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葉鍵ロワイアル#13!
- 1 :名無しさんだよもん:01/09/11 23:43 ID:7sApWYTs
- 13代目、葉鍵キャラロワイアルのリレーSSスレです。
・書き手のマナー
キャラの死を扱う際は最大限の注意をしましょう。
多くの人に納得いくものを目指して下さい。
また過去ログを精読し、NGをなるべく出さないように勤めてください。
なお、同人作品からの引用はキャラ、ネタにかかわらず全面的に禁止します。
・読み手のマナー
感想は感想スレに書きましょう。
キャラが死んだ時に、その扱いがあまりにもぞんざいなだった場合だけ、理性的に意見してください。
頻繁にNGを唱えてはいけません。
また書き手叩きは控えましょう。
リンク関係は >>2
- 2 :名無しさんだよもん:01/09/11 23:43 ID:7sApWYTs
- ●感想スレ(外部)(議論時の葉鍵板への負荷を考え、7つ氏の好意によって貸し出してもらっています)
http://64.71.134.227/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=1000127281
●前スレ(外部)(葉鍵板が落ちている間は、ここで続いてました。7つ氏に感謝)
http://64.71.134.227/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=998755998
●リンク
ストーリー編集(いつもありがとうございます)
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Spade/1168/index.htm
●アナザーストーリー投稿スレ(外部)
http://green.jbbs.net/movie/bbs/read.cgi?BBS=568&KEY=993054328
●キャラの所持アイテムリスト
http://t-niimura.hoops.ne.jp/2ch/itemlist.txt
●外部の避難所はこちら。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Queen/3996/index2.html
●また、サポートとしてチャットが設置されています。
http://village.infoweb.ne.jp/~chat/passchat/passchat.htm
パスはhakarowaで。
作品を書く際に疑問が生じた時など、ここへいくと詳しい誰かが答えてくれるかもしれません。
●注意!●
hakarowaチャットでは上記の性質上、ネタバレ会話があったりなかったりします。
(「○○さんの弾丸って、あといくつ残ってましたっけ?」って台詞をみたら、次に○○さんが出るのが分かってしまいますね)
どうしても今後の展開を知りたくない方は気をつけて下さい。
- 3 :ヴァンパイア(1):01/09/11 23:51 ID:W7MkKur6
- 「くそっ、どこだ梓」
降りしきる雨の中、私は耕一さんと走っていた。あのおじさん――昔、従姉と
いっしょに行った喫茶店のマスターのおじさん――の襲撃。
それの相手に手間取ってしまい、梓さんとの距離はかなり離れてしまっている。
いやそれだけじゃない……梓さんに追いつきたくない、私は耕一さんと一緒にいたい……
誰にも邪魔されずに……その気持ちが、私の足取りを重くさせていた。
「……っ? マナちゃん、大丈夫か?」
耕一さんが私の足取りの重さに気付き、そう声をかけてくれた。
やだな、耕一さん。これは演技ですよ、はい。梓さんに追いつかないための演技です。
そんなのに気付かないなんて耕一さんもまだまだ人間観察眼が弱いですね。
「マナちゃんっ? おいっ!!」
やだな、だから演技ですってば。でも結構名演技。演技だけなら従姉の由綺お姉ちゃんにも
負けないかもね。動悸、息切れ、発熱……どれをとっても一級品。あの時読んだ本の症状通り。
えっとあれ何の本だっけ? 確か………思い出した、あの本は確か……
――人体における有毒物摂取時の諸症状――
- 4 :ヴァンパイア(2):01/09/11 23:52 ID:W7MkKur6
- (3行あけ)
「マナちゃん!!!」
気が付くと私は耕一さんに抱きかかえられていた。一瞬意識を失ってたらしい。
なんかひどく息が荒い。体も奇妙な火照りをもち、思うように力が入らなかった。ふと奇妙にうずく自分の
手に目をやると、先程鋏で傷つけられたところが黒ずんでいる。なるほどね。
私は直感的に理解した。さっきの鋏に毒でも塗ってありましたか。まったく用意周到なことで。
「マナちゃん? よかった、気がついたか」
文字通り心の底からって感じで耕一さんが安堵の表情をする。ふう、まったく。……そんな表情をされると
こっちの覚悟が揺らぐじゃないですか。だから私は、彼の口から次の言葉が出る前に言った。
「耕一さん、早く梓さんを追って下さい」
- 5 :ヴァンパイア(3):01/09/11 23:53 ID:W7MkKur6
- (3行あけ)
―――まあ私はやっぱしどこか小生意気なところはあったと思う。別にそう思われてもかまわないと思ってたし。
よく勉強が出来るうんぬんと嫉まれたりもしたが、それは私がちょっとばかし勉強に興味を持っていただけだし、
それに十分努力もしてきたつもりだ、多分。
この島へ来て、あの人――霧島聖先生――に出会った。「私は医者だ。だから殺すのではなく治す」
……はじめ、ここでそんな事を言うなんてなんて馬鹿げているんだと思った。ここは殺し合いをする島、
でも彼女はそう言い、最後までその言葉に従って行動していた。私はいつしか彼女に感化されていた。
彼女――霧島先生――は本当の意味でも強い人だったんだと思う。
「そんなことはない、私も弱い人間だよ……」
ふふっ、そうですね。先生だったらきっとそうおっしゃりますね。でも私は、……先生の遺志を継ぐといっておきながら、
自分の嫉妬で、自分の都合で人を縛っています。ごめんなさい……私は、弱い人間です。
「ふむ、だがなマナ君。人ははじめから強い人間なんて何処にもいない。人は自分の弱さを認めたとき、初めて強い人間に
なれるのだよ……」
- 6 :ヴァンパイア(4):01/09/11 23:55 ID:W7MkKur6
- (3行あけ)
確か毒の症状の一つに、幻覚症状があったのを覚えていた。なるほど、今のがそうなんだ。最後の先生が言った
フレーズなんて、前の日曜に読んだ小説の一文そのまんなじゃない。でも霧島先生ならいいそうだな。
「マナちゃん……」
耕一さんが、まるで鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情をしていた。そうか、この表情ってずっとどんなのか
疑問だったんだけど、今その長年の謎が解決したな。
「耕一さん、梓さんを追って……。梓さん、初音ちゃんが死んで混乱している。でも耕一さんだったら彼女の心を
取り戻せる」
「…………」
「私ちょっと疲れちゃったから、もう走れそうにないから……、ここで休んでます」
「…………」
「早く、今だったらまだ間に合う。梓さんをとめて、生き残ったみんなと合流して。そしてみんなでこの島をでよう。
みんなで元の生活に戻ろう。ねっ………」
これは体に入った毒のおかげだろう。私の中からさっきまでのもやもやした感情が消えていた。まさに毒をもって毒を制す。
まあ多分、死に瀕して余計な感情をもつ余裕がなくなっただけなんだろうけど。
でも、最後に残った感情が人を救いたい――多分、霧島聖先生と同じ――感情で、私は少し嬉しかった。
- 7 :ヴァンパイア(5):01/09/11 23:56 ID:W7MkKur6
- (3行あけ)
「わかった」
しばしの沈黙の後、聞こえていたのは悲しみと決意ともう一つが絶妙にブレンドされた彼の声だった。
多分わかっていたんだろう………私がもう長くないことに。
「あっ、でも一つだけ………」
ああ、聖先生ごめんなさい。私、最後にもう一つだけ感情残ってました。まだまだ精進が足りないようです。
でもいいですよね先生?、最後くらい……
「私、ちゃんと迎えにきてほしいから……、後で迎えにきてほしいから、そのっ……約束として……、
その証としてキスして…もらえます……?」
なんのかんのいっても、私はそれにちょっと憧れていた。だから……
――盟約
――永遠の盟約だよ
彼は少し照れくさそうな表情をして、うなずいてくれた。
重なりあう二人の唇。
それは、もしかするとただの哀れみだったのかもしれない。ただの自己満足だったのかもしれない。
でも、やっておきたかった。生きているうちに出来ることの全てを。後悔は、したくなかったから。
不思議と意識がはっきりしていた。死ぬ直前って案外こんなものなのかな? まだ時間あるみたい。
すこし悪戯心が湧きあがる。えーい、舌いれちゃえ。
「………っ?!」
彼はそれに答えてくれた。やさしく入ってくる彼の舌。私は思わず……
- 8 :ヴァンパイア(6):01/09/11 23:59 ID:W7MkKur6
- (一行あけ)
「つっ………!」
「あっ……。ごめんなさい!! でも、ディープキスって本当に血が出るんだ……」
「ひどいな、マナちゃん」
彼はそういったけど、また唇を覆ってくれた。先程と少し変わり、なんだか鉄のような味が口にひろがる。私が噛んでしまったところから
あふれ出る彼の血。でも不快ではなく、むしろ心地よい味だった。
私はひたすらその味を求める。だってこれは彼のもの、私がおそらく最後に感じる味覚だろうから。
- 9 :ヴァンパイア(7):01/09/12 00:01 ID:llkiZup2
- (3行あけ)
いつしか雨がやんでいた。
「ここなら多分大丈夫だ」
彼は私を茂みの中につれていってくれた。
「きっと迎えにくる。だからここでじっとしておいてくれ」
「うん、わかった」
永遠に続くかに思えた二人の邂逅は終わっていた。時間にして5分も経っていなかったろう。でも、おじさんの襲撃をうけてから既に20分近くがたっている。
だめだな、私。結局最後まで邪魔しちゃった。
「マナちゃん」
「なに?」
「忘れないでほしい。君がいたから助かった人、救われた人もいっぱいいたってことを」
「………」
「それと……、俺は絶対に君を迎えにくるから、絶対にくるから……な」
「なにいってるの。そんな事いう暇あったらとっとと梓さん探してきて」
「ああ……、だから絶対残りのみんなと一緒にこの島をでような」
彼はそういって最後に私に軽くキスをしてくれた。そして走り去る。彼の足音が遠ざかっていく。
……ふゎ、眠くなってきた。確かにここのとこ、ろくに眠ってないな。すこし可笑しくなる。永遠に続くかに思えた日常。
それは脆くもやぶれ、この島での地獄がはじまった。永遠に続くかと思えたその地獄。だがそれも永遠ではなかったようだ。
彼との邂逅。私はその時はじめてずっとこのままであってほしいと――永遠を――望んだ。そんなものありはしないのに
――永遠はあるよ
どうでしょうねぇ。彼女は笑う。本当にあるのならみてみたいものね。
――ここにあるよ
彼女は眠りにつく。安らかな眠りへと。
- 10 :Kyaz:01/09/12 00:03 ID:llkiZup2
- [019 柏木耕一 梓を追跡]
[088 観月マナ 眠る]
「ヴァンパイア」を書かせていただきましたKyazです。
このような展開はいかがでしょうか?
マナがうまくかけているとよいのですが。
- 11 :偶然性(1):01/09/12 08:00 ID:Ah9ZhfXE
- どこまでも続く、無機質で幾何学的な、味気ない廊下に。
彩りと騒々しさを与える人影が、二つあった。
そこは岩山の施設。
どうにかこうにか、内部に侵入した二人は、北川の一方的な提案に従って、最下層に降りてきていた。
「さあ、最下層に辿り付きました。
きっとこの階にマザーコンピューターがあるに違いません。
何故なら重要なものは、最下層にあるのがお約束だからです!」
意気揚揚と、興奮した北川が誰にともなく解説している。
「……」
北川に隠れて、影のように立つ少女が一人。
あまりに落ち着いた、その物腰からか、大人びて見える。
徹底した小声と無言の反応は、時として彼女の賢明さを、他人の目から遮蔽する。
普段、知性も含め鋭敏とは考えられないのだが。
来栖川芹香の頭脳は、高速回転していた。
「な…無い!
なんということでしょう、この階のどこにも、コンピューターは存在しないのです。
ああ神様、私北川の苦労は、バイクの下敷きになった苦痛は、全て無駄だったのでしょうか!?
そもそも、この施設にあるというコンピューターの存在自体が、幻だったとでも言うのでしょうか!」
芝居じみた仕草で廊下に崩折れた北川が、これまた大袈裟な身振りで天を仰いでいる。
(……馬鹿…?)
いちはやく見取り図を発見した芹香は、北川の猛烈な悲劇トークを軽く聞き流して、コンピューターの
ありそうな部屋を探す。
…発見。特徴的な三本の縦穴構造の中央に位置する、円形の部屋。
間違いなく、マザーコンピューターと書かれている。
- 12 :偶然性(2):01/09/12 08:01 ID:Ah9ZhfXE
-
「……(ぽん)」
今や最高潮に達した、悲劇トーク独演会を続ける北川の肩を叩く。
…遊んでいる場合じゃない。
CDだけでなく、自分が死亡扱いになっているのが気になる。
マザーコンピューターなら、真実を暴き出す手掛かりがあるかもしれない。
いつまでも、北川の一人漫才を眺めているわけにはいかない。
「…芹香さん…」
感謝の目で見つめる北川。
…慰めていると、勘違いされたようだ。
この際、どうでもよいが。
とにかく北川の軽い口を閉じ、重い腰をあげてもらわねばならない。
「-----あっ!芹香さん!見取り図ですよ!」
「……(こくこく)」
「これでコンピューターの位置が…あった!ありました!
こんなところで遊んでいる場合じゃありません!
急ぎましょう!」
「……(こく)」
…遊んでいるのは、わたしじゃない。
それでも、急ぐという結論に文句は無いから…黙っておく事にした。
- 13 :偶然性(3):01/09/12 08:03 ID:Ah9ZhfXE
- 「…と、いうわけで。
すぐそこまで来ておるぞ、お嬢」
「なにが”というわけ”だかわかんないけど、ふみゅーん!」
「どうするんじゃ。
パスコードは”かゆ”と”うま”の二重で設定されとる。
まず、あっちから開けることは出来んぞ。
つまり、入れるか入れないかは、お嬢が決めるんじゃ」
「そそそ、それくらい、わかってるわよ!
ちょ、ちょおむかつくのよっ!」
詠美は、さも嫌そうな顔をして銃を持つと、足音荒く扉のほうへと歩いて行った。
その途中で、ぴたりと停止する。
「……ねえ、ほんとのところ、どうおもう?」
「何がじゃ」
「北川って人、ほんとにあぶないとおもう?」
「…判らん。
島に来る以前のデータにおいて、凶悪であった者なぞ、ほとんどおらんのじゃ」
それすら判るなら、わしゃ人間以上じゃよ、と付け加える。
「…どうしよお…」
「開けて上手くいくとは限らんが、CDが必要なのも確かじゃ。
好きにするがええ」
「……ふみゅー…(泣」
再び歩きだし、扉の前に立つ詠美。
扉の外の話し声が、聞こえてくる。
「ふみゅ???」
詠美は両手と、片耳を扉に当てて、外の様子を聞き取ろうとした。
- 14 :偶然性(4):01/09/12 08:06 ID:Ah9ZhfXE
-
《**パスコードを入力してください**》
「……なんだよコレ」
北川は扉の外側で、悪態をついていた。
《**…だ…よ…コ…レ…**》
北川の発言が、小さなモニターに流れて行く。
そしてまた、最初のパスコード要求画面に戻る。
「音声認識パスコードか…オープンセサミ、みたいなやつだな」
腕を組む。ヒントは何も思いつかない…お手上げだろうか?
そこで北川は、何かが内部で騒いでいる声に気が付いた。
「なんだ?…随分かしましいな?」
北川は両手と、方耳を扉に当てて、中の様子を聞き取ろうとした。
目の前で、車に轢かれた蛙のように。
扉にべったりとへばりつく北川を、憐れみに満ちた目で芹香は眺めている。
(……馬鹿…?)
耳を当てるまでも無く、芹香は声を聞きとっているのだ。
『北川って人、ほんとにあぶないとおもう?』
「……(こくこく)」
「バカゆーな!
このナイスガイを捕まえて”あぶない”ですとーー!?”」
肯定する芹香と、その前で否定する北川。
- 15 :偶然性(5):01/09/12 08:09 ID:Ah9ZhfXE
-
《**…カ…ゆ…**》
…モニターの文字が反転している。
芹香は熱心に聞き入っている北川に、それを知らせようとしたが。
「……(ぴたり)」
…へばりつく姿の滑稽さに呆れ、やめた。
『開けて上手くいくとは限らんが…』
「上手くいくかどうかは、開けなきゃ判らんだろうが!」
北川が叫ぶ。
…かなり逆上してきている。
バイクに轢かれても、これほど怒らなかったのに、不思議な挙動だ。
《**…上…手…**》
プシー。
空圧の変調する音が聞こえ、扉が開いていた。
-----そして扉を失った詠美と北川は。
お互いの両手と頬を当て、呆然としていた。
「「……」」
「……」
…そんなご都合な。
芹香は、これ以上ないくらいに呆れていたが。
とにかく、中には入れたのだから…黙っておく事にした。
「みゅ?」
ただひとり。
繭の声だけが、円形の室内に響き渡っていた。
- 16 :名無したちの挽歌:01/09/12 08:11 ID:Ah9ZhfXE
- 【北川潤、来栖川芹香 コンピュータールームに進入】
ネタ物のわりに、長くなってしまいましたが…ご容赦をw
- 17 :名無しさんだよもん:01/09/12 16:09 ID:tm.IddZ2
- 復活age
- 18 :チェシャ猫〜再び裏舞台へ〜(1/3)By林檎:01/09/12 23:35 ID:0I/hRy6s
- (ああ、なんだか凄い疲れてる…。
眠ったのにもっと疲れてるなんて…。まぶたが重い……)
マナは目を閉じたまま微かに身体を動かす。
が、やはりもうしばらくは動き回れそうにないのを悟り、その動きを止めた。
「気づいたか……」
聞いたことの無い男の声に、マナがハッとする。
彼女のすぐ近くには男がいた。
(目を開けたい……)
そう思い、まぶたを開くために力を入れるマナ。
生きている間に、こんな事態にめぐり合うとは思ってもいなかったろう。
まぶたを開くために力を入れなくてはならないなどという事態。
いや、彼女はこの島に来てからなら幾度か考えていたかもしれない。
「……誰…?」
半開きの眼、滲む視界。
微かに動く口で声を発する。
「見た目ひ弱そうな、女顔の少年を知らないか?」
男が返した答えはマナの知りたかったものではない。
というか答えですらなかった。
(女顔…?)
彼女はほぼ無意識で、その質問のために頭を働かせる。
しかしどれも明確なビジョンにならない。
思い出される知人の顔は、どれもグニャグニャと歪んでいる。
- 19 :チェシャ猫〜再び裏舞台へ〜(2/3)By林檎:01/09/12 23:35 ID:0I/hRy6s
-
しばらくマナが沈黙していると、男はあきらめたようにその場で立ちあがった。
いまだに動くこともままならない彼女を見下ろし、言う。
「ある程度毒は中和できたと思うが…。まぁがんばるんだな……」
(毒……?)
その単語だけがスムーズに彼女の頭へ入っていく。
(そうだ。毒で倒れたんだ……)
意識を失う前にそう推理したことが思い出された。
毒で倒れ、知らぬ男に手当てされ、その男が目の前にいる。
それが彼女の身に起きたこと。
とりあえず男に敵意が無いと悟った彼女は、半開きの目を再び閉じた。
――シュッ――
男は煙草をくわえ、ライターで火をつけようとする。
「ん……」
火がつかない。
雨に濡れた際に湿ってしまっていた。
くしゃりと箱ごと握りつぶすと、それを地面に捨てる。
- 20 :チェシャ猫〜再び裏舞台へ〜(3/3)By林檎:01/09/12 23:36 ID:0I/hRy6s
-
「助けてくれて…ありがと……」
マナが言う。
一応とはいえ、まだ殺し合いゲームは続いているのだ。
その中でやさしさを向けてくれた男。
「ふん…。気まぐれだ」
男は平然とそう言い、自分のバッグに広げていた荷物を詰める。
そして無言で立ち去ろうとする。
――強くなければ生きられない――
(彼女の今の体力で、どれだけ生き延びられるだろうか)
そんな心配が男の頭に微かによぎった.
だが彼にしてみれば元々関係の無いこと。
毒の中和は、たまたま手持ちの品で応急処置できそうだったから気が向いたにすぎない。
「…ありがと……」
立ち去る高野の後ろから再び礼…。
――優しくなければ生きていく資格がない――
眠るマナ。
その横に非常食。
【高野は418話の施設から、充分な物資を持ち出したと思われます】
- 21 :Tomorrow 1:01/09/13 20:09 ID:ZYNpDYGQ
- 観月マナ(088)は川のほとりにいた。
(あれ……?)
目が覚めて、周りを見渡したらそうだった。
次に自分の体を見る。怪我なんてない。傷どころか泥や血で汚れた後すらない。
川の流れを鏡にして自分の顔を映してみる。
流れに押されて、写った顔がグニャリと歪んだ。
私が置かれているあの島にはそんな歪みが似合ってるかも、なんて思ったけれど。
その流れの向こうの私はすごく綺麗で…(っていってもナルシストじゃないわよ)
やっぱり、汚れ一つなかった。
「……夢?」
「そうだな。これは、夢かもしれんな……」
「だ、誰…?」
聞かなくても分かってた。その、短い間だったけど、絶対に忘れることのない声。
「久しぶりだな、マナ君」
「せ、センセイ!」
私は、一心不乱にその大きな体へと飛び込んだ。
「こ、こら、いきなり飛び掛ってくるな、びっくりするじゃないか」
「ほ、本当にセンセイだ…」
- 22 :Tomorrow 2:01/09/13 20:10 ID:ZYNpDYGQ
- ひとしきり、その胸の温かみを感じた後、もう一度、周りを見渡す。
ホントは、ずっとそうしていたかったけど。
「センセイ、ここは……?」
「川のほとりだな」
「そんなことは分かってる……ます」
「じゃあ、どこだと思うんだ?」
反対に、返された。
「川のほとり……」
「だな。言葉通り。私の言うことに間違いはない」
断言された。よく状況が掴めないけど、今日の霧島センセイは強気だった。
- 23 :Tomorrow 3:01/09/13 20:11 ID:ZYNpDYGQ
- 「センセイ、生きてたんですか?私は…」
「私以外にもいるぞ。ここにはな」
えっ…?
「やほー、マナちゃんだ! よかったぁ」
「か、佳乃ちゃん……!!」
センセイの後ろに隠れて、佳乃ちゃんがいた。
「そんな…どうして……?」
「私がいるのだ、佳乃がいても不思議ではないだろう?」
「いや、そうだけど…」
疑問に思いながらも、喜びの表情は隠せない。
「良かった…本当に…私、てっきり……佳乃ちゃんが……」
先生や、佳乃ちゃんとの思い出。あの悲しかった思いは忘れたことなんてなかった。
だから、すごく嬉しかった。
「夢だったのかな……?ひどく、辛い夢」
「そうか。悲しい夢でも見ていたのか?残念ながら精神的なものは専門外だが…」
「いいの、病気じゃないから」
涙を拭って。
私の辛いあの日々は、終わったんだ……
- 24 :Tomorrow 4:01/09/13 20:15 ID:L0S7YdZY
- 「情けないチビちゃんにもう一回会えるなんてね〜」
「そ、そんな事言ったら可哀相だよ…」
私は、また懐かしい声との再会を果たした。
それ程時間は経っていないのに、すごく懐かしい。
「きよみさん…初音ちゃん…」
もう会えないと思っていた、大切な人達との再会。
もう一度、夢見て止まなかったその再会。
たぶん、この島に来て、一番の微笑みだったと思う。
きよみさんのその憎まれ口さえも、耳に心地の良い響き。
そういえば…この島に来てからって思ったよね、私。
「センセイ、ここはどこなんですか!?」
「川のほとりだ」
「さっきも聞いた! もっとグローバルな意味でのこと」
そう、何故か違和感を感じる。
幸せなこの状況に不満なんてないと思うけど、胸の奥にあるその何か。
「あの島じゃないんですか?」
あの殺戮の島に、この風景は不釣合いだと、我ながら不謹慎だけど、そうも思う。
「……。ふむ…」
先生が、腕を組んで考える仕草をする。
「あの島からは遠く離れた場所だ。…いろんな意味でな」
いろんな意味?ちょっと良く分からなかったけど、さらに質問する。
「みんな、助かったの?」
「……今も戦っている者がいるかもしれないな」
「……」
その先生の声に、私はただ黙った。
- 25 :Tomorrow 5:01/09/13 20:16 ID:L0S7YdZY
- 「マナちゃん、ここにいれば安全だよ。あとは、帰るだけだね」
「初音ちゃん…」
お家に帰る。帰っても誰もいない寂しい家。
それでも、あの島でずっと求めていたもの。
だけど……
「やっぱり、なにか足りないの」
私は、言った。
ここは幸せなのに…?私が求めていた、たいくつでつまらない、だけど幸せな日々なのに…?
「うん…辛かったけど、忘れちゃいけないって思い出が、あるから…」
自分に言い聞かせるように、言葉。
- 26 :Tomorrow 6:01/09/13 20:17 ID:L0S7YdZY
- (※3行開けです)
――さっき、君は『死んでも人殺しにはなれない』と言ったろう。私もそうだ。
私は医者だ。先ほどの観月くんのように怪我をして、
あるいは戦闘で傷ついた人間を見つけたら治療する義務がある。
誰かが私に襲い掛かってきたとしたら、殴り倒してでも説得する。
例え、その行動が命取りになっても、だ。
――あなたは、その子よりも弱いのよ。 肉親を失った子でも、生きようと決めたのね。
それでもあなたは、死ぬの?
――心の中でずっと叫んでた…マナちゃんを傷つけていく私を、私は止められなかった。
私がやったことは…許されないかもしれないけど…
本当は、死んじゃった方がいいのかもしれないけど…
私、お姉ちゃん達の分まで生きたい。だから…生きていてもいいかな?
――彰お兄ちゃん、自分が何を言ってるかわからないのっ!?
本当にもう狂っちゃってるんだね!? 戻れないんだね!?
鬼の血なんてあげなければよかったよ……それでもお兄ちゃんが好きだったからっ!!
――忘れないでほしい。君がいたから助かった人、救われた人もいっぱいいたってことを。
- 27 :Tomorrow 7:01/09/13 20:18 ID:L0S7YdZY
- (※3行開けです)
私は、いろんな人に支えられて、長い道をただひた走っていた。
私にとっての辛い辛い旅の終わりはこうだったらいいって思うけど。
もう叶うことはないって分かってても、そう思ってしまうけど。
私はまだ、帰れない。
戦ってる人、生きて帰ろうと前を向いて歩く人、
そして、耕一さんをはじめ、出会ったすべての人達と。
「ここはまだ、私のゴールじゃないから」
そう言ったら、センセイやきよみさん達がみんな、笑った気がした。
「ひとつだけいいおチビちゃん? ……すべてが夢だったら、いいとは思わない?」
「思わないよ。だって―――――」
「言わなくていいわ。たぶん、私の思ってる通りの答えだと思うから。憎たらしいけどね」
「きよみさん……」
世界が、遠のいて、いく。
「佳乃ちゃん…初音ちゃん、きよみさん…センセイ…私――」
「そんな顔をするな。すべてが…あの悪夢が夢であったのなら、
私達が出会うことはなかった…そう思えば気楽だろう?」
「センセイ……」
「何事も、前向きに、な」
世界が途切れた――――――――
- 28 :Tomorrow 8:01/09/13 20:19 ID:L0S7YdZY
- 私が、永遠であったならばいいと思った、その幸せな日々が。
目が覚めたら、いつもの悪夢の光景だった。
たった数日だったけど、長く感じるその辛い日々。
周りを見渡せば、横に食料が置いてあるだけで、誰もいない。
「そうだ、変な、だけど親切な男の人に助けられて、また眠っちゃったんだ」
さっきのは夢だったんだろうか。
夢だとしても、はっきりと覚えているその言葉。
(どの位の時間が経ったんだろう…?)
あたりは、すっかり夜に染まっていた。
耕一さんが迎えに来た気配は、ない。
眠ったせいだろうか。センセイ達に勇気付けてもらったからだろうか。
妙にすっきりしていた。
梓さんへの憎しみも、薄らいでいた。
正確には、嫉妬は強くなっている気もするけれど。
(私、思ってたより独占欲強かったんだね…)
もしかしたら、梓さんとは、戦うことになるかもしれない。
- 29 :Tomorrow 9:01/09/13 20:20 ID:L0S7YdZY
- ――――そうじゃ、それでよい。それでこそ「人間」であろ……
梓さんと別れた時に聞こえた謎の声が脳裏に蘇る。
私の心が創り出した声だったのか、それとも他の誰かの声だったのか、それは分からないけど。
今はそんなことはないって、はっきりと言える。
梓さんとのその戦いは、帰ってから幾らでもすればいい。
帰れば、笑いながら、怒りながら、それができるんだから。
さっきまでの私の黒い思いに、苦笑いした。
- 30 :Tomorrow 10:01/09/13 20:24 ID:npOMjkQE
- (※3行開け)
頭だけじゃない、体だけじゃない。心が軽くなったと思う。
何度も絶望して、あきらめたこともあったけど、その度に勇気づけてくれた、友達。
今も、心で勇気を与えてくれるから。
――すべてが夢だったら、いいとは思わない?
思わないよ。だって…
こんな島でも、大切な人達と出会えて良かったと思ったのは嘘じゃないから。
【088 観月マナ 毒を克服 非常食入手】
※時間は夜に突入です。どの位経ったかはお任せ。
※少々ご都合ですが毒でポックリはとりあえずないことにしました。
現在、耕一の言葉通りに場所は動いてないです。動くかどうかはお任せします。
- 31 :Tomorrow作者:01/09/13 20:26 ID:npOMjkQE
- マナが見たあの夢は、
1、単なる夢
2、臨死体験
3、永遠の世界(爆
好きなようにとってやって下さい。
なんか「改行多すぎます」でハネられまくって細切れになってしまいました。
(未だになんでか分からんのですが。他の人は大丈夫みたいだし…)
あと、何人かの作者さんの文を引用しまくってます、スミマセン。
- 32 :みんな、結末を目指して……(1):01/09/14 00:02 ID:HkYoJC3Q
- 「それで、グレート・長瀬さん……でしたっけ? 私たちに協力して頂けないでしょうか」
岩山地下施設コンピュータルーム。先程、柏木千鶴、スフィー、月宮あゆ、七瀬彰の4名も到着していた。
その直前に辿り着いていた北川潤&来栖川芹香、元からいた大庭詠美、椎名繭も加えると総勢8名、実に生き残っている参加者の
半分以上がここに集結したことになる。
「だめじゃ、ワシはまがりなりにもこのゲームの管理者。参加者たるおぬし達に協力はできんよ」
先程から問答を続けてるのは柏木千鶴と、この施設のコンピュータで現在実質的にこのゲームを
管理している擬似人格「グレート・長瀬」(通称G.N.)だった。
「ですが私たちはこれ以上殺し合いを続ける気はありません。それに……」
「ええぃ、協力せん! 協力せん! 協力せんたら協力せんのじゃぁぁぁ!!!」
カシャン………。その時なにかが割れる音がした。
「あらいやだ、私ったらコーヒーカップ落としちゃったわ」
「ぬぉぉぉぉっ! なんてことするんじゃ、はやく拭かんかいぃぃぃ!!」
みると千鶴のコーヒーがG.N.のコンソールに派手にぶちまけられている。
「……はい、千鶴さん。かわりのコーヒーと布巾だよ」
「あら、あゆちゃんありがとう。それでなのですがグレート・長瀬さん、私達はあなたの協力を得たいと……」
「だから駄目だといって……ぬぉぉぉっ!!!」
「あらいやだ、今度は砂糖壺をたおしちゃったみたい。私ったらどじねえ」
てへっ。そんな感じで舌をだす千鶴。
(うぐぅ……。千鶴さん、目が笑ってないよう……)
(ふみゅ〜ん……)
(………出来る…)
他の者はそれを黙って見守ることしか出来ない。
- 33 :みんな、結末を目指して……(1):01/09/14 00:05 ID:HkYoJC3Q
- 「それで、グレート・長瀬さん……でしたっけ? 私たちに協力して
頂けないでしょうか」
岩山地下施設コンピュータルーム。先程、柏木千鶴、スフィー、月宮あゆ、
七瀬彰の4名も到着していた。
その直前に辿り着いていた北川潤&来栖川芹香、元からいた大庭詠美、
椎名繭も加えると総勢8名、実に生き残っている参加者の
半分以上がここに集結したことになる。
「だめじゃ、ワシはまがりなりにもこのゲームの管理者。参加者たる
おぬし達に協力はできんよ」
先程から問答を続けてるのは柏木千鶴と、この施設のコンピュータで
現在実質的にこのゲームを管理している擬似人格「グレート・長瀬」
(通称G.N.)だった。
「ですが私たちはこれ以上殺し合いを続ける気はありません。それに……」
「ええぃ、協力せん! 協力せん! 協力せんたら
協力せんのじゃぁぁぁ!!!」
カシャン………。その時なにかが割れる音がした。
- 34 :みんな、結末を目指して……(2):01/09/14 00:16 ID:HkYoJC3Q
- (一行あけ)
「あらいやだ、私ったらコーヒーカップ落としちゃったわ」
「ぬぉぉぉぉっ! なんてことするんじゃ、はやく拭かんかいぃぃぃ!!」
みると千鶴のコーヒーがG.N.のコンソールに派手にぶちまけられている。
「……はい、千鶴さん。かわりのコーヒーと布巾だよ」
「あら、あゆちゃんありがとう。それでなのですがグレート・長瀬さん、私達はあなたの協力を得たいと……」
「だから駄目だといって……ぬぉぉぉっ!!!」
「あらいやだ、今度は砂糖壺をたおしちゃったみたい。私ったらどじねえ」
てへっ。そんな感じで舌をだす千鶴。
(うぐぅ……。千鶴さん、目が笑ってないよう……)
(ふみゅ〜ん……)
(………出来る…)
他の者はそれを黙って見守ることしか出来ない。
- 35 :みんな、結末を目指して……(3):01/09/14 00:17 ID:HkYoJC3Q
- (3行あけ)
「あなたにこのゲームを止め、外と連絡することは出来ないということですか……」
「すまんのう、千鶴嬢ちゃん。しょせんワシはしがないプログラムでしかないからのう」
13杯目のコーヒーのおかわりの後、G.N.との交渉が再開されていた。
「なあ……、千鶴さんって嬢ちゃんって年じゃないと思うんだが」
「…………」
北川の小声の突っ込みに
(うぐぅ、今部屋の温度が少し下がったみたいだけど………きっと気のせいだよね)
「ならばこのゲームを止めるにはどうなればよいのでしょう?」
「そうじゃの、参加者が一人を除いて全員死亡しかないじゃろうのう」
こころもち冷たい千鶴の声に、先程とは打って変わり協力的なG.N.が答える。
「死亡判定はどのように行っているのです?」
「おぬしたちの体内にある爆弾を使ってじゃよ」
「でしょうね」
そこで千鶴はにこっと笑った。
「でしたら私たちのように、一人を除いてみんなが爆弾を吐き出してしまえば吐き出した人は
死亡扱いになるので生き残りは一人、つまりあなたのプログラム上ではゲーム終了となるわけではありませんか?」
「………少し待ってくれい。……ふぅむ、問題はないようじゃな」
「ありがとうございます。さてと……」
ゆっくりと千鶴が振り返る。
「この中でまだ爆弾もってるのは北川くんとスフィーさんね……。まずは北川くんから吐き出してもらおうかしら。
みんな、ちょっと北川くんをおさえておいてもらえます?」
次の瞬間みんなにとり押さえられる北川。
「えっ……あの、ちょっと」
「ごめんなさいね、北川くん……。これもこのゲームを終わらせるためなの……」
硬く握り締められる千鶴の拳。その顔は、何故か少し嬉しそうだった……。
- 36 :みんな、結末を目指して……(4):01/09/14 00:18 ID:HkYoJC3Q
- (3行あけ)
北川は床に伸びていた。他の者は少し離れたところにかたまってなにやら話をしている。
千鶴ひとりG.N.のコンソールの前に座り、先程北川から取り出した爆弾――もちろん念入りに洗っている――
をいじっていた。本当はスフィーからも取り出したかったのだが、何故かみんなから止められている。
まああの子は女の子だし、それに衰弱も結構激しいようだから今すぐでなくてもいいだろう。
「千鶴さん、おかわりと……はい」
「あらクッキー……。ありがとう、あゆちゃん」
気が付くと横にあゆが立っていた。
「あの……千鶴さん、ひとつ聞きたいんだけど……神奈……さんだっけ。その事はどうするの?」
あゆの疑問、それは当然だろう。確かにいま北川の持ってきたCDの解析は進めている。だが先程のG.N.との
やりとり。そこには神奈――おそらく今回の元凶にて捨て置けない存在――のことは一言もでてこなかった。
まるで、そんなものはじめからなかったかのように……。
「……あゆちゃん、あなたはそんなこと気にしなくてもいいのよ」
「えっ……?」
「もうすぐこのくだらない出来事は終わります。そうしたら先にあなた達は帰りなさい。あなたたちを
待っている人のもとに」
「……」
「あとのことは気にしなくてもいいのよ。あとは私たちが必ず決着をつけます」
そういって千鶴はちらりと彰の方――彼は皆と離れてひとりたたずんでいた――を見る。
「だから、あゆちゃんたちは先にこの島から戻っておいてね。ほら、あなたのお母さんも心配してるわよ」
それは千鶴のまぎれもない本心だった。この決着、それは凄惨なものとなる予感がする。だから
そこにいるのは私たちで十分、あゆちゃんみたいな優しい人たちはそこにいる必要が無い。そうでしょ、あゆちゃん。
あなたも早く日常に戻りたいわよね。「戻りたい」、そう一言言ってくれさえすれば私達は……。
だが彼女の返答は千鶴の予想を越えていた。
「千鶴さん……、ボクね、お母さんいないんだよ……。ボク、もう帰る場所ないんだ……」
- 37 :みんな、結末を目指して……(5):01/09/14 00:21 ID:HkYoJC3Q
- (3行あけ)
なにかが溢れ出るように、そして淡々とあゆは言葉を紡ぎ出す。
「ほんとはね、ボク、来月から秋子さん……水瀬秋子さんの子供になるんだったんだ……」
水瀬秋子……覚えている。自分がこの島で戦った相手。そして今は既に死んでいた。
「ボクの本当のお母さん……ボクが小さい時に死んじゃって……ボクその時本当に悲しくて……」
無感動に続けるあゆ。
「どうしょうもなく悲しかったその時、ボクは祐一くん……相沢祐一くんと出会ったんだよ……」
すっと、あゆはポケットから何かを取り出す。それは天使の姿をした人形だった。彼女はすこしそれに
目をやり、言葉を続ける。
「死にたいくらい悲しかったんだけど、ボクは祐一くんと出会って、すこしその悲しみも楽になって……。
でもね、ボクどじだから……祐一くんが街を離れる日……ボク木から落っこちて……死んじゃった……」
はっとなり、千鶴はあゆの表情を見る。あゆの表情、彼女の目にはいつのまにか涙がたまっていた。
- 38 :みんな、結末を目指して……(6):01/09/14 00:22 ID:HkYoJC3Q
- (3行あけ)
「でもね……」
あゆは続ける。
「木から落ちて、ボクお空に昇っていったんだけど、ああもう戻れないなあって思ったその時、出会ったんだよ……。
天使さんに」
「天使……?」
「うん、天使さん。よくは覚えてなんだけど、とっても綺麗な白い羽をした天使さん。その子とね、ずっと話をしてた……」
ここになってようやくすこし元気になるあゆの声。
「それでね、気が付いたら元いた街にいて、祐一くん達とも再会できて、
いろいろあったけどボク生き返ること出来たみたい……」
「…………」
「でも、お母さんはやっぱしいなくなっていて、やっぱしボクはひとりぼっちなのかなぁって思ってたら、
秋子さんが言ってくれたんだ。『あゆちゃん、もしよければうちの子にならない?』って……」
「それでね……ここに来る直前、秋子さんが『せっかくあゆちゃんがうちの子になるんだから、その記念に
パーティーしましょう』って提案してくれて……、それでみんな……名雪さん、真琴ちゃん、美汐ちゃん、
栞ちゃん、香里さん、北川さん、舞さん、佐祐理さん、そして祐一くんとかみんなが集まってくれて……
『わあ、とっても楽しいよ、祐一くん、ボクもう死んでもいいよっ』って言ったら祐一くんに
『ばかっ』って言われて……、それでも楽しくてはしゃいでたら何故か眠くなっちゃって気がついたら……」
なにかを吐き出すかのようにあゆは言う。
「ここにいた」
- 39 :みんな、結末を目指して……(7):01/09/14 00:24 ID:HkYoJC3Q
- (3行あけ)
千鶴はあゆになんていったらいいのか分からないでいた。ふと見てみると、あゆの肩が小刻みに震えている。
「あゆちゃん……」
「千鶴さん……どうして……えぐっ………どうして、みんな死んじゃったの。? どうしてこんなことに
なっちゃったの……どうして!?」
小さく嗚咽をあげるあゆ。千鶴は気がついた。あゆは、いやあゆもこんな小さな体でずっと戦っていた、本当に
必死になって戦っていた事を。そしてそうである以上、中途半端な決着――みんなを置いて先にここを去るような――
それは彼女にとって絶対に出来ないことだということを。それともうひとつ……
「あゆちゃん……死ぬ気?」
「千鶴さん……さっきの話、聞こえていた。……死ぬのは怖いけど……ほら、ボクを待ってる人、もう誰もいないから……」
いつしかあゆは泣き止んでいた。彼女は真っ赤になった目を千鶴に向けている。そこにあるのは明確な意思。
「だめよ、あゆちゃん……」
「いいんだよ、千鶴さん。……ほら、それにさっきいったでしょ。ボク一度死んじゃってるしね」
おどけた調子であゆは言う。本当にこの子は……
「あゆちゃん、あなたが死んだら、私が悲しいわ……それではだめ?」
「千鶴さんには梓さんがいる。他の人もそう。だからこの役目はボクが一番適任なんだよ。ボクが死ねば万事オッケ―だよ」
ビシッ。あゆは人差し指を立てていった。でも……
「だめよあゆちゃん……。だってあゆちゃんには、ここを出たら私の妹になってもらうんですもの」
「えっ……」
- 40 :みんな、結末を目指して……(8):01/09/14 00:28 ID:HkYoJC3Q
- それはもしかしたらこれ以上に無い程残酷な話かもしれなかった。しかし千鶴は――たとえこのことが
代償行為だのなんだのそしられようとも――決めていた。
「もしあゆちゃんがそれでいいって言ってくれたらだけど……、これが終わったら私の妹にならない?」
「……」
「私、これでも結構お金持ちなのよ。鶴来屋っていってね、地元じゃ結構有名な旅館を経営しているの」
「……」
「家も結構大きいし、あゆちゃん一人くらいきても全然大丈夫」
「……千鶴さん」
「それでね、ここからみんなで無事に帰ったら、そこでみんなでお通夜をしましょう」
「……お通夜を?」
「そう、知ってる? お葬式はね、死んだ人たちに敬意の念をもってあの世に送る儀式なんだけど、
お通夜はね、みんなでわいわい騒いで、元気にやっている姿をみせる儀式なの」
「……どうして?」
「だってそうでしょう? 自分が死んだ後にね、もし自分の大好きな人や大切な人がづっと泣きつづけて暮らしていたら、
それはとっても悲しいことだとは思わない? だからお通夜は、あなたが死んでとっても悲しいけど、私達はあなた達の死を
無駄にせず、元気に生きていくことが出来ますよってのを見せるためにするの。私達はしっかり生きて生きますよってね。
元気にしっかり生きていく、それが死者に対する最低限の礼儀」
「…………」
「だからね、あゆちゃん」
千鶴はにこって笑ってあゆの両頬をしっかりと握り……
「死・ぬ・な・ん・て・、軽々しく口に出してはいけないの」
「ひゃ、ひゃ、つぅじゅりゅしゃん、ひぃたひぃひょー」
- 41 :みんな、結末を目指して……(9):01/09/14 00:29 ID:HkYoJC3Q
- 「本当は……」
「駄目だよ千鶴さん。気持ちは嬉しいけどボクは帰んないからね」
頬を真っ赤にしたあゆはいう。説得は無理そうだ。残念だけど……すこし嬉しかった。
「それにね、ボクさっき木から落ちて天使さんに会ったっていったでしょう」
「ええ……」
「その天使さん、まだよく思い出せないけど、天使さんと会った時に感じたのと似似たような感じ、さっきの社で感じたんだ。
それと天使さんがいた所にはにもうひと……」
「話中にすまんのんだが……」
不意にG.N.が二人に声をかけた。
「なにかしら?」
「生存者を確認したぞい、ただな……少々様子がおかしい」
「……? 確認させていただけますか」
「すこしまっておれ……。そりゃ」
G.N.のモニターに一人の人物が浮かび上がる。そこには……
「……梓!!」
- 42 :Kyaz:01/09/14 00:32 ID:HkYoJC3Q
- [029北川潤 体内爆弾を吐き出す]
「みんな、結末を目指して……」の作者のKyazです。
32は送信をミスってしまいました。すみません。 本編は33からということでよろしくお願いします。
自分なりに趣向を変えてみたつもりなのですがいかがだったでしょうか? それでは、失礼します。
- 43 :Kyaz:01/09/14 01:50 ID:HkYoJC3Q
- たびたび申し訳ありません。
一部訂正を
(9)(41番目)の会話
「なにかしら」と「生存者を〜」の間に
以下の2文
「この施設の屋外監視カメラになんじゃがな」
「ええ」
の挿入
及び
次の文「生存者を確認したぞい、〜」を
「一瞬じゃが生存者を確認したぞい、〜」
への変更をよろしくお願い致します。
現在の状況として
「上空にあった監視カメラは既に消滅している」
というものがあります。
お手数をかけて申し訳ありませんが、よろしくお願い致します。
- 44 :冗談のような出来事(1):01/09/14 02:49 ID:5jON5iKM
- この島で会って死んでいった大切な人のために、
そして、まだ生きている人のためにがんばらなくっちゃ。
梓さん、様子が変だったから耕一さん心配だな。
考えるなりマナは耕一が走り去った方向に向かって駆け出した。
毒のせいで身体が重い。更に、辺りはすでに暗くなっている。
周りが見難いため走るスピードを緩めて耕一を探す。
この島から帰ったら梓さんにライバル宣言しちゃおうかな?
こういう闘い方もありだよね?
でも梓さんだったら「あたしは耕一のことなんてなんとも
思ってない」真っ赤な顔をして否定するかも。
非日常のこの島で島を出た後の日常を思い浮かべる。
マナに精神的余裕が出てきた証拠だ。
- 45 :冗談のような出来事(2):01/09/14 02:49 ID:5jON5iKM
- 真っ赤な顔をした梓を思い浮かべて笑みを浮かべたとき
身体が浮遊感を感じた。
「……え……???」
浮遊感のあとにくる激しい衝撃。
腕、足、腰、背中、頭と衝撃が伝わってくる。
彼女は崖を転がり落ちていた。
電気もない、特殊な力もない、毒でふらついている。
そんな状態で森を走っていたのだから前方に注意が行き届かない
のは当然だ。
なんで?マナの頭にそんな疑問が浮かぶ。
こんな事で死ぬなんて犬死じゃないの……冗談でしょ?
……ごめんなさい…みんな、………耕一…さ…ん…。
観月マナ、地面に叩きつけられたのと同時に誰かに看取られる
こともなくその生を終えた。
【088 観月マナ 死亡】
- 46 :あなたへの月:01/09/15 09:58 ID:/FMHS8G.
- 多分自分は正直であるべきなのだろう、それが自分に課せられた一つの罪であるし、
自分が自分である必要は最早ない、だがそれでも僕は。
嘘を吐くのが嫌いなのだ。
「梓、――ぶじ、だったのね」
云う千鶴には、言葉ほど安心した様子は無かった。
むしろ逆にどうしようもない狼狽に囚われてしまった感さえある。
そのモニターに映し出されたあまりに疲弊した顔を見て、僕は黙って立ち上がる。
あまり鮮明な映像ではないが、それでも充分にその表情の意味するものが見て取れた。
彼女が、初音のもう一人の姉だった。
初音を殺した「誰か」を捜そうとして、それでも見つける事が出来なかった(当然だ、「誰か」とは僕の事なのだから)。
絶望のまま、結局ここに戻って来なければならなかったのだろう。
ならば。
「彰、くん?」
黙ったまま部屋を出ようとした僕に気付くと、柏木千鶴は少し上擦った声で呼び止める。
少しの間の後彼女の思考にも冷静さが戻ったのだろう、先程見せた強い眼差しで僕を見つめると、
「――ダメよ」
そう云った。彼女は聡明な女性だ、僕が考えている事がすぐに判ったのだろう。
「僕が行く事に意義がある」
「あなた、誓ったんでしょう?」
初音を殺した「あれ」を、必ず殺すと。
- 47 :あなたへの月:01/09/15 09:58 ID:/FMHS8G.
-
「疲弊しきった今の梓に、あなたの話を聞く余裕があるとは云い切れない」
言葉を切って、数秒の間の後。
「――梓に、ただ殺されてしまうだけかも知れない」
「判っています」
モニタールームに走る緊張が、まるで蜘蛛の糸のように広がっていく。
「ならここで座って待っていて。私が迎えに行ってきます。――事情を話せば、梓だって判って」
「判っています」
僕は少しだけ目を伏せ再び頷いたが、その頷きは納得の意味ではなかった。
「けれど、こういうのは理屈じゃないでしょう」
まっすぐな目で、僕は千鶴のその眼差しを受け流そうとした。
――受け止めようとするにはそれはあまりに重かったから。
「――……」
一分程の沈黙の後、千鶴のその圧迫するような眼差しは消え失せ、彼女は少しだけ肩を竦め、頷いた。
「判った。あなたの気持ちが判らない訳じゃないから。ただね、一人では絶対に行かせない。
それくらいは我慢して。あなたと梓の共闘が、神奈との戦いのためには重要なの」
僕も肩を竦めて頷いた。
「ありがとうございます」
――モニターの梓は、未だに施設入り口の前で立ち往生していた。
まるでここに入るのを躊躇っているかのようでさえあった。
僕と柏木千鶴は、二人並んで部屋を出る。
- 48 :あなたへの月:01/09/15 09:59 ID:/FMHS8G.
- 「千鶴さんっ――……」
心配げな目で見る月宮あゆは、見上げる形で千鶴の表情を伺う。
「あゆちゃん、すぐに梓と一緒に帰ってくるわ。大丈夫、そんな顔をしないで」
「うん……」
軽く唇を噛んで、あゆは一度は俯き頷こうとしたが、
何かを言いたげにもう一度千鶴の顔を見上げた。
「あゆちゃんはスフィーちゃんの様子を見ていてあげて」
柏木千鶴は――――笑った。
「護身用に拳銃は持ってる。もし誰かが来襲してきても、何とかなるわ」
作り笑いにしてはあまりに自然な笑顔だった。
――もし、この笑顔が作り笑いでないのだとしたら。
妹を失った直後。そしてその殺人者である自分が横にいるのだ。
統率者として冷静でいなければならないのは判る。
だがそれにしたって、あまりにも不自然だ。僕は少し不安な気持ちになる。
この女性もまた、自分やこの島の他の人間すべてのように――何処かが欠けてしまっているのではないか?
僕はだが、そこで考えるのを止める事にした。
彼女が喩え壊れていようとも、僕にはどうする事も出来ないのだから。
- 49 :あなたへの月:01/09/15 09:59 ID:/FMHS8G.
- 七瀬彰と柏木千鶴が部屋を出ていって、すぐの事だった。
北川潤とG.Nは殆ど同時にその異変に気付いた。
「――おい、なんか、もう一つ、光点が近づいてきてるぜ」
「わかっとる、今すぐモニタリングするぞい」
――不安が過ぎる。正体不明のそれが、果たして一体何であるか。
自分たちの仲間となりうる存在だ、脱出したいと思っている生き残りだ。そうに決まっている。
北川は胸に走る不安を打ち消すように、何も映っていないモニタを見つめる。
梓とその光点の距離は数百メートル、だがその距離は見る見る詰められていく――
「よし、モニタリング出来るぞい」
その画面に現れたのは。北川は唾をごくりと呑むと、その男の表情を見つめた。
「おいっ、あのおっさんはっ」
来栖川芹香も同じように目を丸くする。
フランク長瀬。先程出会った、やけに無口な中年だった。
だが、その様子は。あれは何だ? あれは――
先に受けた印象とまるで違う。冷静沈着な感じのあったあの男が、今は
声こそ聞こえないが、何やら訳のわからぬ事を喚いているような様子である。
気が狂ったかのようなその様子は、先程までの彼からは考えられない。
あの男に、この短期間で何があった?
(――まずいぞ)
北川は親指の爪を噛みながら、誰にも聞こえない小さな声で呟く。
(このタイミングだと、千鶴さんと七瀬の彰くんが着く前に、あの男が梓さんを襲う形になるんじゃないか?)
- 50 :あなたへの月:01/09/15 10:00 ID:/FMHS8G.
- 当然だが、柏木千鶴も七瀬彰も敵襲がこんなタイミングで訪れるとは考えていないだろうから、
割とのんびりと歩きながら、柏木梓を迎えに行っている筈だ。
対して、あの男の移動は早すぎると云うほどではないが、それでも――。
そして、疲弊しきった様子の柏木梓。
敵襲に気付かないと云う事はないだろうが、それでも疲れから来る油断はある筈で。
(勘弁しろよ、これ以上人死には見たくないぜ)
北川は黙って立ち上がる。
状況を完全に理解しており、すぐにでも動き出せるのは自分だけだろう。
CDの解析は始まった、今俺に出来る事など一つもない。
それならば、脱出の為に行動をとるのは当たり前の事ではないか?
今この部屋にいる人間の中で、梓が、千鶴が、彰が危ないと直感的に理解できている人間はどれ程いるか。
来栖川芹香も気付いてはいるだろうが、おろおろとした様子でいるばかりだ。
やはり、俺一人で行く。北川は自分の武器、デザートイーグルを手に取ると、ドアを開けようとした。
「ふみゅ?」
その時、大庭詠美が奇異の目で自分を見た。気付かれたか。
G.Nやその他の人間もその声で自分の様子に気付いたようだった。
部屋には月宮あゆとスフィーを除いた全員がいる。
(ちなみにあゆはスフィーの様子を見に、隣の部屋へ行っていた)
さて、どうやって誤魔化そうか。
「――ちょいと便所行って来るわ」
北川は適当にそんな言い訳をした。
便所に行くのに武器を持っていくアホがいるか、と自分で突っ込みを入れながら。
- 51 :あなたへの月:01/09/15 10:00 ID:/FMHS8G.
-
「待ってっ」
引き留めるはやはり大庭詠美。さすがにこの言い訳は――
「トイレの場所判ってるのぉ?」
……いや、それだけかよ。ちょいと拍子抜けする。
「たぶん」
適当に頷くと北川は部屋を出る。そしてドアが閉まるのを確認すると、一目散に駆けだした。
「――……」
これといった会話もなく、割とゆっくりとした歩調で歩いていた僕と柏木千鶴が、
施設の出入り口の見える辺りまで到達した時だった。
後ろから誰かの駆けてくる音。振り返った僕と柏木千鶴は、その足音の主が北川潤である事を確認する。
「千鶴さーん! 七瀬くーん!」
何事か、と思い、僕たちは彼の叫ぶ声を聞いた。
掠れるような声だが、それでもその言葉の意味するものは簡単に理解できた。
「たぶん、敵が来てるっ! 梓さんが危ないっ――!」
その声を聞いた柏木千鶴は。
すさまじい勢いで床を蹴ると、彼女は僕と北川を置き去りに施設を飛び出した。
追いついた北川に僕は問い質す。
「敵?」
「ああ、さっきちょっと、色々あったんだ。その時、あのおっさんが」
「おっさん?」
「ああ、多分管理者側の人間だよ。七瀬くんも、もしかしたら何処かで見てるかも知れない」
無口で髭面の、変なおっさんだ。北川は息を切らしながらそう云った。
僕は、一つ息を呑んだ。
- 52 :あなたへの月:01/09/15 10:06 ID:/FMHS8G.
- ガァンッ! と、拳銃の重い音が何度かした。
遅れて施設を飛び出した僕と北川がそこで見たものは。
銃を撃ちながら、鬼のような形相で戦う柏木千鶴。
「殺してやるっ――!」と、そんな呟き声も聞こえる。
そして、その傍らで倒れている柏木梓。
顔面は蒼白で、先程の疲弊しきった様子とはまた違う、何か危ういものをそこに感じざるを得ない。
そして僕の予想通り、髭面の男とは。
鋏を手に持ち、涎を垂れ流し、普段の彼からは信じられないような喚き声をあげながら、
「電波で貴様らを皆殺しにしてくれるっわはははははははははははははははは」
千鶴の放つ弾丸をかわし跳ね回る――自分の叔父、フランク長瀬だった。
その様子で大体の状況は掴めた。まずフランクが柏木千鶴よりも先にここに到着し、
疲弊しきった柏木梓を襲った。そして梓が倒れたところで千鶴が飛び出し、
そのまま戦闘となったのだろう。
止めなければならない。千鶴がフランクを殺してしまう前に。
別に叔父を助けたいと、それ程強く思うわけではない、だが。
叔父が、多分「最後」なのだ。
「叔父さんっ!」
僕は大声で叔父の名前を呼んだ。理性を失った叔父が、自分の声に反応するかどうかは微妙だったが――
「――彰?」
その声で、二人は止まった。
呆然と立ち尽くす千鶴は、思い出したように梓の元に駆け寄る。
「梓っ! 梓、大丈夫っ?」
梓は死んでいるわけではない。
その事に「漸く気付いた」かのようにさえ見えた。
- 53 :あなたへの月:01/09/15 10:07 ID:/FMHS8G.
-
「彰、か?」
先程までの狂ったような様子はその瞬間消え去り。
フランク長瀬は呆然と立ち尽くし、僕の目を見つめた。
「叔父さんっ、何してんだよっ――……」
フランクの目には、俄かに理性が戻ったかのように見えた。
「――何を?」
今まで何をしていたのか、判らなかったような表情。漸くにして、合点がいったかのような貌。
「電波による、復讐だ」
祐介の為の復讐だ。そう、云った。
「意味が判らないよ、叔父さんっ――」
いつになく饒舌な叔父の姿に違和感を覚えながらも、僕は必死に叔父に語りかける。
「ああ、俺は何をやっていたんだろうな、」
復讐をする相手は決まっていたというのに。
叔父はそう云うとあさっての方向に駆け出していってしまうではないか。
「あの少年を殺す為にわざわざあんな事までしたんだったな」
そんな言葉を言い残して。
理性が戻ったかのように見えたけれど、――その実、まだ何も戻っていない。電波とは何だ?
「待って、叔父さんっ――!」
だが、呼び止める声も虚しいだけだった。
僕は結局すぐには叔父を追う事が出来なかった。今はそんな事より、倒れた梓の方が心配だ。
僕と北川は、千鶴と、彼女に抱きかかえられ倒れている梓に目を遣る。
青ざめた顔の千鶴は、がたがたと震えた声で呟く。
「あずさ、あずさっ……」
うっすらと目を開けた柏木梓は、掠れた声で呟く。
「ああ、油断しちまったよ、千鶴姉」
- 54 :あなたへの月:01/09/15 10:07 ID:/FMHS8G.
- 「ああ、油断しちまったよ、千鶴姉」
「喋らないで、梓! 別にそれ程傷は深くない――」
「それは、判ってるんだけど、なんか、体が重いんだ、なんで、だろ」
傷は確かに小さなものだった。それが心臓の真裏にあるという事を除けば。
「この症状はは、――毒?」
毒だとしたら。心臓に近い位置に傷が出来るのは、致命的だ。
同時に、脳にも近い位置だ。毒の回りが早いのも頷ける。
横で北川がごくりと唾を飲む声が聞こえた。
だが次の瞬間には、彼女と同じように青ざめた顔ではあるが、それでも力強く北川は大声で喚いた。
「千鶴さんっ! 施設の中に応急処置用の薬品かなんか、たぶんあるだろっ! 俺ちょっと捜してくるっ」
そしておろおろとした表情の千鶴に叱咤するように、
「あんたは気丈でいろ! 絶対大丈夫だ、すぐに戻るっ!」
そう云った。
そのまま施設内に駆け戻ろうとして――北川は再び振り返る。
「七瀬の彰くん――あのおっさん、追いたいんだろ? 叔父さんなんだろ」
僕が躊躇しながらも頷くと、北川は手に持っていた大型拳銃――デザートイーグルを僕に放ると、
「行けよっ!」
そう言い残して施設の中に駆け戻っていった。
千鶴と梓をもう一度横目で見る。
ごめんなさい、心の中で一度念じる。大丈夫、すぐに戻ります。
――知らなくても良いとは思っていた。
だが、この企画の真相を知り得る最後の人間が自分の叔父だ。
何故こんな苦しい目に遭わされなければならないのか、そして、あの神奈という精神は何なのか。
それが、神奈を倒す為の手掛かりとなりうるのではないか。
僕は一度大きく息を吐くと、叔父さんが駆けていった方向につま先を向け、そして力強く大地を蹴った。
- 55 :あなたへの月:01/09/15 10:09 ID:/FMHS8G.
-
【七瀬彰 ――フランク長瀬を追いかける。武器は北川のデザートイーグル。
北川潤 柏木千鶴 柏木梓 ――毒で倒れた梓を応急処置。北川は施設内に戻り、千鶴は梓の毒を抜いています】
- 56 :名無しさんだよもん:01/09/16 04:47 ID:fQiUvHF.
- age
- 57 :離散、思いがけぬ危機(1):01/09/16 18:22 ID:.5LnJM9o
- モニターに映ったのは。
まさしく鬼の形相で疾走する梓の姿だった。
だが、その姿を捕らえられたのは、ほんの一瞬。固定カメラである以上、
その有効範囲は決して広くはない。彼女はすぐにカメラの有効範囲を通り
過ぎていった。
「……今の場所はどの辺りですか?」
先程までとは全く違う、深く、静かな千鶴の声。
「じゃが、あの嬢ちゃんの様子は尋常じゃない――」
「どの辺りですか?」
念を押すように、もう一度尋ねる。
「……分かった。あの嬢ちゃんのいた場所はな――」
教えなければ、先程とは違い、本当に自分を破壊しかねない。そう判断
したG.N.は、観念して居場所を教えることにした。
「――といった感じじゃよ。ただし、あの嬢ちゃんの爆弾はもうないから、
レーダーによる追跡は無理じゃ。現時点であのカメラからどれだけ離れた
のか見当もつかん。一応他のカメラのチェックは行っておるが、正直期待
できんじゃろ」
「それだけ分かれば十分です」
千鶴は皆に背を向け、部屋の出口へと向かう。
「ち、千鶴さん、どこへ――」
先程千鶴に腹を殴られた北川が、地面に伏しながらも何とか声を絞り出す。
誰もが愚問だと思うだろうが、それでも聞かずにはいられない。
「梓は初音を失ったことで錯乱しています。それを止めて、連れ戻してくる
だけです。すぐに戻りますから」
彼女は平静を保っていた。異常なほどに。
彼女を止められる者は、いなかった。
- 58 :離散、思いがけぬ危機(2):01/09/16 18:25 ID:.5LnJM9o
- 千鶴が部屋を出ていった後は、沈黙がこの場を支配していた。
その沈黙を破ったのは、ここにやって来て以来、何も喋らずにずっと
部屋の隅に座っていた青年だった。七瀬彰と言ったか。彼はほとんど音
もなく立ち上がり、部屋の出口へと向かう。この沈黙があったからこそ、
彼の行動に気付けたと言ってもいい。
「ちょ、ちょっと、あんたまでどこいくの?」
慌てた様子で詠美が尋ねる。
千鶴には、確かに外に出ていくだけの理由がある。妹を殺され錯乱した
梓を止めるという。この青年にもそれに匹敵するだけの理由があるのか?
「彼女の妹を殺したのは、僕なんです」
場が凍り付く。
あらかじめ施設外でその話を聞いていたのは、あゆとスフィーだけ。
他の者にとってはあまりに衝撃的な告白だった。
「だから、僕には行く義務がある」
行けばどうなるか。あの梓の映像を見た者に、それが分からないはず
もない。多分、命の危険なんて彼にはどうでもいいことなのだろう。
だが。
たとえ事情はどうであれ、これ以上人が死ぬかもしれない状況を黙って
容認するわけにはいかない。
「おい、ちょっと待て――」
北川がふらふらになりながらも立ち上がり、彰の肩を掴んだその瞬間。
千鶴に一撃を見舞われたダメージがようやっと回復しつつあった腹部に、
更に強烈な一撃を叩き込まれる。振り返りざまの問答無用の一撃を受け、
北川は再びもんどり打って倒れた。
「……ごめんなさい。でも、無駄死にするつもりはないから」
それだけを言い残し、彼も部屋を出た。
彼を止められる者もまた、いなかった。
- 59 :離散、思いがけぬ危機(3):01/09/16 18:28 ID:.5LnJM9o
- えー、みなさんお元気ですか? 北川潤です。で、お元気ですか?
お元気ですか。そうですか。え? 私? あー、私は多分元気だと思い
ますよ。
……殴られまくってるけどな。
何故にこの紳士の中の紳士、私北川潤がここまでひどい仕打ちを受け
なければならないのでしょうか? 何か悪いことでもしましたか?
しましたか。そうですか。私の存在自体が罪だとおっしゃりますか。
ああ、私は何と罪な男なのでしょう。
「何とかしないと……あの梓って人、きっと、神奈の影響受けてる……」
弱々しいながらも確かな意志を含んだ言葉が、地面にうずくまっていた
北川を現実へと引き戻す。
その声の主は、スフィーだった。彼女は何とか立ち上がろうとしたが、
身体がそれについていかない。
そういえばさっきから気にはなっていたのだが、前に見た時より心なし
か小さくなっているように見える。とりあえずそれはどうでもいい。重要
なのは、その言葉の方だ。
「マジか?」
「少ししか見えなかったし、映像越しだから確証は持てないけど……」
これは窮地だ。外にはまだ、往人達が追っていった少年とやらの集団、
それに寡黙な髭面親父がいるはずだ。加えて梓まであの状態、それが神奈
の影響によるものだとすれば、単独で外に出ていった千鶴や彰の身の危険
は更に高まる。
部屋を見回す。現状で残っているのは、自分を除いて五人。
来栖川芹香、スフィー、月宮あゆ、大庭詠美、椎名繭。はっきり言って、
まだ敵がいるかもしれない外に連れていけるような面々ではなかった。
だとしたら、どうする?
答えは決まっていた。
「スフィー、とりあえずお前じゃ無理だろ。ここで休んでな」
- 60 :離散、思いがけぬ危機(4):01/09/16 18:39 ID:.5LnJM9o
- 「施設の中は安全なんだよな?」
CDは解析中。今自分がこの場にいなければできないことはない。CD
の解析が済み、後は実行できるだけの状態になった時にここにいればいい。
「で、でも――」
何とか動けるようになってすぐに、準備を始めた。銃や刃物などの武装。
応急処置用器具一式。他にも施設内で見つけた使えそうな物を持っていく。
「一応、パスワードは変えておいた方がいい。みんなには俺から知らせて
おくから。いざとなれば内側から自由に開け閉めできるんだろ?」
「うん……」
この場に残す面々の中で最年長と思われる詠美に、諭すように続ける。
「だったら大丈夫だ。千鶴さんと、七瀬の彰くんと、千鶴さんの妹の、
えと、梓さん――か? とにかく、三人を連れてすぐ戻ってくるから。
それまでみんなのことを頼む」
「待って!」
彼の会話に割り込んできたのは、意外な人物だった。
「ボクも連れてって!」
月宮あゆ。
だが、残念ながらその申し出を受ける気にはなれなかった。
「おいおい、外にはまだ敵がいるんだぞ? いくら天下の北川様でも無力
な女の子を守りつつってのは厳しいと思うんだが」
「でも――千鶴さんと梓さんを放ってこのままじっとしてるなんて、ボク
にはできないよ!」
仮に断ったとして。
彼女はきっと、北川が施設を出た後に、一人で外に出て千鶴と梓を捜そう
とする。ここで強く止めても無駄だ。彼女の決意に偽りがあるとは思えない。
どうせ二人とも外へ行くのならば、二人で一緒に行く方がいい。考え方の
違いだ。二人で行けばお互いが自分を、そしてお互いを守れるかもしれない。
「……分かったよ。でも、自分の身は自分で守ること」
「うん!」
- 61 :離散、思いがけぬ危機(5):01/09/16 18:41 ID:.5LnJM9o
- 「じゃあ詠美さん、ここのことは任せたから」
「ふみゅーん……」
不安そうな彼女の声。
それも仕方ない。行動の指針を示すことができるリーダーであった千鶴
がいなくなってしまったのだから。残念ながら、今この場で集団のリーダー
を張れる人間――例えば、少年を追っていった往人、変態女装野郎の耕一、
結局会えず終いだった蝉丸のような――はいない。それは北川自身も含めた
上での話だった。
だからこそ、千鶴達を連れ戻さなければならない。不安が皆を押し潰し、
集団内に不和が生まれる前に。
もうあんな思いはたくさんだ。
(ま、たまにはシリアスにいくのもいーだろ)
彼に向いているとは思えないこの行動が、吉と出るのか凶と出るのか。
だが、今はそんなことはいざ知らず。
彼はあゆと共に外への第一歩を踏み出した。
【柏木千鶴、七瀬彰、北川潤&月宮あゆ、それぞれ施設の外へ】
【大庭詠美、来栖川芹香、椎名繭、スフィーは施設残留】
- 62 :「離散、思いがけぬ危機」作者:01/09/16 18:48 ID:.5LnJM9o
- どうも、「離散、思いがけぬ危機」作者でございます。
とりあえず週末のNG騒動も「冗談のような出来事」「あなたへの月」
のNG決定で終結を見たようなので、カメラによる梓発見後の話を
書かせていただきました。
各レス間の改行は三行でよろしくお願いいたします。
- 63 :三度現れし彼女(1):01/09/16 23:50 ID:c1mxRReg
- 「待って!」
再び北川をひきとめたのは、やはりあゆであった。
後から思いっきり襟を引っ張ったので、北川の顔色が変貌しているが気付いていない。
ずりずりと施設内部に連れ込まれる北川。
「ぐぇ…今度は、なんだっ!?」
「忘れ物だよっ!」
コンピュータールームに舞い戻った二人が最初に出会ったのは、ぐったりと消耗したスフィー。
詠美と芹香は、彼女を医務室へ移そうとしていたようで、扉を開けた詠美が怪訝そうに尋ねる。
「どうしたのよ、北川」
「いや俺じゃなくって、この娘が-----」
そう言って、あゆを指差そうとしたのだが、既に彼女は芹香の下へと移動している。
…侮れない素早さだ、と妙なところで感心する北川であった。
当のあゆは、芹香と何かの相談している。
そして二人同時に手をひらひらさせて、繭に向かい”おいでおいで”をした。
「みゅ?」
いつもの奇声を発して歩く繭が、芹香の膝の上にちょこんと座る。
(このご時世に、なんちゅうほのぼのした光景だ…)
などと努めてシリアスに、半ば呆れていた北川は、次の瞬間予想だにしない展開を経験するはめになった。
「みゅーーーーーーーーーーーーー!!」
繭の絶叫。
「!?」
「何だあ!?」
詠美と北川は顔を見合わせ、頷き合うと同時に繭たちのほうへ駆け寄る。
「何やってんだ!」
間に入ろうとする北川が見たものは、毒々しい色をした-----キノコ。
あゆが、そのキノコを繭に無理矢理食べさせようとしているのだ。
- 64 :三度現れし彼女(2):01/09/16 23:55 ID:c1mxRReg
- 今や繭と取っ組み合い、騒乱のさなかであゆは叫ぶ。
「千鶴さんが言ってたんだよっ!
芹香さんの持ってるキノコを、繭ちゃんに食べさせなきゃいけないって!」
完全に子供の喧嘩状態になっている二人を見ながら、手を出しかねている北川に向かって詠美が命令する。
「よくわかんないけど-----てつだうのよ、したぼくっ!」
…最早、彼女の間違った日本語を、根気強く修正する人物はいない。
「く、くそっ!何で俺が!? それに、したぼくってなんだ!」
疑問に思いつつも、キノコ強制摂取戦に参戦する北川が居るのみだ。
かつて居た彼の親友が、そうしたように。
むぎゅ。
「みゅーーーーーーーーーー! 嫌だよ、おいしくないよ-------!」
むぎゅ。ごくん。
叫び。
そして確かな咀嚼音と続く嚥下音。
最後に訪れる、静寂。
「……」
「…繭、ちゃん?」
「…繭?」
全員が、繭の顔色を窺っている。
対する繭は、背後の芹香のように、完全な無表情を保っていた。
数瞬の間を置いて、繭が目を閉じる。
今までなら、そのまま寝てしまうのだろうと思われたが-----
「…この情況で呼ばれても、困ってしまうわね」
-----そう言ってアンニュイな溜息を吐いたのち、ゆっくりと開いた彼女の目の色は、高度な知性をたたえていた。
- 65 :三度現れし彼女(3):01/09/16 23:57 ID:c1mxRReg
- 二人のキノコ被験者を目にした数少ない被害者である北川は、悪夢を見る思いで呆然としていたが、ようやく我を
取り戻すと、最後に一本残ったキノコをまじまじと見つめて、疑問を口にした。
「…ちなみに、俺が食うと-----どうなるんだ? 食うまで、判らないのか?」
「だ、駄目だよっ!
これは繭ちゃん専用なんだよっ!」
更なる混乱を呼ぶとしか思えない、恐ろしい問いかけを慌てて却下しながら、あゆがキノコをひったくる。
シリアス北川はどこへやら、あゆと同レベルで口喧嘩をはじめた二人を無視して、繭が立ち上がる。
くるりと振り向くと、二人が取り合いをしているキノコを指差し、芹香に尋ねた。
「残りの一本。
頂いても、いいかしら?」
(こくこく)
頷く芹香。
そしてお互いの目の奥にある、他人には受け取られにくい光を見つめて、語りかける。
「……?」
「そうね…色々不明な点もあるけれど、今後多くはあなたに依存することになると思うわ。
あのコンピューターは曲者だけど、融通は利くようだから、利用するだけ利用しないと損よ」
その後繭は、今まで見ていた参加者の動きを-----本人ですら気が付いていなかった詳細まで-----予測を交え
つつも精密に芹香へ伝え、芹香もいくつかの情報を提供し、最後に二人は静かに頷き合った。
「それじゃ、今度こそ…」
「ちょっと待ちなさい」
再び出発しようとした北川を、今度は繭が引き止める。
「あなたのその指で、自動小銃は無理があるわ。
今から行くとなると、他人の援護から戦闘に入る可能性が高いから、こっちになさい」
そう言って武器を詰め替える繭。
「むむ……」
釘を添えて真っ直ぐになった利き手の人差し指を見ながら、北川は不機嫌そうに押し黙った。
- 66 :三度現れし彼女(4):01/09/16 23:58 ID:c1mxRReg
- しかし、思いがけぬ繭の行動は、それだけではない。
自らも鞄を肩にかけると、あゆと並んでさっさと歩き始めたのだ。
「…さ、行くわよ北川」
「……は?」
「利き手の使えないあなたよりも、まだ私たちのほうが当たるはずよ。
あなたに死なれると困るかもしれないし、不満なら、あなたが残ったっていいのよ?」
「そ…そういう問題じゃないだろ!」
足手まといがまた一人、とまでは言わないまでも、心配の種が増えることに北川は不満を漏らす。
しかし一方の繭は、涼しい顔をして答えた。
「…そうね、正直に話す必要はあるかもしれないわね。
あなたは往人さんとやらに”殺す”とまで脅されて、ようやくここに着いたくらいの方向音痴のようだから。
私があなたを導いてあげるしかない、というのが結論なのよ」
「な…何で知ってんだ!?」
「ふふ-----乙女の情報網を、甘く見ない事ね?」
そう言って余裕たっぷりに笑った繭は、今まで長らくそうしていたように、画面の光点を見つめていた。
(近くに、来てる)
飛び出した彰が、正確に千鶴やフランクを追えているのならば。
その位置近辺に、かつて知り合った繭の知人のそれを含む、三つの光点が迫っているようだった。
(もうすぐ-----きっと、もうすぐ-----会えるわね)
そう心に念じた繭の脳裏に。
北川の抗議は、届かなかった。
- 67 :名無したちの挽歌:01/09/17 00:16 ID:9B.9ni7w
- 【北川潤 ステアーTMP所持】
【椎名繭 ステアーTMP所持】
【月宮あゆ イングラムM11、ナイフ二本所持】
※あゆのナイフは…洗ったということで(毒はもういいでしょうw)。
※射程の問題と重さから、エアーウォーターガンカスタムは置いて行きます。
※スフィーも芹香も居るので、実際には北川がCDの起動に必要とは限りません。
…というわけで、「三度現れし彼女」です。
施設組の武器を掘り起こしていたため、このレスを上げるのに時間がかかってしまいましたゴメソ。
- 68 :名無したちの挽歌:01/09/17 00:21 ID:9B.9ni7w
- どうして忘れるかな…
【椎名繭 ステアーTMP所持】を【椎名繭 ステアーTMP セイカクハンテンダケ1個所持】へ
修正してくださいまし。
- 69 :心の行き先(その1):01/09/17 14:19 ID:XgHBZrUk
- 雨でぬかるんだ地面を蹴るように俺は走っていた。
焦る俺の心と裏腹に体は思うように動いてくれない。
それも当然と言えば当然だろう。
この体はまだ傷が癒えていない。
それでも俺は走るのを止めるわけにはいかなかった。
とにかく一刻も早く梓を捜し出さなくてはならない。
そしてマナちゃんの所に戻らなくては。
マナちゃんは強がっていたけど彼女がそう長くはもたないだろうことはすぐに分かった。
病気か、それとも他の何かが原因なのか俺には見当もつかない。
だが、いずれにせよ早く何らかの処置をしなければ助からないだろう。
あの施設の中になら恐らく何らかの医療器具があるに違いない。
そこにマナちゃんを連れていけば何とかなるかもしれない。
今の俺はそのわずかな希望にすがるしかなかった。
くっ。
一瞬周囲の景色がゆがんだ。
恐らく怪我をおして走っているせいだろう。
木に手をかけ、倒れそうな体を支える。
柏木耕一!お前は地上最強の鬼の血を引く者だろう!
俺がしっかりしなきゃ梓もマナちゃんも助けられないぞ!
俺は自分に渇を入れる。
そしてまた俺は走り出した。
- 70 :心の行き先(その2):01/09/17 14:22 ID:XgHBZrUk
-
「さて、それじゃ行きましょうか」
晴香のその言葉に私と観鈴さんは頷いた。
「そうね、観鈴さんも私達と目的地は同じみたいだし。一緒に行きましょ」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ええ。それにしても、あなた随分たくさん武器持ってるわね」
「が、がお………」
観鈴さんが困ったように呟いた。
「それだけあると重いでしょ。私達が少し持ってあげるわ」
「そうね、いい?」
「あ、はい。でも、いくつかは自分で持ちます」
観鈴さんがいくつかの持ち物を手に取った。
私と晴香で残りの武器を手分けして持つと神社を出発することにした。
- 71 :心の行き先(その3):01/09/17 14:23 ID:XgHBZrUk
- 「あ、あの!」
「ん?どうしたの?」
観鈴さんが神社を出てすぐに声を出した。
「誰かがこっちに来てるみたいなんですけど」
「え?」
私達の目の前に出されたレーダーには確かに一つの光点が私達の方に近づいてきているのが見えた。
「………観鈴。アンタそこら辺に隠れてなさい」
「え?でも………」
「そうね、大丈夫よ。まだ敵と決まった訳じゃないんだし」
「そうそう。それにもし敵だったら観鈴が影から撃ってくれればいいんだし」
私と晴香の言葉に頷くと観鈴さんは心配そうな目をしながら近くの木の陰に隠れた。
まるで小動物のような動作だ。
「フフフ」
思わず笑みがこぼれる。
「どうしたのよ?気持ち悪いわね」
「失礼ね。ちょっと知り合いを思いだしただけよ」
- 72 :心の行き先(その4):01/09/17 14:24 ID:XgHBZrUk
- 折原、ゴメンね。繭のこと結局助けられなかったわ。
空を見上げながらそう心の中で呟く。
結局この島に来る前の知り合いの中で生き残っているのは私一人だけだった。
折原の最後の願いだった繭を助けることも出来なかった。
でもきっとあいつのことだから笑いながら「七瀬。お前は頑張ったんだから気にするな」って言ってるわね。
だけど、それじゃあいつの死が報われない。
だから私はせめて最後まで生き残る。
もう、それしかあいつの願いを叶えることは出来ないから。
「七瀬。来るわよ」
晴香の言葉に私は持っていた刀を持ち直した。
ガサッ。
「動かないで!」
晴香が物音のした方に銃を向けながら叫んだ。
「晴香ちゃん?」
聞き覚えのある声と共に草むらから出てきたのは―――。
「変態さん?」
何故か隠れているはずの観鈴さんのつぶやきが聞こえてきた。
- 73 :心の行き先書いた者:01/09/17 14:25 ID:XgHBZrUk
- 【耕一 七瀬・晴香・観鈴達と遭遇】
【耕一 ナイフ・中華キャノン・ニードルガン所持】
【晴香 刀・人物探知機・ワルサーP38・包丁・伸縮式特殊警棒・ベレッタM92F・アサルトライフル(G3A3アサルトライフル)・高槻の手首(?)ひとつ 所持】
【七瀬 毒刀・手榴弾三個・レーザーポインター・瑞佳のリボン・ステアーAUG・ベネリM3・高槻の手首(?)二つ 所持】
【観鈴 アサルトライフル(M4カービン)・人形・デザートイーグル・シグ・ザウェルショート9mm・投げナイフ・反射兵器 所持】
- 74 :心の行く末書いた者:01/09/17 21:24 ID:pPgBbxHY
- 所持品修正です。
【耕一 ナイフ・中華キャノン・ニードルガン所持】
【晴香 刀・人物探知機・ワルサーP38・包丁・伸縮式特殊警棒・ベレッタM92F・アサルトライフル(G3A3アサルトライフル)・高槻の手首(?)ひとつ 所持】
【七瀬 毒刀・手榴弾三個・レーザーポインター・瑞佳のリボン・ステアーAUG・ベネリM3・志保ちゃんレーダー・高槻の手首(?)二つ 所持】
【観鈴 人形・デザートイーグル(弾切れ)・シグ・ザウェルショート9mm・投げナイフ×2・反射兵器 所持】
ご迷惑おかけして申し訳ありません。
- 75 :名無しさんだよもん:01/09/17 22:19 ID:pPgBbxHY
- 再修正です………。
【耕一 防弾チョッキ(アイドルタイプ)・ナイフ・中華キャノン・ニードルガン所持】
こんな大事な物忘れるとは………。
今すぐ逝ってきます。
- 76 :使命感(1):01/09/19 02:01 ID:o.ogW2sQ
- (分からないよ……)
天井を見ながら、思った。
とりあえず彼女――スフィーは激しく衰弱していた。あからさまに衰弱していく自分
のことを心配した詠美と芹香によってこの医務室のベッドに運ばれ、それからどれだけ
の時間が経ったのか見当も付かない。ほんの僅かな時間だったのかも知れないし、大分
長い時間だったのかも知れない。
不調の原因の一端は、誰に言われるまでもなく分かっている。むしろ自分だからこそ
分かる。
魔力の流出。
だが、その流出の度合いは半端ではなかった。かつて自分と健太郎を結んでいた腕輪
があった時よりも、遙かに速いスピードで魔力が失われていた。そのあまりの急激さ故
に、体力までもが失われているのだろう。
魔力が失われる根本的な原因は、結局のところ分からない。
- 77 :使命感(2):01/09/19 02:02 ID:o.ogW2sQ
- だが、それ以上に分からないことがある。
魔力が失われていくのと同時に、その代わりとばかりに自分に流れ込んでくる断片的
な情報。あまりにも断片的な。そして圧倒的な。
着物を着た男女の死体。月。天まで届かんばかりの篝火。翼。岩の牢獄。空。
自分が見たこともない光景だった。
それらが流れ込んでくるたびに、自分を構成する何かの中で最も大切なもののうちの
一つが遠のいていく。
雨月堂で過ごしたあの日々が。
グエンディーナで過ごしたあの日々が。
結花のホットケーキが。
リアンの笑顔が。
健太郎の後ろ姿が。
自分が撃ち殺した少年が残した、最期の言葉が。
(でも、今はのんきに寝てる場合じゃない。あたしがやらなくちゃ――)
――何を?
それでも彼女はベッドを降りる。ふらつきながら、医務室の扉まで辿り着き、その扉
を開ける。何故か魔力の流出は止まっていたが、今の彼女にとってはもう関係のない話
だった。
- 78 :使命感(3):01/09/19 02:07 ID:o.ogW2sQ
- 施設内、コンピュータールーム。
のんびりと茶をすすりながらCDの解析――そして北川達の帰りを待っていた詠美と
芹香は、予想だにしなかった来客に驚いた。
「ちょ、ちょっとだいじょーぶなの!?」
詠美は突然コンピュータールームに戻ってきたスフィーに駆け寄ろうとして――でき
なかった。
焦燥。
悲壮。
使命。
そういったものが、彼女に何人たりとも立ち寄らせまいとしていた。
憔悴しきった顔色のまま、彼女はふらふらと歩き、腰をかがめ――何かを手にした。
それを少し弄ったかと思うと、再び立ち上がる。
彼女が手にしていたのは、北川達が置いていったM4カービンだった。今のスフィー
の小さな身体――しかもすっかり衰弱していた――にとってはそれなりに重いはずなの
だが。
銃口は詠美と芹香、そしてマザーコンピューターのメインモニターの方に向けられて
いる。
当然の如く。
そこに迷いはない。
安全装置は外されていた。
- 79 :使命感(4):01/09/19 02:10 ID:o.ogW2sQ
- 「お、おい、お嬢ちゃん、何やっとるん――」
その状況になって、最初に声を発したのはG.N.だったが。
たたた――と軽い音がしたのと同時、マザーコンピューターのメインモニターが吹き
飛んだ。
「きゃあっ! なによなんなのよもー!」
破片が詠美や芹香の頭上に降ってくる。詠美は思わず頭を抱えて身を屈める。湯飲み
茶碗も床に落ちて砕ける。
「…………」
帽子の上にモニターの破片が降ってきてもなお、芹香の無表情さは変わらなかった。
だが、見る者が見れば分かっただろう。スフィーを見つめる彼女の瞳は悲しさに満ちて
いた。聡明な彼女には分かってしまったのだ。スフィーに何があったのかを。
そして、狙いの定まらないスフィーの銃口は自分に向けられようとしていたのだと。
決して聡明だとは言えない詠美も、銃口が自分に向けられていないことには気付けて
いた。
じゃあ誰を狙ってるの?
そこまで到達できれば後は簡単だった。他には芹香しかいない。
- 80 :使命感(5):01/09/19 02:12 ID:o.ogW2sQ
- M4カービンから三発の弾が射出される。その反動は今のスフィーに支えきれるもの
ではなかった。大きく体勢を崩し、後方に転倒する。
それでも、芹香や詠美が体勢を立て直す前には再び起きあがっていた。室内ではある
が、それなりに距離もある。少なくとも、飛び込んでスフィーを取り押さえるには至ら
ない。死ぬ気で飛び込んでくれば話は別だが、それでも大方無駄死にで終わるだろう。
標的が近ければ近いほど、弾は当たりやすくなるのだから。
もちろん銃口は前に向ける。
(……あたしがやらなくちゃ……)
もはや使命感だけが彼女を突き動かしていた。それを達成しなければならないという
焦燥感と、何としても成し遂げねばならないという悲壮感と。
(……あたしがやらなくちゃ……)
――何を?
だが、その問いに答えてくれる者は誰もいない。彼女自身も含めて。
- 81 :使命感(6):01/09/19 02:15 ID:o.ogW2sQ
- 詠美は思い出していた。
『早う逃げるで! 同人女は夏こみまでは死ねんのや!』
『えーい! 女々しいわ! いつまでもグズっとらんと、しゃんとしい!』
『スマン……詠美っ!!』
おろおろすることしかできなかった自分の手を引いてくれた、由宇のことを。
『ああ。頼りされたいし、頼りにしてる』
『待てっ! 詠美!!』
『……愛してる……』
壊れかけた自分の心を現実に繋ぎ止めてくれた、和樹のことを。
『……下僕じゃねぇかよ!! このアマふざけやがって!!』
『けっ……おめぇなら、大丈夫だ……戦え』
『笑って――笑って、バカやってろ。そうじゃねぇ、と、おめぇらしく――』
逃げることしかできなかった自分に戦うことを教えてくれた、御堂のことを。
自分の浅はかな行動のせいで和樹と共に命を落とした、楓のことを。
自分の眉間を貫くはずだった弾丸をその身を以て防いだ、ポテトのことを。
今まで出会ってきた、全ての人達のことを。
たたた――
あまりに無情な、無感動なその音が、再び部屋に響き渡った。
- 82 :使命感(7):01/09/19 02:17 ID:o.ogW2sQ
- 【G.N.、メインモニター全壊。他は無事だが緊急停止中】
【スフィー、魔力を奪われ神奈の影響を受け始める?】
【大庭詠美&来栖川芹香、その運命や如何に……?】
- 83 :「使命感」作者:01/09/19 02:33 ID:o.ogW2sQ
- どうも、「使命感」作者でございます。
各レス間の改行ですが、(1)(3)の後は一行、(2)(4)(5)(6)の後は三行で
お願いいたします。お手数お掛けいたします。
- 84 :名無しさんだよもん:01/09/19 04:15 ID:Yv6A6M4Q
- >作者さん
「雨月堂」ではなく「五月雨堂」だったはずだと思われ。
訂正をば。
- 85 :名無したちの挽歌:01/09/19 07:57 ID:M7KIrFWU
- >>67-68の持ち物設定に、修正を入れてくださいまし。
【北川潤 ステアーTMP、応急処置セット、ナイフ1本、硫酸タンク所持】
【椎名繭 ステアーTMP、セイカクハンテンダケ1本所持】
【月宮あゆ イングラムM11、ナイフ1本所持】
北川の硫酸タンクはエアーウォーターガンカスタムのものです。
- 86 :名無したちの挽歌:01/09/19 08:01 ID:M7KIrFWU
- UPするなり芋蔓式に思い出すのはなんなんでしょうかねw
>>85
せっかくですので、もう一つお願い致します。
【月宮あゆ イングラムM11、ナイフ1本所持】を
【月宮あゆ イングラムM11、種、ナイフ1本所持】にしてくださいませ。
- 87 :「使命感」作者:01/09/19 08:27 ID:J8FxqCoM
- >>84
はうあ、申し訳ございません、、、ご指摘ありがとうございます。
ということで、>>77 使命感(2)の「雨月堂」は「五月雨堂」に修正を
お願いいたします。いやはや、お手数お掛けして申し訳ございません。
- 88 :結末1:01/09/19 22:54 ID:jbeC4wMY
- ……マルチです。
この部屋は、静かになりました。
先程までの騒音と悲鳴と、怒声とが、嘘のように静まり返ってます。
まるで時が止まったみたいに思えます。
何が起こったのか、即座には判断できませんでした。
今も、出来ていません。
目の前に立ち込める硝煙と、血の赤。
あまりのことに、私の中のブレーカーが落ちることさえありませんでした。
生まれて、初めて目にしたその光景は、あまりに凄惨で、信じ難いものでした。
舞い降りる茶碗や機片の残骸。
「きゃあっ! なによなんなのよもー!」
砕け、紫電を起こすメインモニターだったもの。
「…………」
爆風というには、あまりにささやかな風が揺るがした三角帽子。
その向こうに見えた双眸は、悲しくも、しっかりと前を見据えている。
その視線の先に、疲弊しきった表情のスフィーが銃を構えている。
未だ、銃口の先を微妙に彷徨わせながら。
- 89 :結末2:01/09/19 22:55 ID:jbeC4wMY
- カシャン!
降り注ぎ、地面に転がる残骸の音は、最後に陶器の欠片が地面に跳ねた所で止んだ。
後に響くのは、モニターだったものが巻き起こす小さなスパークと、かすかな吐息。
詠美が再び態勢を立て直した時、すでにスフィーの手にした銃が再度、火を吹いた。
「………っ!」
芹香の小さなその悲鳴がかき消される。
ガシャガシャン!
原型を留めていないモニターを再び弾丸が抉り、辺りに破片を撒き散らす。
今度は、赤い血飛沫と共に。
「あんたっ!」
既に、詠美の手には銃が握られていた。
自らが、御堂がポチと呼んだ、その銃をスフィーに向ける。
スフィーも腰を落として撃った為か、今度はそこまで体は流れなかった。
赤く染まった芹香が後方へと崩れ落ちるのと、スフィーが詠美に銃口を向けるのはほとんど同時だった。
「なにしてんのよっ!」
真中に置かれている机へと沈むようにしながら、そうしながら詠美からも銃声が放たれる。
そして、スフィーからも。
双方共に、外れる。
一つは天井へ、一つは、詠美のいた空間を飛び、壁をえぐった。
- 90 :結末3:01/09/19 22:56 ID:jbeC4wMY
- (何かを、しなくちゃならないんだ……)
スフィーの心が、その衝動を駆り立てる。
「はうっ……!」
ただ、呆然と立っていたHMを突き飛ばすようにしながら、もう一度二の足で立つ。
足りない魔力を、体力を、気力で振り絞って、銃を撃った。
もはや何かしらの破片しか残されていない机を。
銃痕でボロボロになった壁を。
真新しい血が滴り流れる床を。
幾つかの弾丸が踊った。
(終わらせるんだ)
目の前の惨劇が、そうすることが終わりへの道と信じて。
正しくは、それが信じた道と強く念じて。
「………ぅぅぅ〜〜!!」
気付かない内に、スフィーの瞳から涙が零れ落ちていた。
正しく認識はできなかったけど、それはスフィーが無意識に流した悲しみの涙だった。
- 91 :結末4:01/09/19 22:57 ID:jbeC4wMY
- 机の陰から、詠美が再度、両腕で銃を持って。
『もっと…腰を…落とせ…腕はこう…』
今は亡き、御堂の声を聞いたような気がした。
かつて、人を撃ったときのように、
御堂に、支えられるかのように。
どうして撃たなくちゃならなくなったんだろうと思いながら。
そう思う。
和樹も、由宇も、御堂も、そして、すべての死んでいった人達にそう思う。
どうして死ななきゃならなかったんだろう、どうして殺したんだろう、殺されたんだろう、と。
スフィーと、銃の握られた自分の手を見ながら。
(こんなこと、かんがえたことなかったけど、すごく、悲しいよ。悲しいね、和樹)
下唇を噛み締めて、スフィーへと狙いを定める。
『狙うのは眉間だ…俺が撃て…と言ったら…撃て』
もう一度、御堂の声が頭に蘇る。
(撃って、それから、どこに行くんだろう)
この島での狂気の行く先を。
スフィーの瞳と、詠美の銃口とが、かちあった。
『撃てっ――!』
最後に、御堂の声がそう聞こえた気がした。
- 92 :結末5:01/09/19 22:58 ID:jbeC4wMY
- 詠美の指に力がこもった。
だけど、弾丸が発射されることはなかった。
なかったのに、銃声は再度響いて。
三度、地面に尻餅をつく。
「……ぁ」
じわりと、滲む景色。それは鮮やかなほど紅く。
そのまま、ドウッっと、後方に沈んだ。
(けんたろ、結花、なつみちゃん、みどりさん、……リアン。終わらせるから)
魔力がなくなって、霧散してしまわない内に。
だけど、終わらせて、それで。
(私は、どこに行くんだろう)
何かに導かれるかのように、その部屋を後にする。
彼女の双眸からこぼれた涙の雫が、一滴だけ血の池に跳ねて波紋を作った。
- 93 :結末6:01/09/19 22:59 ID:jbeC4wMY
- 「…………」
よろよろと、芹香が詠美の元へと這いよる。
「…な、なにが、あったのかな…?」
詠美の掠れた声に、芹香が短く思案して、かすかに首を振る。
「…撃てなかった…だって、スフィー泣いてたから、悲しかったから。
撃てば、良かったのかもしれないけど、やっぱり、撃てなかったよ」
苦しそうに声を吐き出す詠美の頭を、ゆっくりと芹香が撫でる。
その手もまた、苦しそうに震えていた。
「泣いてたから、それ見ちゃったから、
撃って、先を見る未来は……
撃たれて先のない未来よりも、後悔するって、思ったから…」
ばかやろー、と、御堂の声が聞こえた気がした。
「今行くね、和樹、由宇…したぼく…よてい…早まっちゃったね」
ふるふる、と芹香が首を横に振る。
「――――ごめん――」
芹香の腕の中で、ゆっくりと息を吐いて、そして力が抜けた。
- 94 :結末7:01/09/19 23:00 ID:jbeC4wMY
- 「詠美さんっ、芹香お嬢様…」
HMは何も出来ないままに。
それでも、何もしないよりはと芹香に近付く。
「……」
「えっ?そんな…そんなこと、言わないで下さい!」
「……」
芹香の口が、『後はお願いします』とはっきりと動いた。
帽子が血溜まりの上にぱさりと落ち、美しい黒髪がHMの腕を撫でた。
こんな島でも、その黒髪だけは変わらず綺麗だったから。
「そんなこと言わないでくださいよ〜!」
だから、目の前がなおさら信じられなくて、泣いた。
機械でも、泣いた。
「……」
必ず、道はあるから、と呟いて、詠美に重なるように倒れた。
「芹香お嬢様っ!」
「綾香ちゃん…浩之さん――」
最期に、はっきりとそう言った。
- 95 :結末8:01/09/19 23:01 ID:jbeC4wMY
- (※4行開け)
……マルチです。
この部屋は、静かになりました。
先程までの騒音と悲鳴と、怒声とが、嘘のように静まり返ってます。
まるで時が止まったみたいに思えます。
私は機械です。だから、年を取ることもありません。
壊れることはあっても、死ぬことはありません。
直せばまた動けるんですから。
だから、死ぬことの悲しさが分からないです。
だけど、さっきまで一緒に楽しくお喋りした詠美さんや芹香さんが…
ただ静かに眠ってそして、もう目が覚めないのを見て。
人が死ぬってことがなんとなく分かったような気がします。
今はただ、悲しいです。
【011 大庭詠美 037 来栖川芹香 死亡】
【050 スフィー M4カービン所持 部屋の外へ】
【G.N 緊急維持モードの為、機械の中側へ強制移動 メインモニター全壊 CPUは無事】
【残り12人】
- 96 :結末作者:01/09/19 23:03 ID:jbeC4wMY
- 最後のレス以外は2行開けでお願いします。
お手数かけて申し訳ないです。
- 97 :狼煙(1):01/09/20 03:14 ID:JowlgrPM
- 現れたのは女装の包帯男、柏木耕一。
アタシの記憶にある姿よりも、遥かに包帯だらけで血塗れだ。
隣で呆然としていた七瀬が、ようやく口を開く。
「耕一さん…なんだか、どんどん酷くなってない?」
そう言った後も、ぽかんと口を開けたままだ。
アタシよりも先に、耕一さんに出会っている七瀬にとって、その変化は口の塞がらないほど酷いらしい。
…無理もない。
漫画のように、身体のほとんどを包帯で覆われており、しかも滲む血のせいで白い部分がほとんどないのだから。
「ははは…面目ない」
乾いた声で、耕一さんは心底申し訳なさそうに笑う。
だが、次の瞬間には真顔に戻って情況を説明しはじめた。
「もう聞いたと思うけれど…初音ちゃんが……死んだんだ。
それで梓が暴走しちゃって…離れ離れになっている」
それについては、言葉もない。
一足先に出発したアタシたちは、頷くことしかできなかった。
だが耕一さんの本論は、過ぎた事実に絞られてはいない。
「その上さっき、マナちゃんが倒れたんだ。
疲労のせいだと思ったし、マナちゃんも梓を追えって言うから気配を追って来たんだけど…いま思えば、二人して髭面
の親父にハサミで斬られた後の話なんだ。 そのときに毒か何かで冒されたのかもしれない」
冷静に分析して見せた耕一さんの、唯一残った欠陥部分を七瀬が問い質した。
「ちょ-----ちょっと待って? 耕一さんは、大丈夫なの?」
「ああ? うん、今のところ大丈夫みたいだな。 俺にはあまり、効いてなかったんだと思う。
走っていてようやく解った程度で、少し熱っぽくて眩暈がするぐらいで済んでいる」
熱っぽいのは、この島に来てからずっとな気もするけどね、と付け加える余裕もあるようだ。
- 98 :狼煙(2):01/09/20 03:16 ID:JowlgrPM
- 「それで俺の身体の事はともかく、マナちゃんは参ってるから、相当やばい。
それに梓も探さなくちゃならないんだ。
梓には-----会ってないよな?
それじゃ毒を治療できるような、そういう物がありそうな場所に、心当たりは無いかい?」
アタシは七瀬と、顔を見合わせる。
目的のものがありそうな場所、すなわち保健室は、小学校自体の危険性から近付けないからだ。
思わず二人して、難しい顔になってしまっていた。
「あの…・これから行くところ、病院みたいのは…無いのかな?」
いつの間にか這い出していた、観鈴がぽつりと呟くように言った。
「…これからって?
そう言えば、どこへ行く気だったんだい?」
知らない人物の出現に戸惑いつつも、耕一さんは疑問を口にした。
七瀬が全てを言ってしまう前に、軽くお互いを紹介させて、アタシが情報を絞ることにした。
…潜水艇のことは、下手に言いふらさないほうが良いような気がしたから。
「ほら、みんなでロボットと戦ったじゃない?
あの施設を、今は占拠してるらしいのよ」
そこでいったん言葉を切って、七瀬のほうを見る。
あまり賛意は示していなかったけれど、意味は通じたらしく、七瀬は軽く頷いた。
アタシも軽く頷き返して、更に続けようと…したんだけれど。
「そこで、”これからの事”を皆で相談しようと思って-----」
「そうか、やっぱりあの施設に行くしかない-----」
「どうしたのよ晴香?
それに耕一さんまで-----」
「は、晴香さん、これって-----」
- 99 :狼煙(3):01/09/20 03:18 ID:JowlgrPM
-
”それ”を見るなり、アタシと七瀬は、思わす走り出していた。
観鈴と耕一さんも、ついて来ている。
(芹香さんと北川は…どうなった!?)
この島に来て、何度となく感じたもの。
…嫌な、予感がした。
すっかり気分を害した北川と、使命感に燃えていつになく静かな月宮さん。
かなりの凸凹コンビを連れて、私は岩場を抜けた。
よくもこれだけの間、文句を言い続けられると感心するほど、北川の不平不満は垂れ流されたままになっている。
何度か言い負かしてやったものの、根本的解決法は北川の命を絶つか、声帯を潰すしかないと結論して、無視を
決め込むことにして久しい。
むしろ私は、前方へ意識のほとんどを注いでいた。
施設で得た情報だけが、確実なものだったのだから、あとは自分の目と耳が頼りにならざるを得ない。
だから、北川の相手をしている暇など無い。
そうして神経を針のように尖らせ、前進する私の耳に、不穏な音が飛び込んできた。
駆けて来る足音。 それも、多数だ。
(月宮さん、それに北川! 静かに、伏せなさい)
北川が、この期に及んで文句を垂れる。
(なんだってんだよ、さっきから! またどうせ風の音かなんか…ん?違うな?)
(でしょう?)
しかし、さすがに異変を感じ取ったようで黙り込む。
三人して、静かに伏せた。
そのとき僅かに見えた、その影は-----
- 100 :狼煙(4):01/09/20 03:20 ID:JowlgrPM
-
「な-----七瀬さんっ!?」
「誰!? ------って、あんた繭!?」
私は(あまりに私らしくないけれど、極めて即座に、そして無防備に)立ち上がった。
転がり込むように、七瀬さんが飛びついてきた。
細かい形容は必要ない。
ただ、嬉しい。
”今までの私”と同じ気持ちが共有できている。
北川と月宮さんが、唖然としているのを無視して、七瀬さんにしがみついた。
「七瀬さんっ!」
「繭!!」
七瀬さん…今はまだ、気付いていないようだけど。
きっと私の変化に驚くだろうな、と期待を膨らませていた。
髪の毛、どうしたの?
引っ張れなくて、寂しいよ。
でも、生きててくれて嬉しいよ、なんて事を考えながら。
しかし、喜びの時は一瞬でしかなかった。
喜びを言葉にする前に、邪魔が入ってしまったのだ。
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