進する。
もちろん、これは囮だ。梓にとって接近する利点はない。
対応するため振り向いた神奈に向かい、千鶴が背後に回りこむ。
足音はHMGUのセミオート連射音に掻き消されており、容易に距離を詰めて行く。

(-----やったか!?)
繭をおろし、遅れている耕一は銃を構えながら接近しつつも、戦いの行方を瞬きひとつせず注視していた。

しかし、相手は常識の通じる相手ではない。ここぞという時には、固有の能力を惜しげもなく発揮するのだ。
羽根が揺れ、弾丸を全て無効化すると同時に振り向き、知っていたかのように千鶴を正面に見据える。
手に持った剣が、神奈の右手の動きに従い、意志を持って飛び出すように神奈の背後に回る。
「-----なっ!?」
剣は宙を舞い、梓の太腿のあたりをざっくりと切りつけた。僅かに遅れたとは言え、剣の旋回速度は視認すら
怪しいほどで、梓でなければ両の脚を切断されていたかもしれない。
剣はそのまま速度を増し、軌道上に入り込んだ千鶴に襲いかかった。

364 :恐慌を制すもの(6):01/10/13 23:58 ID:Tm/KBfYU
「鬼よ滅せい!」
「ふっ!」
短い気合いの言葉を重ねあい、二人の刃が激しい音をたててぶつかり合う。
剣に質量があるのかどうかは、判らない。しかしその大きさに見合った威力を発揮して、千鶴を転倒させる。
「しょせんは小細工よの!!」
そのまま余った左手を無造作に梓へ向け、ずどんと回廊に衝撃波を響かせて梓を吹き飛ばす。
彰のところまで転がった梓を放置し、迷うことなく千鶴へ右手を上げる神奈。
「死ぬがよい!」

 ズドン!

千鶴への攻撃を阻止したのは、横からの発砲。やはり羽根がそれを叩き落したのだが、一部がすりぬけている。
ベネリM3の散弾が、神奈の-----いや、観鈴の手に数発埋っていた。
「-----人間の小細工だって、捨てたもんじゃないだろう?」
耕一が歯を食いしばりながらも、笑みを浮かべて言い捨てる。対する神奈は不快そうに一瞥をくれると、滴る血を
払うように腕を振り下ろした。するとめり込んだはずの散弾が軽い金属音とともに床を転り、傷が塞がったのだ。
「……な…何だって!?」
呆然とする耕一。
無言で立ち上がる千鶴。

(-----耕一さん)
誰しも忘れていた繭が、耕一の背に隠れるようにして問いかける。
(なんだい?)
(観鈴さんを救うことは-----可能だと、思いますか)
短い沈黙の後、首を横に振る。
(助けたいけど-----今では殺すどころか、生き残ることすら-----できるかどうか、怪しいね)

 (いえ、それなら-----観鈴さんごとなら-----可能なんです)
 自信に裏打ちされているのだろう、あまりの直接的な物言いに耕一は驚き、振り向いた。
 そして繭の手に見たものは。見慣れぬ、銃のようなものだった。

365 :恐慌を制すもの(7):01/10/13 23:59 ID:Tm/KBfYU
「晴-----……!!」
七瀬が何かを叫んでいるが、もう聞こえはしない。
斬撃を弾いて一歩踏み込み、刀を水平に構え身を沈める。
七瀬が弾かれた軌道を修正して、再び切り込んでくるのは解っていた。
だから修正中の浮いた腕を、刀を放した右手の肘で軽く押し込む。
同時に左手で刀を引く。
「……!?」
七瀬の叫びは、やはり聞こえない。
この一手で胴が、がら空きになった。
残る左手の刀による突きが-----王手に繋がる、決定打だ。

 『ズドン!』

そのとき、音が聞こえた。
ここにはないはずの、口径の大きな銃声が脳裏に響き渡る。

 『-----人間の小細工だって、捨てたもんじゃないだろう?』

ここにはいないはずの、耕一さんの声だ。
アタシは、何をしていたんだろう?
アタシは-----

「七瀬さん!!」

-----これは、あゆの叫びだ。
そして目の前の、七瀬の胴に-----アタシの切っ先が-----

 すとん

-----貫通した。

366 :恐慌を制すもの(8):01/10/14 00:01 ID:69g0WhKk
…鳩尾に吸い込まれそうな刃を、最後の瞬間に修正することができた。
ちょうどアタシの傷と、寸分違わず同じところ。
刀は音もなく、貫通していた。

「七瀬……アタシ……」
「晴香…正気に、戻ったのね……」
七瀬は泣きながら、強張った笑みを浮かべた。

反射的にだろうか、アタシも同じことをした。
同じこと。
つまり強張った笑みを浮かべながら-----

「……ごめん」
「いいよ…これで借りは、返したからね……」
「あはは……バカね」

-----アタシは、泣いていた。

 悲しいからではない。
 もちろん、痛いからでもない。

 誰も殺さずに済んだのが、嬉しかったからだ。

367 :名無したちの挽歌:01/10/14 00:07 ID:69g0WhKk
【彰 梓の近くで瀕死のまま】
【梓 脚を負傷】
※梓は片足を深く斬られています。
 さて彰は助言ができるでしょうか?
【耕一 背後に繭を隠して密談】
【繭 手にした銃は……】
※これが”制すもの”になるでしょうか?
【千鶴 再び切り込むチャンスを狙い中】

【マナ 袈裟斬りにされて気絶】
※あとで説教の嵐確定か。
【七瀬 腹部貫通傷】
【晴香 一度は傾きかけるも耕一の邪魔により人格復帰】
【あゆ うぐぅ……ボクが三人運ぶの?】
※あゆあゆ、頑張れ。


ちと複雑になりすぎた感があります。申し訳ありません。
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368 :小細工、そして(1):01/10/14 02:29 ID:mF2KpSc2
「胃の中に爆弾があったでしょう? これは、向けた先にある胃内爆弾を誘爆
させる装置なんです。彼女の身体にはまだ爆弾が残ってたはずです。私が――
やります」
「いいのか? 本当に」
「私が――やらなくちゃいけないんです」
 繭の覚悟を受け止めた耕一は、その決意に応えるべきだと判断した。
「……俺は千鶴さんの援護のフリをして囮になる。繭ちゃんは隙を狙ってそれ
を使うんだ」

 耕一や千鶴の攻め手をいなしていた神奈ではあったが。
 おおよその手は読めていた。
(これ以上油断するわけにもいくまい)
 小細工。
 少なくともそれは、今までは致命的ではなかった。だが、既に相手がこの女
――観鈴を助けることを諦めていたとすれば、次も無事で済む保証はない。
(本命は――どれじゃ?)
 耕一ではない。彼は千鶴の援護に徹している――フリをしている。本命では
ない。
 千鶴でもない。知る限りでは、唯一自分に有効な武器を持ってはいるが――
耕一が彼女の援護のフリをしている以上、千鶴本人が自覚しているいないには
関わらず、本命ではないはずだ。
 梓でもない。彼女には有効な攻め手も、何かを企む様子もない。
 もはや死体と変わらぬ彰でもない。
 そして最後の一人。
 繭が自分に向け、何かの狙いを定めようとしているのが分かった。

369 :小細工、そして(2):01/10/14 02:33 ID:mF2KpSc2
(お主か!)
 防ぎきれなかった耕一の散弾が、再びいくつか腕にめり込み。
 千鶴の刀が、片翼を僅かに傷つけはしたが。
 神奈が向けたサブマシンガンの銃弾は、確かに繭へと届く。彼女は、最後の
切り札を取り落として後方に倒れた。

 自分に肉迫していた千鶴を、多少傷ついてしまった翼で吹き飛ばす。
 そして、返す翼で耕一と、足を怪我して動けないはずの梓をも薙いだ。二人
とも千鶴同様、思いっきり壁に叩きつけられる。
 もう油断をするつもりはない。動ける相手を放っておくつもりはない。
 手を振る。弾が床に跳ね、金属音が響く。既に傷は治っていた。
 ただし、刀によって付けられた翼の傷はすぐには治らない。
「またよからぬ企みをしておったようじゃが、二度三度は通じぬぞ?」
 ここまで持っていけば、恐らく皆殺しにするのは簡単だろう。だが、どうせ
ならできるだけ多くの苦痛と絶望を――

「――本当に、これで終わりだと思っているんですか?」
 ただ一人起きあがったのは、千鶴。
「なるほど。お主のこと、失念しておったわ」
「そのまま失念してくださってても構わなかったんですけどね」

370 :小細工、そして(3):01/10/14 02:36 ID:mF2KpSc2
 柏木千鶴。その冷徹なる鬼が持つ、刀。
「意地でも余を斬るのじゃろうな。この女の身体ごと」
「何を今更」
 そう。罪無き人をも既に殺している自分にとっては、愚問でしかない。
 端的に答え、神奈との間合いを一気に詰めた。
 即座に反撃することは難しい、と判断したのだろうか。銃弾をも弾き返して
しまうその翼を以て、自らの身を守る神奈。確かに普通の武器ならば太刀打ち
できないだろう。だがこの太刀は、普通の武器ではない。
 貫き通せる。
 その確信は絶対だった。そして事実となった。
(やった――?)
 間違いない。二枚の翼を貫いて、確かに神奈に刀は届いて――

 ――簡単過ぎる?――

 ――翼は弾け、周囲に真白き羽を散らした。
 その先には何もない。
 何を意味しているのか。フェイク――
「余の、勝ちじゃな」
 神奈は千鶴の背に当てた手に、意識を集め。
 そして開放した。
 千鶴は背後の神奈を睨み付けようとして――その場に崩れ落ちた。
「確かに、真っ向からの勝負を受ければ余とて危うかったかもしれぬ。ならば
こういう手もある、ということじゃ。ぬしらから教えられたことじゃな」

371 :小細工、そして(4):01/10/14 02:40 ID:mF2KpSc2
 神奈が贄に選んだのは、繭だった。彼女の下へと歩み寄る。
 近くに落ちていたそれ――繭が構えていた機械を、踏み潰し。
「これで希望は潰えたかの?」
 銃弾の何発かは、繭の左腕を捉えていた。確実に、痛みと苦しみを与える。
 その左腕に、足を乗せた。そして体重をかける。
「あ、うあ、ああ!」
 痛み、苦しみ、のたうち回る彼女。
 ようやっと足をどけたかと思えば、今度は無造作に腹を蹴る。
 繭は胃の中のもの全てを吐き出した。
 より一層の痛みと、より一層の苦しみと、より一層の憎しみと。
(畜生、こんな状況で身体が動かないってのか――!)
 かろうじて意識を保っていた耕一ではあったが、身体を動かすことはできず。
 耕一、千鶴、梓――皆、動けない。誰もそれを止められない。
 その事態を覆したのは、誰も――恐らく本人すらも――予想し得なかった者
だった。

「おああああああああああああ!」
「な――」
 死んだはず――あるいは明らかに死へ向かっている人間のものとは思えない
咆哮を聞き、驚愕する神奈。それは隙としては充分すぎる間だった。
 かつて彰であった者は、神奈の傷ついた片翼を右腕で掴んで、とんでもない
勢いで放り投げた。既に腕のない左肩から、更に血が吹き出る。何が半死半生
の彼を突き動かしているかは分からない。しかし、彼は止まらなかった。今の
神奈の状態――観鈴の身体を持つ状態では、あの光に過大な効果を求めること
はできないからだ。
 彼は確実に死にながら、放り投げた神奈を追った。光満ちつつある森へと。

372 :小細工、そして(5):01/10/14 02:42 ID:mF2KpSc2
 千鶴はただ、廊下の天井を見ていた。自分の生が少しずつ失われているのか、
それとも自分の死が確実に大きくなっているのか。そのどちらか、いやどちら
もなのだろうか。
 繭はどうなった? 泣き叫ぶ声はもう聞こえない。
 ふと、自分が抱き上げられる感触に驚いた。目に映るその顔にも。
「繭ちゃん――は?」
 自分を覗き込む顔――それは耕一の顔だった。
 かろうじて動けたのは耕一と梓のみ。神奈と、そして彰のことは気になるが、
その前にやらなければならないことがある。
「大丈夫――とは言い難い。神奈に左腕を撃たれたんだ。でも梓が止血してる
とこだよ。気絶はしてるけど、命に別状はないと思う」
 梓は、自分の足の治療と。繭の治療を。
 そして耕一は、千鶴の治療を試みようとしていたわけだが。
「そう――よかった――」
 この状況では、手の施しようがない。むしろ即死でなかっただけでも奇跡だ。
「こっちの止血の方、終わったよ。目が覚めるまで、しばらく時間かかるかも
しれないけど。千鶴姉の方は――」
「…………」
 耕一の無言の答えを以て、梓も察したようだった。
「千鶴姉!? そんな、そんな――」
 彼女もまた千鶴の下へと駆け寄る。怪我した足を引きずり、涙を浮かべて。

 ああ、そうだ。私は何と果報者なのだろう。
 罪を重ねて生きてきた私に。
 最期を看取ってくれる人が、泣いてくれる人がいる。
 ならば、私は伝えよう。

373 :小細工、そして(6):01/10/14 02:43 ID:mF2KpSc2
「梓」
 決して力強くはないが、その言葉には聞く者を引き寄せるだけの力があった。
「結局――私は背負いきれなかったみたい――ごめんなさいね――あのね――
あゆちゃん――帰る場所がないって――だから全てを終わらせて帰ったら――
私達と一緒に暮らそうって――約束したの――料理とか――いろいろと教えて
あげて――」
「うん、うん――」
 ただただ、千鶴の言に頷く梓。

「耕一さん」
 そして今度は、耕一の方を向き。
「梓のことと――それに鶴来屋のこと――お願いします――足立さんを頼れば
――きっと大丈夫――本当は――耕一さんの生き方を縛りたくはなかったけど
――私の父や母が――あなたのお父様が――必死になって守り抜いてきたもの
だから――」
「分かった」
「それと――この刀を――」
 精一杯の力を振り絞って、耕一に刀を差し出す。
「これで――神奈を――斬ってください――できれば神奈だけを――ふふ――
自分にはできないことを――人には押しつけようなんて――本当に嫌な女です
ね――私――」
 自嘲に満ちたその笑み。耕一は刀を確かに受け取って。
「分かった。絶対にそうする」
 彼女の笑みから、自らを嘲る色は消えた。安らかな笑み。目を閉じて。
「――ありがとう」
 それが、千鶴の最期の言葉だった。

374 :小細工、そして(7):01/10/14 02:46 ID:mF2KpSc2
「……千鶴姉?」
 最初に口を開いたのは、梓だった。
「千鶴姉? 千鶴姉ってば!」
 そして最も理解に時間を要したのは、梓だった。
「千鶴姉ぇーーーーーー!」
 千鶴の身体に抱きついて泣き叫ぶ梓。耕一は、そんな梓に千鶴の亡骸を預け。
 託された刀を手に、立ち上がった。

 何が彰を突き動かしているのかは分からない。既に人としての限界は超えて
いるはずだ。だが、たとえ彼が何にすがっていたとしても、自らの死に抗って
まで――否、自らの死を進行させてまで取ったその行動には、必ず意味がある。
絶対にそうだ。

(とりあえず、千鶴さんのために泣くのは梓に任せよう)
 約束を果たしてからでなければ、自分は彼女のためには泣けはしまい。

 鬼の王、耕一は。
 約束を果たすために。
 神奈と彰であった者が消えた、光満ちあふれる森へと向かった。

375 :小細工、そして(8):01/10/14 02:51 ID:mF2KpSc2
【柏木千鶴 死亡】
※各レス間の改行は三行で。

376 :小細工、そして(補記):01/10/14 03:00 ID:mF2KpSc2
※戦闘の位置は、「うたたか」内「白い光に包まれている森の前で闘う」に
 準拠しています。
※彰を突き動かすものは何か、神奈が実体=観鈴の身体を持った状態で今の
 外に出ることでどの程度の影響を受けるか、といった点については以降の
 書き手さんの判断にお任せします。

377 :名無しさんだよもん:01/10/14 03:07 ID:mF2KpSc2
補記内で大変失礼な間違いをしてしまいました。
誤)「うたたか」内
正)「うたかた。」内
いやはや、本当に申し訳ございません。>「うたかた。」作者様

378 :おねえさん。(1):01/10/14 05:46 ID:6HzpQP8g

「ひっく、ひっく」

涙が止まらない。止めなきゃいけないのに止まらない。
泣く暇があったら、立ちあがらなきゃいけない。
立って、それから耕一を追いかけて、一緒に戦って。

それにはまず、自分が抱きしめているものを、手放さなきゃいけない。
……だんだんと冷たくなっていく、物言わぬ姉。

閉じられた瞼、こびりついた血、安らかな顔。
それを見てしまい、再び瞳から涙があふれ出す。

――梓の前には、いつも千鶴がいた。
――楓も初音も、確かに大切な家族だったけど。
――千鶴だけは、特別だった。
――喧嘩相手で、遊び相手で、相談相手で、ついでにいつも苦労をかける姉だったけど。
――それは、彼女の、憧れで。

「嫌だよ……あたし、千鶴姉ぇと離れたくないよ……」

自分の体温を、少しでも千鶴に分け与えるように。
自分の涙が、少しでも千鶴の血を増やすように。
そんな子供じみた、無意味な足掻きを自覚しながら。
梓はただ、ぎゅっ……と千鶴の身体を抱きしめるのだった。

379 :おねえさん。(2):01/10/14 05:48 ID:6HzpQP8g
「うぐぅ、うぐぅ」

涙が止まらない。なんだかすごく理不尽で止まらない。
泣く暇があったら、運ばなきゃいけない。
運んで、それから物陰に隠れて、精一杯応援して。

「ぶるぶるぶるっ、だめだよっ! 私も戦わないとっ!」

思わず頭をよぎった弱気な考えに、精一杯の否定を示すあゆ。
そんな彼女に、彼女の右側から声がかけられる。
「ねぇ、私たちは置いていってもいいのよ?」
あゆにもたれかかるような形でそう言うのは晴香。
だがしかし、あゆはぶんぶんと頭を振ってその提案を拒否する。
「だめだよっ! 絶対、みんな一緒に行くんだよっ!」
そして再び涙目になりながら、ずりずりと足を引きずって前に進む。

あゆは、背中にマナを背負っていた。
そして右肩に晴香を、左肩に七瀬を支え、そして通路を進んでいる。

380 :おねえさん。(3):01/10/14 05:49 ID:6HzpQP8g
「うぐぅ、うぐぅ、うぐぅ、うぐぅ……」

汗と涙と鼻水を流しながらただ歩き続けるその様子には、さすがに七瀬も口を挟む。
「あのさ、あたしたちだったらもう大丈夫だから、ほら……」
とても大丈夫じゃない表情でそう言うのは七瀬。
だがしかし、あゆはぶんぶんと頭を振ってその提案を拒否する。
「だめだよっ! いま無理したら、怪我がもっと酷くなるよっ!」
七瀬に施された止血も、あくまで最低限のものだ。
無理をすれば、途端に大量に出血してしまうだろう。

あゆは、首からバッグを提げていた。
中には猫が一匹、じたばたばたと暴れている。

「うぐぅ……出口はまだなのー? ……梓さぁ〜ん! 千鶴さぁ〜ん!」
終点の見えない通路に、思わず先に行ってしまったはずの二人を呼んでしまうあゆ。
だが、彼女が思っていたよりもずっと出口は近づいていたのだ。

381 :おねえさん。(4):01/10/14 05:51 ID:6HzpQP8g
「……さぁ〜ん!」
その声が、耳に届いた。頭に響く。声がする。
泣いて、泣いて、目を閉じて、泣いて、思い出を振り返って。
ただ、ゆっくりと目を開けて、涙を拭いて。そして下を見た。

「千鶴姉ぇ」

そこには、さっきまで恐れていた顔がある。
出来ればずっと、逃げていたかった現実がある。
その安らかな顔を見て、梓はゆっくりと千鶴から身体を離した。
べりべりと、固まった血で貼りついていた部分が剥がれていく。

それは、未練。

想いを断ち切るように、梓はそのままゆっくりと立ち上がる。
通路の端に、千鶴の体を優しく横たえて。

「……気は、済みましたか?」

382 :おねえさん。(5):01/10/14 05:52 ID:6HzpQP8g
繭が起きていた。痛みで目が覚めたのだろうか。
たとえ止血したとはいえ、左手にはまだ激痛が走っているだろう。
それでも、彼女はまだ生きている。そして立って、歩いている。

梓は頷いて、そして聴いてみた。

「ねぇ……あたし今、泣いてないよね?」

繭は頷いて、そして言ってみた。

「はい。血にまみれてひどい顔ですけど……泣いてはいません」

よしっ、と満足したように頷くと、梓は繭に告げた。
「あゆがすぐそこまで来てる。あっちは怪我人を抱えてるから……あたしはそれを迎えにいく」
「……はい」
「繭は、出入り口のところから森を見て……どの辺で闘いが続いてるのかを、確認してて」
「わかりました」
繭が頷くのを見て、痛む足に鞭を打つように、通路を奥に駆けていく梓。

「すぐに、戻るから!」

そう言って。

「千鶴姉ぇ……約束は、きっと守るから!」

その姿は、すぐに闇に溶けて見えなくなる。

383 :おねえさん。(6):01/10/14 05:54 ID:6HzpQP8g
「いいな……おねえさん……かぁ」
その後ろ姿に、彼女を背にかばった真琴の姿をだぶらせながら。
繭は呟いた。
年相応の、わがままを。

一筋の雫を、瞳からこぼしつつ。



「あゆーっ!」
「あ、梓さぁんっ!」

いくつか通路の角を曲がって、そこで梓が見たものは。

「だから、無理しないでって言ったでしょ……」
「ごめん……また、傷口開いたみたい……」

三人に押しつぶされるような形で転んだ、あゆの姿だった。


【梓 あゆと合流して怪我人運搬】
【繭 入り口から外を見る偵察要員】
【マナ まだ気絶中】
【晴香 転倒による影響は微小】
【七瀬 転倒により腹部の刀傷再出血】
【あゆ 鼻にダメージ】
【ぴろ うぐぅプレスの下敷き】

384 :T.T:01/10/14 06:01 ID:6HzpQP8g
後発組も外に出せる位置に持ってきました。
ここからは作中でもスピード勝負でしょう。

彰と耕一の方、お任せしましたっ!

385 :呪夢(1):01/10/14 07:27 ID:uzKcxTkZ
バサッ!
翼を広げ、空中で見を翻す
(・・・これ以上油断しない、じゃと?
いつでも殺せたものに止めをささなかった事こそ
油断というのではないのか!?)
己の愚かさ加減に腹を立てる・・・
が、身を焼かれる感覚によってその思考は中断される。
強烈な光が世界を包んでいる。
常人にはただのまぶしい光に過ぎないが
神奈にとっては砂漠の日差のように体力を奪う毒の光。
素早い判断で次の戦場を光の弱い森の中と定め、木々の間に飛びこむ。

ここにきて、始めて神奈の中から「遊び」という感覚が完全に消えうせた。
毒を浴びながら戦ってこの光を返す事が出来るのか・・・真剣に計算する。
安らかに逝ったとはいえ鬼の女の死によって得た力は予想以上だった。
(鬼はまだ3匹もおる・・・全て殺せればこの光の分は取り返せよう
それに・・・手駒に与えておいた力も失う前に返してもらうとするかの)
それで成功率は6割。
逆を言えば4割の確立で失敗する予測になる。
それに今のような不測の事態というのも十分にありうるのだ。
もし次の戦いでもヘマを撃ったなら・・・光に焼かれてこの身は消滅する。
もし助かったとしても刀に封印されて空で見続けていた夢に戻る事になるだろう。
(・・・・・・・・・夢に戻るじゃと!?冗談ではないっ!!)

386 :呪夢(2):01/10/14 07:28 ID:uzKcxTkZ
ギィィィン!!
刀と刀がぶつかり合う音。
一瞬火花が散り、大男の手から刀が離れた。
「くっ!」
大男はとっさに身を引くが、遅い。
ドゴッ!
「ぐあぁっ!」
振り下ろされた刀の背が大男の鎖骨を砕き、勝負は決した。

最後の敵が意識を失った事を確認し、
「ふぅ」
と言う溜息と共に刀を鞘に収め・・・
・・・男は地面に崩れ落ちた。

「柳也殿っ!!」
たまらず裏葉とともに草むらを飛び出し、柳也の下へと駆寄る。
柳也の衣は背がぱっくりと口を開けており、
その下に走る朱の一文字が顔を覗かせている。
それは、ともすれば致命傷となりかねないほどの深い傷だった。

387 :呪夢(3):01/10/14 07:29 ID:uzKcxTkZ
「どこだ!?どこに行った!?」
「まだ近くにいるはずだ!探せ!」
夜の森に男達の声が木霊する。
それは、敵の声。
自分だけがが生き残るために余を殺さんとする下衆どもの声。


・・・・・・何故・・・・・・
何故余だけが狙われねばならぬのだ?
これは殺し合い・・・
敵も見方もない殺し合いではないのか?
何故、奴等は申し合わせたように余を狙うのだ?


「いたぞっ!!」
一際大きな声がすぐ側から響く。
刹那、裏葉に手を引かれて走り出す。
無数の敵が群って来る。
「こっちだ!女も一緒にいるぞ!」

・・・余のせいか?
・・・・・・余がいるから、この二人も狙われてしまうのか?

飛び掛ってきた男が一太刀で地に叩き伏せられる。
それを見ていた者達の間に緊張が走る。
「こ、殺不の太刀など!恐れる必要ないっ!!」
そう叫び、次の敵が襲い掛かってくる。

・・・余のせいか?
・・・・・・不殺を命じたのは間違いであったのか?

388 :呪夢(4):01/10/14 07:31 ID:uzKcxTkZ
僧衣に身を包んだ大男。
鎧の下にぎらついた瞳を隠した男。
徒党を組んで弓をいってくる男達。
斬られては立ちあがり、斬られては立ちあがり、
どんどん数を増やしながら休む間もなく襲い掛かってくる。
男達はいつの間にか人の形をなさなくなっていた。
敵という概念。
襲い来る恐ろしいモノという概念。
黒く霞んだ体に爛々とした眼だけが光る、人らしいモノ。

黒いモノが狙うは神奈1人。
だが少女が傷つく事は無い。
少女のかわりに、少女を護ろうとする二人が傷ついてゆく。
黒いモノは次々と襲い掛かってくる。
襲い掛かってくるモノは次々と切伏せられる。
だが、不殺の刀が黒いモノを殺す事はない。
切伏せられてもすぐさま起きあがり、再び襲い掛かってくる。

考える。
どうしてこうなったのかを。
考える。
どうすれば三人が助かるのかを。
考える。
どうすれば二人を助ける事が出来るのかを。
考える。
自分は何が出来るのかを。

389 :呪夢(5):01/10/14 07:32 ID:uzKcxTkZ
ついに柳也が力尽き、地に膝をついた。
柳也の力は夢の主の信頼に比例する。
その柳也が力尽きて、敵の前に無防備な姿を晒している。
それは、夢の主があきらめたということ。
殺してはならないという偽善も、
人に頼って助かろうという希望も捨てたということ。
柳也に向けて、最後の一撃が振り下ろされんとした瞬間――

「殺せばよい。
余の事など見捨て、生き延びるために敵を殺せばよいのだっ!!」

自分がいなくなれば柳也と裏葉は狙われる事がなくなる。
だから二人とは別れる。
「殺してよい」と言って、二人のもとから駆出す・・・
・・・・・・つもりだった。

「柳也・・・・・・殿・・・?」
様子がおかしい。
黒いモノの動きはピタリと止っている。
柳也がゆっくりと立ちあがる。
裏葉の短刀を持った手がだらりと落ちる。
そして、ゆっくりと振り返った二人の姿は、二つの黒いモノになっていた・・・

390 :呪夢(6):01/10/14 07:32 ID:uzKcxTkZ
「柳也殿っ!」
夏の昼下り。
「どうして!どうしてこんな事になったのだっ!?」
深い森の中を走る一本の山道。
「りゅうやどのぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」
少女の叫びが木霊している。
地に伏せた男と、男にかぶさるようにして泣き続ける一人の少女。
少女は呼びつづける。
もう決して帰ってこない男の名を。
少女は揺すり続ける。
もう決して目を覚まさない男の肩を。

少女は、

男の肩を揺すりながら、

それでも、

右手に握った物を、

手放さないでいた。



男の命を奪った

血塗れの短刀を・・・

391 :呪夢(7):01/10/14 07:41 ID:uzKcxTkZ
千年、二つの夢を繰返し見続けていた。
ひとつは、普通の少女として、普通に生きようとして、
普通の幸せすら掴めずに死んでいく夢。
ひとつは、殺し合いの中で、殺し合いをして、
大切な人を殺してひとり生きのびる夢。


永遠に繰り返すと思っていた夢は、FARGOという組織によって中断された。
FARGOは、呪いの一部を力として抽出することに成功した。
その力を使う事で神奈は悪夢から開放される事が出来たのだ。
呪いから逃れるためにはこの力を維持しなければならない。
呪いの源は人の死、嫉み、怒り、悲しみといった負の波動。
呪いから作られた力もそれは同じ。
FARGOの作った呪いを力として抽出する装置は再起不能らしい。
ならば定期的に人の負の波動を集めなければならない。
効率よく負の波動を集める方法・・・・・・それを彼女はよく知っていた。
手始めにFARGOを、そして世界でも有数の力を持つ長瀬一族を裏で操り・・・

そして、悪夢は現実になった。

392 :呪夢(8):01/10/14 07:42 ID:uzKcxTkZ
(・・・・・・・・・夢に戻るじゃと!?冗談ではないっ!!
二度と、
二度とあのような世界に戻るものかっ!!!)

393 :『呪夢』作者:01/10/14 07:44 ID:uzKcxTkZ
更新早っ!
遅筆な自分は多分これで最後でしょう。

特に書く事が見あたらなかったので【 】ないです。

レス間は1〜2と6〜7の間を4行、それ以外を3行でお願いします。

394 :『呪夢』作者:01/10/14 07:58 ID:uzKcxTkZ
すいません、訂正を1つ。
呪夢(4)にある「少女」っていうのは全て「神奈」の間違いです。
(4)以外のは間違いじゃないので気にしないで下さい。

395 :死の舞踏(1):01/10/14 09:18 ID:iAfmAD4N
 ----------眩しい。

生身の人間が、ここに足を踏み出すのは冒涜なのではないか。
そう考えさせられるほど、世界は神々しく光に包まれていた。
(……彰は?)

目を細め、頭を巡らせてさがす。
戦闘の音は聞こえる。
しかし、その姿は見当たらない。
(視界が…狭いんだ)

目を慣らしながら、音を頼りに進む。
一方的な銃撃音が続いている。
音が聞こえる限り、勝負は続行中なのだろうが…異常だった。
いくらなんでも、声だけの銃撃を-----

『耕一さん!あっちです!!』

-----叫びに、振り向く。繭の声だ。
自分が降りてきた方向とは逆の、むしろ通気口側。
音の共鳴が位置取りを誤らせていたのだろう。

遠く光の中、二人の影がさながら踊るように舞っている。
(彰-----勝手に、死ぬなよっ!!)
耕一は心の中で祈りながら、走り出した。

396 :死の舞踏(2):01/10/14 09:18 ID:iAfmAD4N
「……ち…千鶴さんっ!」
「嘘……」
あゆと、目を覚ましたマナが死体にすがり付いている。七瀬と晴香は無言で立ち尽くしている。
さんざん泣いたあたしが言えた立場じゃないけれど-----急がなきゃいけない。
「あゆ、行こう」
「うぐぅ……」
盛大に鼻水までたらして、あゆは泣いている。レースの上等そうなハンカチーフをとりだして、鼻をかんでやる。
「しょうがないな…ほら…」

あゆの鼻をぐりぐりしながら、全員の様子を見る。あたしは脚に裂傷。繭は左手に被弾したが傷は浅そうだ。
晴香と七瀬は腹に貫通傷。マナは出血こそ派手だったが、肋骨の上を滑っていただけのようだ。むしろ打撲が酷い。
あゆは無事だが、戦力として期待するのは間違っている。

あたしと繭を除けば、肩を組み気力で立っているような、七瀬と晴香に期待するしかない。
足を引き摺って、二人の前に立つ。
「お互い、ぼろぼろだね」
「そうね。でも、これで最後なら-----」
「-----根性、見せないでもないわよ」
そこは乙女の意地でしょう、と七瀬が修正する。

……悪いけどあたしは、乙女って柄じゃない。
たぶん、ここにいる誰も柄じゃない。

『耕一さん!あっちです!!』

繭が叫んでいる。神奈を発見したのだろう。
「繭!どっちだ!?」
そう言いながら、あたしたちは各々の可能な限りの速さで走りだしていた。
「あそこです!ああっ!」
「な----------!!」

397 :死の舞踏(3):01/10/14 09:19 ID:iAfmAD4N
銃声がやんだ。
音さえ吸い込むように、光が強くなっていたが-----そのためではない。
「彰ああああああああああ!!」
耕一の叫びが響き渡る。そして叫びの余韻の中、施設から梓達が駆けつけてくる。

 ひとつの勝負が、ついていた。

そのシルエットは、祝杯をあげるように高らかに右手を上げている。
左手を腰に当て、誇らしげに胸を張り、そして掲げるそれは-----

 「……彰」

-----彰、だった。
神奈は首を掴んで、軽がると持ち上げている。一方の彰は、無事なところなど見当たらない。

 「耕一…遅いじゃないか」
 「……済まん」
 「初音ちゃんのこと…頼むよ」
 「……ああ…任せておけ」

初音の死体のことなのか。
-----それとも、まさか。彰の記憶はもはや狂ってしまっているのか。
むしろそのほうが、幸せなのかもしれないが-----真実は最期までわからずじまいだった。

 ごきり

銃声すら掻き消す光の中で、全員がその音を聞いたという。
続いてひゅう、と擦れた吸気音のようなものが一回。

 祝杯は、砕かれた。

398 :死の舞踏(4):01/10/14 09:19 ID:iAfmAD4N

支えを失いだらりと垂れ下がった彰の首に、鬱陶しげな一瞥をくれると、神奈は無造作にそれを捨てた。
そしてパートナーを導く踊り子のように、優しげとさえ言える滑らかな仕草で手を差し伸べる。
「次は、どいつじゃ?」
耕一を、七瀬を、晴香を見て、上機嫌に言い放った神奈は、ついと片眉を吊り上げる。
「…また、小細工か。ご苦労なことじゃの」

(……小細工?)
耕一たち三人は、お互いの顔を見た。可能な限りの努力は、小細工だって何だってするつもりだった。
しかし、心当たりがない。俺たちに何か共通点が…?
(そうか-----刀か!?)
三人同時に、理解の色が拡がった。刀の外見は、どれもほとんど違わないのだ。

 無言のまま、三人のリズムが同調しはじめた。
 自然と神奈を囲むように、等間隔で立っていた。

しかし、どうにもならない問題がひとつある。
観鈴を斬らずに、神奈を斬れるのだろうか。
(やはり-----不可能なのか)
七瀬と晴香の刀は、ただの刀だ。神奈を倒す事ができない以上、本気で切り込むことはできないだろう。
しかし耕一の刀は、神奈を倒せるものだ。
唯一その手段を有した自分が躊躇えば、三人全員倒されてしまうかもしれない。
(-----不可能、なのか-----)
握り締めた手に汗が伝う。三人同時に、ちゃきりと刃音を鳴らして刀を構える。

 もしもこれが舞踏なら。
 いま高らかに、天空の歌が流れていることだろう。

399 :けもの達の集う場所(その1):01/10/14 09:23 ID:qD06pMBO
「うぐぅ………」
「だから言ったじゃないの」
「だ、だって………」
あゆが何かを言いかけた時、首にかけたバッグからぴろが飛び出した。
「あっ!」
追いかけようとしたが上にのしかかった人の重さで立ち上がることは出来なかった。
「ま、待って!」
後ろからかけられる声を振り切るようにしてぴろは走り出した。

400 :死の舞踏(5):01/10/14 09:24 ID:iAfmAD4N
「……どうした? 立って居るだけか?」
神奈が挑発する。梓たちが銃を構えているが、飛び込む耕一たちのことを考え発砲できないでいた。
(くそっ!)
七瀬たちが、耕一を見ている。
何かきっかけがあれば-----例えば耕一が目で合図すれば、二人は飛び込むだろう。
(くそう!!)
迷いに割ける時間は、間違いなく限界に達しようとしていた。

そのとき-----ばさりと羽音を立て、神奈の真上から何かが降ってきた。
光りをさえぎるような、真っ黒な何かが降ってきた。
「何-----烏じゃと!?」
いままで何者も触れる事すらかなわなかった神奈の肩に、一度だけ羽音を響かせて烏がとまった。
神奈は驚きと怒りをぶつけるように、右手を振り回し中空の剣を叩きつける。

ぱん、というその音は破裂音と表現するのが一番近い。
生物を殺戮するというよりも、風船を割ったような音がして-----烏が-----闇が、拡がった。
「何じゃ!? これは!!」
叫ぶ神奈の姿が、闇の中で観鈴に重なるように浮かんでくる。
闇の中で輝くのは、神奈の翼と-----ひとつの、人形。
「烏!!貴様は一体!?」
殺されたはずの烏が、いまだに神奈の肩にとまっている。
そう、観鈴の肩ではなく-----神奈の、肩だ。
みるみるうちに、神奈の姿が観鈴から引き剥がされ、人形へと移っていく。

 -----今だ!
 三人は誰からともなく、踏み込んだ。

 狙うは-----人形。

401 :死の舞踏(6):01/10/14 09:24 ID:iAfmAD4N
「うおおおおおおおおおお!!」
「小癪な!!」
耕一の雄叫び。そして剥がされながらも観鈴を操る神奈の叫び。
一瞬にして七瀬を吹き飛ばし、晴香の刀を両断する。
剣は勢いを増して、そのまま耕一の胴を両断する-----

 ざんっ

-----肉と骨を、瞬時に両断する音。ざあ、と流れる血。
「観鈴ちゃん……」
「にはは……」
耕一が膝をつく。そして神奈が振り上げた右手を、胸を押さえるようにしまい込んだ観鈴が膝をつく。

 神奈の剣は、軌道を変え観鈴の身体を両断していた。
 そして耕一の刀は-----人形に、突き立っている。

「みんな、ありがとね……」
「観鈴ちゃん-----!」
「おかあさんも、”ようやった”って…言ってるよ」
「観鈴ちゃん!!」

 最期に意志を取り戻した観鈴が、剣の軌道に干渉したのだ。
 観鈴の肩を抱く耕一から逃れるように、その下半身がぼとりと落ちた。

「……ありがとうって……なんだよ…」

耕一は地に伏した。
そして、光が収束する。

 死の舞踏は、終焉の時を迎えたのだ。

402 :名無したちの挽歌:01/10/14 09:26 ID:iAfmAD4N
【七瀬彰 死亡】
【そら 消滅】
【神尾観鈴 死亡】
【神奈備命 刀に封印】

むむ…なんだか挟み込んでしまったようで、失礼しました。
>>395>>396>>396>>397の間は3行あけ、他の各レス間は一行でお願いいたします。

403 :けもの達の集う場所(その1):01/10/14 09:32 ID:UBaAatlt
「うぐぅ………」
「だから言ったじゃないの」
「だ、だって………」
あゆが何かを言いかけた時、首にかけたバッグからぴろが飛び出した。
「あっ!」
追いかけようとしたが上にのしかかった人の重さで立ち上がることは出来なかった。
「ま、待って!」
後ろからかけられる声を振り切るようにしてぴろは走り出した。

404 :けもの達の集う場所(その2):01/10/14 09:34 ID:UBaAatlt
『クッ………』
傷が痛む。
体がバラバラになりそうなほどに。
それでも俺は走り続けていた。
あの女を捜し出すために。
五感の全てを最大限に発揮してあの女の居場所を探る。

――俺はあの女を許せない――

ぽちは俺の目の前で無惨に殺された。
そらも生きているのかどうか分からない。
何故俺のようなろくでもない奴だけが生き残ったんだ?
俺はポテトとの約束を守れないような馬鹿だぜ。
だからせめて敵だけでも取ってやる。
例え俺が死んでも。

――それ以上に俺は俺自身を許せない――

悪いな、そら。
お前が大事だと言っていた女を。
あの世でポテトとぽちにお前の分まで謝ってやるから勘弁してくれよ。
俺はあの女がいる気配を感じ取るとその方向に向かった。

405 :けもの達の集う場所(その3):01/10/14 09:35 ID:UBaAatlt
「うおおおおおおおおおおお!」
森の中を一匹の獣が走っている。
片腕を無くし普通ならば生きていることさえ不可能な傷を受けてもなお僕は生きている。
(ちっ、乗っ取れたのは半分だけか)
僕の頭の中で僕ではない声が響く。
だがそんなことは今の僕にとってどうでもいい。
傷の痛みすら感じない。
今の僕に取って大事なのは神奈という女を殺すことだけだ。
それだけが僕の使命。
それだけが僕の生きている理由。
(まぁ、いい。どうせこの宿主も長くはない。最後の狩りを楽しむとしようか)
また、声が聞こえた。
今の僕を突き動かしているのは僕自身の意志でありこの声でもある。
今まで僕が抗ってきたモノ。
だが今の僕とこいつの利害は一致している。
ならば抗う必要など微塵もない。
(………あっちか)
頭の中の声が指し示す方向に向かう。
初音ちゃん。
もうすぐ君に会えそうだ。
でも、その前に―――。
「あの女を殺す」
(あの女を殺す)

406 :けもの達の集う場所(その4):01/10/14 09:35 ID:UBaAatlt
観鈴、どこだ!
ぼくは空を飛び回りながら必死で観鈴を捜していた。
ぼくが気が付いたときには、何故かぼくは施設の外にいた。
傍らには口にくわえている人形が落ちているだけだった。
気を失う前にぼくが見た光景。
観鈴が何者かに体を奪われていくのを見ているだけしかなかった。
ぼくは無力だった。
恐らくぴろ君やぽち君も殺されてしまったのだろう。
あの何者かに操られた観鈴によって。
ポテト君、ぴろ君、ぽち君。
文句はぼくがそっちに行ったらたっぷりと聞くから。
だから、今だけはぼくの好きにさせて欲しい。
ぼくは観鈴を救わなくてはいけない。
例えこの身が滅びようとも。
例え何の力が無くても。
観鈴を守れるのはぼくだけだから。
観鈴を守る。
それは間違いなく「そら」と言う個体としての意志。
そしてそれがぼくがこの島に存在する理由。
ふっ、と風が流れるのを感じた
ぼくは根拠もなくその方向に観鈴が居るのを確信した。
ぼくは何の躊躇いもなくそこへと向かって飛び立った。

それぞれの目的でけもの達は集う。
同じ場所を目指して。

407 :名無したちの挽歌:01/10/14 09:36 ID:X4AY0Ngu
追加です。

【残り 7人】

408 :けもの達の集う場所書いた者:01/10/14 09:38 ID:UBaAatlt
【ぴろ そら 彰 神奈の元に向かう】


※時間軸的には「おねいさん」と「死の舞踏」の間になりますかね
 多分挽歌氏との話とも矛盾は無いとは思いますがダメなときは
 さっとアナザー申請して下さい。

409 :けもの達の集う場所書いた者:01/10/14 09:43 ID:UBaAatlt
あ、間違えた。
時間軸的には「おねいさん」の前から始まって「死の舞踏」の前で終わってるんでした

410 :けもの達の集う場所書いた者:01/10/14 09:48 ID:UBaAatlt
だー!何度もスミマセン!
(その1)、(その2)(その3)(その4)の間は
それぞれ2行あけでお願いします

411 :名無しさんだよもん:01/10/14 12:01 ID:09rUAV63
メンテ

412 :終局へ:01/10/14 14:06 ID:ZvQcxS4W
 葉鍵ロワイアル

          出演


【雫】
 長瀬祐介     月島瑠璃子    新城沙織
 藍原瑞穂     太田香奈子    月島拓也

【痕】
 柏木耕一     柏木千鶴     柏木梓
 柏木楓      柏木初音     柳川祐也

【To Heart】
 藤田浩之     神岸あかり    長岡志保
 来栖川芹香    来栖川綾香    佐藤雅史
 保科智子     宮内レミィ    姫川琴音
 松原葵      マルチ      セリオ
 雛山理緒

【WHITE ALBUM】
 藤井冬弥     森川由綺     緒方理奈
 緒方英二     篠塚弥生     澤倉美咲
 河島はるか    観月マナ     七瀬彰

【こみっくパーティー】
 千堂和樹     高瀬瑞希     大庭詠美
 長谷部彩     猪名川由宇    芳賀玲子
 牧村南      塚本千紗     桜井あさひ
 立川郁美     御影すばる    九品仏大志

413 :終局へ:01/10/14 14:06 ID:ZvQcxS4W
【まじかる☆アンティーク】
 宮田健太郎    スフィー     リアン
 江藤結花     高倉みどり    牧部なつみ

【誰彼】
 坂神蝉丸     三井寺月代    砧夕霧
 石原麗子     桑嶋高子     岩切花枝
 杜若きよみ(白) 杜若きよみ(黒) 御堂

【MOON.】
 天沢郁未     巳間晴香     名倉由依
 名倉友里     天沢未夜子    巳間良祐
 少年       鹿沼葉子

【ONE】
 折原浩平     長森瑞佳     七瀬留美
 里村茜      川名みさき    上月澪
 椎名繭      柚木詩子     深山雪見
 広瀬真希     住井護      氷上シュン

【Kanon】
 相沢祐一     水瀬名雪     美坂栞
 沢渡真琴     川澄舞      月宮あゆ
 倉田佐祐理    美坂香里     水瀬秋子

414 :終局へ:01/10/14 14:07 ID:ZvQcxS4W
【AIR】
 国崎往人     神尾観鈴     霧島佳乃
 遠野美凪     みちる      神尾晴子
 霧島聖      橘敬介


 長瀬源一郎   長瀬源三郎   長瀬源四郎
 長瀬源五郎   フランク長瀬  長瀬源之助

 team高槻   ポテト  ぴろ  そら  ぽち

        and many extra


         神奈備命

415 :終局へ:01/10/14 14:08 ID:ZvQcxS4W
          脚本

 L.A.R.      zin        。
 シイ原      真空パック    quit

 111        いつか
 訳あり名無しさんだよもん

 命        YELLOW     荒門
 マナー(゜Д゜)   駄っ文だ     189

 名無しさんなんだよ         ヘタ霊
 セルゲイ     名無しcd     林檎

 名無し達の挽歌  #4-6
 七連装ビッグマグナム        赤目

 遥か       #7-76       彗夜
 祐一&浩平    日向葵      T.T

 Kyaz       5
 感想スレRの142  River.


       and all nanashi team

416 :終局へ:01/10/14 14:09 ID:ZvQcxS4W
        スペシャルサンクス

 7つさんだよもん  名剣らっちー氏   ダンディ
 花と名無したん   感想スレRの142   林檎
 旧データサイト管理人


         and all readers


         presented by 葉鍵板

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

417 :終局へ:01/10/14 14:11 ID:ZvQcxS4W


  いくつもの願いがあった

    いくつもの別れがあった

   いくつもの物語があった


            そして――


      to be continued......last episodes......

418 :遺書。(a Last Episode for Akira.):01/10/14 17:24 ID:t87onolA



僕は。
――その、次第に薄れていく光の中で、何を見たいと思ったのだろう。

辛うじて、まだ生きているんだな。
その事実に気付く事が、果たして幸せなのかどうか。
幸せだと信じよう。僕のココロは、事実、ひどく充たされているから。
先程、耕一に最後の言葉を伝えたのが記憶にあった。
けれど、僕が本当に伝えたかった事を彼が受け入れてくれたかどうかは、判らなかった。

僕の傍に駆け寄ってくる影が、一つ。
その正体が誰かと見れば、なんの事はない、この島の中で見飽きる程見てきた友人の貌だった。
「彰っ――――――――倒したぞ、神奈を」
そうか……矢っ張り、お前は強いな。
僕の力じゃどうにもならなかった事を、お前は為し遂げてくれた。
僕の代わりに初音ちゃんの仇を取ってくれて、

(ありがとう、と云いたかったんだけど)

生憎だけど、声も出ない。
土に文字を記して、その意を伝えようと思ったのだが、生憎手も動かない。
「――畜生ッ」

何だよ。そんな貌をするな。お前は勝ったんだぜ、この長い長い戦いに。
神奈を倒したんだ。そう言う貌をするな。僕が死ぬくらい、大したことじゃない。

419 :遺書。(a Last Episode for Akira.):01/10/14 17:25 ID:t87onolA

ああ、まだ、お前の貌が見える。
お願いだ、僕の喉よ、もう少し動いてくれ。
どうか、言葉を告げさせてくれ。
本当に伝えたかった事を、告げさせてくれ。
――奇跡は、皮肉なカタチで訪れるもんだ。
最後の瞬間になって漸く喉に力が戻ったのだから、皮肉としか云いようがない。
もう少し早く体力が戻ったなら、もっと色々話せただろうに。
まあ――言葉が出せるだけ有り難い。
――僕の身体の中にいる初音ちゃんが、最後の力をくれたのだろうか?

「初音ちゃんは、護れなかったけど」
「彰ッ――――――」
喋るな、と云う声がする。馬鹿野郎。今喋らないで何時喋るって云うんだよ。
「何も、護れなかったけど」
「彰ッ!」
「後は、よろしくな」
――そう。
僕は、せめてお前には、ずっと、ずっと。

生きて欲しい、と。

どうか、生きて欲しい。




420 :遺書。(a Last Episode for Akira.):01/10/14 17:26 ID:t87onolA


「彰、喋るな!」
俺は血塗れになって瀕死の、血が溢れ出てくる口をぱくぱくと動かしながら喋る彰の言葉を聞く。
もう少しだけ早く来れば、お前を死なせずに済んだかも知れない。
頭を過ぎるのは彼と過ごした僅かな時間。
短い時間ではあったけど、互いに尊敬しあい、信頼し合う事が出来た、この島で出来た友人。
途中から壊れていく彼を、それでも見詰め続けてきた俺は。
今こうして、多分「正常」に戻りつつあり、そして再び壊れていく姿を見続ける事が、つらかった。
千鶴さんも失くした。
そして、この島で出来た、大切な友人も、ここで――失われてしまうのか?

だが、どれだけ苦痛であっても。
目の前の男を見続ける事は、つらい事であっても。

この男と、出来るだけ長い時間を共有していたいと、俺は思うから。

「後は、よろしくな」
彰は、そう呟いた。
俺は溢れ出る涙を拭う事すら出来ず、それでも。
「ああ、任せろ! 任せろ、彰ッ」
俺は何度も何度も首を振って、その失われていく彼の体温を出来るだけ長く、長く感じようとした。
抱き上げた彼の身体は、どうしようもなく軽かった。
そして、すべてが失われていく事を知った。




421 :遺書。(a Last Episode for Akira.):01/10/14 17:27 ID:t87onolA

言葉は託した。これで、多分、僕は終わりになるのだろう。
きっとすぐに意識が消えていく。
意志も、願いも、全部、消えていく。
この島を出て、初音と共に生きていこうと思っていた意志。
どんなにつらい事があっても、乗り越えていきたいという願い。
それらは、霧のように儚いもので、霧のようにあっさりと消えていってしまうけれど。
それらを、全部、託そう。
目の前にいる、強い強い男――柏木耕一に。

僕は、震える手を耕一の頬に伸ばす。その温度は、暖かかった。
「ああ、任せろ! 任せろ、彰ッ」
強い声で、耕一は云ってくれた。
それで満足だった。




422 :遺書。(a Last Episode for Akira.):01/10/14 17:31 ID:t87onolA


「――耕一、僕たちは友達だったよな?」
闇雲に突き出される手を、俺は強く強く握り締めた。
最後の体温を逃さぬように、強く強く。
「ああ、友達だったよ。俺たちは、友達だったよ!」
泣いているのを隠そうとはしなかった。
――どれだけみっともなくても構うものか。今泣かないで、何時泣けと云うんだ。
長い緊張が途切れ、きっと俺の精神は完全に弛緩していた。
溜まっていた涙が止めどなく溢れ出る。
これ程の水分が俺の身体にあったのか、と云う程に、それは彰の頬を濡らし続けた。
「絶対忘れない、絶対忘れないからッ!」
俺は、言葉を吐いた。溢れ出る言葉を、すべて、すべて目の前の友人にぶつけた。
「お前と会えて……良かった」
彰が、震える唇でそう、明瞭と云ったから。
俺は、耐えられなくなって、次第に力が抜けていく彰の身体を、もう一度強く抱き締めた。
「俺もッ――――――会えて、良かった」




423 :遺書。(a Last Episode for Akira.):01/10/14 17:33 ID:t87onolA

――ヒトが生きていけるのは。
何かを信じる事が出来るから、そして、
くだらない事を語り合える時間があるからだ。

――初音ちゃん。すぐに、君の所に行くよ。同じ所にいけるかどうかは判らないけどね。
それでも、絶対にここよりは近い場所だ。

――最後に、語れて良かった。
ありがとう、こんな絶望的な戦場で、お前に会えて、本当に良かった。
本当に、ありがとう。

込み上げてくる嗚咽を抑えようとしながら。僕は云った。
それが最期になった。




「またいつか何処か、ここじゃない何処かで会えたら、――――――――――良いな」




【068 七瀬彰 ――――――――――――――――――――――――――閉幕。】

424 :コップの中の嵐(1):01/10/14 20:07 ID:yNfVwUT2

――00:02――東京新宿地下施設――

地下とは思われないほど広大で豪奢な空間。そこでは様々な男女が
カクテルグラスを片手に談笑している。彼らの共通点は顔に奇妙な仮面をつけている事。
そして会場の雰囲気を壊さぬよう計算し尽くされた配置で並べられた机の上には、
まさに山海の珍味の数々が並べられていた。そのどれもが尽きることなく
運びこまれている。部屋の四方の壁、天井、はては床までがモニターになっており、
逐次なにやら映し出していた。


「そろそろ決着のようですなぁ」
「マダモアゼル、あなたのどの駒にお賭けになったので?」
「おほほ、私は七瀬留美に」
「さすがはお目が高い。私の賭けた柳川祐也なんぞは開始早々消えてしまいまして。
 まったく役に立たない男だ」
「まあまあ、その賭け金も見物料だと思えば安いものではないですか」

425 :コップの中の嵐(2):01/10/14 20:13 ID:yNfVwUT2
(2行あけ)

そう、この奇怪な仮面舞踏会の正体……それはFARGO――否、その実態は
長瀬一族なのだが彼等にとってはそんなことはどうでもいい――主催の
狂気の宴。とある島で100人の人間達が殺し合い、そこから生きて
脱出する者は誰であるかを見定めるギャンブル。


この宴に集まった者達は皆、政財界で名を成しこの世の至福を勝ち取った人間。
その至福に飽き足りなくなり、最後に行き着いた先がこの命を賭けた椅子取りゲーム。
もちろん参加するのではない。自分達は絶対安全な場所、遥かな高みから
命のやり取り――そう、どんなに最高の俳優でも虚構のドラマである限り
決して演じきれない現実のドラマ――それを眺める……それは特権階級たる彼等の権利。

残酷?? なにを言っているんだ。古代ローマ帝国では、奴隷剣士同士の決闘を見物し、
そしてそれに賭ける事はなによりの娯楽かつ神聖な行為であったではないか……。

426 :コップの中の嵐(2):01/10/14 20:15 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

「しかしモニターの修理はまだ終わらないのですかな? これでは折角の彼等の舞台を
 十分に楽しぬ」
「まあまあそう言われますな、ご老体。彼等の体内センサーはまだ生きていますゆえ、
 死人が出ればすぐわかる。その瞬間を今か今かと待ち続けるのも一興では
 ありませんか」


彼等は実に楽しげだ。数年に一度行われるこのパーティー。ここに来ることが
出来るのはある種のステータスシンボル。裏の、そして闇の社会に地位を得た証。
同じ穴のむじな達があるまるこの会場。同類の親しみ。彼等はここで様々な人間と
縁を結ぶ。いまそこにいる男も……

427 :コップの中の嵐(4)(426は(3)です):01/10/14 20:19 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

「いかがですかな、今回のゲームは?」
 彼は、一人テーブルに座る男に声をかけた。相手はタバコを口にくわえて無造作に
 足を組んでいる。――賭けた駒が全滅したんだろう――彼はそう好意的に
 解釈することにした。
「今回の主催者の試み――ジョーカーでといいましたかな?――少々作為的ではあるが
 私はかなりおもしろかったと……」
「くだらねえな……」
「…………確かにそういう意見もありましょうが……」

 ピリリッ、ピリリッ……

 突如電子音が鳴る。相手の男は彼にはなにも言わず懐から携帯電話を取り出して、
 なにやら話はじめた。

「ああ俺だ……、そうか……」

 まったく、礼儀をしらん男だ。品性のかけらもない。

「……うん……用意は……」

 それにこんなところで携帯だと? これだから成り上がりものは……携帯っ!?

428 :コップの中の嵐(5):01/10/14 20:21 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

 ここは東京新宿地下施設。誰も知らない筈の場所。電波が届く筈はない。なにか
 細工をしていなければ。こいつは……


  バアァァン………


 パーティー会場に一発の銃声が鳴り響き、次の瞬間全てのドアから完全武装の兵士が
 突入してきた。

429 :コップの中の嵐(6):01/10/14 20:22 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

――00:07 中国 天安門地下会場――
「異常事態発生、異常事態発生。本部、指示を願います!!」


――20:07 ロシア シベリア平原施設――
「FARGO本部、FARGO本部、応答願います!!。現在所属不明の部隊と交戦中。
 このままでは……うわぁっ………」


――18:07 スイス スイス銀行連盟特別施設――
「なにがどうなっているのだ!?」
「わかりませんっ。現在最終防衛ラインで交戦中っ!! FARGO本部とも
 連絡がとれませんっ」
「なんだとっ!?」


――17:07 英国 ロンドン郊外大庭園
「我救援請う、救援請う!! ……何故だっ!? 何故通信が通じないっ!!?」


――12:07 アメリカ ワシントン地下400メートル
「こちらアルファ。奇襲に成功。現在ブラボー及びチャーリーが交戦中。
 20分以内に制圧可能です」

430 :コップの中の嵐(7):01/10/14 20:24 ID:yNfVwUT2
(2行あけ)

――01:37 日本 東京新宿地下施設(FARGO本部)――
「だめです!! 状況判明しませんっ!!」
「なんだっ?、なにが起こっているというのだ!? この世界に我等に
 刃向かえる組織など既に存在しない筈だぞっ」
「しかし現にっ!!」
「くっ!! 仕方があるまい。長瀬老にご連絡申し上げろ」
「それが……夕刻過ぎに通信が途絶えて以来、長瀬様との通信回線が開かないのです」
「なんだと……」
「まあ、あんたらの負けってこった」
 飄々とした声と共に男が部屋に入ってきた。口にはタバコ。先程の
 パーティー会場の男だ。
「既に世界各地のFARGO及び長瀬関連施設は我々の制圧下にはいった」
「なんだと……そんな馬鹿な!?」
「悪いが事実でな。今回の作戦は民族、宗教、国家を越えて全てが一つ
 になっているのさ」
「………おのれぇぇっ! 貴様……貴様一体何者だ!?」
「内閣特別執行委員会直属 特務機関CLANNAD司令 古河秋生……」

431 :コップの中の嵐(8):01/10/14 20:25 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

「秋生さん……」
 男――古河秋生のもとに長いポニーテールの女性が歩み寄る。
「早苗か……」
「当施設の制圧は完了しました。現在「島」に関する資料の探索を行っています」
「そうか」
「それとハクオロ様から通信が入っていますが」
「分かった。出よう」


 通信室。モニターには仮面をつけた男の姿があった。
「ミスター古河。そちらの首尾は?」
「今終わったとこだ。ハクオロ殿、今回の作戦への協力を感謝する」
「礼など必要はない。今回の作戦はステイツ(合衆国)のためでもある。我々や
 他の国の連中もFARGOや長瀬には頭を痛めていたからな」
「そうはいってもあなたたちの協力がなければこうはうまくいかなかった。
 あらためて礼をいわせてもらう。……それと例の「島」の件だが…………」
「贄、羽根、封印、結界……。わかっているのはこれだけだ。
 こちらではアルルゥ、エルルゥ、ユズハが解析を行っているがまだ全然
 判明していない。そちらは?」
「現在、岡崎 朋也、春原 陽平 両名が全力をもって解析を行っていますが
 ………こちらもまだ……」
 ハクオロの問いかけに早苗が答える。
「そうか……。せめて場所だけでもわかるといいのだが」

432 :コップの中の嵐(9):01/10/14 20:27 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

 二人は通信を終え屋上に向かう。窓から外を覗くと星がきらめいていた。
大都市東京とはいえこの時間にもなるとそれなりに星が夜空に姿を現している。

 秋生は忌々しげに、吸ってたタバコを投げ捨てる。
「水瀬秋子特別調査官からの通信が途絶えて4日……、あの様な悪夢を阻止するために
 皆で作り上げたこの組織なのにな……」
「秋生さん……」
「国を超え、民族を超え、宗教を超え……。折角ここまで来たっていうのに……」
「ですが、FARGO及び長瀬は押さえました。このような悪夢は今回で最後の筈です」
「ああ……だが…………我々に密かにご尽力して下さった来栖川老にも申し訳が
 たたない……」
「秋生さん……。我々はやれるだけのことはしました。そしてまだやることは
 あります。後悔するのはそれからでも遅くはありません……」
 早苗がうつむき加減で答える。肩が小刻みに震えていた。
 ……そうだったな、おまえと水瀬秋子は本当に仲のよい友人……
 親友だったんだよな……。多分お前は俺よりも……
「まだ生存者がいる筈です。私達も渚と合流してデータの解析、「島」の場所の特定に
 全力を尽くしましょう」
「……そうだな」
「それが彼女の……そしてみんなの願いだと思います。今は後悔することより
 先に進むことを考えましょう」

433 :コップの中の嵐(10):01/10/14 20:29 ID:yNfVwUT2
(3行あけ)

――お互い分かっていた。もはや俺達は遅い、遅すぎたのだということを。
  もうこれ以上この腐れゲームに干渉をすることは不可能だ。
  だけれど………今、生き残っている奴くらいは助けてやりたい。だから


「いきましょう。秋生さん」


 二人は待機していたヘリに乗り込む。

――今、昔の友人達が必死に高槻をどうにかしようと必死で動き回っているわ――

確かに彼等、水瀬秋子の古くからの友人たる古河秋生、早苗達は死力を尽くしていた。
そしてその結果

――往人さん。高槻という人の後ろにはとある人がいるのよ。私はその人達と
  争いたくないから、最後はこの子を生き残らせるために辛い選択をする時が
  来るとおもうの――

彼女、水瀬秋子ですら躊躇した相手、その長瀬の組織すらも壊滅に追い込むことが
出来た。だが、彼らに出来たのはそれだけ……それだけだった。


彼等は知る由もない。島での出来事、真実、そして結末を……。

434 :Kyaz:01/10/14 20:38 ID:yNfVwUT2

[組織壊滅]
[しかし彼等は情報を得られず]
[そして彼等はエキストラ]

[この作品は第139話内での水瀬秋子の台詞及び囁き続けられていた観客の存在に
関する話にリンクしています]

コップの中の嵐を書かせて頂きましたKyazです。
ハカロワを読み始めてからずっと気になった点について書かせて頂きました。

この話では少しお遊びでいろいろな人間を出していますが、彼等や
彼等のとった行動が「島」に直接関わることはまずないと思います。
題名の「コップの中の嵐」はつまり、どんなにコップの中で異変があっても
コップの外(つまりハカロワ島)には何の影響も与えないという意味を
こめてつけさせて頂きました。反則くさい話になってしまいましたが
お楽しみいただけましたら幸いです。それでは

435 :すくいきれないもの(1):01/10/14 20:40 ID:gyTfB0qJ
 ぴろはただ、その光景を見終えて立ち尽くすのみだった。
 終わってしまった。
 そう、全て終わってしまった。
 そらは結局、最後まで彼女を守ろうとして――そして守ってみせたのだろう。
自らの全てと引き替えに。

 一方の自分は。
 約束は果たせず終い。
 仇はもういない。
 戦友も、誰も残っていない。

(俺がやれること、なくなっちまったか)

 どうして、自分が生き残ってしまったのだろう?

(疲れた――)

 彼はその場にへたり込んだ。元々無理を押してこの決戦の地までやってきた
のだ、緊張の糸さえ切れてしまえばまともに動けるはずもない。

(本当に、疲れた――)

 生きることがどんなに辛かろうと。
 それを投げ捨てることだけは、絶対に許されなかった。
 誰が何と言おうと、それが生き残った者の責任なのだから。

436 :すくいきれないもの(2):01/10/14 20:42 ID:gyTfB0qJ
 彰の最期の言葉を、確かに受け取って。
 耕一は、その亡骸を地に横たえた。

 彰も、観鈴も、千鶴も。
 何故死に逝くその顔は、あんなにも安らかだったのだろうか?

『――ありがとう』
『おかあさんも、”ようやった”って……言ってるよ』
『またいつか何処か、ここじゃない何処かで会えたら、――良いな』

 彼らの最期の言葉を思い出し、彼は再び力無く地に伏す。

(俺は――本当によくやれたんだろうか?)

 神奈だけを斬ることは果たせた。
 だが、あの言葉に込められた千鶴の本当の望みは。
 観鈴を救うこと。
 その観鈴は、自分を助けるために命を落としたのだ。

(俺は――)

 今は、そんなことで悩んでいるべきではないだろう。後を託された者として、
やるべきことをやり、為すべきことを為さねばならない。
 それは分かっている。
 しかし、分かってはいても、立ち上がることはできない。

(結局、俺は――何もできなかったんじゃないのか?)

 その問い掛けに答えてくれる者は、誰もいなかった。

437 :すくいきれないもの(3):01/10/14 20:46 ID:gyTfB0qJ
 耕一に捨て置かれた、その刀の内では。

――嫌じゃ、余はもう嫌じゃ――

 哀れな敗北者による、最期の、そして無駄な抵抗が行われていた。
 ある意味では、何よりも、それこそ自身の消滅よりも恐れていたこと。
 敗北。そして封印。

 今や神奈には、何の力もない。

 ただ呪いを受け続けなければならない。
 ただ夢を見続けなければならない。
 この千年の間、それを強いられてきたように。これからも、ずっと。

――嫌じゃ、余はもう嫌じゃ――

 また、自らの目の前で柳也を失うのだろうか?
 また、自らの手によって柳也を殺すのだろうか?

 幸せを掴もうとしても、決して掴めない。
 それは指の合間をすり抜け、こぼれ落ちてゆく。

――嫌じゃ、余は、もう――

 彼女はただ、泣き叫ぶ。たとえそれが、誰にも届かなかったとしても。

※各レス間の改行は三行で。

438 :すくうもの(1):01/10/14 23:54 ID:HLhu+ed+
「がんばりましたね」
「ああ、もう死ぬほどにな」
「ははは、そうですね」
「それにしても、また、会えるとは思わなかった」
「……そうね」
「母さん」





空から降り注ぐ、まぶしい光。




目の前を覆う、暗い闇。




涸れ果てることのない、忌まわしい水。




余の両手についているのは、だれの血だ?

439 :すくうもの(2):01/10/14 23:55 ID:HLhu+ed+
「柳也、殿?」
地面に倒れ伏している、ひとりの男。
背中を、斜めに赤く大きな深い傷。
右手には血塗れの太刀をにぎったまま。
左手は土くれをつかんだまま。
倒れても、立ち上がろうとして果たせなかったのだろう。

――また、同じ夢
神奈は分かっていた。これは現実ではない。
呪いだ、ということを。
だが、彼女は抗うことはできない。
両の目は、涸れることなく涙を流し。
両の手を、柳也の血で赤く染めて。

――また、同じことが繰り返される。
     何日も、何ヶ月も、何年も、何十年も、何百年も、何千年も……


「あらあらまあまあ、親子水入らずのときにすいませんね」
「……誰、あんた?」
「これ、口を慎みなさい、まったく相変わらず口が悪くて……」
「うふふ、殿方はそれぐらい元気がある方がよろしいですよ」
「恐縮です」
「だから、誰、あんた?」

440 :すくうもの(3):01/10/14 23:57 ID:HLhu+ed+
「柳也……」
赤いからだにすがりつき、神奈は泣く。
暗い森の中に、いつまでも少女の嗚咽が木霊している。
――どうしたの?
「柳也が、柳也が……」
――何で悲しいの?
「余のせいで、柳也が……」
――何で泣いてるの?
「柳也が死んで、死んで……」
――いつまで泣いてるの?
「そんなこと、知るか……」
――いつまでそうしているの?
「余だって、いつまでも泣いていたくはない。だが、柳也が……」
――泣きたくないのなら、いっしょに遊びませんか?
「えっ?」


「私たちはこれから、神奈さまの呪いを浄化するのですけど」
「さま? 母さん。なんであんなヤツにさまをつけるんだ」
「そうですわね。貴方に悪戯ばかりしてましたからね」
「悪戯って……あれがか?」
「それで浄化はけっこう時間がかかるので、その間に頼まれごとをしてほしいのですが」
「で、いったい何をすればいいんだ」
「神奈さまと友達になってください」
「はぁ?」

441 :すくうもの(4):01/10/14 23:58 ID:HLhu+ed+
どこからともなく聞こえてくる、声。
「誰だ!」
神奈は涙をぬぐい、辺りを見回す。
『いつもと、違う。余はここで独りのはず』
闇の中に包まれた木々の中、ぼうっと光るものが見える。
『?』
それは、徐々に神奈に近づいてきている。
光はだんだんと人の形をつくり、大きくなっていく。
奇怪な光景、だが、不思議と恐ろしくはない。
やがて、光は薄れ、そこに立っていたのは、ひとりの少女。
「おまえ、は……」
「みすず、だよ。神奈ちゃん」


【謎の声A、B、C会談中】
【観鈴、神奈の夢の中に】

442 :すくうもの作者:01/10/15 00:02 ID:yHmgl3xS
ああ、またageてる……
最後まで迷惑かけまくり。スンマソン。

迷惑ついでに、それぞれの書き込みの後、二行ずつ空けてください。

443 :空へ(その1):01/10/15 02:59 ID:gJFPOqzc
空を見上げる。
降り注ぐ光が次第に弱まっていく。
「ん?」
ふと地面に目を落とす。
地面に何かが落ちているのに気付いた。
それは黒い羽と白い羽だった。
まるで互いに寄り添うように。
「そら………」
それを見て何となく理解する。
お前はちゃんと彼女を救えたんだな。
それに比べて今の俺は情けねぇなぁ。
ポテトとの約束も守れず、ただ生きてるだけ。
こんなんじゃあの世であいつらに顔向けできねぇな。
 

444 :空へ(その2):01/10/15 03:01 ID:gJFPOqzc
(2行空け)
俺は爪で自分の顔を引っ掻いた。
「ってぇ………」
でもおかげで目が覚めた。
そうだな、愚痴ってても仕方ないな。
あいつらはあいつらがやれることをやった上で死んでいった。
なら俺もやれることをやった上で生きていこう。
あいつらの分までな。
「っと」
後ろからふいに抱きかかえられた。
いつもなら暴れ出す所だが今の俺は気分がいいからな。
ま、特別に許可してやるぜ。

ふいに風が吹いた。
地面に落ちていた一対の羽が空へと飛んでいく。
俺はそれを目で追う。

445 :空へ(その3):01/10/15 03:03 ID:gJFPOqzc
(2行空け)
ポテト、お前との決着はその内つけてやるからな。
そら、悪いけどポテトに俺の分まで約束守れなかったこと謝っといてくれよ。
ぽち、お前のこと結局守れなかったな。文句はまた後でゆっくり聞かせてもらうから。
今はまだお前らに会えないけど。
いつかまた必ず会えるから。
だからその時まで。
「………またな」
何故か目から涙がこぼれる。
けっ、涙なんて柄じゃねぇのにな。
「泣きたい時は泣いた方がいいわよ」
俺を抱いている人間が頭をなでながら声をかけてくる。

―――ありがとう、ぴろ君―――

空耳か?
そらの声が聞こえたてきた。
ったく相変わらず水くせぇな、そら。
ずっと言ってるだろ。
「俺達、親友だからな」
 

446 :空へ(その4):01/10/15 03:04 ID:gJFPOqzc
(3行空け)
羽は空高くのぼっていく。
幸せな記憶と小さな一匹の猫の思いをのせて。
どこまでもどこまでも高く。

447 :最後のプログラム:01/10/15 19:15 ID:xgd4kUNy
激しく鳴り響いていた爆発音や銃声が止んで、
ここメインコンピュータールームは恐ろしいほど静まり返っていた。

ブゥ……ン――――

「……終わった…ようじゃな」
GNの目の前に凄惨な光景が再び広がっていた。
北川と、赤く染まった白き蛇の残骸。
「さて……と」
ウイルス駆除も成功したというのに、何故か釈然としなかった。
一度犯された機械というのは脆いものなのかもしれない。

神奈備命が消え、GNの思考ルーチンが最終段階へと移行した。
今の今までGNすらも知らなかった最終プログラムの概要が流れ込んでくる。
「最後の大仕事、じゃな。あまり気は進まんが、許せよ」
有無をいわさず、コンピューターの中に植え付けられた最後のプログラムを起動し始めた。
神奈備命が滅した今、GNへのそれは強制力として働いた。

飛行艇が没した今、唯一の脱出手段である潜水艦は『ELPOD』だけだ。
島全体の施設の現情報を集めながら、そのプログラムを進めていく。
さすがにこの島のFARGO残党が何人残っているかまでは確認できなかったが
少なく見積もっても、数十人の生き残りはいるはずだ。

448 :最後のプログラム:01/10/15 19:16 ID:xgd4kUNy
「あいつは、生きていたら一体どうするつもりだったんじゃろうか」
あいつとは源之助を指す。
長瀬の内何人がこのプログラムのことを知っていたかは分からないが、
少なくとも源之助は知っていたはずだ。自分がこの事を知っているのだから。
源之助自らは逃げおおせていたのかもしれないし、自分もここに留まる気だったのかもしれない。
さらに、島の外にも生き残りのFARGOが確実にいるだろう。
源之助がそいつらをどうする気だったかまでは知らないが、そこまではもうGNが関知するところではない。
(これはGNすらも知りえぬことだったが、島の外にいたFARGO及び長瀬一族は事実上壊滅していた)


最初からすべては源之助の作り上げたシナリオであったということ。
最初からFARGOを生かして返すつもりなどなかったということ。
最初から今回のゲームに生き残りを残す気などなかったということ。

449 :最後のプログラム:01/10/15 19:16 ID:xgd4kUNy
「目的の為には犠牲も厭わない。恐ろしい男じゃな、まったく」
そして、最後のスイッチを押した。
「ワシも、あやつらにひどく感化されたもんじゃ…
 このスイッチを押すことがこんなにも辛いとはの。
 じゃが、最後の管理者として、任務を遂行する」

『緊急警報、緊急警報、この島の大爆発まであと30分――
 繰り返します。この島の大爆発まであと30分――
 島の全住人はすみやかに脱出して下さい。
 繰り返します――』

女性の声が島へと鳴り響く。あらかじめ録音したあったHMX-13、セリオの声だった。
島全体が震動で揺れ動き、ボロボロになった室内はそれだけで少しずつ崩れ始めていく。
「ワシの仕事もこれで終了じゃ。――願わくば、彼女らには生き残ってほしいの」
再び島全体がせわしなくなった。

ややあって、遠くで何か大きな爆発音が鳴り響いた。
GNが起爆させた、潜水艦『ELPOD』の本当の最期。
それを確認して、GNは動くことをやめた。

450 ::01/10/15 19:18 ID:xgd4kUNy
【GN 沈黙】
【潜水艦『ELPOD』大爆発・炎上】
※高槻が極秘裏に用意していたと思われる高槻潜水艇は無事。
※残り時間が過ぎるごとにセリオの放送が入るかと思ってますが、そこは先の展開にお任せします。
※島全体が微震で揺れてます。恐らく島の全体が吹き飛ぶほどの爆発が起こります。
※正直、FARGOの生き残り数は不明w
※あえて起動した時間軸は指定しないので、どのタイミングでこのプログラムが起動したかは任せます。

つーわけで、次の話でいきなり起動しなくてもいいといった感じで。
ちなみに、最初から絶対に30分で脱出が不可能なら時間修正させて下さいw

451 :飛べない鳥(1):01/10/17 20:01 ID:rUmzwuQL
――――この夢は、いつもと違う――――

「ねえ」
「・・・・・・・・・」
「一緒に遊びませんか?」
「・・・・・・・・・」
「きっと、楽しいですよ」
「・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・何を・・・」
「え?」
「何を、企んでおる」
「え?え?
・・・・・・・・・あっ!えっと・・・・・・
・・・じゃあ、トランプなんかどうですか?」
「・・・・・・」
「あれ、ダメかな・・・
えっと、それじゃあ・・・・・・」
「とぼけるでないっ!」
「・・・・・・」
「余の事が憎いのであろう!?
余に復讐をするために参ったのであろうが!」

452 :飛べない鳥(2):01/10/17 20:03 ID:rUmzwuQL
「違うよ・・・」
「違わぬものか!余は騙されぬっ!!」
「神奈ちゃんも気づいてる、でしょ?」
「・・・・・・」
「私は、あなた、だから」
「・・・・・・」
「神奈ちゃんの事はよく知ってるし・・・」
「・・・・・・」
「絶対、騙したりなんか、しないよ」
「・・・・・・」


――――このゆめは、いつもとちがう――――

「ね、一緒に行こ?」

「ほら、こっちに来て・・・」

「手、繋ごっか?」

「にはは
じゃあ・・・」


――トスッ・・・


「え?」

453 :飛べない鳥(3):01/10/17 20:03 ID:rUmzwuQL
――――このゆめは、いつもとちがう――――


血塗られた刃が観鈴の脇腹を・・・


天からの一筋の光が神奈の胸を・・・




――――コ ノ ユ メ ハ ヒ ド ク キ ブ ン ガ ワ ル イ――――

454 :飛べない鳥(4):01/10/17 20:04 ID:rUmzwuQL
・・・・・・
悪いが、その頼みは聞けない」
「・・・・・・」
「もともと馴合うのは苦手なんだ」
「・・・・・・
そうですか、
それなら仕方ありませんね」
「?
以外だな、もっと落胆するかと思ったんだが」
「あなたが決めた事ですから、私に干渉する権利はありません
あなたの好きなようにしなさい」
「そうか・・・なら、好きにさせてもらう」
「あの娘のところへ行くのですか?」
「ああ・・・
・・・・・・
そうだな、どうせアイツも観鈴のところにいるんだろ?
だったら、最後を見届けるくらいならやってもかまわない」
「・・・・・・
ありがとう、往人」

455 :飛べない鳥(5):01/10/17 20:06 ID:rUmzwuQL
「それならば、お急ぎ下さいませ」
「?」
「この空間に神奈様を消し去ろうとする光が差込んでいます。
おそらくそう長くは持たないでしょう」
「??
それなら何で今さら浄化なんかするんだ?
もうすぐいなくなる奴を浄化なんかしても無意味じゃないか」
「確かに神奈様はもうすぐ消滅いたします。
それが、不幸とも救いかは分りませんが・・・」
「・・・・・・」
「ですが、神奈様の分け身の少女は残ります。
神奈様が消滅する時に、その記憶と呪いは彼女に受け継がれるでしょう」
「!!
観鈴が!?」
「はい。
観鈴様は浄化が完了するまで神奈様と同じ悪夢を繰り返す事になりましょう。
浄化が完了するまで・・・・・・恐らくは1000年ほど・・・」
「1000年だと!?
観鈴は、そんなに苦しまなきゃいけないって言うのか!?
くそっ、何であいつがそんな目に会わなきゃいけないんだっ!?
・・・・・・っ!
何か、あいつを助ける方法はないのか!?」
「お気持はお察しします。ですが・・・もう避けられない事なのです。」
「・・・・・・」

456 :飛べない鳥(6):01/10/17 20:07 ID:rUmzwuQL
「もう避ける事はできませんが、
・・・・・・観鈴様の負担を軽くする事なら、できるやも知れません」
「・・・・・・」
「神奈様を、笑わせてあげて下さい。」
「・・・・・・」
「希望には、呪いを退ける力があります。
もし、神奈様が消滅する瞬間に笑っていられたのなら
観鈴様に引継がれる呪いを最小限に留める事ができましょう」
「・・・・・・
分った、やってみよう」

「それでは、これでお別れですね」
「ああ、そうだな」
「これを・・・持って行きなさい
・・・・・・
それでは、がんばりなさい」
「ああ、努力してみる。
じゃあ・・・」

457 :飛べない鳥(7):01/10/17 20:08 ID:rUmzwuQL
「これは、ぬしの仕業か・・・」
「そんな・・・違うっ・・・」
「ふん、さぞ満足であろうな。
余の刃はぬしを殺すにはいたらなかった・・・。
しかし、これではさすがの余も助からん・・・
見事に復讐を果したというわけじゃ」
「違う・・・違う!」
「光が少しずつ太くなってゆく・・・
じっくりと苦しめて跡形もなく消し去ろうというわけか。
虫も殺さぬ顔をして、残酷な女よの」
「違う!違う!違う!
どうして!?どうしてこんな!?」
「最後まで良い子ぶるつもりか?
じゃが、いつまで続くかの・・・
余がこのまま素直に消えると思うたら大間違いぞ
余の見た夢よりも、遥かに素晴らしい悪夢をおぬしにくれて――――」

458 :飛べない鳥(8):01/10/17 20:08 ID:rUmzwuQL
「おい、ガキ」

わしっ

「お、おぬしは・・・・・・」
「おい、これから凄く良い物を見せてやるからよく見てろ」
「おぬしも余に復讐に参ったか?
それとも、この娘を助けに来たのか?」
「凄いぞ!楽しいぞ!
笑いあり驚きあり感動ありで一度見たら病み付きになること間違いなしだ」
「助けにきたというのならもう遅い。
余がこのまま消滅したとてこの娘は永遠に悪夢を繰り返す事になろう」
「布団に入っても興奮しっぱなしで三日は眠れなくなるぞ!
明日はクラス中この話題で持ちきりだ!」
「・・・・・・
おぬし、さっきから何を言って・・・」
「さあいくぞ

心の準備はいいか?

それじゃあ・・・・・・



――――楽しい人形劇の始りだ――――

459 :飛べない鳥(9):01/10/17 20:09 ID:rUmzwuQL
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・
消えちゃったね」
「・・・・・・
・・・ああ」
「・・・・・・
私、何もしてあげられなかった」
「・・・・・・」
「・・・・・・
可哀相な子、だったよね」
「・・・・・・」
「・・・・・・
私も、可哀相?」
「・・・・・・
そんな事は、無い」
「・・・・・・」
「お前には、俺がついてる」
「・・・・・・」
「お前が悪夢を見てうなされてたら、俺がすぐに起してやる」
「・・・・・・」
「お前が誰に生まれ変ろうと、俺も何回でも生まれ変って必ずお前の側にいてやる」
「・・・・・・」
「だから、お前は可哀相なんかじゃない」

460 :飛べない鳥(10):01/10/17 20:10 ID:rUmzwuQL
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「にはは・・・」
「・・・・・・」
「往人さん、恥かしい事言ってる?」
「・・・うるさい」
「往人さん顔まっか。
かわいい、にはは」
「・・・・・・
誰かがうなされててもほっとく。
何回生まれ変ってでもお前から逃げてやる」
「わっ!冗談!冗談!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・
そろそろ、いこっか?」
「・・・ああ、そうだな――――――――


【神奈備命 消滅】

461 :「飛べない鳥」の作者:01/10/17 20:12 ID:rUmzwuQL
アップしても大丈夫っぽいので『飛べない鳥』お送りします。
読み手の想像する余地を残す終り方が好きなので、
できるかぎり心理描写を削ってみました。
神奈にとって『消滅=救い』だったのか?
最後に笑う事はできたのか?それとも拒絶したのか?
卑怯と言われるかもしれませんが、各自の想像におまかせします。

『空へ』で魔法が引いてしまっているので、時間軸はその前という事で。

改行のタイミングが合わず、見苦しいのは申訳ありません。
各スレの間は3〜4、6〜7、8〜9の間のみ4行開けでお願いします。

462 :いつかの約束_1:01/10/18 02:10 ID:jsfcasCb
 
 光は収束していき、事態は一つの決着を見たようであった。
 それから、沈黙が長く続いた。
 皆、事が一段落したことで自失状態にあったのだろう。
 しかし、やがて人は動き出す。
 生きている限り、人は動かねばならなかった。
  

463 :いつかの約束_2:01/10/18 02:11 ID:jsfcasCb

 
「神奈、神奈、神奈ッ。全部そうなんでしょうっ!?」
 最初に動き出したのはマナだった。
 それに気がついた晴香が、改めて彼女に詫びようとしたが、マナの言葉がそれを遮った。
 マナの声はやや硬質だったが、そこに晴香を責める色はない。
 ただ、自分に理解できないモノに翻弄された、そのことに対する憤りが隠せないのだ。
 そして、それによって多くの人が傷つき、命を落としたことにも深い憤りを覚えている。
 七瀬がそれを読みとり、晴香に視線を送って頷く。
 晴香も七瀬の視線を受けて口を閉じた。
 マナは、晴香の態度に一度だけ大きく頷く。
(……でも、そう。何よりも今は、生きている人のことを考えなくちゃね)
 マナは、施設からもっとも離れた場所で地に伏す耕一を見やる。
 皆が皆、満身創痍だ。
 ……あゆだけは例外だったが。
 目の前の危機が去ったとはいえ、いや、去った今こそ、皆に治療をほどこさなければならない。
 その為には医務室に皆を運ばないと。
 幸いというべきか、唯一の男手である耕一の傷は、皆の中ではまだ少ない方だった。
「二人とも、そこでじっとしていてよね」
 マナはもう一度だけ振り返り、そう晴香と七瀬に言い置いて耕一の方へと歩き出す。
 切り裂かれた衣服を左手でかきあわせるようにして。
 傷は確かに痛んだ。
 しかし、裂傷からの出血は思いの外少なく、むしろ打撲傷による痛みが続くことの方が、より苦痛だった。
(こんな傷を胸に負っていたら、ふつうの生活、ふつうの恋なんて、できないかもね……なんて……)
 誰に向けるでもなく、寂しげな笑みを僅かに浮かべて。
 でも、そんな感傷も今は後回しにして。
 マナは痛みをこらえて、前へと歩き出す。
  

464 :いつかの約束_3:01/10/18 02:14 ID:jsfcasCb
 
「耕一さん!!」
 すぐ近くから聞こえてきたマナの呼びかけに、耕一はやっとの事で顔を上げた。
「ごめん、マナちゃん。俺は、俺には誰も救えなかったよ……」
 そういって再び俯むこうとする、耕一。
 その耳を引っ張って向き直らせる、マナ。
「言い訳は、後から聞くわ。だから。……取りあえず、今は生き残った人たちのことを考えないと。下の医務室で、最低限の治療だけでも施さないと……」
「あ、ああ……」
 ぼんやりとうなずく、耕一。
 うなずいた上で、もう一度地面と向き合う。
(考えなければならないこと、考えたいこと、考えたくないことは山積みだった。しかし、今は体を動かそう。皆が皆、傷ついてる。個人的な感傷を今は、忘れるべきなのかもしれない……)
「本当に、強いな、マナちゃんは……」
 そうつぶやいて。
 しかし涙を流しながら、耕一は立ち上がった。
「わたし、強くなんか無い。……けど、耕一さんは男なんだから、みんなをひっぱってってほしいから、簡単に泣かないでよねっ」
 マナに言いとがめられても、耕一は何も言えなかった。
 泣いているのは耕一だけじゃなかったから。
 マナもまた、涙をとどめることができていなかったから……。
 
 
  

465 :いつかの約束_4:01/10/18 02:21 ID:jsfcasCb
 
 
 
 ──医務室にて
 
 全員の治療は何とか一通り済んだ。
 梓も、あゆも、七瀬も、晴香も、繭も、耕一も、皆思い思いの姿勢で体を休めている。
 マナもまた、部屋に壁に体を預けて、座り込んでいた。
 聞きかじりの知識と、あり合わせのの道具とで、できる限りの治療を施した。取りあえずは、何とかなったのだろうと思う。
 本当のことは何一つ分からないけれど、自分のできることは全てやったつもりだとマナは思った。
 けれども、皆が大量の血を失ったり、大きな怪我を負っている以上、なるべく早くに正規の治療を受けた方がいいのは間違いないだろう。
(自分も含めて、ね……)
 本当に、自分の知識が不足すぎて、狂おしいほどに悔しくて。
 マナは深くため息をついて、今度は視線を宙に向ける。
  

466 :いつかの約束_5:01/10/18 02:22 ID:jsfcasCb
 
 こんな状態になって、はじめてやっと、分かった。
 わたしがこの後どうするべきか。
 何をしたいのか。
 ……藤井さん、覚えてる?
 藤井さんのもとから去ったときに、わたしが言ったことばを。
 『必ず自分一人の力で何かを成し遂げて、お姉ちゃんにも向き合えるような一人前の女になったとき、藤井さんの前に、また姿を現す』って……。
 でも、あのときのわたしに、何かを成し遂げるなんて、そんな展望なんかなくって。
 格好いいこと言ったつもりだったけど、お姉ちゃんに勝てる目算なんかなくって。
 結局わたしは逃げ出すための口実を欲しただけだったのかもしれなかった……。
 あの後も、『自分が納得のいく何か』なんて見つけられないまま、この島に連れてこられて、殺し合いを強制されて、気持ちの整理もつかないままに藤井さんとお姉ちゃんに再会して……。
 色々、本当に色々なことがあった……。
 でも。だからこそ、今のわたしにははっきりとした目標がある。
 目指して、努力すればいつか必ずかなえられる、かなえなきゃならない目標が。
 藤井さん、わたし絶対にお医者さんになる。
 聖さんみたいに、どんなときにでも笑いながら人を救えるような。
 そう、私はお医者さんになって、いろんな人の命をできる限り救ってみせる。
 それがわたしの成し遂げることなんだ。
 だからこの島を、生き残ったみんなと一緒に脱出する。
 そして、その時こそ……。
  

467 :いつかの約束_6:01/10/18 02:25 ID:jsfcasCb
 
「その為にはまず、この島を抜け出さないと……」
 マナは呟いた。
 それを聞き取った耕一が言葉を続ける。
「そう、脱出方法なんだけど、まだ決定打がないんだ。誰か一人を残して爆弾を吐けば、何かしらの迎えは来ると思うんだけど……」
 それでもし、迎えが来ても無事に帰れるのは一人だけだった。
 あるいはそいつらの乗り物を奪って、という手段もないではなかったけれど、これ以上、人が傷つくのを見たくないと言う気持ちもある。
 逆に、自分たちをこのような状況に追い込んだ者たちへの憤りも、依然としてあるが。
「あ、それだったら……」
「解決策があるわ」
 七瀬と晴香だ。
「そういえば!?」
 マナと耕一の声が重なる。
「そう、高槻の残した潜水艇。実はまだ、指紋照合の問題が残ってるんだけど、一応それらしいモノも手にしてるし」
 脱出手段の浮上に沸く一同の中、北川のことを思い出す七瀬と晴香。
 二人を手首狩り人呼ばわりして戯けた、あの男を。
(本当に騒がしくて、愉快な奴だった。そして、そのおちゃらけた態度の奥底には、強い意志も併せ持っていて……)
 僅かばかりの間、故人をしのぶ二人。
 いや、各人がそれぞれ七瀬と晴香につられるように、様々な故人へと思いを馳せた。
 医務室の中はしゅんと静まった。
  

468 :いつかの約束_7_end:01/10/18 02:26 ID:jsfcasCb
 
 脱出の手段が提示されたことで、とりあえずの命題は解決されたことになる。
 しかし、脱出手段の目処がついたとしても、皆がそれぞれ、多くのことをこの島でやり残している……。
 それぞれの抱えるその命題を何処まで重要視するのか。
 そして、島を出た後で。
 それぞれがどうやって生きていくのか。
 全てが重く。
 全てが容易には片付かない。
 ゆっくりと、重い時間が流れていく。

 結局、『本当はもう一個、物騒な手段もあるんだけどね』という言葉は、七瀬の胸にしまわれたまま。
 その口をついて出ることはなかった。
 
 
 
 さて、どうしたものかな……。
 
 
                 【 残り 7人 withタカツキーズの手首×3 】
                        【 生存者、全員が医務室に集合 】
                        【 遺体その他はとりあえず放置 】

469 :セルゲイ:01/10/18 02:28 ID:jsfcasCb
『いつかの約束』をお送りします。
えっと、本編を進めてみることにしました。
このまま停滞するのもなんなので。

実のところ、スタッフロールの後は直接エピローグでもいい、
と思っていた己ですが、脱出編を望む声が有るようなので、
こういった形に。

なお、潜水艇に関する情報は767話辺りを参考にすると良いかも。

470 :名無しさんだよもん:01/10/19 04:24 ID:ecy4bMFW
age

471 :名無しさんだよもん:01/10/21 01:57 ID:xflY8wA6
1話から読み直したら14時間かかった…(;´Д`)
有意義な休日だった。

472 :名無しさんだよもん:01/10/22 01:26 ID:QfbbOrF5
昔は、完結したらもう1度最初から読み返してみようかな…、とか考えてたけど…

473 :すくいきれないもの(2)修正:01/10/22 01:58 ID:NgCWUald
 耕一は、ただ地に伏して。
 この凄惨な結末に打ちのめされていた。

 観鈴も、彰も、千鶴も。
 何故死に逝くその顔は、あんなにも安らかだったのだろうか?

『――ありがとう』
『初音ちゃんのこと……頼むよ』
『おかあさんも、”ようやった”って……言ってるよ』

 彼らの最期の言葉を思い出す。

(俺は――本当によくやれたんだろうか?)

 神奈だけを斬ることは果たせた。
 だが、あの言葉に込められた千鶴の本当の望みは。
 観鈴を救うこと。
 その観鈴は、自分を助けるために命を落としたのだ。

(俺は――)

 今は、そんなことで悩んでいるべきではないだろう。後を託された者として、
やるべきことをやり、為すべきことを為さねばならない。
 それは分かっている。
 しかし、分かってはいても、立ち上がることはできない。

(結局、俺は――何もできなかったんじゃないのか?)

 耕一の問い掛けに答えてくれる者は、誰もいなかった。

474 :「すくいきれないもの(2)修正」作者:01/10/22 01:59 ID:NgCWUald
※「遺言」のNG決定を受け、関連する耕一パートの修正を行いました。
議論の方も終結を向かえたようですので、本編に修正をアップします。
「すくいきれないもの(2)」のみ、こちらに差し替えてください。
らっちーさんにはお手数お掛けしますが、何卒よろしくお願いいたします。

475 :名無しさんだよもん:01/10/22 02:04 ID:2YnvZbnG
タクティクスオウガやりたくなった。

476 :Where Have All The Flowers Gone1:01/10/22 02:29 ID:2Zki74el
神奈は刀に封印された。これですべてが終ったはずであった。
だが、すべてが終った事で、安堵の表情を浮かべるものは誰一人としていない。
木洩れ日がさし込む中、また一つ傷つき、倒れ、地面に横たわるものが増えていった。
そしてこの島には、あと91もの傷つき、倒れた者が横たわっている。
今、ここに生き残っているもの達の中にも、傷一つ無いものなど誰一人いない。
ここにいる者のすべてが、身体的にも、そして精神的にも、大きく深い傷を負っていた。



柏木耕一は、思いっきり唇をかみ締め、それまでの形相とは打って変わった、穏やかな
表情で横たわり、全身傷だらけの、そしてすでに呼吸をしていない七瀬彰の細々とした
体躯を、壊れるくらいに強く抱きしめている。
観月マナは、そんな柏木耕一の姿を、呆然と見守っている。
月宮あゆは、神奈と共に倒れた少女――神尾観鈴――の元に駆け寄り、その体を揺さぶる。
しかし、少女からの反応は全く無い。
柏木梓は、誰に言うわけではなくこの場から姿を消した。
向かう先は、梓にとっての最後の姉妹である柏木千鶴が、傷つき、力尽き倒れた場所であった。
あらためて、横たわる千鶴を目の前にする梓。だが、その体にすがり付くような事は無い。
ただ、何の言葉もなく、千鶴の目の前に立ち尽くしているだけである。
その目には大量の涙が溢れだし、すでに瞳の中に仕舞い込んでおく限界量を超え、次から次へと
溢れ出してくる雫が容赦無く梓の頬を濡らしていた。
椎名繭は、ここで起きた凄惨な場面の連続に耐え切れず、隣に居た七瀬留美の服にしがみついて
震えている。どうやら、ショックに耐え切れず、反転が終了してしまっているようであった。
留美はそんな繭を優しく抱きしめ、頭を撫でている。しかし、その表情は、涙こそ流していない
ものの、今にも泣き出しそうなものであった。

477 :Where Have All The Flowers Gone2:01/10/22 02:32 ID:2Zki74el


そして、巳間晴香――――
その表情に涙は無く、すべての感情を殺してしまったかのような無表情であった。
思い思いの行動を取る他の生者を尻目に、晴香は傷ついた体を引きずり、
森の奥へと歩みを進める。
光りさす場所を離れ、まるで暗い場所を捜し求めているかのように、
奥へ奥へと、なおも歩みを進める。
辺り一面、鬱蒼と茂った木々に囲まれ、光は一切入ってこない場所。
まるで、そここそが自分の求める場所をであるかのように、ごく自然な
動作でその場に座りこむ。

座りこんだ晴香は、ついさっきまで見ていた、光さすあの場所での
やり取りを思い浮かべていた。
その場にいる誰もが、悲哀、恐怖、憤怒と言った負の感情を、その表情に
浮かべていた。
しかし、晴香だけは、他の人達とは違った表情を浮かべていた。
あの場で感じた事は、ただ「これでやっと終った」と言う事だけであった。
そこには、いかなる負の感情も入りこむ事は無かった。

478 :Where Have All The Flowers Gone2:01/10/22 02:40 ID:2Zki74el


「私って、本当に薄情な女だよね」

「私だって、この島で兄さんや、古くからの友達であった郁未、葉子さんを失った。
由依なんて、私のために死んでしまったのに。そしてこの島に来て初めて会った
友達たちも、数多く失ったんだよね。なのに、涙の一つも流してやれないんだから…、
本当に薄情な女だよね、私って」
そう言って、晴香は自嘲的に笑う。

「ねえ、兄さん、葉子さん、郁未。この島で一緒に行動を共にする事は出来なかった
けれど、あなたたちは最後まで幸せだった?
ねえ、智子、マルチ。あなたたちは本当に最後まで幸せだった?
ねえ、みんな。みんなは本当に幸せだった?
由依。あなたは、私のために命を失って、良かったって思ってる?
それで本当に幸せだった?」
晴香の脳裏に、自分の兄の顔、古くからの親友達の顔、この島で出会った友達の顔が
次々と浮かんでゆく。脳裏に浮かぶ表情は、どれもみな一様に幸せそうな顔をしていた。
それとは反対に晴香の顔はどんどんと曇って行く。

「……私は、今はぜんぜん幸せじゃないわ。だって、生きていたって貴方達が一緒では
ないんだから。これからずっと、貴方達なしでいくつもの季節を越えてえて行かなければならないんだから」

「……でも、それでも、今は幸せではないけど、いつか、いつかきっと幸せになって見せるから。
貴方達の為に、涙すら流す事の出来ない私が、貴方達にしてあげられる事なんて、何もないかもしれない。
でも私、貴方達の事、そして貴方達と過ごした時間を、一生、絶対に忘れないから、そして、
貴方達のために涙を流す変わりに、いつか誰よりも幸せになって見せるから
だから、今は、今だけは、この場所で少しだけ休ませて…」

誰に言うでもなく、小さく呟く。

479 :Where Have All The Flowers Gone4:01/10/22 02:44 ID:2Zki74el
この島に来て、悲しみの感情を、無意識的に完全に押さえこんでいた晴香の、
精一杯の本音だった。
自分の心の奥に眠っていた感情を、誰に聞かせるわけではなかったが、言葉として風に乗せた事で、
それまで押さえ込まれて来た様々な悲しみの感情が、いっぺんに晴香の中から溢れ出してきた。
そして、何かが、瞳の中に溢れだし、晴香の頬を伝わり、雫となって零れ落ちて行く。
それまで、いくら死んでいった者達の事を考えても、零れ落ちることの無かった雫が、不意に晴香の
瞳の中から溢れ出してくる。

「今更になって、涙なんか流したって遅いよね…」
そう言って含羞んだ笑いを見せ、両目から零れ落ちる雫を掬う。しかし、掬っても掬っても、
目から零れ落ちる涙は止まらない。

「どうして、どうして、今頃になって………」
涙を流している自分なんか、想像も出来なかった。
涙を流している自分が、そして、感情を剥き出しにしている自分が、酷く恥かしく思えた。
晴香は、涙に濡れた顔を隠すように、自分の両膝の上にうずめた。



“ポンポン”

その時、背後から不意に、右肩を軽く叩かれる。
柔らかく、そして暖かな衝撃に反応し、晴香は涙に濡れた顔を持ち上げる。正面を向いた視線の端に、
ここ数日の間で、見るのも飽きてしまうくらいに見なれた顔を捉える。晴香はごく自然な動作で、
その見慣れた顔を、自分の視線の中心に持って来る。
留美の表情は、今だ悲しみを押し殺すような表情が残ってはいるものの、つい先程の、生気を
失ったような蒼白な顔色ではなく、かすかな生気を伴ったものに変わっていた。
その後ろには、所在無さげに、留美の服の袖を掴んで離さない繭の姿があった。
本当に見慣れたその顔は、晴香の流す涙のせいか、酷く歪んで見えた。

480 :Where Have All The Flowers Gone4:01/10/22 02:49 ID:2Zki74el
「……晴香」

「……七瀬」

涙を流す晴香の表情を見て、留美はほんの一瞬だけ、驚愕の表情を浮かべたが、すぐにもとの表情を取り戻す。

「……」
「……」
お互いが、お互いの名前を呼んだきり、何の言葉も交されない。
三人を覆う空気は沈黙に包まれ、ただ風に揺れる木々のざわめきだけが音として、風に乗っている。
沈黙の続く長い時間、その間中、留美は晴香の顔から視線を外さなかった。


“ポンポン”

再び留美が晴香の肩を、脇から抱えこむようにして、優しく叩く。
そして、そのままの状態で、留美は強引に晴香の体を引き寄せ、晴香の細々とした肩を、両の腕で抱きしめた。

「……」
「……」
ほんの少しの間だけ、優しく晴香を包みこむように抱きしめ、二人はすぐに離れる。
その一連の動作の中でも、一切の言葉は風に乗らない。

「……」
「まだすべてが終ったわけではないんだから、早く行こう」
お互いが、お互いの名前を呼んで以来、この空間に、初めて言葉が辺りを駆け巡る。
留美が、一瞬だけ視線を、元いた光さすあの場所へ移し、立ち上がり、晴香に背を向ける。
晴香に背を向ける最後の瞬間。晴香には、留美が、これまで見せた事の無いような
優しい笑顔を見せた、…様な気がした。

481 :Where Have All The Flowers Gone6:01/10/22 02:50 ID:2Zki74el
繭を引きつれ、部屋に戻る留美の背中に向かってただ一言だけ、留美に聞こえないように、
とても小さな声で、言葉を紡ぎ出す。

「ありがとう」

それだけ言うと、すぐに立ち上がり、留美の後を追い、暗く、鬱蒼と茂った森の奥深くから、
光さすあの場所へ帰って行く。
晴香の目から零れ落ちていた涙は、何時の間にか乾いていた。

「あたし、これから、絶対に七瀬達と幸せになってやるんだから」
誰に言うでもなく、心の中で誓った。
その表情には、これまでの、感情を押し殺したようなものではなく、滲み出るような
優しい、そして少し照れたような笑顔が浮かんでいた。


あまりにも多くのものを失ったこの島の中で、ただ一つだけ与えてくれた、掛替えのないもの。
この島で失ったものの巨大さに比べれば、得たものはあまりにも小さなものであったが、
今はただ、その存在がとても嬉しかった。

482 :「Where〜」作者 :01/10/22 02:59 ID:2Zki74el
とりあえず、書いては見たものの、2が二つある、4が二つあると言う
ダメ人間振りを発揮してしまいました。

さらに、夜なのに、木洩れ日はあまりにも危険ですね。
なので、その表現は、月明かりと言う事で訂正させてください。

再開後、一発目の話なのに…。

483 :「Where〜」作者:01/10/22 03:07 ID:2Zki74el
さらに修正箇所発見です(気が重い)。

6の一行目。
「繭を引き連れ、部屋に戻る〜」 ×
「繭を引きつれ、光さすあの場所へ戻る〜」 ○

としてください。部屋に戻ってどうするのって感じですね。

こんな簡単なミスばかりしていてはいけませんね。本当に申し訳無いです。

484 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)1:01/10/23 21:45 ID:EXiCiBJM
神奈は刀に封印された。これですべてが終ったはずであった。
だが、すべてが終った事で、安堵の表情を浮かべるものは誰一人としていない。
月明かりが辺りを照らす中、また一つ傷つき、倒れ、地面に横たわるものが増えていった。
神奈を封印するために、犠牲となった七瀬彰と神尾観鈴。そしてこの島には、あと91もの
傷つき、倒れた者が横たわっている。
今、ここに生き残っているもの達の中にも、傷一つ無いものなど誰一人いない。
ここにいる者のすべてが、身体的にも、そして精神的にも、大きく深い傷を負っていた。



柏木耕一は、自分の身を賭して、耕一の命を救ってくれた神尾観鈴の――すでに
上半身だけとなってしまった――身体を、濃緑の草叢の上へ、大切な壊れ物を
扱うかのように優しく寝かし付ける。

「観鈴ちゃん、ちょっとだけここで待っていてくれる。またすぐにここに戻ってくるから」
耕一は、帰って来るはずの無い返事を少し間だけじっと待つ。
そう言って、時間にしてほんの数秒だけ、自分の命を救ってくれた少女を見つめ、この場所に
横たわるもう一つの身体の元へと赴く。

「……彰」
またしても、来るはずの無い返事を待つ。沈黙が、一人の生者と一人の死者の間に漂う。

「…彰」
もう一度だけ、そこに横たわっている青年の名前を呼び、物言わぬ身体を自分の両腕で抱きかかえる。
思いっきり唇をかみ締め、それまでの形相とは打って変わった、穏やかな表情で横たわり、全身傷だらけの、
そしてすでに呼吸をしていない七瀬彰の細々とした体躯を、壊れるくらいに強く抱きしめている。

485 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)2:01/10/23 21:48 ID:EXiCiBJM
観月マナは、そんな柏木耕一の姿を、呆然と見守っている。

月宮あゆは、耕一が安置した、神奈と共に倒れた少女――神尾観鈴――の元に駆け寄り、
その上半身だけになってしまった身体を揺さぶる。
その行為が全く無駄なものであると言うのは、あゆ自身の理性は理解していた。
それでも、これ以上人が死んで行くのは嫌だと言う感情が、起きる筈の無い奇跡を
願うかのように、一心不乱に観鈴の身体を揺さぶり続けさせる。

「観鈴ちゃん。もう起きようよ」
しかし、満足げな表情を浮かべた少女の表情が変わることも、その口から言葉が
紡ぎ出される事も無かった。

柏木梓は、誰に言うわけではなくこの場から姿を消した。
向かう先は、梓にとっての最後の姉妹である柏木千鶴が、傷つき、力尽き倒れた場所であった。
あらためて、横たわる千鶴を目の前にする梓。だが、その体にすがり付くような事は無い。
ただ、何の言葉もなく、千鶴の目の前に立ち尽くしているだけである。
その目には大量の涙が溢れだし、すでに瞳の中に仕舞い込んでおく限界量を超え、
次から次へと溢れ出してくる雫が容赦無く梓の頬を濡らしていた。

椎名繭は、ここで起きた凄惨な場面の連続に耐え切れず、隣に居た七瀬留美の服にしがみついて
震えている。どうやら、ショックに耐え切れず、反転が終了してしまっているようであった。

留美はそんな繭を優しく抱きしめ、頭を撫でている。しかし、その表情は、涙こそ流していないものの、
今にも泣き出しそうなものであった。

486 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)3:01/10/23 21:51 ID:EXiCiBJM
そして、巳間晴香――――
その表情に涙は無く、すべての感情を殺してしまったかのような無表情であった。
思い思いの行動を取る他の生者を尻目に、晴香は傷ついた体を引きずり、森の奥へと歩みを進める。
光りさす場所を離れ、まるで暗い場所を捜し求めているかのように、奥へ奥へと、なおも歩みを進める。
辺り一面、鬱蒼と茂った木々に囲まれ、光は一切入ってこない場所。
まるで、そここそが自分の求める場所をであるかのように、ごく自然な動作でその場に座りこむ。


座りこんだ晴香は、ついさっきまで見ていた、光さすあの場所でのやり取りを思い浮かべていた。
その場にいる誰もが、悲哀、恐怖、憤怒と言った負の感情を、その表情に浮かべていた。
しかし、晴香だけは、他の人達とは違った表情を浮かべていた。
あの場で感じた事は、ただ「これでやっと終った」と言う事だけであった。
そこには、いかなる負の感情も入りこむ事は無かった。


「私って、本当に薄情な女だよね」

487 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)4:01/10/23 21:54 ID:EXiCiBJM


「私だって、この島で兄さんや、古くからの友達であった郁未、葉子さんを失った。由依なんて、
私のために死んでしまったのに。そしてこの島に来て初めて会った友達たちも、数多く失ったんだよね。
なのに、貴方達の為に涙の一つも流してやれないんだから…、
本当に薄情な女だよね、私って」
そう言って、晴香は自嘲的に笑う。

「ねえ、兄さん、葉子さん、郁未。この島で一緒に行動を共にする事は出来なかったけれど、
あなたたちは最後まで幸せだった?
ねえ、智子、マルチ。あなたたちは本当に最後まで幸せだった?
ねえ、みんな。みんなは本当に幸せだった?
由依。あなたは、私のために命を失って、良かったって思ってる?それで本当に幸せだった?」
晴香の脳裏に、自分の兄の顔、古くからの親友達の顔、この島で出会った友達の顔が次々と
浮かんでゆく。脳裏に浮かぶ表情は、どれもみな一様に幸せそうな顔をしていた。
その幸せそうな顔が、次々と晴香の脳裏を横切って行く。
それとは反対に晴香の顔はどんどんと曇って行く。

「……私は、今はぜんぜん幸せじゃないわ。だって、生きていたって貴方達が一緒ではないんだから。
これからずっと、貴方達なしでいくつもの季節を越えて行かなければならないんだから」

「……でも、それでも、今は幸せではないけど、いつか、いつかきっと幸せになって見せるから。
貴方達の為に涙すら流す事の出来ない私が、自分の為にしか涙を流せない私が、貴方達に
してあげられる事なんて、何もないかもしれない。
でも私、貴方達の事、そして貴方達と過ごした時間を、一生、絶対に忘れないから、
そして、貴方達のために涙を流す変わりに、いつか誰よりも幸せになって見せるから
だから、今は、今だけは、この場所で少しだけ休ませて…」

誰に言うでもなく、小さく呟く。

488 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)5:01/10/23 22:00 ID:EXiCiBJM
この島に来て、悲しみの感情を無意識的に、完全に押さえこんでいた晴香の、精一杯の本音だった。
自分の心の奥に眠っていた感情を、誰に聞かせるわけではなかったが、言葉として風に乗せた事で、
それまで押さえ込まれて来た様々な悲しみの感情が、いっぺんに晴香の中から溢れ出してきた。
そして、何かが、瞳の中に溢れだし、晴香の頬を伝わり、雫となって零れ落ちて行く。
それまで、自分と、生きている者達の為にしか零れ落ちることの無かった雫が、死んでいった者達の
事を考えても、零れ落ちることの無かった雫が、不意に晴香の瞳の中から溢れ出してくる。

「今更になって、貴方達の為に涙なんか流したって、もう遅いよね…」
そう言って含羞んだ笑いを見せ、両目から零れ落ちる雫を掬う。しかし、掬っても掬っても、目から
零れ落ちる涙は止まらない。

「どうして、どうして、今頃になって………」
これまで無表情であった晴香の顔が、これまでこの島で見せた事のないような感情的な表情に支配されて行く。
今更になって涙を流している自分が、そして、感情を剥き出しにしている自分が、酷く恥かしく思えた。
晴香は、涙に濡れた顔を隠すように、自分の両膝の上にうずめた。



“ポンポン”

その時、背後から不意に、右肩を軽く叩かれる。
柔らかく、そして暖かな衝撃に反応し、晴香は涙に濡れた顔を持ち上げる。正面を向いた視線の端に、
ここ数日の間で、見るのも飽きてしまうくらいに見なれた顔を捉える。晴香はごく自然な動作で、
その見慣れた顔を、自分の視線の中心に持って来る。
視線の中心に着た見慣れた顔。七瀬留美の表情は、今だ悲しみを押し殺すような表情が
残ってはいるものの、つい先程までの、生気を失ったような蒼白な顔色ではなく、
かすかな生気を伴ったものに変わっていた。
その後ろには、所在無さげに、留美の服の袖を掴んで離さない繭の姿があった。
本当に見慣れたその顔は、晴香の流す涙のせいか、酷く歪んで見えた。

489 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)5:01/10/23 22:05 ID:EXiCiBJM

「……晴香」

「……七瀬」

涙を流し、感情的になっている晴香の表情を見て、留美はほんの一瞬だけ、驚愕の表情を浮かべたが、すぐにもとの表情を取り戻す。

「……」
「……」

お互いが、お互いの名前を呼んだきり、何の言葉も交されない。
三人を覆う空気は沈黙に包まれ、ただ風に揺れる木々のざわめきだけが音として、風に乗っている。
沈黙の続く長い時間、その間中、留美は晴香の顔から視線を外さなかった。


“ポンポン”

再び留美が晴香の肩を、脇から抱えこむようにして、優しく叩く。
そして、そのままの状態で、留美は強引に晴香の体を引き寄せ、晴香の細々とした肩を、両の腕で抱きしめた。

「……」
「……」
ほんの少しの間だけ、優しく晴香を包みこむように抱きしめ、二人はすぐに離れる。
その一連の動作の中でも、一切の言葉は風に乗らない。

「……」
「まだすべてが終ったわけではないんだから、早く行くよ」
お互いが、お互いの名前を呼んで以来、この空間に、初めて言葉が辺りを駆け巡る。留美が、一瞬だけ視線を、元いた光さすあの場所へ移し、立ち上がり、晴香に背を向ける。
晴香に背を向ける最後の瞬間。晴香には、留美が、これまで見せた事の無いような優しい笑顔を見せた、
…様な気がした。

490 :Where Have All The Flowers Gone(修正版)5:01/10/23 22:07 ID:EXiCiBJM
繭を引きつれ、光さすあの場所へ戻る留美の背中に向かってただ一言だけ、
留美に聞こえないように、とても小さな声で、言葉を紡ぎ出す。

「ありがとう」

それだけ言うと、すぐに立ち上がり、留美の後を追い、暗く、鬱蒼と茂った
森の奥深くから、光さすあの場所へ帰って行く。
晴香の目から零れ落ちていた涙は、何時の間にか乾いていた。


「あたし、これから、絶対に七瀬達と幸せになってやるんだから」
誰に言うでもなく、心の中で誓った。
その表情には、これまでの、感情を押し殺したようなものではなく、
滲み出るように優しくい、少し照れたような笑顔が浮かんでいる。
そして、晴香の身体には、あの時、ほんの一瞬だけ交した抱擁。
ぶっきらぼうながらも、優しく暖かな、留美の両腕の感覚が、
今も鮮明に残っていた。


あまりにも多くのものを失ったこの島の中で、ただ一つだけ与えてくれた、
掛替えのないもの。
この島で失ったものの巨大さに比べれば、得たものはあまりにも小さなもので
あったが、今はただ、その存在がとても嬉しかった。

491 :「Where〜」作者 :01/10/23 22:18 ID:EXiCiBJM
最初は、修正箇所だけを箇条書きしていこうかと思ったのですが、
その修正箇所が、あまりにも多かったため、読んでくれる人も大変であろうし、
編集をしてくれているらっちー氏にも多大な迷惑がかかると言う事で、
修正版を上げてみました。

本来ならば、最初の段階で、修正箇所の無い話を上げなければいけないと思っています。
その点に関しては、ただただ反省するのみです。
そんな事を言っているうちに、すでに表題の5が二つあると言う間違いが。
これでは、出来の悪いエロゲー会社のようですね。

492 :涙を拭いて(1):01/10/24 01:32 ID:BfQ42IL3
「みゅー……」

 繭によって不意に服を引っ張られ、七瀬はその足を止めた。

「ん? どうしたの?」

 繭の視線を追う。
 そこには、一匹の猫がいた。
 さらにその先には、黒い羽と白い羽。
 一対の羽を見つめるかのように、ボロボロの猫はその場にたたずんでいた。

「……ったく、しょうがないわね」

 そういえば、さっきは散々引っ掻かれたりもしたが。
 今はきっと、大丈夫だろう。
 七瀬は猫を後ろから抱え上げた。
 先程の散々の悪態がまるで嘘かのように、猫はじっとしている。
 ただし、あくまで羽からは目を逸らさない。

 不意に風邪が吹き、羽が舞った。
 二枚の羽は風に舞いつつも、決して離れはしない。
 淡い光の中、ただひたすらに高みを目指し、舞い上がってゆく。

 猫も、繭も、七瀬も、空へと消える羽を見上げていた。

493 :涙を拭いて(2):01/10/24 01:33 ID:BfQ42IL3
 光と闇の合間に羽を見失って。
 七瀬は視線を手元の猫に戻す。

(泣いてる?)

 もう見えなくなった羽をどこまでも追おうと、空を見上げる猫の顔。
 猫の泣き顔など分かるはずもない。しかし、七瀬には何となくそう思えた。
 猫の頭を撫で――らしくないとは思いつつも――声を掛けてみる。

「泣きたい時は泣いた方がいいわよ」

 その猫に向けての言葉なのだろうか?
 生き残った皆に向けての言葉なのだろうか?
 それとも――自分自身に向けての言葉なのだろうか?

 結局は、そのどれもなのだろう。

 泣きたい時は、泣けばいい。
 泣いて、泣いて、散々泣いて――泣き終えたあとに立ち上がることができる
なら、泣くことは決して悪いことではないはずだ。

494 :涙を拭いて(3):01/10/24 01:36 ID:BfQ42IL3
「繭」

「みゅ?」

「これ、お願い」

 七瀬は、抱えていた猫を繭に差し出す。
 いきなりで少々驚きはしたようだが、元々動物好きの繭のこと。すぐに猫を
受け取って、七瀬がそうしていたように自分の胸元に抱えた。

 空いた手で、七瀬は黄色いリボンを取り出した。
 浩平から漢の約束と共に受け取った、瑞佳のリボン。
 それを握りしめ、彼女は目を閉じる。

 自然と、一筋の涙が流れた。

(今のあたしには、これで十分)

 続きは、漢の約束を果たし終えてからにしよう。

 そろそろ晴香が追いつく頃だろうか。
 彼女はリボンを仕舞い、涙を拭いて、そして目を開けた。

※各レス間の改行は三行で。

495 :名無しさんだよもん:01/10/24 04:27 ID:oveV+rcE
『あのね』
『本編もあげるの』

496 :名無しさんだよもん:01/10/26 17:34 ID:bCatT2y8
みんなトーナメントに逝っているので
あげ

497 :涙を拭いて(3)修正版:01/10/27 01:37 ID:I+DQZgMq
 ふと、何かに気付いて後ろを振り返ってみると。

「晴香?」

「な、何?」

 いつからいたのかは知らないが、そこには晴香が立っていた。彼女もまた、
あの二枚の羽の行く末を見届けていたのだろうか?

「これ、お願い」

 七瀬は、抱えていた猫を晴香に差し出す。
 いきなりのことで少々面食らいつつも、晴香は猫を受け取った。ぎこちない
手つきではあったが、何とか七瀬がしていたように猫を胸に抱える。
 一方の七瀬は、晴香や繭に背を向けて。

 空いた手で、黄色いリボンを取り出した。
 浩平から漢の約束と共に受け取った、瑞佳のリボン。
 それを握りしめ、彼女は目を閉じる。

 自然と、一筋の涙が流れた。

(今のあたしには、これで十分)

 続きは、漢の約束を果たし終えてからにしよう。

 七瀬はリボンを仕舞い、涙を拭いて、そして目を開けた。

498 :「涙を拭いて(3)修正版」:01/10/27 01:49 ID:I+DQZgMq
感想スレではご意見ご感想ご指摘等、誠にありがとうございます。
自分としては「七瀬達と晴香の距離について」はそれなりに幅を
持って解釈できると踏んでいたのですが、感想スレでは遠すぎる
とのご指摘が多く、そちらの方が一般的な解釈かと判断し修正に
踏み切りました。晴香との距離を修正前より近めにしてあります。

涙を拭いて(3)のみの修正となりますので、該当個所だけを差し
替えてくださいませ。ログの方の修正も併せてお願いいたします。

皆様、特にログ編集のらっちーさんにはご迷惑をお掛けしますが、
上記の件何卒よろしくお願いいたします。

※そういえば、らっちーさんに私信、、、フレーム対応リストの
「850〜864」のリンク先が「800〜849」のログになってしまって
いるようですので、ご報告までに。

499 :脱出口[1]:01/10/27 03:40 ID:rp3LMWvP
いつのまにか、それぞれが埋葬をはじめていた。
さく、さくと土を掘る音と、もう誰のものとも分からないすすり泣きだけが響いていた。



場所は医務室に移って。
皆 一通りの治療を終え、今後の対策を練っていた。



「脱出の話なんだけど……」切り出したのは耕一。
「案があるわ。」すかさず七瀬が口を挟む。
「北に灯台があるの。そこの地下に高槻が隠し持ってた潜水艦があるわ。
きっとそれで脱出できるはず。」
とりあえずミサイルの事は出さないでおいた。
「潜水艦、か……」
その事は耕一も承知していた。他の脱出方法が「無い」ことの確認の発言だったが、その役目は全うされたと言える。
おやはり、それしか方法がないのだろう。それを踏まえて、耕一は喋る。
「誰か一人残して爆弾を吐けば、迎えでも来るんだろうけど。」
「でも、それだと助かるのは一人じゃない。そりゃ物騒な方法もあるけれど……」
晴香がそこまで言い、口をつぐんだ。
もう、誰かが死ぬのはたくさんだった。
「……決まり、ね。」

500 :脱出口[2]:01/10/27 03:42 ID:rp3LMWvP
施設を出るとき、耕一は1度だけ、彰を埋めた場所を見やった。
「……じゃあな、彰。」
一言、そう、呟いた。
刀は持っていく事にした。下手に折りでもしたら、また「奴」が出てきかねない。
家の仏間にでおいておこう。そう思っていた。
ついでに、刀が刺さっていた人形もポケットに入れた。こっちの方は、まあなんとなく。
「行くか、梓。」
梓は、あいにく足の怪我が深く、あまり長距離の移動は無理なようだった。
「うん……ごめんね、耕一」
「気にすんなって」
梓の脇に肩を入れる。なんとかなりそうだ。
先頭には晴香、七瀬を立ち、一行は一路、灯台へと────

501 :脱出口[3]:01/10/27 03:43 ID:rp3LMWvP
【三行開けです】
灯台から、例の通路をくぐり、地下ドックへ。
「このじめっとした空気……傷にしみるわね……」
先頭の二人は絶えず何がしか喋っているが、後ろを付いて歩くものは当座黙っていた。
「見えたわ……あれよ。」
二人の指差す先には、みすぼらしい球状の物体が────
その「潜水艦」を見たとたん、その二人を除く全員が色を失ったのは言うまでもない。

「ちょっと……まさかこれが、潜水艦……?」
耕一に支えられている梓の声からも、無論の事驚愕の色が浮かんでいた。
「うぐぅ……これ、動くの……?」
あゆなどは既に涙目になっている。
「みゅー……」
繭もそれに習っていた。その目は「これに乗るの?」と語っていた。
おそらく二人乗りと思われるその潜水艦は、あの高槻の持ち物とは思えぬほどに控えめなスケールだったのだ。
「宇宙……いや、海の棺桶みたいだな……」
誰にも聞こえないように、耕一が呟いた。

502 :脱出口[4]:01/10/27 03:45 ID:rp3LMWvP
【三行開けです】
気を取りなおして、一行は操縦方法の把握に入る。
晴香がドラ○ンレーダーミニとでも言うべき電子画面を見ながら言う。
「このへちょいのがレーダーらしいわね……七瀬、そっちは?」
「ダメ……FUELっていうメーターが燃料って事くらいしか……」
「そもそも操縦桿っていうのはないのかしら……この海賊船の舵みたいのがそうなのかしら」
「みゅー……」
繭は、あいも変わらず七瀬にくっついている。そしてそのまた付属品、猫もまた、繭の足元に。
ぶつぶつ言いながら、二人はボール……いや潜水艦の理解に明け暮れる。

残る者はドック内の捜索に入っていた。何か見落としている脱出方法があるかもしれないからだ。
「耕一さん、これなに?」
あゆが指差した先には、プラスチックのふたで覆われた赤いボタン。
学校の非常ボタンについてるような、あれだ。もっとも、その上に赤いランプはついてなかったが。
「ふむ……サーフェイス トゥ エアー……って何だ?おい梓」
「あ アタシに振られてもっ!」
「Surface-to-air 地対空 ですね」
見かねたと言う感じでマナが口を挟んだ。二人はうつむきかけたが、いまはそんな状況ではない。
「地対空……ミサ……イル?」
随分と突拍子もない話だったが、何故かすんなりと受け入れる事ができた。
常識と言う感覚は既に麻痺しているようだった。もっとも、それは今に始まった事ではなかったが。
始まりは────そう、高槻があの女の子をナイフで殺したところだったろうか?

503 :脱出口[5]:01/10/27 03:46 ID:rp3LMWvP
「ミサイルに乗る青年……か」
ぽつりと、耕一が呟いた。
「耕一……まさかアンタ、これに乗って脱出しようなんて考えてるんじゃないでしょうね」
耕一に支えられながら、先ほどとは異質の驚愕の表情で梓が言う。
「う……で でもさ、あの潜水艦に俺達7人…と一匹が乗るのは……空気の問題もあるし。」
「潜水艦と言っても、どこか他の陸につくまで潜水しっぱなしでなくてもいいじゃないですか。
ハッチを空けて海面に浮かんでいれば、空気の問題は解決できます。」
冷静な口調でマナ。
「それでもここは地下だぜ?ここから出すにはあの潜水艦に乗らなきゃ……」
「だったらあとの人たちは上で待ってればいいんだよ」
さすがにあゆに突っ込まれる事は予想していなかったのか、耕一の表情が沈んでいく。
「ぐ……うぐぅ…………」唸る。
「あっ ボクの真似しないでよう!」突っ込む。
ここに来て、何故かあゆは一人、元気だった。

504 :脱出口[6]:01/10/27 03:48 ID:rp3LMWvP
「………なるほど、誰かがコイツを動かして、近くの海岸で残りの人を拾う、と。」
耕一からの説明を聞き終えた七瀬、晴香の両名は頷きながら呟く。
「ああ。ここからまっすぐあがっても崖だしね。ちょっと手間だけど多分 それが最良だと思う。あとは……」
誰が潜水艦を操縦するか。
「………潜水艦の操縦をやってみたい人。挙手。」
誰も手を上げない事を前提に、耕一がきいてみる。
手を上げないどころか、耕一さんお願いしますとか言われるんだろう。多分。

その予想に反して、三人、手を上げた。
七瀬と、晴香。少し遅れて、繭。

505 :脱出口[7]:01/10/27 03:50 ID:rp3LMWvP
【三行開けです】
「指紋、照合しました。操作系統のセーフティロックを解除します。」
無味乾燥なアナウンスが響く。聞くなり、七瀬は手にした「手首」を荷物の中に戻した。
ごとり、と言う音がした。どうやら物理ロックだったらしい。安物だ、と七瀬は思った。
「なるほど……指紋照合か……」ハッチの上からのぞいていた耕一が思わず言う。
さすがに女の子が造作も無く荷物の中から手首を取り出したのには驚いたが……

「三人とも、やれそうかい?」
「この舵みたいなので動かすみたいね……でも……」
人手が、足りない。
高槻の持ち物だからか、設計者がひねくれていたのか、それともよほどの急ごしらえだたのか……
操縦桿と、レーダー。それに、地図。コンパス。窓。
それらすべてが、それぞれ別の位置に配置されているのだ。
「これ作った人間は何考えて作ったのかしら……」思わず、七瀬が洩らした。
「耕一さん、もう一人くらい、だれか乗るように────」
晴香が言い終わるより、速く。
「ボクっ ボクが乗るっ!」
能天気と言って差し支えない声がした。
「────言ってくれないかしら。」
無視。
「うぐぅ〜 ひどいよ〜」

506 :脱出口[8]:01/10/27 03:53 ID:rp3LMWvP
「本当に大丈夫かしら……」
晴香がため息をつく。結局、あゆに押し切られたのだ。
「アンタ、本当に大丈夫なんでしょうね。まさか興味本位で乗ったんじゃあ……」
七瀬が釘をさした。
「大丈夫だよ〜 ボクがんばるよ〜」
しかし、その瞳が好奇心に輝いているのを、二人が見逃そうはずもなかった。
ボクは今から、センスイカンに乗るんだ!目は口ほどに物を言う。
「……はあ」
今度は、二人同時にため息をついた。



「じゃあ、いいかい?エンジン始動するよ?」
耕一の声がスピーカー越しに響く。

もともとこの潜水艦は地上で内部気圧などを操作し、かつそこで指示を出しながら潜水させる
「探査船」のようなものだったらしい。だから、始動スイッチなどが地上のドック内にあるのだ。
もっともそこは改造品らしく、潜水艦内部でも大まかな作業は行えるようになっている。
潜水艦にはケーブルがついており、この範囲内ならドックから電力を供給できるので燃料を気にしなくて済む。
燃料を気にするのはケーブルの範囲から出た後でいい……らしい。
操縦席には、ちゃっかり切断ボタンらしきものもついていた。プラスチックのふたが被さっていたが。
本来はドックで誰かが潜水艦まわりの装置を監視しなければならないのだが
下手にいじるよりも、ということですべてオートにしてある。これも、ケーブルの範囲内での話だが。

507 :脱出口[終]:01/10/27 03:54 ID:rp3LMWvP
【三行開けです】
晴香はコンパス。あゆはレーダー。繭は窓。地図は猫。配置は決まった。

「ここから東に進んだ一番近い海岸で集合だ。いいね?」
「はい。始めて下さい、耕一さん。」
そして、舵を握るのは七瀬。スピーカーは舵の近くについていた。もっとも、すぐに使われなくなるが。
ヴォン……スクリューが回転し始める。
「行くわよ……」
七瀬は目の前の「Descent(下降)」ボタンを押す。
浮上、下降、前進はこのボタンで切りかえるらしい。
ゆっくりと、手元のレバーを押し込んでいく。
下降するエレベーターに乗っているような感覚が襲った。少し、お腹の傷がうずいた。

希望をはらんだ船は、静かに、暗い海に沈んでいく。
それを見届けると、地上に残った者たちは、ドックを後にした────

508 :River.:01/10/27 03:58 ID:rp3LMWvP
どもRiver.です。いつものようにツッコミ、修正お待ちしております。

球状の潜水艦との事でしたので、多分こんな仕組みだろうと。
ケーブルの長さ、「海岸」の位置、
艦内の地図など 細かいところは次の人に任せます。
地図は、何らかの形の海図でよいのではないかと。

509 :名無しさんだよもん:01/10/30 02:45 ID:Uy6R3uBS
http://game.2ch.net/test/read.cgi/leaf/1004286426/
こっちにスレ移動した事かかれてなかったり

510 : :01/11/05 00:17 ID:d6zfiEmG


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