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あれぞクラナド

1 :ひふみさん:01/11/13 10:06 ID:+GCHMdva
昨日のスーパーテレビ見たか?

2 :名無しさんだよもん:01/11/13 10:07 ID:IqUqI6rz
2

3 :1:01/11/13 10:13 ID:+GCHMdva
http://www.ntv.co.jp/supertv/html/index.html
本当は実際の放送を見て欲しいんだけどな。

4 :名無しさんだよもん:01/11/13 10:20 ID:CZmQd2oQ

 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
 |  駄スレ認定     |
 |_________|
    ∧∧ ||
    ( ゚д゚)||
    / づΦ

5 ::01/11/13 10:27 ID:+GCHMdva
まあお約束ね

6 :名無しさんだよもん:01/11/20 00:03 ID:DesAldzB
sage

7 :名無しさんだよもん:01/11/29 00:29 ID:JRh5NEOu
再利用予定地。詳しくはスレ立て相談スレを見て下さい。

8 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:05 ID:LJxOrHNA
>>7
わざわざありがとうございます。
お気遣い、確かに受け取りました。
新しい話は>>58くらいからになると思います。

さて…

9 :再開:01/11/29 19:07 ID:LJxOrHNA
朋也「いやぁ、寂れたスレだな」
朋也「さてお次は俺たちの物語で大いに楽しんでくれ」
陽平「いやっほーぅ! 岡崎最高ー!」
早苗「あら、私、惚れちゃいそう、うふ♪」
秋生「早苗!?」

…そんなこんなで、偽クラナド再開です。

10 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:08 ID:LJxOrHNA
 校門まで残り200メートル。
 そこで立ち尽くす。

「はぁ」

 ため息と共に空を仰ぐ。
 その先に校門はあった。
 誰が好んで、あんな場所に校門を据えたのか。
 長い坂道が、悪夢のように延びていた。

「はぁ…」

 別のため息。俺のよりかは小さく、短かかった。
 隣を見てみる。

 そこに同じように立ち尽くす女の子がいた。
 同じ三年生。けど、見慣れない顔だった。
 短い髪が、肩のすぐ上で風にそよいでいる。

「この学校は、好きですか」
「え…?」
 いや、俺に訊いているのではなかった。

11 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:09 ID:LJxOrHNA
「わたしはとってもとっても好きです。
 でも、なにもかも…変わらずにはいられないです。
 楽しいこととか、うれしいこととか、ぜんぶ。
 …ぜんぶ、変わらずにはいられないです」

 たどたどしく、ひとり言を続ける。

「それでも、この場所が好きでいられますか」
「わたしは…」

「見つければいいだけだろ」

12 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:10 ID:LJxOrHNA
「えっ…?」
 驚いて、俺の顔を見る。

「次の楽しいこととか、うれしいことを見つければいいだけだろ。
 あんたの楽しいことや、うれしいことはひとつだけなのか? 違うだろ」

 そう。
 何も知らなかった無垢な頃。
 誰にでもある。

「ほら、いこうぜ」

 俺たちは登り始める。
 長い、長い坂道を。

13 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:11 ID:LJxOrHNA
そして。
俺たちは並んで校門をくぐった。
あれから一度も言葉を交わすことはなかった。
考えてみれば当たり前だ。今日、初めて会ったばかりなのだから。
階段を上りきり、三階についたとき、女の子がやっと口を開いた。

「あ、あの…わたしの教室、こっちですから」

「え?あ、ああ…」

俺が覚えていないだけで、実は二人はクラスメイトだった――なんてこともなかった。
どうやら俺は、クラスメイトの顔もわからないほど薄情な奴ではないらしい。

俺は、心のどこかで期待していた自分に気付いて、驚いた。
結局そのまま、俺たちは別れた。

14 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:12 ID:LJxOrHNA
浮かない気分のまま、教室の引き戸を開ける。
それまで会話に忙しかったクラスメイトたちが、
俺の姿を認めるなり声のボリュームを落とす。

…相変わらず、嫌われてるな。
俺は黙って、机に鞄を下ろす。

「よう、朋也」

このクラスで、俺に話しかけてくる奴は一人しかいない。
顔を向けると、そこにはやはり俺の悪友、春原陽平がいた。

「珍しいな、お前が定時に登校するとは」
「ほっとけ」
軽口を叩き合う。

「ところで…あの子は誰なんだ?」
にやにやと笑いながら、唐突に陽平が訊いてきた。

15 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:12 ID:LJxOrHNA
「…あの子?」
「とぼけんなよ、さっきお前と並んで登校してた女の子だよ。
 あの子は誰なんだ?つーか、お前のなんなんだ?」

…見られてたのか。

「…別に。知らない奴だよ」
「隠さなくてもいいだろ。見ず知らずの二人が仲良く並んで歩くか?」
「たまたま足並みがそろったんだろ」
「ふん?」
まったく信じていない様子で、陽平が鼻を鳴らす。

「…ま、いいさ。お前にも言いたくないことがあるだろうしな」
「だから、そんなんじゃないって」
「はいはい。そういうことにしときましょ」
「だから…」

そこでチャイムが鳴ってしまったため、とうとう陽平の誤解をとくことはできなかった。

16 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:13 ID:LJxOrHNA
「…おい、朋也、朋也」
「…う」
誰かに肩をゆすられて、俺は夢の世界を辞した。

「もう昼休みだぜ」
「…そうか」
やはりと言うか、俺を起こしたのは陽平だった。
どうやら俺は午前中の授業の間ずっと寝ていたらしい。

「しかし、ホントよく寝てたな。やっぱ今日は遅刻しなかった分よけいに眠いのか?」
「…ああ、そうかもな」
寝起きの気だるさで、言い返すのも面倒だった。

17 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:14 ID:LJxOrHNA
「あ…購買」
肝心なことを思い出し、俺は立ち上がった。
弁当なんて結構なものは持ってきていない。この高校には食堂はない。
よって、昼飯は戦場…もとい購買で勝ち取らなくてはならない。

「…多分、もう無理だと思うぜ」
陽平が哀れむように俺を見る。
その言葉に俺は時計を見る。

…昼休みが始まってから、10分あまりが経過していた。

「…なんで、昼休みが始まってすぐ起こしてくれなかったんだよ」
「はあ?そんなことしてたら出遅れるだろ」
そう言う陽平の手には、人気商品のカツサンド×2がしっかりと握られていた。

「お前は俺よりもカツサンドの方が大切なのか」
「解りきったことをいちいち訊くな」
「理由は」
「カツサンドはおいしく食えるが、お前は煮ても焼いても食えん」

…なるほど。

18 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:15 ID:LJxOrHNA
「…はぁ」
陽平の言う通り、今から購買に行っても草の一本も生えていないだろう。
若者の食欲はすさまじいのだ。

「…なんなら、一つ売ってやろうか?」
さすがに気の毒になったのか、陽平がそんなことを言う。
だが、俺はすでに諦めていた。力無く手を振り、遠慮の意を示す。
一食抜いたくらいで死にはしない。別に構わない。
そう、どうでもいいのだ。

俺という人間は、一事が万事この調子だった。
どっちでもいい。どうだっていい。なるように、なるさ。
あらゆる物事に、そんな投げ遣りな姿勢で向かうようになったのは、いつからだったろうか。

今朝、見知らぬ女の子に告げた、自分の言葉を思い出す。
『見つければいいだけだろ』
…よく、あんな台詞が吐けたもんだ。
俺こそが何も見つけられないでいるというのに――

ぐきゅるるる。

とりとめのない思考は、俺自身の腹の音で断ち切られた。

19 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:16 ID:LJxOrHNA
やはり胃袋が空っぽのままではまずい。
かといって、今さら購買へ向かう気にもなれない。
しばらく悩んで、俺は冷水器のある中庭に向かった。
水で少しでも腹をふくらませようというアイデアだ。
…日本史の授業中に聞き流したはずの「水飲み百姓」という単語が頭をよぎった。
…あまり深く考えまい。

「ごくごくごくごく」
わざとらしく喉を鳴らして水を飲む。
…冷たい。
いや、『冷水器』なのだから、看板に偽りはないんだが。
このまま飲み続ければ、間違いなく腹を壊す。

「…うー」

逡巡していると、近くから唸り声が聞こえた。
野犬でもいるのか?
それともまさか、絶滅したはずのニホンオオカミ?
俺は大いに期待しながら、声の出どころを探した。

…そこに。
あの女の子が、ちょこんと座っていた。

20 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:17 ID:LJxOrHNA
…驚いた。
今朝、奇妙な出会いかたをした女の子。
その子がまた俺の前にいる。
しかも、ちょっと涙目で。

「うー…こんなに食べられないよぉ…」
女の子はうつむいたまま、何かつぶやいている。
下を向いているせいか、俺には気付いていないようだった。
…普通、これだけ近付いたら、気配とかでわかると思うんだが。
朝のことといい、どうもかなりカンの鈍い子らしかった。

俺は女の子の目線をたどってみる。
その膝の上に、大量のパンが積まれていた。
…10袋近くある。

「…意外によく食うんだな」
「ひゃっ!?」

身をすくませて、ぶんっ、と音がしそうな勢いで顔を上げる。
その余波を受けて、パンの山が地面に散乱する。

「あ、あ、あ…」
パニック状態におちいる女の子。
…もしかして、俺のせいか?

21 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:17 ID:LJxOrHNA
とりあえず、俺はいそいそとパンを拾った。
幸い、どれも開封されていなかったので、問題なく食えるだろう。
抱えたパンを元の場所――女の子の膝の上に戻す。
パン山脈が復活する頃、女の子もようやく平静を取り戻したようだった。

「あ、あの…」
「悪かった。おどかすつもりはなかったんだ」
「…あ。今朝の…」
「ああ、今朝の、だ」
「えっと…どうして?」
なんとも舌ったらずな会話だった。

「あんたこそ、どうしてこんな所にいるんだ?」
女の子が腰掛けているのは、日当たりのいいベンチなんかじゃなく、ただの段差。
冷水器のそばのこの場所は、建物の陰になって、光が射さない。
夏の暑いさかりには人も寄ってくるが、他の季節にはお世辞にもいい場所とは言えない。
少なくとも女の子が昼食をとるような場所ではない。

「えっと…」
女の子は言葉に詰まる。
…何、詮索してんだよ、俺は。

「いや、やっぱり言わなくていい。俺は消えるから、心おきなくパンを食ってくれ」
そう告げて、何か言いたげにしている女の子を残し、俺は踵を返した。
そのとき。

22 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:18 ID:LJxOrHNA
…ぐきゅるるる。
…げぷ。

まったく正反対の、しかし同じくらい間抜けな音が、同時に響いた。
それは俺の空腹の証と…女の子の、満腹の証…

「……」
「……」

恥ずかしいやら、気まずいやら。
えらく複雑な表情をしたまま、見つめ合う二人。
…次に口を開くのも、同時だった。

「もしかして、おなか空いてるんですか?」
「もしかして、もう腹いっぱいなのか?」

23 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:19 ID:LJxOrHNA
俺の手で左右に引っ張られ、パンの袋が破ける。
女の子がそれを見て、わぁ、と歓声をあげた。

「…どうかしたか?」
「すごいですね」
「何が?」
「わたし、その袋の開け方、できないんですよ」
「…マジか?」
こんなの、誰だってできるぞ。
そんなに非力なのか、それとも不器用なのか。

「いつも、中身が飛び出しちゃうんです」
どうやら後者のようだった。

「はあ…。あのな、こんなの誰でもできることだぞ」
「あ…でも、わたしのお母さんもできませんよ」
「…マジか?」
そんな調子で、ちゃんと家事をこなせるのだろうか。

24 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:20 ID:LJxOrHNA
「…しかし、食いきれないならこんなに沢山持ってくるなよ」
もぐもぐと口を動かしながら言う。

「お父さんが、育ちざかりなんだからしっかり食え、って…」
そ、育ちざかり?
…この子は18歳のはずだが。
俺は女の子を上から下まで見つめてみる。

「…な、なんですか?」
「…まあ確かに、成長の余地は十二分にあるな」
年齢の割に、少し…いや、かなり幼く見える。
顔だけ見れば、俺と同い年とは思えない。
俺の妹と言っても通用しそうだ。

「…うー」
どうやら気にしているらしく、女の子は眉をしかめる。
非難めいた視線で俺をにらむ。唸る。
敬語で固められた落ち着いた口調からはかけ離れた、子供じみた感情表現。
…やっぱり、十二分にあるぞ。
俺は少し笑いそうになった。

25 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:20 ID:LJxOrHNA
「…しかし」
「はい?」
「なかなか美味いな、これ」
俺は別に、味にうるさい方ではない。むしろだいぶ悪食だと思う。
だから、食い物の味についてあれこれ言うことはあまりない。
しかし、この女の子から恵んでもらったパンは、どれもこれもいい味だった。
素直にそう思えた。

「そうですか!?」
急に目をキラキラと輝かせて、女の子が叫ぶ。
俺はその勢いにちょっと気圧されてしまう。

「あ、ああ。まあ俺はそんなにパンに詳しいわけじゃないけど、
 このパンは美味いと思うぞ」
「そうですかっ!?そうですよねっ!!」
ますますテンションの上がる女の子。
…なんで、そんなに喜ぶんだ?

「ありがとうございますっ」
腰をまっすぐ折って、深々とおじぎをする。

「え、あ、いや」
むしろこの状況、お礼を言うべきなのは俺の方で。
と言うか、なんでこんなに感謝されてるんだ?
今度は俺がパニックにおちいる番だった。

26 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:22 ID:LJxOrHNA
にこにこ。
…はぐはぐ。
にこにこ。
……はぐはぐ。
にこにこ。
………はぐはぐ。

(く、食いづらい…)
あれから、ずっとこの調子だった。
俺が頼むと、女の子はすぐに頭を上げてくれた。それはいいのだが。
それからというもの、ずっと俺に満面の笑顔を向けてくるのだ。
パンはまだ半分くらい残っている。
美味いのは確かだし、量が多いのも多少無理をすればなんとかなる。
だが、完食するまでのあいだ、ずっと笑顔でこっちを見るのは…勘弁してほしい。
ふと目が合う。

(おいしいですか?)
…それだけで、女の子の言いたいことが解ってしまう。
たった一日でアイコンタクトが修得できるということを、俺は初めて知った。

さっきまで、この子はどこか怯えているような、気後れしているような…そんな印象があった。
でも、今は。屈託のない笑みを、俺に向けている。
俺が食っているパンは、この子にとって、そんなに大切なものなんだろうか?

…俺は、こんなに躊躇のない笑顔を見ているのは、苦手だ。

27 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:22 ID:LJxOrHNA
結局、大量のパンを食い尽くすのに昼休みいっぱいを費やした。
二桁近い数のパンを食うと、さすがに胸焼けがした。
それでもあのパンは美味かった。…と、思う。

「ありがとうございましたっ」
朝と同じ廊下での別れ際、女の子がまた丁重なおじぎをした。
その姿勢のまま、なかなか頭を上げようとしない。

「礼はいらない。俺も助かったしな。
 …ほら、早く教室戻らないと、授業はじまるぞ」
「はいっ」
元気よく上体を起こして、くるっと身をひるがえす。
勢いに任せて、ぱたぱたと駆けてゆく。

「…あれ?」
…俺の見間違いだろうか?

彼女が、泣いているように見えたのは。



「見〜た〜ぜ〜」
教室に戻ると、陽平が悪人笑顔で待っていた。
…そういえば、中庭は教室の窓から丸見えなんだよな。
…陽平の誤解をとくのが、さらに困難になってしまった。

28 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:23 ID:LJxOrHNA
本日のノルマ終了を知らせる鐘が鳴る。
俺は腕を上げ、大きく伸びをする。
身体をほぐすためではなく、意識を目覚めさせるために。
…そう、俺はとうとう全ての授業を睡眠時間にあてたのだった。

「…ある意味すごいな、お前」
隣の席の陽平が呆れた顔をしていた。

授業が終わった以上、すぐに鞄をひっつかんで帰りたいところだが、
最上級生はそうもいかないらしい。
担任の教師がホームルームを始める。
そして、お得意の長広舌を振るいはじめる。

「…皆さんは、受験戦争という厳しい局面にあたり…」

頬杖をついたまま、右から左へ聞き流す。
毎日毎日同じことを言って飽きないのだろうか。
横を見れば、窓の外をぼけっと眺めている陽平がいた。

受験戦争、か。
俺にはたぶん関係ない。
成績は底の底だし、遅刻の常習犯である俺には推薦もありえない。
別に、就職したいわけでもないんだけどな。
…そう、俺お得意のあれだ。

どうだっていい。なるように、なるさ。

29 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:24 ID:LJxOrHNA
さんざん語って気が済んだのか、ようやく担任が話を締めくくる。
クラス委員の藤林が号令をかけ、冗長な儀式が終わる。
ルーティンワークにうんざりしているのは俺や陽平だけではないらしい。
担任の姿が見えなくなったとたん、あちこちからため息が聞こえた。

「朋也」
陽平が声をかけてくる。

「ああ、帰るか」
「おう」
いつものように、陽平と並んで教室を出る。

「今日もどっか寄るか?」
「あのゲーセンでいいんじゃないか」
「そうだな」
とても三年生の会話とは思えない。

俺と同じく、陽平も進学する気はないらしい。
陽平はもともとスポーツ推薦で入学してきたのだが、
喧嘩で停学処分を受け、そのままなしくずしに退部してしまったそうだ。
陽平があまり話したがらないので、詳しい事情は聞いていない。
とにかく、クラブに所属しなくなり、陽平の立場は宙ぶらりんになった。
そこからどこをどう間違ったのか、いつの間にか俺とつるむようになっていた。
スポーツ推薦の陽平は、有り体に言えば運動神経だけをかわれて合格したわけで、
勉強の方は、まあ…推して知るべしだった。
そんなわけで、俺たちは受験戦争から遠い場所にいる。

30 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:24 ID:LJxOrHNA
校門を抜けると、あの長い坂が視界を埋める。
朝は生徒の行く手をはばむ地獄坂だが、夕方はただの下り坂だった。
とは言え、けっこう急勾配なので、自然と足取りは慎重になる。
走って下校しようとするチャレンジャーも、たまにいないではないが…

知らず足を止めて、俺は坂の向こうを見る。
真西に向いた下り坂の先に、遮るもののない夕日がある。
一面の橙。
その中心に輝く、赤。
長い長いこの坂だからこそ、この夕映えを見ることができる。
――悪くない道だよな。
今だけは、そう思う。

「どうした?」
立ち止まったままの俺に、陽平が問う。

「…いや、なんでもない」
「ん?…ああ、なるほど」
陽平は坂の全体を見渡すと、ニヤリと笑った。

「…なんだよ」
「いやあ、岡崎クンもスミにおけないねえ」
完全にからかい口調になっている。

「…だから、何が」
陽平が顎で示す、その先に。
小さな背中が、揺れていた。

31 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:25 ID:LJxOrHNA
「…嘘だろ?」
…偶然にもほどがある。見間違いであって欲しかった。
だが、俺の視線の先、坂をゆっくりと下ってゆくのは、間違いなく…あの子だった。

(…今日はどうかしてる)
俺は思わず顔を覆いたくなった。

「ほれ、行かなくていいのか?」
人の気も知らず、陽平が肩を叩いてくる。

「行かない」
俺はきっぱりと否定した。
昼休みは一緒にいたが、あれは二人の利害が一致したからだ。
いわば、ビジネスだったのだ。
…そうに違いない。
だから今、何の用もないのに話しかける必要はない。
それに、あの子のところに行けば、陽平の誤解が決定的になる。

「…そうか」
「そうだ」
陽平は案外あっさり引き下がった。
…と、俺は思っていた。

32 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:26 ID:LJxOrHNA
「…朋也」
「今度はなんだ?」
数メートル進んだところで、背後から陽平の声がした。

「照れるな」
どんっ!!

「なっ!!?」
陽平がいきなり俺を突き飛ばしてきた。
元スポーツマンの腕力は、甘くない。
俺は大きくつんのめった。
倒れまいとして、足を前に出す。
それでも慣性は殺せない。
もう一度足を前に出す。…止まらない。さらに足を前に出す。…止まらない。
気が付くと、俺は走り出していた。
というか、下り坂で突き飛ばされたら誰だってこうなるだろう。

「だああああっ!!」
止まれない。走るのをやめたら、即座に転ぶ。
今の俺は、ちょうど一輪車に乗っているようなものだった。
それだけならまだいい。坂を過ぎれば止まれる。
だが、その前に。
だんだん迫るあの女の子を、どう回避すればいいのだろう?
このままだと、間違いなく衝突するぞ…
…陽平のバカヤロウ。

33 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:27 ID:LJxOrHNA
女の子は相変わらずのんびりと歩を進めている。
…気付けよ!!
背後から不審人物が全力疾走で迫ってきてるんだぞ!!
どこまでカンが鈍いんだ?
俺に気付いて、ちょっと身をかわしてくれるだけでいいのに!!

…仕方ない。
この子に怪我をさせるわけにはいかない。
そう言えばこの後ろ姿を見るのは今日三回目なんだよな、とか思いながら。
俺は覚悟を決めた。

ぐらっ…

ずざざざーっ!!

わざとバランスを崩し、高校球児よろしくヘッドスライディング。

「ぐ…」
…ふっ、甲子園は目の前だぜ。
などとふざけたことを考えて自分をごまかそうとしたが、無駄だった。
舗装道路とコンタクトした衝撃で、全身が鈍く痛む。
はたから見たら、まるっきりの馬鹿だろうな。

「あ、あのっ…」
さすがに気付いたのだろう。
もう聞き慣れた声が、俺に降りてきた。

34 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:27 ID:LJxOrHNA
「…よお」
うつぶせに転んだままで、ひらひらと手を振る。…かなり間抜けだ。
現状を打破すべく、瞬発力を生かして鮮やかに跳ね起き、ポーズの一つも決めてみるか?
…よけいに頭が悪く見えそうなので、とりあえず現状維持。

「…あ。今朝と、お昼休みの」
「ああ。今朝と昼休みの、だ」
修飾語が一つ増えていた。

本当に心配そうに、俺を見下ろしている女の子。
…そんなに不安な表情をされると、逆にこっちが申し訳ない気分になる。
俺はさりげなく視線を外す。

坂の上に目をやれば、さっきの位置から動いていない陽平の姿。
俺を突き飛ばしたくせに、少しも悪びれた風ではなく、むしろもの凄くいい笑顔。
真っ白な歯がキュピーンと輝いている気さえする。
ぐっ、と親指を立て、「礼にはおよばないぜ、しっかりやれよ!」と無言の激励。
…どうやら、俺とこの子のために、恋の橋渡しをした『つもり』らしい。
…覚えてやがれ。

35 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:28 ID:LJxOrHNA
「えーと…ケガとか、してないよな?」
「え?」
接触する前に自爆したのだから、この子が被害を受けているわけはないのだが、
いちおう確認のために訊いておく。

「あっ…。ケガ、してます」
「なにっ!?」
予想外の返事にあせる俺。
俺の貴い犠牲は無駄だったのか!?
しかし、女の子の次の行動は、さらに俺を戸惑わせるものだった。

すっ。

…え?

女の子が、俺の手を持ち上げたのだ。

「血…いっぱい出てます」
「…え?え?」
だが見たところ、俺の手を包むきゃしゃな手には傷一つない。
俺は顔に疑問符を貼り付けたまま、馬鹿みたいに女の子を見ているしかなく。

「あの…痛い、ですよね?」
その言葉でやっと、自分の勘違いに気付いた。

36 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:29 ID:LJxOrHNA
「…あのな、俺のことはいいんだ。
 あんたはケガしてないか、って訊いたんだ」
自分が負傷してることぐらい解ってる。
今でも身体のあちこちが熱を持って痛んでいるのだから。

「わたしがケガ?…どうして、ですか?」
「……」

もしや。
この子は、俺の行動をさっぱり理解していないのだろうか?
俺が後ろから急速接近していたのはもちろん、
この子に怪我をさせまいとして、捨て身の行動に出たということさえも。
…と言うことは、俺のことを、素でコケた大馬鹿野郎だと認識しているのか?

…無性にムカついた。

くいくい、と指で促すと、女の子は素直に顔を近付けてくる。
…正直者は、損するぜ。
そう心中でひとりごちて、俺はその無防備な顔に――

ぺしっ!

「きゃっ!?」

デコピンを炸裂させた。

37 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:30 ID:LJxOrHNA
「いっ、痛…何するんですかぁ!」
「…うるさい」
不機嫌になった俺は聞く耳持たない。
別に見返りを期待していたわけじゃないし、もとはと言えば陽平が悪いのだが。
やはり、面白くはない。

「…うー」
大きな瞳に涙をためて、無言の抗議をする女の子。
昼も涙目になっていたし、涙腺がゆるいのかもしれない。

「…はぁ」
なんだか急にアホらしくなり、俺はさっさと立ち上がる。
大雑把に土を払い、再び坂を下り始める。

…つもりだったのだが。

ぐいっ。

「…どこ行くんですか」
女の子が、俺の制服の袖をつかんで足止めしてきた。

38 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:30 ID:LJxOrHNA
「…見ればわかるだろ。家に帰るんだ。
 …だから、放してくれ」
「駄目です」

ぐいぐいっ。

「よせ、服が延びる」
「延びる生地じゃないから大丈夫です」
「じゃあ、裂ける。肩のとことか」
「縫製がしっかりしてるから大丈夫です」
「だったら…」
「とにかく、帰っちゃ駄目です」
…なんなんだよ。
さっきのデコピンを根に持ってるのか?

「ちゃんと、手当てしないと…駄目です」
小さく、だけど確かに、女の子が呟いた。

「…手当て?」
言われてみれば、右手から血が流れている。
すりむいただけにしては傷が深いらしく、まだゆるやかに出血している。
だが、動脈まで達しているわけでもないだろう。
唾でも付けておけば、そのうち治る。

「…別に、要らない」
そっけなく、それだけを告げた。
いつものように、投げ遣りに。

39 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:31 ID:LJxOrHNA
「駄目ですっ!!」
意固地になった女の子が、大声を張り上げる。
日の落ちかけた穏やかな行路には、あまりにも不似合いなその音量。
さっきまでの一連のやりとりも手伝って、俺たちに他の生徒の注目が集まる。

「あっ…」
一声上げて冷静になったのか、注がれる視線に恥じ入る女の子。
会ったときから思っていたが、基本的には人見知りする性格なのだろう。
こういう状況はいかにも苦手そうだった。
思えば、この子が怯んでいるうちに、とっとと帰ってしまえば良かったのかも知れない。
…しかし、同じくこういう状況が苦手な俺は(顔にこそ出さなかったが)だいぶ舞い上がっていた。
そのせいか、逃げるという方向に頭を回すことはできなかった。

「…わかったよ」
「えっ?」
気がそれていたためか、理解できない様子の女の子。
恥ずかしさで固まっている間も、俺の袖を放さないのには閉口したが…
このときの俺は、とにかくこの場を去りたい一心だった。

「…手当て、頼む」
それはギブアップ宣言にも似て。
女の子のぽかんとした瞳に、しだいに光が宿る。

「…はいっ!!」
満面の笑顔。

こうして俺と彼女は、また長い坂を上り始めた。

40 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:32 ID:LJxOrHNA
「えっと…」
女の子はきょろきょろ辺りを見回す。
学校に戻ってきたまでは良かったが、そこから事態が進展していなかった。

「…保健室に行くんだろ?」
俺は念のため目的地を訊いてみる。
…まあ、この場合、まず保健室で間違いないだろうが。
職員室にケガ人を連れて行ってもしょうがないしな。
予想通り、女の子はこくんと頷いた。

「だったら、早く行こうぜ」
「は、はい」
と返事はしたものの、一向に歩き出そうとしない女の子。
なぜか困っているように見える。

「…もしかして、保健室がどこにあるか忘れたとか?」
「…っ」
女の子が顔色を失う。
どうやら図星らしかった。
…なんだかなあ。
確かに、この学校の保健室はかなり覚えにくい場所にある。
でも、だからって…忘れるか?普通。

結局、俺の先導で保健室にたどりついた。

41 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:33 ID:LJxOrHNA
保健室のドアには「外出中」と書かれたプレートがぶら下がっていた。
養護教諭は留守にしているらしい。
俺にとってはその方がありがたかった。

「あ…どうしよう」
女の子が戸惑った声で言う。
だが、俺はかまわずドアを開ける。
いつものように鍵はかかっていなかった。

「え、あの…」
「ほら、入れよ」
「は、はい」

この部屋のどこに何があるか、だいたいは把握している。
戸棚や机の引き出しから、処置に必要なものを取り出す。
俺の傍若無人な行動に、女の子は目を丸くするばかりだった。

「…あ、あの、いいんですか?」
「何が?」
「いえ、あの…そういうの、勝手に出してきたりして…」
「いいだろ。保健室でケガの治療をするんだ、何も間違ってないぞ」
「…そ、そうなんでしょうか?」
「そうなんだ」
…とは言ったものの、本当にいいのかどうかは俺も知らなかった。
しかし、女の子は俺の強引な説明に納得したようだった。

42 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:34 ID:LJxOrHNA
「えっと…じゃあ、始めますね」
「ああ」
俺は丸イスに座り、負傷した右手をずいっと差し出す。
女の子ももう一つの椅子に腰掛け、俺の手を取る。
そしてもの凄く真剣な顔で傷口を見つめる。
…出血はもう止まりかけているし、痛みもずいぶん治まったのだが、
女の子はとても不安そうにしていた。
…なんで俺の方が落ち着いてるんだろう。

「…い、いきます」
消毒液を染みこませた綿を、傷口にあてがおうとする。
だが、あと1センチというところで、女の子の手が止まった。
そこに触れていいのかどうか、本気で悩んでいるようだった。
その細い手は、小刻みに震えているようにさえ見える。
…だから、そんなに大層な傷じゃないんだけどな。

「…あ、あの…しみると思いますけど…痛いと思いますけど…」
いまだにためらっている様子の女の子。
このままだと、治療が終わるより先にかさぶたが形成されそうだった。
痛がりのこの子より、俺の血小板の方が仕事が早いだろう。

「…あっ」
俺は女の子から脱脂綿を奪い、自分で消毒を始めた。
…最初からこうすればよかった。左手は使えるんだし。

「…ごめんなさい。わたしが…ぐずだから」
肩を落として言った言葉は、俺には届かなかった。

43 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:34 ID:LJxOrHNA
「…治療は俺が自分でやるから、その間にノートつけといてくれないか?」
「ノート?」
保健室の利用者は、備え付けてあるノートに
氏名・クラス・保健室に来た理由などを書く決まりになっている。
いつもならいちいち書いたりしないのだが、
今回は備品を勝手に使ったということもあって、記帳せずに済ませるのは気が引けた。

「保健室のことに、詳しいんですね」
「…まあな」
使用記録を残すことくらいは常識だと思うが。
まあ多分、さっきの手際の良さを指して言ったのだろう。

「もしかして、保健委員なんですか?」
「違う。…不良だから、さ」
俺は、自分がそう呼ばれていることを、よく知っている。

…俺が保健室のことに詳しいのは、たまにここで授業をサボっていたから。
最近はもうやっていないが、一年くらい前はここに入り浸っていた。
養護教諭には顔を覚えられ、目をつけられていた。
だからこそ、その不在がありがたかったのだ。

「不良…?」
女の子の表情が強張った、ように見えた。
…あれ、知らなかったのか?
同級生なんだし、知ってるもんだと思ってたが。
…やっぱり、言わなきゃよかったか。
俺は静かに自嘲した。

44 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:35 ID:LJxOrHNA
「不良さん…なんですか?」
「ふ、不良さん?」
…なんか、その呼び方は違うと思うぞ。

「…じゃあ、河原で決闘とかして、引き分けて、
 『いいパンチしてるぜ』『お前こそ』って言うんですか?」
「……」
いつの時代の話だよ、それは。

「で、お互いの健闘をたたえて、ユニフォームを交換するんですよねっ?」
「……」
女の子はあくまで真面目に言っているらしい。
…頭が痛くなってきた。
というか、もう不良の話ですらない。それはサッカー選手だ。

「…いや、今のは忘れてくれ」
「えっ?」
「やっぱり俺は不良じゃなかった」
「そうですか…」
…なんでちょっと残念そうなんだ?

「…はぁ」
なんだか、身構えてた俺の方が馬鹿みたいじゃないか。
ため息をついて、俺は丸イスを回転させ、女の子に背を向けた。

45 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:36 ID:LJxOrHNA
「あの…」
「何だ?」
背中を見せたとたんに声をかけられ、俺は首だけで振り返った。

「名前、教えてください」
「名前?…言ってなかったっけ?」
「教えてもらってないし、わたしも教えてません」
そういや、俺もこの子の名前知らないんだよな。
こんなによく会うと解ってたら、初めに会ったとき自己紹介でもしてたのに。
…いや、俺のことだから、解ってても自分からは名乗らなかっただろうな。
面倒だから。

「利用記録に、氏名とクラスも書かないといけないんです」
「あんたの名前でも書いといてくれ」
「そ、そんなの駄目ですよっ」
融通の利かない奴。

「だから、名前、教えてください」
「む。人に名前を訊くときは、まず自分から名乗るのが礼儀だぞ」
「あっ…そうですね」
…半分冗談のつもりで言ったのだが、女の子は真面目に受け取ったらしい。
俺にまっすぐ向き直り、姿勢を正す。

「わたしは、古河渚っていいます」
「じゃ、そう書いといてくれ」
「だ、だから駄目ですよっ」
目の前の女の子、古河渚はそう言って口をとがらせた。

46 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:37 ID:LJxOrHNA
「俺は、岡崎朋也だ」
「岡崎さんですね?」
古河が、ボールペンを走らせようとする。…が、その手が途中で止まる。

「えっと…漢字は?」
「岡崎は普通、下の名前は…月が二つに、カタカナのヤに似てる字だ」
「あっ、『岡崎朋也』さんですね、わかりました」

その後、俺のクラスも伝えた。
古河がさらさらと必要事項を書き込んでいく。

「…できました」
ぱたん、とノートを閉じながら俺に言う。
いちいち報告してくれなくてもいいんだが…

「手当てのほうは、終わりましたか?」
「…ああ、もう少しだ」
が、俺はそのもう少しに苦戦していた。
最後に包帯を巻くのだが、右手に巻くわけだから、片手、それも利き腕でない左手での作業になる。
四苦八苦している俺に気付き、包帯を渡すように促す古河。
いいかげん根気が尽きそうになっていた俺は、素直にそれに従う。
ちょうど、さっきとは逆の立場になった。

器用に包帯を巻いていく、細い手を眺める。
俺は初めて、古河の女の子らしいところを見た気がした。

「…?」
視線に気付き、俺を見返す古河。
俺は反射的に目をそらす。
…なんで、こんなときだけカンがいいんだよ。

47 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:37 ID:LJxOrHNA
たかが擦り傷の治療に、ずいぶん時間をかけてしまった。
――俺も古河も、つくづく要領が悪いな。
そう思って、少し笑った。

校舎を後にする。
赤い陽はもう完全に沈みかけ、空の上からは薄闇のカーテンが降りている。
それでも消えない春の匂いの中を、古河と歩く。
考えてみれば、今日の朝にも二人して校門を抜けたんだよな。
まさか、またこんな風に肩を並べて歩くことになるなんてな。

「送っていく」
保健室から出て、廊下をしばらく進んだとき。
自然に、そんな言葉が出た。

「えっ…?」
「もうすぐ日も暮れるし、女の子の一人歩きは物騒だろ?
 俺のせいで遅くなっちまったんだし、な」
厳密に言うと、陽平のせいなんだが。

「……」
古河の返事は、ない。
無理強いする気はなかった。
今日会ったばかりだし、断られても仕方な…

「…じゃあ、途中までお願いできますか?」
「…え?」

…そうして、俺と彼女は今に至る。
何を話すわけでもなく、黙ったままの二人。
でも、不思議と、朝のような気まずさはなかった。

48 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:38 ID:LJxOrHNA
「あ…。ここまででいいです」
大通りに出たとき、古河が足を止め、俺に告げた。

「ここからは、一本道ですから」
…この辺に住宅地なんてあったか?
疑問に思う俺をよそに、古河はこちらに向き直る。

「今日は、送ってくれて…」
その先に続くであろう言葉を、手の平を見せて遮る。
不自然に台詞を切られ、古河が首を傾げる。

「…前にも言ったけど、礼はいらない」
視線を落としたまま、古河の顔を見ずに、続ける。

「俺はあんたに手当てをしてもらった。その見返りとして、あんたをここまで送った。
 これで、貸し借りはなしだ。…それでいいだろ?お互い様なんだ。
 いちいち礼なんか言わなくたって…」
俺はなぜ、こんなにムキになっているのだろう?
礼を言いたい奴には言わせてやればいいじゃないか。
そう思うのだが、昼間のようなまっすぐな感謝の言葉はもう、聞きたくなかった。

「…だから、黙ってさよならしよう」
俺はひどいことを言っているのかもしれない。
でも…眩しいんだ、古河の言葉は。
ひねくれて、ねじまがった俺には、古河の愚直さが…どうしようもなく眩しいんだ。
…どうして、そんなに素直に自分の気持ちをさらけ出せるんだ?
古河のふとした一言に、何気ない仕草に、俺は苛立ち、自己嫌悪を抱いてしまう。
だから。
聞きたくないんだ。お前の、その言葉を。

49 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:40 ID:LJxOrHNA
「…感謝の気持ちって、相殺されるんですか?」
「え?」
予想外の反応に俺は顔を上げる。
古河の寂しそうな表情がそこにあった。

「…貸しとか借りとか、理屈だけで考えるんだったら、それでいいのかもしれません」
俺を射るように見つめながら、言葉をつなぐ。
季節のあたたかな風が、古河の髪を乱す。

「…でもわたしは、親切にしてもらったら、ありがとうって言いたいです。
 親切にした人からは、ありがとうって言ってほしいです」
その声には今までの控え目な印象は感じられない。
かわりに、強い意志がこもっていた。

「…もちろん、わたしの勝手な気持ちですけど」
そう言って、口元だけで笑う。
しかしそれは、決して自嘲ではなく。

「…でもわたしは、ありがとうって言いたいです」
迷いのない口調で、もう一度繰り返す。
俺は…何も言えない。

「…だから」
そして古河は姿勢を正し、

「ありがとうございましたっ」
きっぱりと、おじぎをした。

50 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:40 ID:LJxOrHNA
長い礼が終わり、古河が頭を上げる。
立ち尽くす俺のことを、まっすぐ見つめる古河。
そのまま俺が何も言わないでいると、やがて寂しそうに微笑んだ。

「…それじゃ、さようなら」
言って俺に背を向ける。
広い道を、歩き出していく。

古河の小さな背中を見ながら、ふと思った。
…そういえば。
俺はあいつに、一度も「ありがとう」と言っていない。

…貸し借りは、なくさなくちゃ、な。
…そして。
…少しだけ、素直になれたら。

「…古河っ」
初めて、その名を呼ぶ。
首を巡らせて、古河がこちらを向いた。

「その…昼休みのパンと、あと、包帯巻いてくれて――」
ありがとう。
そう続けるつもりだったのに、どうしようもなく照れくさくて。

「…サンキュ、な」
そんな言葉で濁してしまう。
それでも古河は、とても嬉しそうに笑って、

「…どういたしましてっ」
と、言った。

51 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:41 ID:LJxOrHNA
古河と別れ、俺は俺の家路につく。
一人で歩く道は、広い。

…寂しい?
もう、慣れてるはずだ。
陽平とつるんでいても、俺が最後に帰る場所は、あの家しかないのだから。
今日は初めて会ったばかりの奴と一緒にいたから。
だから、薄暗い世界が、こんなに空虚に思えるんだ。

何も変わっちゃいない。

鍵を差し込み、シリンダー錠を開ける。
いつものように、明かりはついていない。
誰もいないと知っていても、律儀に「ただいま」を言っていた時期もあったのだが。
それもいつの間にか止めてしまった。

生活感のない、キッチン。
ろくに料理をしていないのだから、当然と言えば当然だ。
今日もまた、棚からインスタント食品を取り出す。

母親がいた頃には、この家にもあたたかな食卓があった。確かな団欒があった。
だが今となっては、仕事に忙殺されてろくに帰ってこない父と、ろくでなしの息子がいるだけだ。

俺はやかんの蓋を取り、蛇口をひねる。
ずきん、と右手が痛んだ。
…ああ、そういや、ケガしてたんだよな。
俺はしばらく、包帯の巻かれた右手を見ていた。

「…ありがと、な」
…遅ぇよ。俺。

52 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:42 ID:LJxOrHNA
ブラインドの隙間から薄く射し込む光で目が覚めた。
壁の時計を見る。6時を少しまわった頃だった。
…ずいぶん早く起きちまったな。
俺は、目覚まし時計を使わない。
だから遅刻するんだ、と人は言う。
だが目覚ましをかけて寝ても、起きる前に止めてしまうから意味がないのだ。
どうせ遅刻するなら、さわやかに朝を迎えたい。
…というわけで、俺は目覚まし時計を使わなくなった。

…我ながら、ダメ人間だと思う。
しかし今日は、なぜか余裕を持って起床できた。
そういえば昨日もこうだったな。
もしかしたら、体質が改善されつつあるのかもしれない。
これからは遅刻せずに登校できる!
…と、いいな。

…もし昨日、遅刻していたら。
古河と知り合うこともなかったのだろうか。

「…早起きは、三文の得…か」
意味もなく呟いて、俺は支度を始める。
春の温暖な気候で、ベッドから出るのも辛くない。
近年まれに見る爽快な朝だった。

53 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:43 ID:LJxOrHNA
「…さて」
俺は立ち止まり、思案する。
目を閉じて、開いて、を繰り返してみる。
が、眼前の景色はいっこうに変わる気配がなかった。

「…はぁ」
俺は今日も、この坂の前で嘆息するのだった。
目覚めたときのさわやかな気分はどこへやら、思いっきりブルーになってしまう。
だが、ここで立ち往生していてもしょうがない。
今、千里の道の一歩を…

「岡崎さん」
背後から唐突に名前を呼ばれる。
俺はさっさと登頂を中断する。
この声は…

「古河か?」
「そうみたいです」
自信を持て。

振り返り、古河と向き合う。
走ってきたのだろうか、少し呼吸が乱れていた。

「おはようございます」
「ああ、おはようさん」
自然に挨拶が出る。

「…じゃ、行くか」
「はいっ」
俺たちは昨日の再生のように、並んで歩き始めた。

54 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:44 ID:LJxOrHNA
「…しかし、よく会うよな」
俺は小さく苦笑しながら言う。
そうですね、と古河も微笑む。
まあ、そのうちの半分は人為的なものなんだが。

「なんで、今まで会わなかったんだろうな」
朝に関して言えば、俺の遅刻癖が原因なのだろうけど。
…そんな風に冗談を続けるつもりだった。

でも。
俺の言葉を聞いた古河は、びくりと身をすくませた。
そして、さっきまでの笑顔を失ってしまう。
まるで古傷に触れられたように、つらそうな顔になる。

「…古河?」
俺は、この表情を見たことがある。
これは確か、昨日、保健室の場所がわからないと言ったときの――

「どうした?」
俺の問いかけに笑顔で、なんでもありません、と返す。
でもそれは、どう見ても無理をしている…作り笑いだった。

「…ごめんなさい。わたし、やっぱり先に行きます」
古河はそう言うと、止める間もなく駆け出した。
俺はその背中を追うこともできず、中途半端に手を伸ばしたまま固まっていた。

55 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:44 ID:LJxOrHNA
がらがらと戸を開け、教室に入る。
例のごとく一段階静かになるクラスメイトたち。
だがそんなことよりも、古河の態度が気がかりだった。

席に着き、あれこれと思い悩む。
…俺は、何かまずいことを言ってしまったんだろうか?

「…ぐはっ」
横から聞こえる奇声で我に返る。
怪音の発生源は、陽平だった。
わざとらしく頭を抱えている。

「しまった。傘を持ってくるべきだったか…」
「は?…なんでだ?」
窓の外の空は、気持ちいいほど晴れ渡っている。雲一つない、とまではいかないが…
天気予報では雨だったのだろうか?

「まさか、朋也が二日連続で遅刻しないとは…」
「……」
「はたして誰が予想しえたであろうか!?」
「…おい」
「くそっ、猫が顔を洗うよりも確実に雨だ!」
…しまいに、殴るぞ。

56 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:46 ID:LJxOrHNA
「ま、それはともかく、だ」
芝居がかった態度をあっさり止め、陽平が訊いてくる。

「昨日、あれから進展したか?」
「……」
陽平が言っているのは、古河とのことだろう。
…そうだった。こいつに突き飛ばされたせいで、俺はいらないケガをしたんだ。

「もったいぶらずに言えよ。手厚く看護してもらったんだろ?」
本格的に冷やかしモードに入ったらしく、半笑いの陽平。
…人の気も知らないで、よく言うぜ。
俺は黙って右手をかざす。
もちろん、そこには包帯が巻かれたままだ。

「な…」
予想していたよりもはるかに痛々しい有様だったらしく、陽平が口ごもる。
せいぜい絆創膏の二つ三つだと思っていたのだろう。
…俺自身、包帯まで巻いたのはオーバーだったと思うが、今はこれが役に立つ。

「…痛かったぞ」
「…す、すまん」
素直に謝る陽平。根は悪い奴ではないから、これは予測できた反応だった。
相手が弱気になった、この時がチャンスだ。

「…カツサンド、二つな」
「…解った」
こうして俺は、慰謝料の確保に成功したのだった。

57 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:47 ID:LJxOrHNA
朗読が教室の中に流れていた。
不良と呼ばれる俺でも、教師の良し悪しはわかる。
いい教師とは、耳障りでない、優しい声の持ち主のことだ。
国語系の担当であれば、なおいい。
母国語を読み上げるやわらかな声は、心地よい子守歌となるからだ。
そういう意味で、いま教壇の上に立っている人物は、教師の鑑と言えた。

チャイムが鳴り、短い眠りが断たれる。
昨日は気にせず爆睡していたのだが、今日はそれほど眠りが深くならず、断続的な睡眠が続いていた。
…あと一つ授業を終えれば、昼休みだな。
陽平から支払われる、因縁のカツサンド。
それに…

もしかしたらまた中庭にいる、古河。

…俺は、何を考えてるんだ?
他人の領域に不用意に踏み込むもんじゃない。
あんなにつらそうな表情を誘う、彼女の中の『何か』。
それに対して、俺が何をしてやれる?

…知るか。
ただ、このままにはしておきたくない。
それだけで十分だろ?

あと一時間。
寝て、待とう。

58 :息継ぎ V(ブレス):01/11/29 19:52 ID:LJxOrHNA
…はい、いったん休憩です。
ここまでが、前スレ(?)「僕は君に会うために生まれてきたのかもしれない」に投稿した分です。
ここからは新章になります。
では引き続き、偽クラナドをお楽しみ下さい。

59 :名無しさんだよもん:01/11/29 19:55 ID:LJxOrHNA
「…なぁ、古河」
「はい」
「昨日の昼のこと、覚えてるか?」
「…はい」
「たしか、パンを食べきれなくて困ってたんだよな?」
「…はい」
「で、俺が手伝って、ようやく完食できたんだよな?」
「はい。お世話になりました」
「いや、いいんだ。いいんだけどな…」

「…なんで、今日もこの有様なんだ?」
古河の膝の上には、昨日にひけをとらない量のパンが乗っていた。
心なしか、微妙に増えている気もする。

昼休み終了の合図を聞くやいなや、ダッシュで購買に往復してきた陽平、からブツを受け取って
俺は中庭に来た。
古河は昨日と同じ場所に座っていた。
俺の姿を見るとそそくさと立ち去ろうとしたのだが、
すでに膝の上に広げられていたパンのジオラマがその行動を妨げた。
そういう意味では俺はこのパンどもに感謝するべきなのかもしれない。
というか、俺を避けるつもりなら飯を食う場所ぐらい変えろ。

「あの…お父さんが、第二次性徴期だからしっかり食べろって…」
だから、いくつなんだお前は。

「まさか全部食えるとは思わなかった、もっと沢山持たせてやる、って…」
「なんだそりゃ…」
古河の父親は、どうにもユニークな性格らしい。
古河もきっぱり断れば良さそうなもんだが…まあ、性格からしてそれは難しいのかもな。
しかしなんでここまでパンにこだわるんだ?

60 :名無しさんだよもん:01/11/29 20:28 ID:LJxOrHNA
「で…となり、いいか?」
「は、はい」
俺は並んで段差に腰掛けた。
そして陽平から入手したカツサンドのラップをはがし始める。
それに気付いた古河が、あ…と小さく声を漏らした。
今日は俺の援護は期待できないと思ったのだろう。

「…まあ、できるだけ手伝ってやるから」
「はい…」
俺だって、こんな状況になると知ってたら、陽平にカツサンドなんか要求しなかった。

しばらく、二人のパンを食う音だけが響いた。
古河は食べるのが遅かった。俺から見ればじれったい程のスピードで咀嚼を続ける。
お前だろ、牛乳を噛んで飲む奴って。

やがて俺は自分のパンを食べ終わった。
古河もすでに満腹らしく、まだほとんど減っていないパンを前に途方に暮れている。
食事という目的を失い、俺たちは手持ちぶさたになる。

となりの古河を見た。
古河も俺を見ていた。

…そう、お昼をご一緒するために来たんじゃない。
訊いておかなければならないことがある。
これからも古河といるつもりであれば、なおさらだ。
だが、俺は口を開けないでいた。

61 :名無しさんだよもん:01/11/29 21:05 ID:Dx9q2RvT
とりあえず一度あげとく。

62 :名無しさんだよもん:01/11/29 21:10 ID:m0tzCqOC
すげぇ………。

63 :名無しさんだよもん:01/11/29 21:37 ID:LJxOrHNA
あの…
あんまり上げないで下さい…

10位以下になったので、こそっと続行します。

64 :名無しさんだよもん:01/11/29 21:38 ID:LJxOrHNA
「今朝は…すみませんでした」
先に声を出したのは、古河だった。

「…なんか謝るようなことあったか?」
俺はそんな風にはぐらかしてみる。
かえって嫌味のように聞こえてしまったかもしれない。

「…急に走り出したりして、すみませんでした」
古河は重ねて謝る。

「ああ…」
とぼけたとも、肯定ともとれる言葉。
そしてそれ以上話すことがなくなってしまう。
実際よりずっと長く感じる、沈黙。

「…悪い」
「え?」
今度は俺が先に口を開いた。

「俺が、何か嫌なことをしちまったんだろ?
 …悪かった。許してくれ」
古河に向き直り、頭を下げる。

「そ、そんな、やめてください! 岡崎さんは悪くないです!」
慌てた様子の古河。
だが、俺は姿勢を変えずにいた。

65 :名無しさんだよもん:01/11/29 22:14 ID:LJxOrHNA
肩をつかまれて、俺はようやく顔を上げる。
古河の大きな瞳に涙がたまっていた。

「ほんとうに…岡崎さんのせいじゃないんです…
 ぜんぶ…わたしがいけないんです」
泣きそうな声で、絞り出すように言う。
俺はまた、言葉を失う。
ただ、きちんと謝っておきたかっただけなのに…
また古河を傷付けちまったのか、俺は…?

無言のまま、俺たちは座っていた。
中庭にさわさわと風が吹き抜けていった。
少し離れた場所で弁当を広げ、談笑している女子たちがやけに遠く思えた。

「…教えて、くれないか」
俺はできる限り穏やかに告げた。

「どうして、学校のことに触れると、古河は辛そうな顔をするんだ?」
一つ一つ文節を区切り、噛んで含めるように言う。
古河がためらうのが見てとれた。
きっと進んで話したいことではないだろう。
…それでも、訊いておかなければいけないんだ。
俺は根気強く返事を待つことにした。

66 :名無しさんだよもん:01/11/29 22:47 ID:LJxOrHNA
「…わたし、学校をお休みしてたんです」
かなりの時間が経ったころ、古河が言った。

「長い間、お休みしてたんです」
「…ひと月くらいか?」
ふるふると首を振る。

「…一年と半分です」
「え…」
俺は言葉に詰まってしまう。
それは、休学…ということだろうか。

「…それで、昨日、ひさしぶりに学校に来たんです」
よりによって、昨日。
記念すべき復帰の日に、俺なんかと知り合っちまったのか…
少し古河に同情する。

「ずっとお休みしてたから、友達もいないし…」
保健室の場所も忘れたし、今まで俺とも出会わなかった。
そして、俺が不良と呼ばれていることも知らなかった。

「でも、どうして…」
どうしてそんなに長く休んでいたんだ?
そんな質問ができるほど、俺は無神経ではなかった。

「どうして、俺から逃げなきゃいけなかったんだ?」
「…えっ」
今度は古河が言葉に詰まる番だった。

67 :名無しさんだよもん:01/11/29 23:16 ID:LJxOrHNA
「そりゃ、一年以上もブランクがあるなら、学校生活が不安なのは解る。
 だけど、他人を避ける必要はないと思うぜ。むしろ積極的に友達を作るべきだ。
 …それとも、単に俺と一緒にいるのがイヤなのか?」
「そ、そんなことないですっ」
「そうか。良かった」
素直にほっとした。

「…でも…ずっと学校に来てなかったって知られたら…
 変な子だと思われて、それで…」
「嫌われると思ったのか?」
こくん、と古河が頷く。

「けどな、古河。そのことを隠したままで、本当に付き合っていけるのか?」
「…それは」
「いつかバレるんじゃないか、嫌われるんじゃないか…
 そんな風に怯えながら、一緒にいられるのか?」
古河は何も言えず、うつむく。

「古河には古河の事情があったんだと思う。
 でも理由が何であれ、学校を長い間休んでたのは事実なんだ。
 そこから逃げていても、どうにもならない」

…無責任な奴だよな、俺は。
自分のことは棚に上げて、好き勝手言って…
そう、無責任な奴のはずだった。
なのに…

「少しずつでも、学校になじめばいいだろ。
 …俺も、できるだけ手伝ってやるから」
気が付くと、そんな台詞を口にしていた。

68 :名無しさんだよもん:01/11/29 23:35 ID:LJxOrHNA
古河は――たぶん、今までで一番驚いた顔をしていた。
ぽかんと口を開けたまま、固まっている。

「…おーい。古河ー?」
目の前で手を振ってみる。
はっと背すじを伸ばして、古河が我に返った。

「え、えっと、えとえとえと…」
と思ったら、今度はえらくあたふたし始めた。

「ああ、今年の干支は馬だな」
「ら、来年はお猿さんですねっ」
…冗談も通じないようだ。
ついでに言うと、馬の次は羊だ。

「…まず、落ち着いてくれ」
俺はとりあえず古河をなだめる(?)ことにした。

「で、でも、岡崎さん、わたしのこと手伝ってくれるって…
 学校になじむの、手伝ってくれるって…」
「ああ、言ったぞ」
この期に及んで照れていても仕方がない。

「…どうして…ですか?」
「古河といると、何かと面白そうだからな」
これは、ある意味本当のことだった。

「…うー」
俺の言葉をからかいだと思ったのか、古河が今日初めてふくれっ面を見せた。

69 :名無しさんだよもん:01/11/30 00:03 ID:N5UdvJBg
「…わたしと一緒にいても、面白くないと思います。
 わたし、ぐずだし…学校にも、ずっと来てなかったし…」
「俺だって遅刻の常習犯で、授業をさぼったりもする不良だぞ」
「でも…」
さらに自虐的な文句を続けようとする古河。
…ああ、もう、面倒な奴だなこいつは!!

「…だから、友達になろうって言ってるんだよ!!」
「えっ…?」
…頼むから、こんなこと言わせないでくれよ。

「駄目か?」
俺の問いに、慌てて首を振る。
よし、友情成立。
…多少強引だった気もしないではないがな。

「じゃあ、握手でもするか」
そう言ってすっと手を差し出す。少し間をおいて、二人の手が結ばれる。
お互いの手を握ったまま、上下に揺らす。そして放す…つもりだった。

けれど、古河はいつまでたっても手を放そうとしなかった。
下を向いたままで、きつく俺の手を握りしめる。
ぽたぽたと温かい雫が指先に落ちた。

「…馬鹿。泣くなよ」
「…ご、ごめんなさ…ぐすっ、ごめん…なさい…
 …ひっく…あ、ありがと…ありがとう…ございます…」
俺は、こういうのが一番苦手だってのに…

70 :名無しさんだよもん:01/12/01 00:52 ID:cVnr9Oib
続きカモン

71 :名無しさんだよもん:01/12/01 19:39 ID:taZjBrCe
とりあえずその妄想力に乾杯。
続き頑張ってくれ。

72 :名無しさんだよもん:01/12/03 00:52 ID:/GDaMQf1
 

73 :晴子:01/12/04 16:12 ID:DxS2quGr
…で、オチないんかこれ?

74 :名無しさんだよもん:01/12/04 19:03 ID:xgoaxxGQ
「どうした、朋也?調子悪そうだな」
「…ああ」
…そりゃあ、な。

「陽平…もしかして、偶然にも胃薬持ってたりしないか?」
「はあ?学校にそんなもん持ってくるかよ」
「…だろうな」
「なんだよ、あのカツサンドが傷んでたのか?」
「いや…質より量の問題だ」
「?」

あの後、古河はなんとか泣き止んで、はにかんだ。それは大変よろしかったのだが。
一つの壁を越えた二人の前に、新たな障害が立ちはだかったのだ。
…昨日より二割増のパンの山、が。

「…うっぷ」
古河はほとんど戦力にならなかった。
俺はすでにカツサンドを食っていたにもかかわらず、奴らに敢然と立ち向かった。
そして逆境にもめげず、見事に勝利したのだった。
…よくよく考えると、古河にテイクアウトさせればそれで済んだのかもしれない。
…さらに言うと、明日は古河の親父がさらに数を持たせるかもしれない。
試合に勝って勝負に負けるとは、このことだろうか。

「なんなら、保健室行くか?」
「…昨日行ったばかりだぞ。二日連続はまずいだろ」
それでなくてもマークされてるんだから…

俺はかなりつらい状態で午後の授業を受けなければならなかった。

75 :名無しさんだよもん:01/12/04 19:52 ID:xgoaxxGQ
放課後、陽平と並んで廊下を歩きながら、俺は考え込んでいた。
陽平の話に適当に相槌を打ちながら、昼休みのことを思い返す。

『…俺も、できるだけ手伝ってやるから』

…ずいぶんな安請け合いをしたものだ。
もちろん、心にもないことを言ったわけではない。だが具体的に何をすればいいのだろうか?
俺自身からして人付き合いがひどく狭いのだ。
古河友達百人計画(仮)を成功させるにはあまりに不適当な人材だと言えた。
陽平も俺と同じく、不良と呼ばれて周りから敬遠されているし…

「ちょっと、そこのお二人さん」
唐突に呼びかけられ、俺の思考は中断する。

「んあ?」
陽平が気の抜けた返事をする。
俺たちに声をかけたのは、藤林杏だった。

「…なんだ、藤林(姉)か」
「…なに、その(姉)って」
「間違ってはないだろ?」
「…もうちょっと別の呼び方があるんじゃない?」
「じゃあ、藤林ビッグシスター」
「何者?」

藤林杏は、隣の(と言っても、間に階段を挟んでかなり離れている)クラスで委員長を務めている。
俺たちのクラスでやはり委員長をしている藤林椋の双子の姉だ。
名字も学年も同じ、役職まで同じなので、紛らわしくてしょうがない。
…まあ、性格は全然違うのだが。

76 :名無しさんだよもん:01/12/04 20:56 ID:xgoaxxGQ
「で、藤林ビッグシスターは何の用なんだ?」
「…意地でもその呼び方で通すんだね」
下の名前で呼べばいいじゃない、とぶつぶつ不平をこぼす藤林(姉)。

「…あのね、岡崎君に訊きたいことがあるんだ」
「おいおい、朋也…お前ってやつは…」
陽平が肘でつついてくる。…またろくでもない勘違いしてるな、こいつ。

「訊きたいことってなんだ?」
「んー…ここじゃちょっと、ね」
「…?」
去年、俺と藤林(姉)は同じクラスだった。だから知らない仲ではない。
藤林(姉)――面倒くさいので名前で考えることにする――杏は、誰とでも打ち解けられる性格だった。
他のクラスメイトが避ける俺や陽平にも、杏は気さくに話しかけてきた。
しかし、だからといって特別親しかったわけでもない。
なのに今、杏は俺に人目を気にするような話があるという。

「そうだね…ゆうなぎで話さない?」
「…きょう、これからか?」
「わ…本当に名前で呼んだ」
「朋也…お前いつから藤林とそんな仲に…」
「…俺は『今日』って言ったんだ、トゥデイだ!! 『杏』じゃない!!」
…解ってて言ってるだろ、こいつら。

77 :名無しさんだよもん:01/12/04 21:53 ID:xgoaxxGQ
「ま、そういうわけだから…岡崎君借りてっていい? 春原君」
「おう、のしをつけて進呈するぞ」
「勝手に決めるな、俺はお前の所有物かっ」
「わ…意味深なお言葉」
「朋也…お姉さんたちは常に新たな原野を開拓しようとしているんだ。不用意な発言は慎め」
…何の話だ、何の。

結局、陽平は先に帰っていった。
去り際にこの上なく悪い笑顔を見せたから、絶対に誤解をしている。
昨日からどんどん俺の異性関係がもつれているのだろう…陽平の中では。

「…で、ゆうなぎに行くのか?」
「うん」
「そっちが誘ったんだから、当然おごりだよな?」
「…女の子に払わせるつもり?」
「つもり」
そんな会話をしながら、俺は杏と坂を下った。

『ゆうなぎ』とは、学校の近くにある店の名前だ。
なんだか旅館の部屋のような名前だが、れっきとした喫茶店だ。
値段が安くアクセスも良好なので、うちの生徒がよく利用している…らしい。
俺はあまりこの店に来たことがなかった。陽平と二人で茶を飲んでも…なぁ。
まあ、今は向かいに杏が座っているわけなのだが。

78 :名無しさんだよもん:01/12/04 23:27 ID:xgoaxxGQ
お冷やを運んできたくせっ毛のウエイターに、適当な注文をする。
杏はおしぼりでごしごしと手を拭いている。指の又まで…几帳面な奴。
俺は水滴の付いたグラスを少し傾けた。

「…で、話ってのはなんだ?」
俺はコーヒーの到着を待たずに切り出した。
杏と差し向かいで喫茶店にいる、この構図はまた周囲の誤解を招くと気付いたからだ。
できるだけ早く話を終わらせたかった。

「実はね…うちの犬が子供を産んだんだけど」
「帰るぞ」
ペットお断りだ。

「もう、軽い冗談じゃない…」
「冗談に聞こえないんだよ、藤林が言うと」
俺は本気で浮かしかけた腰を下ろす。

「さっさと言ってくれ。まさか、お茶しに誘ったわけじゃないだろ?」
「んー。別にそれでもいいんだけどね」
「やっぱり帰る」
「冗談だってば〜」
…この調子じゃ、全然話が進まないな。
俺は思わずため息をつく。
すると、それを合図にしたかのように、杏の態度が真剣になった。

「…話っていうのは、古河さんのこと」
「え…」
予想外の言葉に、俺は間抜けな声を出してしまう。
杏はただじっとこちらを見つめていた。

79 :名無しさんだよもん:01/12/05 02:38 ID:v2CiX5yP
続きキボンヌ。こっそりこそこそ名スレ、の予感。

80 :名無しさんだよもん:01/12/05 02:39 ID:v2CiX5yP
sage進行だったんね。スマソ。

81 :名無しさんだよもん:01/12/07 19:37 ID:Dxwe9Kde
さあ、新キャラ追加されたことだし続き頼むよ。

82 :名無しさんだよもん:01/12/09 03:05 ID:rDcH0/dn
新章の続きはまだかな?

83 :名無しさんだよもん:01/12/10 00:05 ID:gniQ0kd2
マターリと待ってますので

84 :名無しさんだよもん:01/12/10 19:06 ID:VYgkWOyT
最近、話が全然進んでないですね、すみません…
というか圧縮を切り抜けられたのは皆さんのおかげです。多謝。
久しぶりに続きます。

85 :名無しさんだよもん:01/12/10 19:07 ID:VYgkWOyT
「…古河と知り合いなのか?」
「知り合いも何も、同じクラスだよ」
俺と同じクラスではない、とだけは解っていたが…
まさか、杏のクラスメイトだったなんてな…

「…知ってると思うけど、古河さんは」
「ああ…休学してたんだろ?」
「そう。ずっと学校にいなかったわけだから、古河さんには人間関係の下地がないの。
 だから、いつも一人でいるみたい」
「…そうか?」
なんか、俺は異様によく会うんだが…

「でも、岡崎君は古河さんと親しいみたいだから、話を聞いておきたかったんだ」
「親しい?」
「昨日も今日も一緒にお昼ご飯食べてたでしょ?」
…中庭で会うの、止めるか。

「…けど、なんで藤林がそんなこと気にするんだ?」
「なんでって…これでもクラス委員だよ? クラスメイトが困ってたら、助けてあげたいじゃない」
「古河に頼まれたのか? 早く学校になじめるよう協力してください、って」
なぜか自分が苛立っているのが解った。

「ううん、何も言われてないよ。こっちが勝手にそう思っただけ」
「頼まれもしないのに世話を焼いてやるのか?」
「…余計なお節介だって言いたいの?」
「…ああ」
杏が俺を睨む。
二人の間に静寂が訪れた。

86 :名無しさんだよもん:01/12/10 19:09 ID:VYgkWOyT
「古河がそれを望んでるとは限らないだろ? ただそっとしておいて欲しいのかもしれない」
「…そうは見えないけどね。会話に入れなくて、寂しそうにしてるよ」
そう…普段の古河のことは、俺よりも杏の方が良く知っているのだ。

「…だからって、藤林がどうこうする問題じゃないだろ?」
「冷たいんだね」
お互いの言葉がとげとげしくなっていく。
俺と杏は、テーブルを挟んでなかば対峙していた。
沈黙。

「…お待たせしました」
緊張を解いたのは、俺でも杏でもなく、飲み物を運んできたウエイターだった。
こと、と音を立てて、コースターの上にグラスが置かれる。
去り際、猫口のウエイターが人なつっこい笑みを見せた。
その笑顔に俺たちは何となく毒気を抜かれてしまう。

しばらく無言でアイスコーヒーをすする。
値段のわりに、なかなか美味かった。

「…お節介だっていうのは、わかってる」
杏がアイスティーをかき混ぜながら呟いた。

「自分が古河さんに何をしてあげられるのか…
 彼女のためじゃなくて、自分が満足したいだけなんじゃないか…
 そんな風にも、思う」
ひとりごとのように杏は続ける。
それは、俺の自分に対する疑問と同じだった。
…そうなんだ。だから俺はあんなに苛立っていたんだ。
『古河のため』という大義名分を振りかざす、自分の傲慢さとおこがましさ。
それを突きつけられたような気がして、苛立っていたんだ。

87 :名無しさんだよもん:01/12/10 19:37 ID:VYgkWOyT
「でもね…だったら何もしないでいられるかって考えたら、やっぱり無理だな、って」
杏が苦笑いを浮かべる。

「性分なんだね。古河さんはかえって迷惑に思うかもしれない、
 頭ではそう解ってても…放っておけないんだ」
グラスの中の氷が、からからと音を立てる。
杏はいまだに口を付けず、紅茶で手遊びしていた。

「…そいつはまた厄介な性格だな」
さっきまでの皮肉じゃなく、心底から言う。
そうだね、と頬杖をつき、ようやくストローを口に運ぶ杏。
言葉とは裏腹に、俺は杏を少し見直していた。
自分のエゴに気付いていながらなお、それを乗り越えることができる。
その前向きさは俺にはないものだ。

「でも…古河にはそんなお節介な奴が必要なのかもしれないな」
「…そう思う?」
「ああ」
「ふふ、さっきと言ってることが反対だよ」
「そうだな」
考えてみれば、杏は俺なんかよりもずっといい奴だ。
人付き合いも上手いし、古河の大きな力になってくれるだろう。
俺は…かえってその足を引っ張ってしまうかもしれない。

「…ダメだよ、岡崎君」
「…何が?」
「いま、自分は古河さんの側にいない方がいいんじゃないか、なんて思ってたでしょ?」
…こいつはテレパスか?
杏のまなざしが、また真剣な光を帯びた。

88 :名無しさんだよもん:01/12/10 20:04 ID:VYgkWOyT
「古河さんにとって、岡崎君は必要なんだよ」
「…どうしてそう思う?」
ごまかすのをあきらめ、問い返す。

「だって、学校に戻ってきて初めての友達だから」
「…そうとは限らないだろ」
「限るの」
まあ、まだ二日しか経ってないしな…

「どんなことでも始まりは肝心だよ。
 慣れない学校で、きっと古河さんは不安だったと思う。
 でも、その初日に君と出会って、友達になれた。
 すごく嬉しかったはずだよ。…泣いちゃうくらいに、ね」
泣く、という言葉を聞いて、俺はぎくっとした。
まさか…今日の昼休みのこと…

「ふ、藤林。もしかして…」
「…よっ、女泣かせ」
「ぐはっ」
…どうやら、ばっちり見られていたらしい。
教訓。中庭にプライバシーは存在しない。

「あはは…まあいいじゃない。悪いことしたわけじゃないんだから」
「よくない…」
なんだか最近、自分がどんどん恥ずかしい奴になっている気がする。
からかい半分なのだろう、杏の口元はまだ笑っている。
…こいつ、なんだか陽平に似てきてないか?

89 :名無しさんだよもん:01/12/10 20:31 ID:VYgkWOyT
その後も杏と少し話をして、俺たちはゆうなぎを出た。
ちなみにワリカンだ。
杏はおごってくれるつもりらしかったが、なんとなく、な。

店を出ると辺りはすっかり朱に染まっていた。
その陰影を強調された雲が、ゆっくりと流れていく。
温みのある風が肌で感じられた。

「綺麗だね」
「夕焼けなんて、毎日見てるだろ?」
空を仰ぎながら説得力のない言葉を紡ぐ。

「でもこの辺りの夕焼け、綺麗だと思うよ。空気が澄んでるからかな?」
「ま、たいして都会でもないからな」
「そうだね」
「空気が澄んでると夕焼けが綺麗になるのか?」
「そうなんじゃないかな? よく知らないけど」
「…適当かよ」
そんな会話を交わしながら歩く。
と、急に杏の足が止まった。
どうした? と俺が訊く前に、声がかけられる。

「…お姉ちゃん?」
「…椋?」
オレンジ色の斜光の中。
やや離れた場所に、杏の双子の妹――藤林椋が立っていた。

90 :名無しさんだよもん:01/12/10 21:04 ID:VYgkWOyT
「お姉ちゃん、なんでこんなところにいるの?」
「椋こそどうしたの? 今日は帰り、遅いんだね」
「もう…やっぱり」
「?」
「今日、クラス委員の集まりがあったの。忘れてたでしょう?」
「…あ」
杏が大げさに驚いてみせた。

「ごめんっ、きっぱり忘れてた」
「謝るんだったら、副委員の稲城さんに謝っておいて」
連絡事項もちゃんと訊いておいてね、と椋が続ける。
妹に叱られる姉というのもなかなか新鮮な眺めだった。
…と言っても、双子だけど。

「それで…お姉ちゃんは何をしてたの?」
「えーと、話せば長いんだけど…」
そこでようやく、椋が俺に気付いた。

「えっ…? 岡崎、さん…?」
いきなり丁寧語になる。さっきまでのくだけた口調は、姉妹だからこそなのだろう。
その瞳にわずかに警戒の色が浮かぶ。
…まあ、俺は不良らしいからな。普通はこういう反応か。

「今さらよそいきのしゃべり方しなくてもいいじゃない、椋」
かすかな緊張感をけとばすように、姉が妹の肩を抱く。
不意をつかれ、妹は戸惑う。
杏がこちょこちょとその脇腹をくすぐる。
ひゃっ、と悲鳴を上げて体を離し、椋が抗議をする。
そんなことをしているうちに、いつのまにか場は和やかになっていた。

91 :名無しさんだよもん:01/12/10 21:36 ID:VYgkWOyT
「えっと…こんばんわ、岡崎さん」
「こんばんわだぞ、藤林スモールシスター」
「…それはもういいから」
「…?」
理解できない様子の藤林(妹)。

「それで…お姉ちゃんに何か用事だったんですか?」
「…まあな。と言っても、俺から誘ったわけじゃないが」
「え…?」
驚いたように杏を見る椋。
俺と姉の間に接点を見出せないでいるのだろう。
無理もない、俺だって最初は訳がわからなかったんだから。

「お姉ちゃん…」
「…もう、椋ったら野暮なんだから」
「…え?」
「年頃の男女が一緒にいるっていったら、決まってるでしょ?
 デートだよ、デー」
そこで言葉が途切れる…俺が杏の頭をはたいたからだ。
ぺしん、と気の抜けた音がした。

「…嘘をつくな、嘘を」
「いったぁ…軽い冗談じゃない…」
「冗談に聞こえないんだよ、藤林(姉)が言うと」
「…今ので脳細胞が三十六個は死んだよ…」
数えたのか、お前は。
まったく…こいつは話を茶化す天才だな。
椋はと言えば、そんな俺たちのやりとりをぽかんと見ていた。

92 :名無しさんだよもん:01/12/10 22:33 ID:VYgkWOyT
日の沈む方向に二人は去っていく。
その背中が見えなくなる前に、杏がこちらを向き、何度か手を振った。
椋も振り返り、俺にぺこりと頭を下げる。
赤々とした逆光の中、姉妹の影は並んで伸びる。
…なんだかんだ言って、仲いいんだな。
なぜか胸がずきりと痛んだ。

結局、話がうやむやのままに俺たちは別れた。
椋に詳しい事情を説明しなかったのは杏の気遣いだったのだろう。
他人にべらべら喋ることではないという判断だ。たとえ、相手が妹であっても。
もちろん、杏が椋を信用していないという訳ではない。
必要だと思えば打ち明けるだろう。



重い扉を開ける。
暗い部屋。
冷めた部屋。
それでも…俺の家は、ここでしかありえない。

シャツを脱ごうとして、違和感に気付く。
右手に包帯。
…ああ、まだ巻いてたんだっけか。
杏には指摘されなかったし、椋にも何も言われなかったから、忘れていた。
しゅるしゅると長い布をほどく。
傷口はとっくに塞がり、かさぶたが出来ていた。
役目を果たした包帯をくずかごに捨てるとき、一瞬、これを巻いたきゃしゃな手を思い出した。

「明日も…パン祭りかな」
…そういう連想でいいのか、俺。

93 :名無しさんだよもん:01/12/13 22:15 ID:XyOpxndN
期待age。

94 :名無しさんだよもん:01/12/14 00:05 ID:Wet11EFz
どれ?

95 :名無しさんだよもん:01/12/14 23:50 ID:dpsoISK+
期待sage

96 :名無しさんだよもん:01/12/15 02:25 ID:VX9cbJmB
では俺も期待するとするか。
がんばって俺たちを楽しませてください。

97 :名無しさんだよもん:01/12/15 02:35 ID:vWWzcxbN
このSSいいよぉまじで

98 :名無しさんだよもん:01/12/15 15:31 ID:1WBcSIuP
期待sage

スゲェ......( ゚Д゚)

99 :名無しさんだよもん:01/12/16 06:50 ID:4suJRTQ8
有象無象の区別無い嵐のような2chにおいて、ここまで正当な評価を受ける作品は珍しい。

文章を知っている人の書いたものだ…。
にじみ出るセンスも秀逸だが、なにより『正しい文法』に関しての琢磨の跡が見受けられる。

まぁ…なんだ。
細かいこと抜きに素晴らしいってことだ。

100 :名無しさんだよもん:01/12/16 07:59 ID:k7CzVdk3
sageろッ!

101 :名無しさんだよもん:01/12/17 00:17 ID:eQ0z4b/3
sage

102 :名無しさんだよもん:01/12/17 19:08 ID:deeNuuga
すっかり週一ペースになってしまってますね…申し訳ない。
でもなんというか、やはり反応があると嬉しいですね。
さてさて、久しぶりに続行です。

103 :名無しさんだよもん:01/12/17 19:10 ID:deeNuuga
夢を見た。
見覚えのない、でもどこか懐かしい景色。
そのくすんだ色調の中、古河が泣いていた。
…お前、夢の中でまで泣き虫なのか。
俺はため息をつきながら、現実よりも幼い古河の頭を撫でた。
髪のさらさらとした感触が、やけにリアルだったことを覚えている。
…正直、少しお前がうらやましいよ。
…俺は泣けないから。
ごう、と強い風が吹いた。

「…終わりか」
俺は目を覚ましていた。
珍しいことに、夢の内容をかなり鮮明に覚えている。
けれど、それも今だけだ。
きっとすぐに忘れてしまうのだろう。

「…で、今は何時なんだ?」
自然派の俺はあえて時計を見ず、窓から射し込む光に目をやった。(現実逃避)
…朝にしては日が高すぎる。
俺は観念して時計を見る。
…短針が素敵な数字を指し示していた。

「…誰だよ、体質が改善されたとか言ってたのは」
…俺だな。
空しい自問自答をしながら、俺は学校への道を歩く。
今さら走る気にもなれなかった。どうせ三時限目には間に合わない。
流れていく街の眺めに、俺だけがひとり不釣り合いだった。

104 :名無しさんだよもん:01/12/17 19:41 ID:deeNuuga
最後の関門、校門前の坂を越えて、俺は校舎に入った。
ただでさえ気力をそがれる坂なのに、遅刻してくるとさらに長く感じる。
俺にもまだ良心の呵責というものがあったのか…
…いや、単に面倒くさかっただけだな。
ともかく、Uターンしてさぼりたい衝動をこらえた俺は偉い。偉いぞ!!

「偉いやつはそもそも遅刻なんかしねーよ」
陽平が血も涙もないツッコミを入れてくる。
どうやら考えていることを口に出していたらしい。

「陽平、お前なんで廊下にいるんだ? さてはさぼりか?」
「あほ、今は休み時間だ。つーかお前は休み時間に合わせて登校したんじゃないのか」
…そう。遅刻してきた場合、授業中に教室に入るよりも、
休み時間のうちに紛れ込んでしまった方が気楽でいいのだ。
遅刻の常習犯である俺は、このタイミングを体で覚えている。
…やはり俺は不良なのかもしれない。

「いやぁ、しかしなんだな。平和ってのはいいもんだなぁ、朋也」
「…頭でも打ったのか?」
「太陽が東から昇り、西に沈む。お前が学校に遅刻する。なべて世は事も無し、だ」
「俺の遅刻は自然現象レベルかっ」
そんなに俺を留年させたいのか、こいつは。

…留年?
そういえば、古河は一年以上も休学してたんだよな。
ということは…留年してるんじゃないのか?
ということは…

105 :名無しさんだよもん:01/12/17 20:08 ID:deeNuuga
「…嘘だあぁっ!!」
「おわっ!? ど、どうした朋也!?」
「あいつが、あいつが俺よりも年上なわけが――」
「はぁ?」
「あの童顔だぞ!? 18でも疑わしいってのに――」

すぱーんっ!!
俺の頭に衝撃が走った。文字通り、物理的な意味で。

「岡崎君、うるさい」
振り返った先には、なぜか不機嫌そうな杏がいた。
小脇にバインダー式のファイルを抱えている。どうやらあれで俺を叩いたらしい。

「痛いぞ。撲殺する気か」
「これくらいで死ぬんだったら苦労しないよ」
「同感だ」
「…陽平。お前はどっちの味方なんだ?」
「とりあえず廊下でいきなり叫び出すやつの味方ではないな」
…ごもっとも。
我ながら馬鹿なことをしたと思う。でも、ほら、なあ?

「…で、何を叫んでたの?」
ぐ…鋭い質問しやがって…
…と言うか、それくらいしか訊くことないよな。

「確か年上とか、童顔とか…あ」
「…なんだよ」
「ふふーん。そう、そういうことなんだ」
杏がとても悪い笑顔を作った。

106 :名無しさんだよもん:01/12/17 20:47 ID:deeNuuga
「一年の差くらい気にすることないよ」
…どうやら、古河のことだとばれてしまったらしい。

「ほら、一つ上の女房は金のわらじを履いてでも探せって言うじゃない」
「誰が女房だ、誰が」
「…岡崎君。未来はどうなるかわからないよ?」
どこまで本気で言ってるんだ、こいつは。
俺は助けを求めようと、となりの陽平に視線を送った。…いない?
辺りを見回すと、陽平はさっさと教室に入ろうとしていた。

「陽平、どこに行くんだ」
「バカンスに行くように見えるか?」
「あるいは」
「…教室に戻るんだよ」
「なんで急に」
「人の恋路は邪魔したくないんでな」
…お前はどうしていつも話をややこしくするんだよ…

「春原君って、気配りの人なんだね」
違う、違うぞ杏。お前は陽平が気を使って席を外したと思ってるんだろうが、それは大間違いだ。
あいつは俺とお前の関係を勝手に想像して、面白がってるだけなんだぞ。
と言おうとしたときには、もう陽平の姿は見えなくなっていた。
逃げ足の速いやつ…

…に、しても。
俺はあらためて杏を見た。
やはりどこか不機嫌そうにしている。
放っておいてもいいのかも知れないが、俺は理由を訊いてみることにした。

107 :名無しさんだよもん:01/12/17 21:14 ID:deeNuuga
「…なに怒ってるんだ?」
「…遅刻」
「へ?」
「遅刻したでしょ」
「…いつものことだろ」
「わ…開き直った」
…そりゃ、俺もどうかと思うけどな。

「岡崎君。遅刻なんかしてる場合じゃないよ」
真剣な表情で杏が言った。
…遅刻していい場合ってのもあんまり無さそうだけどな。

「古河さんと一緒に登校しないと駄目だよ」
「…なんでそうなる」
「それが自然でしょ?」
「あのなあ…」
確かに古河の力にはなってやりたい。だけど、それは過保護にするという意味ではない。
それに俺みたいな奴がべったりくっついていたら、他の友達なんか出来るはずがない。
…と言うのは建前で。

「毎日並んで登校なんかしたら、まるで…」
「まるで?」
「…付き合ってるみたいじゃないか。古河に迷惑だろ」
「んー。でも彼女もまんざらでもないと思うけど」
「勝手なこと言うなよ」
「だって今朝の登校中、岡崎君のこと探してたよ」
「…え?」
「言ってなかったっけ? 今朝ね、古河さんと一緒に学校来たんだよ」
杏がしてやったりという笑顔を見せた。

108 :名無しさんだよもん:01/12/17 21:59 ID:deeNuuga
「…いきなり一緒に登校したのか?」
「うん」
「よく古河が遠慮しなかったな…」
「最初はちょっと戸惑ってたみたいだけど、熱意で押し切ったよ」
…古河があたふたする様子が目に浮かんだ。

「お節介と思うならそれでもいいよ。でも、古河さんと話してみたかったんだ」
「…ん」
まあ、お節介な奴が必要だって言ったのは俺だしな…
杏は軽そうに見えるけど、肝心なところはちゃんとしている。
…なんだ。俺は結局こいつのことを信用してるんじゃないか。
でも…

「…なぁ、藤林」
「なに?」
「どうしてそんなに古河によくしてくれるんだ?」
「前にも言ったでしょ? これでも一応クラス委員だから…」
「それだけか?」
「……」
あごの辺りに手を当てて、考えるそぶりを見せる杏。
…自分でも意識してないのか?

「藤林、お前もしかして…」
「…もしかして?」
「…レズ?」

すぱこーん!!

フルスイングのファイル角アタックが、俺の脳天を打ち抜いた。

109 :名無しさんだよもん:01/12/17 22:51 ID:deeNuuga
「…頭が痛い」
英語教師の高い声がやけに耳障りだった。
したたかに打たれた頭は、四時限目が始まった今でも疼いていた。
…杏が凶器を持っているときは、冗談は控えよう…

「どうした朋也。痴話ゲンカか?」
「…うるさい」
「おお、怖」
全くこたえていない様子で陽平が言う。
教師に気付かれないように話すことなど、俺たち二人にとっては朝飯前なのだった。

「陽平…もしかして、偶然にも頭痛薬持ってたりしないか?」
「…お前、俺のことを歩く薬局だとでも思ってるのか?」
「…少し」
打撲に頭痛薬は効かないだろうけど、気休めにな…

「だが良かったな、朋也。やさしさで出来ている頭痛薬なら、偶然にも」
「持ってるのか!?」
「持ってるわけないだろ」
「……」
…解っていた。こいつはこういう奴なんだ。
むしろ、だまされた自分に腹が立つ。

教室の壁にかかった時計を見る。
…あと三十分、か。
昼休みになったら、中庭に行って、古河と会わなければならない。
あの後、杏と交わした(と言うか、交わさせられた)約束だ。
…まあ、言われなくても行くつもりだったけどな。
そして今日もパンの山を…
…頭が痛い。

110 :名無しさんだよもん:01/12/18 13:32 ID:K2biFJNa
杏が良いナリヨー

111 :名無しさんだよもん:01/12/18 17:48 ID:luZIxVpD
奴はクラナド
あれぞクラナド

クラ クラ
ナド ナド
クラ クラ
ナド ナドーーーーッ!!

112 :名無しさんだよもん:01/12/19 14:28 ID:GPeFduuR
藤林シスターが...杏たんが...ハァハァ...(;´Д`)
攻略可能なのはどっちなんだろ...ハァハァ...

113 :名無しさんだよもん:01/12/19 17:38 ID:lsnPPbWK
やっぱり最初は渚シナリオなんだろうか?
あえて杏シナリオキボンとか言ってみる(w

114 :名無しさんだよもん:01/12/20 07:17 ID:1KrmpkZI
隠れた名店にめぐりあった時ってのはこんな気持ちなのかも…
いや〜、ビックリしたねホント。
各キャラの性格付けが丁寧で凄く自然に馴染んでしまった。
本物とのギャップが今から怖いッす。

115 :名無しさんだよもん:01/12/20 23:45 ID:HNnQYrYr
>>114
なんだかこっちの雰囲気に洗脳されそうだよ……。
いざクラナドが発売されたら「イメージが違う!」とかKeyにクレームがあったりして(藁

116 :名無しさんだよもん:01/12/21 09:34 ID:7EhXOCRw
メンテナンスを、させて頂きます。

117 :名無しさんだよもん:01/12/21 09:40 ID:AxXpJQGb
>115
クラナドが発売されたら、keyにクレームはしないけど、
「こっちが本当のクラナドだ!」と主張するかも(w

118 :名無しさんだよもん:01/12/22 20:15 ID:GQwsJwos
一日半ほど無人のようなのでメンテナンスを致します。

119 :なにがしだよもん ◆ie2wgyeo :01/12/22 21:56 ID:UOnEi1Jl
「この物語を読んでいると、ワクワクする。連載ということもあるけど、世界の広がりを感じるから」

「どのような結末であれ、最後まで読んでみたい。応援しています。頑張って下さい」

120 :名無しさんだよもん:01/12/23 23:52 ID:Ccf529h1
前スレに比べて人がかなり増えたなあ。

とりあえず週2ペースで連載して欲しい。

121 :名無しさんだよもん:01/12/24 02:19 ID:odfoyY05
世間では冬休みらしいから、メンテの間隔が短くなりそうだ。
………21歳以上には、余り関係ないんじゃないの? という意見は却下(笑)。
あえて解らないふりをするのも、21歳以上の対応。

122 :名無しさんだよもん:01/12/24 02:31 ID:se+4FzVB
おっと、sage。

123 :名無しさんだよもん:01/12/24 07:38 ID:2DS43Dm9
>>111
今さらなんだがペインキラー??

124 :名無しさんだよもん:01/12/24 19:06 ID:Z12ISJSG
一週間のごぶさたでした。…って、書き込みがえらく増えてるよ〜
杏、大人気だなぁ…
この勢いに乗って、連載もペースアップしたいです。したいんですが…あう。
とにもかくにも、久しぶりに続行です。

125 :名無しさんだよもん:01/12/24 19:07 ID:Z12ISJSG
中庭の片隅、日当たりが悪く人気のない場所。
そこに座る古河。
すっかり見慣れた感のある眺めに、俺は一歩ずつ近付いていく。

「…?」
ふと違和感を覚え、俺は歩を止める。
何か、昨日までと違う。…なんだ?
古河はまだ俺に気付いていないらしく、パンの袋と格闘していた。
…パン?
そうだ。パンの山がないんだ。
どうやら古河の抗議は聞き入れられたらしい。
…それはいいんだが、いつまで開封に苦戦してるんだ?

「…ほれ、貸してみろ」
「あっ…?」
ひょい、とパンを取り上げる。
古河が驚いた表情で見上げてきた。
どうやらやっと俺に気付いたようだ。…本当にカンが鈍いな、こいつは…

ぱん、と音を立てて(…シャレじゃないぞ?)パンの袋が破ける。
感心したようにため息をもらす古河。
…当たり前のことだと思うんだがなあ…

「この袋、丈夫で…なかなか開けられなかったんです」
「…そうなのか?」
一応、手の中のそれを観察してみる。
言われてみれば、ほんの少し厚いような気もするが…大差はないだろ。
と、袋に書かれた文字が目に止まった。

126 :名無しさんだよもん:01/12/24 19:07 ID:9fvp+8Bw
楽しみ

127 :名無しさんだよもん:01/12/24 19:36 ID:Z12ISJSG
『製造 古河ベーカリー』

「…古河?」
「はい?」
ひとりごちた俺に、古河が返事をした。

袋に印刷されている文字…古河。
今となりに座っている奴…古河。
この二つを総合して考えると…

「…そうか、同姓同名か…」
「どうしてそうなるんですか」
ぬお、古河にツッコまれた。…なんか悔しいぞ。

「じゃあ、他人のそら似…」
「わたしの家、パン屋さんなんです」
…今度は流しやがった。こいつ、実は結構いい性格してるのか?

冗談はともかく、古河がパン屋の娘だとは知らなかった。
なるほど、だからあんなに大量のパンを持ってきていたのか。
住宅地がないはずの大通りで別れたのは、店の中に家があるからなのだろう。
しかし…売り物に手をつけるのはどうかと思うぞ、古河の親父。

「だから、あんなにたくさんパンを…」
予想通りの発言をする古河。

「でも、お母さんの説得のおかげで、今日からは適量ですっ」
手の中にある一つきりのパンを嬉しそうにかかげる。
と、古河の表情がこわばった。
…どうやら、俺が手ぶらであることに気付いてしまったようだ。

128 :名無しさんだよもん:01/12/24 20:04 ID:Z12ISJSG
「あ、あの…。岡崎さん、お昼は?」
「…食ってきた」
「…嘘です」
…そうです。

「も、もしかして…パンを食べるの、手伝ってくれるつもりで…」
「…全くそんなことないぞ」
「…ほんとう、ですか?」
…嘘です。

「…さっき起きたばっかりだから、あんまり腹が減ってないんだ」
これは一応、真実。
俺の言葉が足りなかったせいか、古河が首をかしげている。

「あー…俺、今日は遅刻したんだ」
「遅刻、ですか?」
「常習犯だからな」
…堂々と言うようなことでもないが。

「じゃあ、バケツを持って廊下に立たされたりしたんですか?」
「……」
古河がまた時代錯誤なことを言い出した。

「そんなわけあるかっ。お前、そんな奴を見たことがあるのか」
「…ないです」
「だろ?」
「…だから、みんな真面目なんだと思ってました」
「……」
頭痛が…

129 :名無しさんだよもん:01/12/24 20:41 ID:Z12ISJSG
本日の古河ランチは、細長いコッペパン。
縦に切れ目が入っている。おそらくは中にジャムか何かが詰まっているのだろう。
…そんな心底どうでもいい観察眼を磨いてみる。
古河がぱか、とパンを二つに割った。
ふむ、中身の充実している中央から食べる派か?
…と思っていたら、その片割れが俺に差し出された。

「…なんだよ」
「半分こ、です」
「食欲がないって言ったろ?」
「駄目です。ちゃんと三度のご飯を食べないと、体に悪いです」
…パンだけどな。

「いいって。それ一個が古河の適量なんだろ?」
「駄目です」
…なんというか、古河には妙に意固地なところがあると思う。
こんなことでケンカしたくはないので、諦めて受け取ることにする。
…最近、根負けしてばかりいるような気がするな。

しかし、昼飯を抜くことにしたとたん、パンの山が消えるとは…
間が悪いというか、なんというか…
俺たち二人はすれ違ってばかりだ。
…せめて、もう少し様になることですれ違いたい。
とりとめない思考をめぐらせながら、ハーフサイズになってしまったパンをかじる。
それでもやっぱり美味いパンだった。

「うれしいことが…ありました」
あらかたパンを食べ終わった頃、古河がそんなことを言い出した。

130 :名無しさんだよもん:01/12/24 21:48 ID:Z12ISJSG
「…今朝、同じクラスの藤林さんが、一緒に登校しようって言ってくれたんです」
「そうか」
我ながら白々しいな…とっくに知っているくせに。
そこでふと思った。古河は、杏と俺の関係に気付いているのだろうか?
…いや、だったらわざわざ報告なんてしないだろう。
今のところ、杏は別行動をとるつもりらしい。ってそんな大したことじゃないけどな…
ここはとりあえず杏に合わせておくか。

「良かったじゃないか。あいつ、いい奴だと思うぜ」
…でたらめを言っているわけではないが、なぜか歯が浮きそうになる。

「藤林さんとお知り合いなんですか?」
「まあ、去年同じクラスだったからな」
俺は最後のひとかけらを口に放り込みながら言う。

「えっと…岡崎さんは、藤林さんとお付き合いしてるんですか?」
「むぐっ」
最後の一口が気管に入りそうになり、俺は激しくむせた。
慌てて背中をさすってくる古河。

「ごほっ…お、俺と藤林が、なんだって?」
「あの、だから…お付き合い…」
今、口に何か入っていたら、間違いなくもう一度むせていただろう。
それほど意外な言葉を、古河は平然と口にする。

「…去年クラスメイトだったってだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「でも、今日、廊下で…」
「……」
あれを目撃されてたのか…
…いい加減に人目を考えて行動しろ、俺。

131 :名無しさんだよもん:01/12/24 22:07 ID:locJx7z3
わ! こんなスレあるんだ!
……凄ぇ!(褒め言葉葉です)

132 :名無しさんだよもん:01/12/24 22:32 ID:Z12ISJSG
杏の奴も肝心なところで抜けていると思う。
…まあ、原因は俺…いや、そもそも古河が童顔なのがいけないんだ。きっとそうだ。
とにかく、元クラスメイトってだけじゃ古河は納得しないだろう。
だからって恋人ってのは絶対に却下だ。となると…

「…友達だよ」
「…え?」
「俺と藤林杏は、友達だ」
「そうなんですか?」
「変か?」
「いえ。友達の友達は友達、ですねっ」
何が嬉しいのか、古河はにっこりと笑った。

…しかし、杏も古河も、すぐに色恋沙汰に結びつけようとするよな。
やっぱり女の子はそういう話題が好きなのだろうか?
…でも陽平という例もあるしな…

なにげなく古河を見る。
少し垂れ目がちではあるが、まあ整った顔立ちと言えないこともないという意見にやぶさかではない。
…こうして二人で並んでいると、恋人同士のように見えるのだろうか。
(彼女もまんざらでもないと思うけど)
そんな杏の言葉が思い出される。

「あの…」
じっと見つめていたせいだろうか、古河が居心地悪そうに顔を赤らめた。

133 :名無しさんだよもん:01/12/24 22:57 ID:Z12ISJSG
「わたしの顔に、何かついてますか?」
「ああ。目とか鼻とか口とか」
「あたりまえですっ」
「…それと、飯粒がくっついてる」
「えっ」
わたわたと口の周りを手探りする古河。
…馬鹿。
お前、パン食だったろ。

簡単にだまされた古河を見ていると、さっきまでの自分の考えがアホらしくなった。
友達だの恋人だの、そんな線引きに大した意味はない。
俺と古河が一緒にいる。それだけだ。

「ど、どこについてるんですか〜」
ほとんど涙目になって古河が訊いてくる。
「冗談だ」と告げると、リスのように頬をふくらませて一言。

「うー」
「うー…って、まねしないでくださいっ」
「毎回同じパターンなのが悪い」
「うー…」
「お、今のは読めなかった」
「…うー」

野生に返った古河を飽きずにからかう。
そうこうしているうちに、昼休みは終わろうとしていた。

134 :名無しさんだよもん:01/12/24 23:25 ID:Z12ISJSG
「…明日の昼もあそこだろ?」
「はいっ」
「多分また寄るから」
「あ…パンの数、元に戻しましょうか?」
「…頼む、やめてくれ」
「はい。…ふふっ」
「どうした?」
「…待ち合わせできるって、いいですね」
「安上がりな奴…」

階段を上りきって、左右に別れる。
古河、丁重すぎるほどのおじぎ。俺もふざけ半分で礼を返す。
はたから見れば滑稽かもしれない。けれど少し楽しいと思った。
そして、小さな背中が去っていく。

「さて…俺もさっさと教室に戻るか」
そう言って振り向いたとき、一人の女子生徒と行き違った。
思わずその姿を目で追う。
俺と同じ三年生らしいが…どこに行くんだ?
もうすぐ午後の授業が始まるというのに…移動教室だろうか?
でも、手ぶらみたいだしなぁ…
女子生徒は渡り廊下に向かう。あの先に、教室なんてあっただろうか?

「おい、もうすぐ授業始まるぜ」
人に説教できるような立場ではないが、一応忠告しておく。
声に振り返った女子生徒は、無言でこちらを見ていた。
…なんか、心ここにあらずって感じだな。
女子生徒はしばらくそのままでいたが、やがてくるりと背中を見せると、渡り廊下を歩き出した。
さらに呼び止めようとしたところで、チャイム。
俺はあきらめて教室に戻ることにした。

135 :名無しさんだよもん:01/12/25 02:13 ID:b8FBjKDM
「一ノ瀬ことみ」らしき女性が登場した時点で、次週に続くっ! んですよね?(笑)
来週この続きを楽しむ為にも、メンテに協力させて頂きますわ〜。

ことみはスタイル良さそうなので、まぁ色々と(笑)楽しみにしております。
というか、このスレマターリとしていて良いですね〜。

136 :名無しさんだよもん:01/12/26 10:12 ID:0q+Eikvb
めんて

137 :名無しさんだよもん:01/12/27 00:16 ID:xVJjhrWL
…オフィシャルで新キャラ追加されましたね…。
…がんばれ〜。

138 :発泡美人:01/12/27 03:25 ID:7Q6qxMc9
兄弟スレとしていっそうのご活躍とご発展を願っております。
これからも頑張ってください

139 :名無しさんだよもん:01/12/28 02:58 ID:z2hLETam
大晦日に、ここを訪れたいのでメンテage(笑)

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